「元に戻る」を待たない経営へ|インフレ時代を生き抜く中小企業の実践術

インフレは“終わりにくい前提”で考える:分断の時代に中小が取るべき手

米中の争いと世界の分断が続く限り、モノの流れは元に戻りにくい。
だから物価も下がりにくい。
そして、国は基本的に「自国が得をする」ように動く。

ならば私たち中小企業・個人事業主は、状況を見ながら生き残れる形へと変わり続けるしかありません。

インフレ(モノの値段がじわじわ上がる状態)は、「一時的な風邪」ではなく、季節そのものが変わった可能性があります。

「元に戻るのを待つ」経営から、「変化が続く前提で設計し直す」経営へ。
これが今日のテーマです。

【なぜインフレは続きやすいのか】

世界の分断が進むと、これまで当たり前だった「安く・早く・大量に」が成り立ちにくくなります。

部品や材料の調達先が限られる。
輸送ルートが遠回りになる。
急にルールが変わる。
その結果、仕入れ値・運賃・エネルギーコストの負担が下がりにくくなります。
これが「インフレが続きやすい」という感覚につながっています。

たとえ話をしましょう。
昔は、近所に「何でも安い大型スーパー」があって、そこへ行けばだいたい揃いました。
ところが今は、店が分かれ、品切れも起きる。
すると私たちは、同じ買い物でも何軒も店を回らなければならず、時間がかかり、値段も上がる。
世界規模でそれが起きている、というイメージです。

そして、国というものは基本的に自国優先で動きます。
これは善悪の問題ではなく、「そういうゲームである」という前提に立つ必要があります。
だからこそ、外の動きを予測するよりも、どんな変化が来ても対応できる体制を整えることが大切になります。

【事例1:小さな製造業の場合】

ここからは、従業員10名前後の会社・個人事業を想定した「明日の経営判断」に落とし込んでいきます。

まずは部品加工や金属加工などの小さな製造業のケースです。

材料や工具、機械部品に「海外のどこか」が絡むと、急に納期が読めなくなることがあります。
価格もじわじわ上がっていく。
このとき、ありがちな失敗が「値上がり分を我慢して吸収する」という対応です。
最初は耐えられても、数か月で体力が削られていきます。

おすすめは、値上げを検討する前に、次の順番で見直すことです。

仕入れ先を1社から2社へ分散する

完全な乗り換えでなくて構いません。
たとえば材料の一部だけでも別ルートを作っておく。
いわば、雨の日のための「予備の傘」です。

納期の長いものは在庫を少し厚めに持つ

「在庫=悪」という考え方もありますが、今は「保険料としての在庫」が意味を持つ場面があります。
すべてを増やす必要はありませんが、調達が不安定なものに絞って検討してみてください。

見積もりの出し方を変える

「今月の価格で3か月固定」ではなく、有効期間を短くする、価格変動の条件を明記するなどの工夫です。
お客さんに嫌がられるのが心配かもしれませんが、先に説明すれば納得していただけることも多いです。
ここは交渉の腕の見せ所でもあります。

ここでのポイントは、「利益を増やす」というより「事故を起こさない設計にする」ことです。
国同士の駆け引きでルールが変わる場面があるなら、中小企業は「一発アウト」を避ける動きが最優先になります。

【事例2:飲食・小売・サービス業の場合】

次は、カフェ、弁当店、理美容、士業など、飲食・小売・サービス業のケースです。
インフレが続く局面で一番怖いのは、「気づいたら原価だけが上がっている」ことです。
油、小麦、乳製品、包装資材、電気代。すべてを毎日チェックするのは現実的ではありません。

ここで効くのは、難しい分析よりも「見える化」の習慣です。

仕入れコストの「上位3つ」だけを毎週チェックする

20項目を追いかける必要はありません。影響の大きいトップ3だけで十分です。
体温計は1本あればいい、という話と同じです。

メニューやサービスを「薄く広く」から「少なく強く」へ

仕入れが不安定な材料に依存する商品を減らし、安定して提供できる看板メニューに寄せていく。
選択と集中で、仕入れリスクを下げることができます。

小さな値上げを「こまめに」行う

一気に大幅な値上げをするより、10円、30円の小さな調整をこまめに行う方が、お客さんの心理的な抵抗が小さい場合があります。
積み重なると、守れる体力が変わってきます。

このとき、「すみません、上げます」という伝え方ではなく、「続けていくために必要な調整です」と説明するのがコツです。

【変化に強い会社になるために】

国家の政策次第で状況は大きく変わります。外の環境は読めません。
だからこそ、内側(自社)の設計を変えられるかどうかが勝負になります。

これは「国がどう動くかを当てるゲーム」ではありません。
「変化が来ても倒れない形にするゲーム」です。

【まとめ】

米中対立、ウクライナ紛争、各地の地政学リスク。
こうした分断が重なり、インフレは続きやすい状況にあります。

待っていても元には戻らないかもしれない。
だからこそ、変化を前提にして、値付け・仕入れ・提供のしかたを「少しずつ作り替えていく」。
これが生き残りの現実解です。

最後に、「明日できること」を3つに絞ってお伝えします。

仕入れ・外注・主要経費の「上位3つ」だけ、毎週メモする

変化の早期発見につながります。

取引条件を1つだけ見直す

見積もりの有効期限、納期条件、値上げの伝え方など、できるところから手をつけましょう。

「もし○○が止まったら」を1つだけ想定し、代替案を紙1枚に書く

予備の傘を用意しておく感覚です。

状況を注視しながら、変わり続ける。

「守りの戦略」ではなく、「変化に強い体質をつくる」こと。
これこそが、いまの時代の中小企業・個人事業主にとっての攻めの経営だと考えています。