法人事業概況説明書は「ただの添付書類」ではありません
税務調査で誤解されないために、決算時の「いつもと違う数字」をどう説明するか
法人の決算が終わり、法人税の申告書を提出するときには、さまざまな書類を税務署へ提出します。
その中の一つに「法人事業概況説明書」があります。
経営者の方からすると、
「決算書や法人税申告書が本体で、法人事業概況説明書は付属資料のようなものですよね」
という印象があるかもしれません。
しかし、法人事業概況説明書は、会社の事業内容や経理の状況、売上や仕入れ、従業員、取引状況などを税務署に伝えるための重要な資料です。
また、近年の国税庁は、申告書や各種の資料情報などを分析する際に、AIやデータ分析を活用しています。
ただし、ここで誤解しないでいただきたいのは、「法人事業概況説明書の数字をAIが直接チェックし、前年と違う数字があれば自動的に税務調査の対象になる」という意味ではないということです。
国税庁が、具体的にどの資料のどの数字を、どのような基準で調査対象の選定に使っているのか、その詳細なロジックまで公表しているわけではありません。
そのうえで、会社側としては、前年と比べて大きく数字が動いている場合や、通常とは少し違う処理を行った場合には、「なぜこの数字になったのか」を申告時点できちんと説明できるようにしておくことが大切です。
今回の記事では、資料「税務調査を乗り切るポイント ⑲法人事業概況説明書等の活用方法」の内容をもとに、税金や会計に詳しくない中小企業の経営者の方にも分かるように整理します。
特に、貸倒損失、役員退職金、特別償却、固定資産売却損、高額な修繕費、原価や経費の大幅な増減など、税務署から見て「いつもと違う」と感じられやすい項目について、どのように備えておけばよいのかを見ていきます。
※この記事は2026年9月19日時点の情報を前提として作成しています。
実際の税務判断は、取引内容や契約関係、証拠資料などによって変わります。
個別案件については所轄税務署へご確認ください。
税務調査は「申告書を一枚ずつ人が眺める」だけではありません
まず知っておきたいのは、現在の税務行政では、申告書の数字だけを担当者が一社ずつ目で確認しているわけではないということです。
国税庁では、申告書や各種の資料情報などを分析し、調査の必要性を検討する際にAIやデータ分析を活用しています。
ただし、
「前年と違う数字がある会社=税務調査になる会社」
ということではありません。
会社を経営していれば、数字が大きく変化することは珍しくありません。
新しい店舗を出せば経費は増えます。
原材料価格が上がれば粗利益率は下がります。
大きな機械が壊れれば修理費が急増します。
長年勤めた社長や役員が退職すれば、大きな退職金が発生することもあります。
取引先が倒産すれば、売掛金を貸倒損失として処理することもあるでしょう。
つまり、数字が大きく動くこと自体は、会社経営ではごく自然なことです。
問題は、その理由が申告書の数字だけでは分からないことです。
たとえば、前年まで毎年500万円程度だった修繕費が、今年だけ3,000万円になっていたとします。
会社側では、
「大型機械が故障して修理したからです」
と分かっています。
ところが、申告書を確認する側には、その事情までは自動的には伝わりません。
申告書には「修繕費3,000万円」という数字が載っているだけだからです。
そこで重要になるのが、今回のテーマである法人事業概況説明書や税理士による書面添付を使った説明です。
税務署が気にする「異常値」とは何でしょうか
今回の資料では、税務調査を考えるうえで重要な考え方として「異常値」が取り上げられています。
少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、
「これまでと比べて大きく変わっている数字」
と考えると分かりやすいでしょう。
なお、ここでいう「異常値」は、必ずしも税法上の正式な用語ではありません。
また、
「異常値がある=税務上の間違いがある」
という意味でもありません。
あくまで、前年などと比べて大きく増減していて、
「なぜこの数字になったのだろう」
と理由を確認しておきたい数字、というイメージです。
たとえば、次のような数字が挙げられます。
・前年まで売上原価率が60%前後だった会社が、今年だけ75%になった
・毎年ほとんど発生していなかった貸倒損失が、今年だけ1,000万円計上されている
・役員退職金として数千万円が計上されている
・修繕費が前年の数倍になっている
・土地を売却して大きな売却損が発生している
・外注費や支払手数料だけが急増している
もちろん、これらが直ちに問題という意味ではありません。
大切なのは、
「なぜ増えたのか」
「なぜ減ったのか」
「その税務処理には根拠があるのか」
を説明できる状態にしておくことです。
「前年と違う」だけで税務調査になるわけではありません
ここは経営者の方に安心していただきたいところです。
前年と違う数字があるからといって、それだけで税務調査になるとは限りません。
むしろ、正常な事業活動をしている会社ほど、数字が動く年はあります。
新規出店、大型設備投資、事業撤退、取引先倒産、原材料価格の高騰、人材採用、新商品の投入など、経営には毎年いろいろな出来事があるからです。
重要なのは、「異常値をなくすこと」ではなく、「異常値を説明できるようにすること」です。
資料でも、自社で前年との比較などを行い、大きな増減がある項目については、その原因を把握しておくことが重要だと説明されています。
ここは税務調査対策というより、良い決算を作るための基本と考えてよいでしょう。
法人事業概況説明書とは何のための書類なのでしょうか
法人事業概況説明書は、法人税の確定申告に添付する資料です。
会社の事業内容、支店や営業所、従業員、売上や仕入れなどの状況、主要科目の金額などを記載します。
つまり、税務署からすると、
「この会社はどのような会社なのか」
を理解するための一つの入口になる資料です。
そのため、単に空欄を埋めればよい、という考え方では少しもったいありません。
特に今年だけ発生した大きな数字や、通常とは異なる取引がある場合には、
「この会社では今年、こういう事情がありました」
という背景を税務署側が理解できるようにすることが大切です。
大切なのは「先に説明しておく」という発想です
税務調査でよく起きるのは、数字そのものの誤りではなく、
「事情が伝わっていないために疑問を持たれる」
というケースです。
たとえば修繕費が急増していたとします。
税務署側から見ると、
「本当に全部修繕費なのだろうか。新しい設備を買った費用が混ざっていないだろうか」
という疑問が生じることがあります。
一方、会社では、
「古い製造設備が壊れたため、同じ機能に戻す修理を行っただけです」
という事情を把握しているかもしれません。
この場合、最初から背景が分かれば、数字の見え方はずいぶん変わります。
法人事業概況説明書や書面添付は、こうした「数字だけを見たときに生じる疑問」を補う役割を持たせることができます。
税理士が作成する「書面添付制度」という仕組みもあります
法人事業概況説明書とは別に、税理士が関与している会社では「書面添付制度」を活用できる場合があります。
正式には、税理士法第33条の2に基づく書面です。
難しく聞こえますが、
「この申告書を作るとき、税理士が何を確認し、どの資料を見て、どのように判断したのかを税務署に伝える書類」
と考えると分かりやすいでしょう。
前年と比較して大きく増減した事項について、その理由や、どのような帳簿・書類を確認したのかなどを具体的に記載しておけば、申告内容を理解してもらうための材料になります。
さらに、一定の場合には税務調査の通知をする前に、税務署が税理士から意見を聞く「意見聴取」という仕組みがあります。
その段階で疑問点が解消され、結果として実地調査に進まない場合もあります。
ただし、ここは誤解してはいけません。
書面添付をすれば税務調査がなくなる、という制度ではありません。
したがって、
「税務調査を避けるための魔法の書類」
ではなく、
「申告内容を税務署に正確に理解してもらうための説明書」
と考えるのが適切です。
具体例① 貸倒損失は「回収できないと思った」だけでは足りません
今回の資料で最初の具体例として取り上げられているのが「貸倒損失」です。
貸倒損失とは、簡単にいうと、取引先などから回収できなくなった売掛金や貸付金などについて、一定の要件を満たした場合に税務上の損失として処理することです。
たとえば100万円の商品を売ったのに、取引先が倒産し、どうしても代金を回収できなくなったとします。
会計上、
「もう回収できないので損失にしよう」
と考えるのは自然です。
ただし、税務では一定の条件があります。
法人税の取扱いでは、大きく分けると、次のような場合について、それぞれ貸倒損失の取扱いが定められています。
・法的な手続きなどによって債権が切り捨てられた場合
・相手方の資産状況や支払能力などから、債権の全額を回収できないことが明らかになった場合
・一定の売掛債権について、取引停止後一定期間が経過しても支払いがない場合
したがって、
「社長が回収できないと思ったから」
だけでは説明として十分とは限りません。
「取引停止から1年以上」であれば何でも貸倒れになるわけではありません
ここは特に注意したいところです。
税務上は、一定の場合に、取引を停止してから1年以上が経過した売掛債権について、貸倒損失として処理できる取扱いがあります。
しかし、
「1年以上払ってもらえない債権なら、何でも貸倒損失にできる」
という意味ではありません。
この取扱いには条件があります。
たとえば対象となるのは、原則として商品やサービスの販売などから生じた売掛金や未収請負金などの売掛債権です。
会社が相手先に貸した「貸付金」まで、この1年以上という基準だけで貸倒損失にできるわけではありません。
また、原則として継続的な取引を行っていた相手との売掛債権についての取扱いであり、担保がある場合などには同じようには扱えないことがあります。
さらに、この取扱いを使う場合には、債権の全額をそのままゼロにするのではなく、一定の備忘価額(実質的に回収の見込みがなくなった債権でも、帳簿上は1円などのごく少額を残しておく処理)を残す考え方もあります。
つまり、
「1年以上たったから貸倒れ」
と単純に判断するのではなく、
「どのような債権なのか」
「相手とはどのような取引関係だったのか」
「担保はないか」
などを確認する必要があります。
貸倒損失では「どんな確認をしたか」が重要です
資料では、たとえば事実上の貸倒れを判断する場合、相手先の財産状況を確認したことや、連絡を取ろうとした記録を残しておくことなどがポイントとして示されています。
実務では、次のようなものが判断材料になることがあります。
・電話履歴
・メール
・督促状
・内容証明郵便
・訪問記録
・相手会社の決算状況
・登記情報
要するに、「回収できなかった」という結果だけでなく、「なぜ回収不能と判断したのか」という経緯を残すことが大切なのです。
そして貸倒損失が前年にはなく、今年だけ大きく発生しているのであれば、その事情を申告時に整理しておくことには大きな意味があります。
具体例② 役員退職金は「退職した事実」と「金額の根拠」の両方が重要です
次に注意したいのが役員退職金です。
中小企業では、創業社長や長年勤務した役員が退職すると、数千万円単位の役員退職金を支給することがあります。
金額が大きいため、法人税の所得にも大きな影響があります。
そのため、
「本当に退職したのか」
「金額は過大ではないか」
といった点が確認されることがあります。
資料では、定時株主総会をもって取締役を退任して退職金を支給するケースや、期の途中で辞任するケース、いわゆる分掌変更(役職や職務内容が実質的に変わること)による退職金のケースなどが取り上げられています。
功績倍率法とは
役員退職金の金額を決める方法としてよく知られているのが「功績倍率法」です。
簡単にいうと、
最終の役員報酬月額 × 役員として働いた年数 × 功績倍率
といった考え方で金額を算定する方法です。
ただし、
「この計算式を使えば何円でも必ず認められる」
という意味ではありません。
役員退職金には、不相当に高額な部分があれば税務上の問題となる可能性があります。
したがって、金額だけではなく、次のような資料を確認しておくことが大切です。
・退職金規程
・株主総会議事録
・取締役会議事録
・役員としての在任期間
・最終報酬
・職務内容
特に注意したい「分掌変更による退職金」
役員を完全に辞めるのではなく、
「社長から会長になった」
「代表権を外した」
「報酬を大幅に下げた」
といった場合でも、一定の事情があれば税務上、退職した場合と同様に扱われることがあります。
ただし、肩書だけ変えて、実際には今までと同じように経営を続けているのであれば問題になることがあります。
資料でも、分掌変更による退職金の場合には、経営上の主要な地位を占めていないことの実態を確認することが重要だとしています。
たとえば、次のような実態が重要になります。
・代表権は誰が持っているのか
・銀行印や実印の管理は誰がしているのか
・主要な取引先との交渉は誰が行っているのか
・重要な経営判断は誰が行っているのか
また、税務上の取扱いでは、分掌変更後の役員報酬がおおむね50%以上減少していることが、実質的な退職と同様の状態を判断する一つの例として示されています。
しかし、ここは特に注意が必要です。
「報酬を50%以上下げれば、必ず退職金として認められる」という意味ではありません。
50%以上の減額はあくまで判断材料の一つです。
仮に報酬を大幅に減らしていても、その後も会社の重要な経営判断を行っていたり、代表者と同じような権限を持っていたりすれば、実質的に退職したといえるかどうかは別途検討する必要があります。
反対に、単純に数字だけを見るのではなく、
「役割が本当に大きく変わったのか」
「会社経営の中心から実質的に退いたのか」
という実態を確認することが重要です。
つまり、「50%減」は絶対条件でも、安全基準でもありません。
役員退職金を検討するときには、報酬額だけでなく、役職、代表権、決裁権、実際の勤務内容などをまとめて確認する必要があります。
具体例③ 特別償却は「いつ事業に使い始めたか」を説明できるようにする
設備投資をした会社では、「特別償却」を利用することがあります。
特別償却とは、一定の要件を満たす設備を取得した場合などに、通常の減価償却(高額なものを買ったときに、何年かに分けて少しずつ経費にしていく仕組み)よりも多くの金額を早い時期に経費にできる制度です。
ここで重要になるのが、
「その機械をいつ事業で使い始めたのか」
という点です。
機械を買った日と、実際に事業で使い始めた日は同じとは限りません。
大きな製造機械であれば、搬入、設置、試運転、調整、本格生産開始という流れになります。
資料でも、新規機械について、搬入・設置日、試運転期間、実際に製品の生産を開始した日などを、業務日報や製造指図書、製品検収票などで確認できるようにしておく例が示されています。
つまり、
「○月に買いました」
だけで終わらせず、
「○月○日に設置し、試運転を行い、○月○日から本格的に製造へ使用しました」
というところまで説明できるようにしておくわけです。
これは特別償却に限らず、設備投資に関する税務処理全般で役立ちます。
具体例④ 不動産などを安く売った場合は「価格の理由」が重要です
会社が土地や建物などの固定資産を売却し、大きな売却損が出た場合も注意が必要です。
第三者へ通常の市場価格で売却した場合であれば、比較的説明しやすいでしょう。
一方で、社長、役員、親族、グループ会社など、会社と特別な関係にある相手へ売却した場合には、売却価格の妥当性が問題になることがあります。
資料でも、不動産売買の場合には、取引の実態を明確にすることや、時価をどのように確認したのかを整理しておくことが重要とされています。
たとえば、次のような資料が考えられます。
・近隣の売買事例
・不動産業者の査定
・不動産鑑定評価
・公的な評価額などを参考にした計算
重要なのは、
「この金額で売ったのには合理的な理由があります」
と説明できることです。
特に、相場よりかなり安い価格で売却している場合には、その事情を申告時点で整理しておくと安心です。
具体例⑤ 高額な修繕費は「修理」なのか「新しい資産」なのか
税務調査でも論点になりやすいものの一つが、修繕費です。
たとえば工場の大型機械が壊れ、1,000万円をかけて修理したとします。
会社側は当然、
「壊れたものを直したのだから修繕費です」
と考えるかもしれません。
しかし税務では、単なる維持管理や原状回復なのか、それとも機械の価値を高めたり、耐用年数を延ばしたりする改良なのか、という点を検討します。
通常の維持管理や原状回復のための支出は修繕費となる一方、資産の価値を高めたり使用可能期間を延長したりする部分は、原則として「資本的支出」(修理費ではなく、新しい資産を取得したときと同じように、複数年に分けて少しずつ経費にしていく処理)として扱われることがあります。
請求書の名前だけで決まるわけではありません
ここでよくある勘違いがあります。
工事会社の請求書に「修理代」と書いてあるから、税務上も自動的に修繕費になるわけではありません。
反対に、「改修工事」と書いてあるから必ず資産になるというわけでもありません。
大切なのは実際に何をしたのかです。
そのため、高額な工事については、次のような資料を保存しておくと説明しやすくなります。
・工事前後の写真
・見積書
・請求書
・工事内容明細
・故障の状況
・交換した部品
・性能が上がったかどうか
資料でも、高額な修繕費について、その内容を申告時に説明しておくことが実務上有効だとしています。
具体例⑥ 粗利益率が急に下がった場合
税務署が見る「いつもと違う数字」は、特別な取引だけではありません。
毎年発生している売上や仕入れ、経費についても、大きく増減していれば理由を確認しておくことが大切です。
たとえば、売上高はほぼ前年と同じなのに、仕入高だけ30%増えているとします。
このような場合、粗利益率が大きく下がります。
会社側には明確な理由があるかもしれません。
資料では、円安による仕入価格の上昇、海外原材料の値上がり、商品価格への転嫁が遅れたこと、新商品は従来商品より原価率が高かったことなどを説明する例が紹介されています。
これは、とても実務的な考え方です。
単に、
「仕入れが増えました」
ではなく、
「なぜ増えたのか」
まで整理するのです。
たとえば、
「主要材料が前年比15%値上がりしました。ただし、販売価格を改定できたのは10月からだったため、4月から9月までの利益率が低下しました」
ここまで説明できれば、数字の背景が分かりやすくなります。
外注費、消耗品費、支払手数料などの急増も同じです
資料では、外注費、消耗品費、支払手数料などについても、増減理由を具体的に説明する例が示されています。
たとえば外注費が増えたのであれば、単に、
「外注が増えたため」
とするより、
「退職者が発生し、採用までの5か月間、人手不足を補うために外部業者へ業務を委託した」
とした方が、はるかに伝わりやすくなります。
消耗品費が増えたのであれば、
「新店舗の開設に伴い、棚、文房具、事務機器など、一つ当たりの金額が比較的小さい備品を多数購入した」
という背景があるかもしれません。
支払手数料が増えたのであれば、新商品の販売促進に伴う紹介料、採用のための人材紹介料、コンサルティング費用、決済手数料の増加などが理由かもしれません。
このように、「勘定科目の名前」ではなく「実際に何が起きたのか」を説明することが重要です。
法人事業概況説明書には何でも長々と書けばよいのでしょうか
ここで一つ問題があります。
法人事業概況説明書には、書けるスペースに限りがあります。
会社によっては、貸倒損失もある、設備投資もある、役員退職金もある、原価率も変わった、店舗も増えた、というように、一年間に多くの出来事が発生することがあります。
すべてを細かく書こうとしても、入りきりません。
今回の資料でも、法人事業概況説明書だけでは十分な情報を伝えきれない場合があることを指摘し、必要に応じて税理士法上の書面添付や、その後の説明資料などで補完する考え方が示されています。
大切なのは、
「全部書くこと」ではなく、「税務署が疑問を持ちそうな重要事項を優先すること」
です。
税務調査対策は「調査の連絡が来てから」始めるものではありません
ここが今回の記事で最もお伝えしたい点です。
税務調査の準備というと、
「税務署から電話が来たら、税理士に相談すればいい」
と考える方も少なくありません。
もちろん、調査の連絡があってから準備することも必要です。
しかし、本当に大切な準備は決算時点で行います。
なぜなら、数年後になってから当時の事情を思い出すのは、とても難しいからです。
たとえば2026年に行った1,500万円の修理について、数年後に税務調査を受けたとします。
社長からすると、
「確か機械が壊れて……部品も交換したと思うけれど、どこまで交換したかな」
となるかもしれません。
当時の工場長が退職しているかもしれません。
施工業者の担当者も変わっているかもしれません。
写真も残っていないかもしれません。
これでは説明が難しくなります。
反対に、2026年の決算時に、故障原因、修理内容、交換部品、工事前後の写真、見積書、請求書、修繕費と判断した理由を整理しておけば、数年後でも説明できます。
「税務署向けの資料」を作ることは、会社自身にもメリットがあります
こうした資料整理は、税務署のためだけに行うものではありません。
実は、経営管理にも役立ちます。
前年より利益率が下がった理由を整理すれば、
「仕入価格が上がったのか」
「販売価格が低すぎたのか」
「値上げのタイミングが遅かったのか」
が見えてきます。
外注費が増えた理由を整理すれば、
「社員を採用した方が安いのか」
「今後も外注した方がよいのか」
という経営判断につながります。
修繕費を整理すれば、
「この設備は修理を続けるべきなのか」
「新しい設備に買い替えた方がよいのか」
を検討できます。
つまり、税務署に説明できる決算書を作ることは、社長自身が会社の数字を理解することにもつながるのです。
2026年は税務行政のデータ活用がさらに進む節目でもあります
今回の資料の最後では、「KSK2」という国税庁の次世代システムについて触れられています。
KSKとは、国税総合管理システムのことです。
国税庁は、2026年9月24日に次世代システム「KSK2」を稼働させる予定で、整備を進めてきました。
KSK2では、従来税目ごとに分かれていたデータベースやアプリケーションを統合し、よりデータを中心とした事務処理を行うことなどが開発の考え方として示されています。
なお、KSK2は基本的に国税庁側のシステムであり、多くの会社にとって申告の手続きそのものがすぐに大きく変わるわけではないとされています。
この流れを見ると、法人税だけ、所得税だけ、相続税だけ、というように税目を完全に切り離して考えるのではなく、会社と社長個人、関連会社などを含む各種情報の整合性を意識することは、今後ますます大切になっていくと考えられます。
もちろん、
「システムが変わったから、すぐ税務調査が増える」
と単純に考える必要はありません。
また、どの情報をどのような方法で調査選定に使うのか、その具体的な仕組みがすべて公表されているわけでもありません。
大切なのは、申告書同士の数字や、会社と個人の取引について、合理的に説明できる状態にしておくことです。
社長個人と会社のお金は、特に分けて考えましょう
中小企業では、会社と社長が非常に近い関係にあります。
そのため、次のような取引が発生します。
・会社から社長への貸付金
・社長から会社への借入金
・会社所有不動産の社長への売却
・社長所有不動産を会社へ貸している場合の家賃
・役員報酬
・役員退職金
これらは通常の第三者取引と違い、双方で条件を決めやすい関係です。
だからこそ、
「なぜこの金額なのか」
「契約はあるのか」
「実際に支払っているのか」
「相場と比べて極端ではないか」
を説明できるようにしておくことが大切です。
会社のお金と社長個人のお金を日頃からきちんと分けることも、税務調査をスムーズにする基本です。
決算時には「前年との比較」を必ずしておきましょう
税務調査への備えとして、難しいシステムを導入する必要はありません。
まずおすすめしたいのは、今年と前年の決算書を横に並べることです。
そして、金額が大きく動いたところを確認します。
ただし、
「増えた」
「減った」
だけでは不十分です。
その理由を一言で説明できるようにします。
・売上が増えたなら、なぜ増えたのか
・仕入率が上がったなら、なぜ上がったのか
・外注費が増えたなら、誰に何を頼んだのか
・修繕費が増えたなら、何が壊れたのか
・貸倒損失があるなら、なぜ回収不能と判断したのか
・役員退職金があるなら、誰がいつ退職し、どう金額を決めたのか
この作業を決算時に行うだけでも、数年後の税務調査への備えは大きく変わります。
決算前後に確認しておきたい実務チェックポイント
会社によって必要な確認事項は異なりますが、特に大きな数字が動いた年度では、次のような点を税理士と一緒に確認しておくと安心です。
・前年より大幅に増減している売上、原価、経費はないか。その理由を説明できるか
・貸倒損失を計上した場合、対象となる債権の種類や貸倒れの要件を確認したか。また、回収努力や相手先の状況を確認できる資料が残っているか
・役員退職金を支給した場合、退職の事実、金額の算定根拠、株主総会等の議事録があるか
・分掌変更による退職金の場合、報酬の減額率だけでなく、実際に経営上の主要な地位から退いたといえる状況になっているか
・高額な修理を行った場合、修繕費とした根拠を説明できる見積書、写真、工事内容の資料があるか
・設備投資や特別償却がある場合、取得日だけでなく、実際に事業で使用を開始した時期を確認できるか
・不動産などを役員・親族・関連会社へ売買した場合、価格の妥当性を説明できる資料があるか
・社長個人と会社との間の貸付金、借入金、家賃などに不自然な動きがないか
・法人事業概況説明書や税理士の書面添付を使って、重要な事情を申告時点で説明しておいた方がよい項目はないか
すべての会社が全部対応する必要はありません。
自社で今年起きた重要な出来事だけを確認すれば十分です。
「税務調査を乗り切る」というより、「最初から説明できる申告」を目指しましょう
税務調査という言葉を聞くと、
「何か指摘されるのではないか」
「追加で税金を払うことになるのではないか」
と不安になる経営者の方もいらっしゃいます。
しかし、税務調査への一番良い備えは、特別なテクニックではありません。
日頃から帳簿をきちんとつける。
請求書や契約書を保存する。
大きな取引があれば資料を残す。
通常と違う処理をした場合は、理由を記録する。
そして決算時に、
「第三者がこの決算書を見たら、どこを疑問に思うだろうか」
という視点で確認することです。
その疑問に対して、
「これはこういう事情です」
と説明できれば、税務調査があったとしても、落ち着いて対応しやすくなります。
法人事業概況説明書は「会社から税務署への説明書」と考えると分かりやすいです
法人事業概況説明書は、申告書の最後に付けるだけの書類ではありません。
見方を変えると、
「今年の会社ではこのようなことがありました」
と税務署へ伝えるための資料です。
特に、
「今年だけ利益率が大きく下がった」
「貸倒れが発生した」
「高額な退職金を支給した」
「大型設備を購入した」
「多額の修繕費が発生した」
「不動産を売って大きな損失が出た」
というような年度では、何も説明しないより、背景を整理しておく方が申告内容を理解してもらいやすくなります。
そして、必要に応じて税理士法上の書面添付も活用し、何を確認したのか、どの資料を見たのか、なぜその税務処理にしたのかを整理しておく。
この積み重ねが、「税務調査が来ない会社」を作るというより、「税務署から質問されても、落ち着いて説明できる会社」を作ることにつながります。
まとめ 決算書の「いつもと違う数字」は、決算が終わる前に確認しておきましょう
これからの税務調査対策では、
「税務調査の連絡が来てから昔の資料を探す」
のではなく、
「決算をする時点で、今年の重要な出来事と証拠資料を整理しておく」
という考え方が大切です。
国税庁では申告書や資料情報の分析にAIやデータ分析を活用しており、税務行政全体としてもデータを活用する方向に進んでいます。
ただし、法人事業概況説明書の特定の数字をAIが直接判定し、その結果だけで税務調査が決まる、といった具体的な仕組みが公表されているわけではありません。
そのため、必要以上に不安になるのではなく、
「前年と大きく違う数字があるなら、その理由を自社で把握しておく」
という基本を大切にすることが重要です。
また、貸倒損失については、
「1年以上回収できていないから」
という理由だけで、すべての債権を貸倒損失にできるわけではありません。
対象となる債権の種類や取引状況、担保の有無などによって取扱いが変わります。
役員の分掌変更についても、
「報酬を50%以上下げたから大丈夫」
という単純な判断はできません。
50%以上の減額はあくまで判断材料の一つであり、実際に経営上の主要な地位から退いたといえるかどうかが重要です。
こうしたポイントを踏まえたうえで、大切なのは、特殊な節税方法を探すことではありません。
正しい処理を行い、その理由を説明できるようにしておくことです。
法人事業概況説明書や税理士の書面添付は、そのために活用できる重要な手段です。
特に前年と比べて大きく数字が動いた年度には、
「今年は何があったのか」
「その数字はなぜ発生したのか」
「税務処理の根拠は何か」
「それを証明する資料は残っているか」
を決算時に一度確認してみてください。
数年後に税務調査があったときに慌てて説明を考えるのではなく、取引の記憶が新しい今のうちに記録を残しておくことが、結果として重要な税務調査対策になります。
そして、金額の大きな貸倒損失、役員退職金、不動産取引、高額修繕、設備投資などがある場合には、決算書が完成してからではなく、できれば取引を行う前後の段階で税理士に相談しておくと安心です。
税金は「申告書を作るとき」だけ考えるものではありません。
日々の取引の段階から、
「あとで第三者に説明できる形にしておく」
ことが、会社と経営者を守ることにつながります。
なお、本記事で取り上げた制度や取扱いについては、法令や国税庁の考え方の細部が今後変更される可能性があります。
正確な要件や金額、期限などは、最新の情報を税務署にご確認ください。
※本記事は、添付資料「税務調査を乗り切るポイント ⑲法人事業概況説明書等の活用方法」を参考に、一般の方向けに内容を整理したものです。
実際の税務上の取扱いは、契約内容、取引の実態、証拠資料、適用年度などにより異なる場合があります。
個別の判断については所轄税務署へご確認ください。






