公的年金は本当になくなる?老後不安を「破綻」ではなく仕組みから考える

「将来、年金はもらえない?」と不安な人へ。公的年金と老後資金の考え方

「少子高齢化が進んだら、将来は年金をもらえなくなるのではないか」

「今の若い世代は、老後にほとんど年金を受け取れないのではないか」

そんな話を聞いて、不安になったことがある人は少なくないと思います。

確かに、日本では少子高齢化が進んでいます。
年金を受け取る人が増える一方で、制度を支える現役世代が減っていけば、年金財政が厳しくなるのは自然なことです。

ただし、ここで分けて考えたいことがあります。

「年金財政が厳しくなること」と「公的年金がなくなること」は同じではありません。

将来の年金を考えるとき、「破綻するのか」「絶対に大丈夫なのか」という二択だけで考えると、かえって実態が見えにくくなります。

公的年金には、社会の変化に合わせて負担や給付水準を調整する仕組みがあります。

その仕組みを知ったうえで、公的年金だけでは足りないと感じる部分を、預金やNISA、iDeCoなどでどう補っていくのか。

今回は、そんな老後のお金の考え方を整理してみましょう。

公的年金は「自分で積み立てた老後資金」とは少し違う

まず知っておきたいのは、公的年金は自分が積み立てたお金を、そのまま老後に取り崩していく制度ではないということです。

公的年金には、長生きしたときの生活を社会全体で支えるという保険の役割があります。

老齢基礎年金や老齢厚生年金は、受給要件を満たせば原則65歳から受け取り、その後は生涯にわたって受給する仕組みです。
公的年金には老後の年金だけでなく、一定の障害が残った場合の障害年金や、加入者などが亡くなった場合の遺族年金もあります。

ここは、自分で用意する預金や資産運用とは大きく違うところです。

たとえば、老後のためにまとまった預金を用意していたとしても、自分が何歳まで生きるかはわかりません。

85歳まで生きることを想定してお金を使っていたところ、95歳、100歳と長生きすれば、用意した資産が先に少なくなってしまうこともあります。

これが、いわゆる「長生きリスク」です。

もちろん、公的年金だけで自分が希望する老後生活のすべてをまかなえるとは限りません。

それでも、生きている限り一定の収入を受け取れる仕組みがあることには、大きな意味があります。

老後資金を考えるとき、公的年金と自分の資産を「どちらか一方」と考える必要はありません。

公的年金を生活の土台として、その上に預金や自分で準備した資産を重ねる。

このように考えると、老後のお金を整理しやすくなります。

少子高齢化だから、すぐに年金がなくなるわけではない

「働く人が減っていくなら、いつか年金制度そのものが維持できなくなるのでは?」

そう感じるのも自然です。

ただ、公的年金は少子高齢化が進むことを何も想定せずに運営されているわけではありません。

現在の公的年金では、保険料だけでなく、税金や積立金も財源として使われています。
基礎年金については、給付費の2分の1を国庫負担、つまり税金でまかなう仕組みです。

また、会社員などが加入する厚生年金の保険料率は18.3%で、原則として会社と本人が半分ずつ負担します。

さらに、公的年金には「マクロ経済スライド」という仕組みがあります。

名前だけを見ると難しそうですが、考え方はそれほど複雑ではありません。

現役世代の人数が減ったり、平均寿命が延びたりした場合に、それに合わせて年金の給付水準を少しずつ調整していく仕組みです。

つまり、公的年金は「現在とまったく同じ給付水準を永久に維持する」という設計ではありません。

少子高齢化が進む中でも制度を続けられるように、長い時間をかけて給付と負担のバランスを調整していく考え方になっています。

ここを理解すると、「少子高齢化になるから、ある日突然年金がなくなる」というイメージとは、少し違って見えてくるのではないでしょうか。

将来の年金は「ゼロになる」より「水準が変わる」と考える

では、将来の年金は実際にどのくらいになるのでしょうか。

参考になるのが、厚生労働省が少なくとも5年ごとに行っている「財政検証」です。

財政検証とは、人口や経済などについて複数の前提を置き、公的年金の財政が将来どのようになるかを確認するものです。

未来を正確に予言するものではありません。

「経済がこのように動いた場合には、年金はこのくらいになる」という複数のシナリオを確認するもの、と考えるとわかりやすいでしょう。

2024年の財政検証では、「所得代替率」という数字が使われています。

所得代替率とは、年金を受け取り始めるモデル世帯の年金額が、その時点の現役世代の平均的な手取り収入に対して、どのくらいの割合になるかを見る指標です。

2024年度の所得代替率は61.2%でした。

その後、過去30年間と同程度の経済状況が続くと仮定した「過去30年投影ケース」では、マクロ経済スライドによる調整が終わった後の所得代替率は50.4%になると試算されています。

物価の影響を除いたモデル年金額で見ると、2024年度の月22.6万円に対して、同じケースでは2057年度に月21.1万円になるという試算です。

ただし、この「22.6万円」「21.1万円」は、誰もが受け取れる年金額ではありません。

一定の働き方をした夫婦を想定した「モデル年金」の数字です。

実際の受給額は、働いた期間、給与水準、加入していた年金制度などによって一人ひとり違います。

また、経済の状況が想定と大きく変われば、将来の結果も変わります。

ですから、「2057年になれば必ず21.1万円になる」という意味でもありません。

さらに、2025年に成立した年金制度改正法では、今後の社会や経済の状況を確認した結果、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合には、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を講じる旨の規定も追加されました。

これは、将来の基礎年金の給付水準の低下を抑えるための仕組みです。

ただし、現時点でこの措置がすでに実施されているという意味ではありません。
今後の社会経済情勢や財政検証を踏まえて判断される条件付きの仕組みです。

将来の年金について大切なのは、「年金はいずれゼロになる」と決めつけるのでもなく、「今とまったく同じ水準が続く」と考えるのでもないということです。

制度を維持するために給付水準が調整される可能性を考えながら、自分自身でも老後資金を準備していく。

このくらいの距離感で考えるのが現実的ではないでしょうか。

年金積立金も制度を支える一つの材料になっている

公的年金には、これまでに積み立てられた年金積立金もあります。

その大部分を運用しているのが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。

GPIFが公表した2026年度第1四半期の運用状況によると、2001年度に市場での運用を始めてから2026年6月末までの累積収益額は、約221兆円となっています。
運用資産額は約317.8兆円で、これは統計開始以来はじめて300兆円を超えた水準です。

かなり大きな金額ですが、ここも誤解しないようにしたいところです。

積立金の運用益だけですべての年金を支払っているわけではありません。

日本の公的年金は、現役世代などが支払う保険料、税金、積立金などを組み合わせて運営されています。

また、GPIFの運用も投資ですから、毎年必ず利益が出るわけではありません。

株式や債券などの価格が下がれば、一時的に運用成績がマイナスになることもあります。

「これまで利益が出ているから、これからも必ず増える」と考えるのではなく、長期的に制度を支えるための一つの財源として見ることが大切です。

「そのうち70歳にならないともらえない?」は分けて考える

年金についてよく聞く不安の一つが、「そのうち70歳や75歳にならないと年金をもらえなくなるのでは?」というものです。

2026年8月現在、老齢基礎年金と老齢厚生年金は原則65歳から受給する制度です。

希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受給することもできますし、66歳以降75歳まで繰り下げて受給することもできます。

繰上げれば受給額は減り、繰下げれば受給額は増えます。

ここで注意したいのは、「75歳まで受け取りを遅らせる選択ができること」と、「全員が75歳にならないと年金を受け取れなくなること」はまったく違うという点です。

現在、原則65歳という支給開始年齢が全員一律で70歳や75歳へ変更されたわけではありません。

2025年に成立した年金制度改正法でも、社会保険の適用拡大や在職老齢年金、私的年金、将来の基礎年金の給付水準などについて改正が行われましたが、老齢年金の原則的な支給開始年齢を一律70歳などにする改正にはなっていません。

もちろん、将来の制度変更まで「絶対にない」と断言することはできません。

制度は社会や経済の変化に合わせて見直される可能性があります。

だからこそ、「将来70歳になるらしい」という話だけで不安になるのではなく、「すでに決まった制度なのか、それとも将来についての議論なのか」を分けて確認することが大切です。

NISAやiDeCoは「年金の代わり」ではなく「上乗せ」と考える

ここまで読むと、「公的年金があるなら、自分で老後資金を準備する必要はないのでは?」と思うかもしれません。

しかし、それも少し違います。

公的年金は老後生活の大切な土台ですが、自分が希望する生活費のすべてをカバーできるとは限らないからです。

住宅ローンが残っているのか。

家賃が必要なのか。

老後にどのくらい生活費がかかるのか。

趣味や旅行をどの程度楽しみたいのか。

家族構成や働き方によっても、必要なお金は変わります。

そこで考えたいのが、公的年金で足りない部分を、自分の資産で補うという考え方です。

その方法は投資だけではありません。

預金もありますし、退職金や企業年金がある人もいます。

その選択肢の一つとして、NISAやiDeCoを使った資産形成があります。

大切なのは、「年金が危ないらしいから、今すぐ投資しなければ」と焦らないことです。

NISAやiDeCoを利用して投資をしたとしても、選んだ金融商品によっては値下がりし、元本を下回る可能性があります。

投資には良い面もあれば、注意点もあります。

まずは生活費や急な出費に備える預金を確保する。

そのうえで、長く使う予定のないお金について、無理のない範囲で資産形成を考える。

公的年金と投資は、どちらか一方を選ぶものではなく、それぞれ違う役割を持っていると考えるとわかりやすくなります。

まずは「自分はいくらくらい受け取れそうか」を確認する

老後のお金を考えるとき、
「老後には何千万円必要」
「若い人は年金をもらえない」
といった大きな話から考え始めると、不安ばかりが膨らんでしまうことがあります。

その前に確認したいのは、自分自身の場合はどうなのかということです。

年金額は人によって違います。

会社員として働いた期間や給与、自営業だった期間、今後どのくらい働くのかによっても変わります。

まず、自分が将来どのくらい年金を受け取れそうなのかを確認してみる。

そのうえで、「自分が考えている老後の生活費に対して、どのくらい不足しそうなのか」を考える方が具体的です。

不足分がわかってきたら、そのすべてを投資で用意する必要もありません。

公的年金。

預金。

退職金。

企業年金。

NISAやiDeCoなどで積み立てた資産。

いくつかを組み合わせて考えることができます。

老後資金は、一つの商品だけで完成させるものではありません。

まとめ 年金不安は「なくなるか」ではなく「どう備えるか」で考える

少子高齢化によって、公的年金を取り巻く環境が厳しくなっていること自体は無視できません。

将来も現在とまったく同じ給付水準が続く、と考えるのも現実的ではないでしょう。

一方で、
「少子高齢化だから公的年金はいずれなくなる」
「若い世代はほとんど受け取れない」
と単純に決めつけるのも、現在の年金制度の仕組みとは違います。

公的年金には、保険料だけでなく税金や積立金が使われています。

さらに、少子高齢化に合わせて給付水準を調整する仕組みがあり、制度自体も社会の変化に合わせて見直されています。

そして何より、公的年金には、自分が何歳まで生きるかわからないという「長生きリスク」に備える役割があります。

だからこそ、老後のお金は、「公的年金か、投資か」という二択で考えなくてもよいのではないでしょうか。

公的年金を老後生活の土台として考える。

そのうえで、自分が希望する生活に対して不足しそうな部分を、預金やNISA、iDeCoなどで少しずつ準備する。

そんな組み合わせで考える方が、老後のお金は整理しやすくなります。

将来の制度がどう変わるのかを、今の時点ですべて予測することはできません。

だからといって、必要以上に怖がる必要もありません。

まずは、自分の場合はどのくらい年金を受け取れそうなのかを知る。

そして、何が足りそうで、何が足りなさそうなのかを考える。

投資をするかどうかは、そのあとに考えても遅くありません。

不安を無理になくそうとするより、何が不安なのかを一つずつ具体的にしていくこと。

それが、老後のお金と落ち着いて向き合うための第一歩になるのではないでしょうか。