大企業の賃上げに負けない採用戦:中小企業が“人を育てて残す”を先回りする
大企業の賃上げが続く今、中小企業が「先にやるべきこと」
大企業の賃上げが続いています。初任給30万円という数字も珍しくなくなりました。
これを聞いて、「うちには関係ない」と思う中小企業の経営者もいるかもしれません。
しかし、実はこの流れこそ、中小企業にとって見過ごせない変化です。
大企業が賃上げを続け、さらに「人を大事にする経営」を深めていけば、中小企業は採用で勝ち目が薄くなります。
人が採れなければ、成長は止まる。
だからこそ中小企業は、大企業より”先に”動く必要があるのです。
賃上げだけでは人は動かない
興味深いデータがあります。
賃上げが続いているにもかかわらず、将来に不安を感じる人は依然として多いのです。
なぜでしょうか。
人は「今の給料」だけでなく、「この先どうなるか」が見えないと安心できないからです。
月給が上がっても、「来年どうなるかわからない」「5年後の自分が想像できない」という状態では、不安は消えません。
中小企業が勝負するなら、まさにここです。
将来を語れること。これが採用と定着の土台になります。
「人的資本経営」を難しく考えない
最近よく聞く「人的資本経営」という言葉。難しそうに聞こえますが、噛み砕くとこうなります。
人的資本経営とは、人を「コスト(削りたい出費)」ではなく、「育てて強くする材料」として扱い、会社の力にしていく考え方。
大企業は、この考え方を形にする力があります。
賃上げだけでなく、「人を育て、働きやすくし、将来を示す」仕組みを整えられる。
すると中小企業は、同じ土俵—初任給や月給の単純比較—では不利になりやすいのです。
だから中小企業は、別の勝ち方を考える必要があります。
事例1:町の工務店(従業員9名)—「将来の賃金」を”約束の形”にする
ここからは、従業員10名前後の会社が「明日から始められること」を具体的にお伝えします。
採用面接でよく聞かれる質問があります。
「3年後、5年後、どうなりますか?」
中小企業がここで詰まると、候補者は大企業へ流れやすくなります。
「明確なキャリアパスがある会社のほうが安心」と思われてしまうからです。
ただ、やることは派手でなくて構いません。
「賃金の未来図」を一枚にまとめる。
これだけで印象は大きく変わります。
たとえば、こんな形です。
・入社〜1年:基本を覚える(現場の安全、段取り、報連相)
・2〜3年:一人で小さな現場を回せる(先輩が後ろで支える)
・4〜5年:後輩を1人育てられる/お客様対応を任せる
・各段階に「目安の月給レンジ」を添える(幅があってOK)
ポイントは、「必ず上がる」と断言しないことです。
将来の賃金を約束するのは、自分を追い込む面もあります。
だから中小企業は、条件付きで語るのが現実的です。
・「この技能が身についたら、この水準」
・「この役割ができるようになったら、この水準」
・「会社の利益がこのラインを超えたら、ここを上げる」
家計に例えれば、「来年絶対に旅行する」と言い切るより、「貯金がこの額になったら行こう」と決めるほうが続きやすい。
約束の仕方を工夫するのです。
さらに、賃金だけでなく「成長の道」も語りましょう。
・どんな仕事を任せたいか
・どんな人になってほしいか
・そのために会社は何を用意するか(資格取得費用、研修時間、道具、先輩のつけ方)
これが、小さな会社の「人的資本経営の深化」です。
規模が小さいからこそ、紙1枚で始められる。
大企業より先に動けるのです。
事例2:地域の飲食店(従業員10名)—「店長の役割再設計」で差をつける
もう一つ、別の角度からの事例です。
店長(あるいは現場リーダー)が毎日やっている仕事を、紙に書き出してみてください。
・シフト作成
・発注業務
・伝票処理
・クレーム対応
・新人教育
・売上の締め作業
・掃除チェック……
書き出したら、「リーダーがやらなくても回る仕事」を一つずつ外していきます。
外す先は、すべて人に任せる必要はありません。
・紙をやめて簡単なアプリに変える(難しければExcelでも十分)
・発注ルールを固定化する(毎回迷わなくて済むように)
・伝票処理を月1回まとめて外注にする
・週1回、30分だけ全員ミーティングを開いて情報を共有し、現場の「迷い」を減らす
こうして空いた時間を、リーダーは「人が育つ時間」に変えるのです。
・1日10分のフィードバック
・できたことを言葉にして返す
・次に任せる小さな役割を決める
賃上げの原資(給料を上げるためのお金)を、いきなり大きく作ることは難しいかもしれません。
でも、「上がる道筋」と「伸びている実感」を先に作れると、人は残りやすくなります。
同じ賃金額で勝てないなら、「未来の見え方」と「日々の働きやすさ」で勝つ。
ここが中小企業の勝ち筋です。
まとめ:「将来を語れるか」で会社の魅力は変わる
賃上げが続いても不安が消えない人が多い—この事実は、会社が「見通し」を示すことの価値が高いことを意味しています。
大企業が人的資本経営を深めれば深めるほど、中小企業は採用で不利になりやすい。
これは十分に起こり得る未来です。
だからこそ中小企業は、後追いではなく先回りで、「人を育てて残す仕組み」を作る必要があります。
「人的資本経営」という言葉に構える必要はありません。
やることはシンプルです。
1.将来の道筋を見せる
2.日々の働き方を整える
3.育つ実感を作る
この3つを、小さくてもいいから先にやる。ここに勝負があります。
明日からできる3つのこと
「賃金の未来図」をA4一枚で作る
3年後・5年後の役割と、目安の給与レンジ(幅)を書いてみる。
断言ではなく「条件付き」で構いません。
リーダーの仕事を棚卸しする
1週間だけメモを取り、「手放せる仕事」を1つ決める。
外注、ルール化、簡略化、何でもOKです。
10分の育成習慣を始める
毎日一人に「できたこと+次の一歩」を短く返す。
年に数回の評価面談より、日々の声かけのほうが効きます。




