死亡退職金の税務処理
ご家族が亡くなられたあと、勤務先の会社から「退職金をお支払いします」と連絡が来ることがあります。
たとえば、会社員だった夫が6月に亡くなり、その後9月に勤務先から退職手当金が支給されることになった場合です。
受け取るのは、妻であるご本人です。
このようなとき、多くの方が気になるのは、「この退職金にも所得税がかかるのですか」「自分の確定申告に入れないといけないのですか」「相続税とは別に、所得税も払う必要があるのですか」という点ではないでしょうか。
結論からお伝えすると、亡くなった方に支給されるべき退職金で、死亡後3年以内に支給が確定したものを相続人が受け取る場合、原則として所得税はかかりません。
この場合は、受け取った方の所得として扱うのではなく、相続税の計算上「相続財産とみなされる財産」として扱われます。
今回のご相談では、夫が6月に亡くなり、9月に会社から退職手当金が支給されることになっています。
通常は、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金にあたると考えられます。
そのため、妻が受け取る退職手当金については、所得税ではなく、相続税の対象になるかどうかを確認することになります。
死亡退職金は「所得」ではなく「相続に関係するお金」として考えます
通常、会社員が退職して本人が退職金を受け取る場合、その退職金は「退職所得」として所得税の対象になります。
退職所得とは、退職によって勤務先から受け取る退職金などに対する所得区分です。
長年働いてきたことへの支払いという性格があるため、給与とは違う方法で所得税を計算します。
一方で、本人が亡くなった後に遺族が受け取る退職金は、少し考え方が変わります。
亡くなったご本人が受け取るのではなく、死亡をきっかけとしてご家族が受け取るお金だからです。
税金の世界では、このようなお金を「みなし相続財産」として扱います。
「みなし相続財産」と聞くと難しく感じるかもしれません。
簡単にいうと、亡くなった時点で本人の預金口座に入っていたわけではないけれど、死亡をきっかけに遺族が受け取るため、相続税の計算に含めて考える財産、という意味です。
たとえば、夫の預金口座に入っていたお金は、もともと夫が持っていた財産です。
一方、死亡退職金は、夫が亡くなった後に会社から妻などの遺族へ支給されるお金です。
形は違いますが、夫の勤務実績や退職に関係して支給されるお金であり、死亡をきっかけとして遺族が受け取るものです。
そのため、相続税の計算上は、相続財産に含めて考えることになります。
つまり、死亡退職金については、まず「所得税がかかるかどうか」だけを見るのではなく、「相続税の申告が必要になるかどうか」を確認することが大切です。
このご相談では所得税はかかりません
今回のご相談では、夫が本年6月に亡くなり、その後9月に勤務先から退職手当金が支給されることになっています。
この場合、死亡から3年以内に支給が確定しているため、原則として相続税の対象になります。
妻の所得税の対象にはなりません。
流れとしては、まず会社に勤めていた夫が6月に亡くなります。
その後、9月に会社から退職手当金が支給されることが決まります。
受け取るのは妻です。
この退職手当金は、死亡後3年以内に支給が確定したものと考えられます。
そのため、所得税ではなく、相続税の対象として整理します。
ここで大切なのは、「所得税がかからない」ということと、「何も確認しなくてよい」ということは別だという点です。
所得税はかからなくても、死亡退職金は相続税の計算に関係します。
したがって、預貯金、不動産、生命保険金、有価証券、借入金、葬式費用など、ほかの相続財産と合わせて、相続税の申告が必要かどうかを確認する必要があります。
死亡退職金には非課税枠があります
死亡退職金が相続税の対象になると聞くと、「では、退職金の全額に相続税がかかるのですか」と心配になる方もいらっしゃいます。
しかし、相続人が受け取った死亡退職金には、一定の非課税枠があります。
具体的には、「500万円 × 法定相続人の数」までの金額は、死亡退職金について相続税がかからない仕組みになっています。
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。
たとえば、夫が亡くなり、妻と子ども2人が相続人になる場合、法定相続人は3人です。
この場合、死亡退職金の非課税限度額は、500万円に3人を掛けた1,500万円になります。
たとえば、相続人が受け取る死亡退職金の合計額が1,200万円であれば、1,500万円の非課税枠内におさまります。
この場合、死亡退職金については、相続税の課税対象に含める金額はありません。
一方で、死亡退職金の合計額が2,000万円であれば、非課税枠1,500万円を超える500万円部分が、相続税の計算に関係してきます。
ただし、この非課税枠は、相続人が受け取った死亡退職金について使えるものです。
相続人以外の方が受け取る場合には、この非課税枠が使えないことがあります。
また、相続放棄をした方が死亡退職金を受け取る場合も、扱いに注意が必要です。
実際の計算では、誰が法定相続人にあたるのか、誰が死亡退職金を受け取ったのか、そして、それぞれいくら受け取ったのかを整理して確認することが大切です。
「支給された日」よりも「支給が確定した日」が大切です
死亡退職金でよくある勘違いが、3年以内かどうかを「実際にお金が振り込まれた日」だけで判断してしまうことです。
税務上、大切なのは、死亡後3年以内に支給が確定したかどうかです。
たとえば、会社の退職金規程や社内決裁などにより、死亡退職金の金額や支給対象者が確定した日が重要になります。
実際に振り込まれた日が少し後になったとしても、死亡後3年以内に支給が確定していれば、相続税の対象として扱われます。
今回の場合、6月に夫が亡くなり、9月に会社から退職手当金が支給されることになっています。
そのため、通常は死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金にあたると考えられます。
一方で、死亡後3年を過ぎてから支給が確定した場合は、扱いが変わります。
この場合は、相続税の対象ではなく、受け取った遺族の一時所得として所得税の対象になることがあります。
一時所得とは、継続的な仕事の対価ではなく、一時的に受け取った所得をいいます。
死亡後3年を過ぎてから支給が確定した退職金については、たとえ退職金という名前がついていても、相続税ではなく、遺族側の所得税の問題として扱われることがあります。
なお、一時所得には最高50万円の特別控除が適用されるうえ、課税対象となるのはその後の金額の2分の1です。
退職金全額がそのままの金額で課税されるわけではありませんが、実際の計算については税務署にご確認ください。
つまり、死亡退職金は、支給が確定した時期によって税金の扱いが変わります。
本人が生前に退職金を受け取っていた場合は、本人の退職所得として所得税の対象になります。
死亡後3年以内に支給が確定した場合は、相続税の対象になり、所得税は原則としてかかりません。
死亡後3年を過ぎてから支給が確定した場合は、受け取った遺族の一時所得として所得税の対象になることがあります。
今回のご相談では、死亡後3年以内に支給が確定したものと考えられますので、所得税ではなく、相続税の対象として確認することになります。
相続税も必ずかかるわけではありません
ここで安心していただきたいのは、死亡退職金が相続税の対象になるからといって、必ず相続税を納めることになるわけではない、ということです。
相続税には、死亡退職金の非課税枠とは別に、相続税全体の基礎控除があります。
相続税の基礎控除は、「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算します。
たとえば、法定相続人が妻と子ども2人の合計3人であれば、相続税の基礎控除は、3,000万円に600万円の3人分を加えた4,800万円です。
この場合、相続税の対象となる財産の合計額が4,800万円以下であれば、原則として相続税の申告も納税も必要ありません。
ただし、相続税の対象となる財産は、死亡退職金だけではありません。
預貯金、不動産、株式、投資信託、生命保険金、貸付金、自動車、貴金属なども確認する必要があります。
また、借入金や未払金、葬式費用などは、相続税の計算上、差し引ける場合があります。
そのため、死亡退職金だけを見て「非課税枠内だから大丈夫」と判断するのではなく、相続全体で確認することが大切です。
特に、不動産をお持ちの場合は注意が必要です。
自宅や土地は、普段の生活では現金のように金額を意識しにくい財産です。
しかし、相続税の計算では評価額を出す必要があります。
死亡退職金が少額であっても、不動産や預貯金などを合わせると基礎控除を超えることがあります。
反対に、死亡退職金があっても、非課税枠や基礎控除の範囲内におさまる場合には、相続税がかからないこともあります。
大切なのは、「所得税はかからないから終わり」と考えるのではなく、「相続税の申告が必要かどうかを確認する」という視点を持つことです。
会社から受け取る書類は必ず保管しましょう
死亡退職金を受け取るときは、会社から受け取る書類を必ず保管しておきましょう。
確認しておきたいのは、支給された金額、支給が確定した日、実際の支払日、受取人、支給の名目などです。
また、そのお金が退職金なのか、弔慰金なのか、未払給与なのかも確認しておくと安心です。
会社から支給されるお金には、「退職金」「功労金」「弔慰金」「見舞金」「未払給与」など、いろいろな名目があります。
名前が似ていても、税金の扱いは同じとは限りません。
たとえば、弔慰金や葬祭料などは、一定の金額の範囲内であれば相続税の対象にならないことがあります。
具体的には、業務上の原因による死亡の場合は死亡当時の普通給与の3年分(36か月分)まで、業務外の原因による死亡の場合は6か月分(半年分)まで、それぞれ相続税の対象外とされています。
ただし、この金額を超える部分や、名目は弔慰金であっても実質的に退職金にあたると判断される部分については、退職手当金等として相続税の対象になることがあります。
書類の内容がよく分からない場合は、税務署に確認するとよいでしょう。
また、最後の給与や賞与が未払いのまま亡くなった場合には、死亡退職金とは別の扱いになることがあります。
会社からまとめて振り込まれている場合でも、その中身を分けて確認することが大切です。
「会社から支給されたお金だから、全部同じ扱いでよい」と考えてしまうと、後で整理が難しくなることがあります。支給明細書や通知書を見て、何の名目でいくら支給されたのかを確認しておきましょう。
もし書類の内容が分かりにくい場合は、会社の担当者に「相続税の確認のため、支給内容が分かる書類をいただけますか」とお願いするとよいでしょう。
所得税の確定申告に入れないよう注意しましょう
死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、原則として相続税の対象です。
そのため、妻の所得税の確定申告に「一時所得」や「退職所得」として入れるものではありません。
ここは実務上、間違えやすいところです。
普段の感覚では、「お金を受け取ったのだから、自分の収入になるのではないか」と思われるかもしれません。
しかし、税金の扱いでは、死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、受け取った人の所得ではなく、相続税の対象となる財産として考えます。
もし会社の書類で所得税が差し引かれているように見える場合は、死亡退職金として正しく処理されているかどうか、会社に確認した方がよいでしょう。
また、死亡退職金と未払給与が一緒に支給されている場合には、それぞれの扱いが異なることがあります。
金額が大きい場合や内容が分かりにくい場合には、早めに税務署に確認しておくと安心です。
相続税の申告期限にも注意しましょう
死亡退職金がある場合、相続税の申告が必要になるかどうかを早めに確認しましょう。
相続税の申告期限は、原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
通常は、亡くなった日の翌日から10か月以内と考えます。
たとえば、6月10日に亡くなった場合、原則として翌年4月10日が申告期限になります。
期限が土曜日、日曜日、祝日などにあたる場合は、その翌日が期限になります。
相続税の申告が必要かどうかを判断するには、財産の洗い出し、不動産の評価、金融機関の残高証明書の取得、生命保険金や死亡退職金の確認などが必要です。
ご家族が亡くなられた直後は、葬儀や役所の手続き、金融機関の手続きなどで慌ただしくなります。
そのため、「まだ時間がある」と思っているうちに、あっという間に数か月が過ぎてしまうことがあります。
今回のように、死亡が6月で、死亡退職金の支給が9月になる場合でも、相続税の申告期限は、原則として死亡日を基準に進んでいきます。
会社から支給通知が届いたら、できるだけ早めに相続財産の一覧に加えておきましょう。
実務上、特に気をつけたいこと
死亡退職金を受け取った場合に、まず気をつけたいのは、所得税の確定申告に誤って入れないことです。
死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、原則として相続税の対象です。
受け取った妻の一時所得や退職所得として申告するものではありません。
次に、死亡退職金と未払給与を分けて確認することも大切です。
会社から支給されるお金の中には、最後の給与、賞与、立替経費の精算、死亡退職金、弔慰金などが混ざっていることがあります。
これらは税金の扱いが異なる場合がありますので、明細書を見て、何の名目で、いくら支給されたのかを確認しましょう。
また、死亡退職金の非課税枠を使える人かどうかも確認が必要です。
非課税枠は、「500万円 × 法定相続人の数」で計算します。
ただし、相続人以外の方が受け取る場合には、非課税枠が使えないことがあります。
受取人が誰になっているかは、とても大切です。
さらに、相続税の申告が必要かどうかは、死亡退職金だけで判断しないようにしましょう。
死亡退職金が非課税枠内であっても、ほかの財産が多ければ相続税の申告が必要になることがあります。
反対に、死亡退職金を含めても基礎控除の範囲内であれば、相続税の申告が不要になる場合もあります。
死亡退職金を受け取ったときは、「所得税はかからないから何もしなくてよい」と考えるのではなく、「相続税の確認が必要かもしれない」と考えるのが安全です。
まとめ
会社に勤めていた夫が亡くなり、その後、会社から妻へ退職手当金が支給される場合、その退職金が死亡後3年以内に支給確定したものであれば、原則として所得税はかかりません。
この場合、死亡退職金は、妻の所得として扱うのではなく、相続税の計算上「相続財産とみなされる財産」として扱います。
ただし、相続税の対象になるからといって、必ず相続税がかかるわけではありません。
相続人が受け取る死亡退職金には、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があります。
また、相続税全体にも、「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という基礎控除があります。
そのため、今回のように死亡退職金を受け取る場合は、死亡退職金の金額、支給が確定した日、受取人、法定相続人の人数、ほかの相続財産の金額、借入金や葬式費用の有無、相続税の申告期限を確認することが大切です。
所得税の心配をするよりも、まずは相続税の申告が必要かどうかを確認しましょう。
会社から支給通知書や明細書を受け取ったら、ほかの相続財産の資料と一緒に保管しておくと安心です。
判断に迷う場合は、税務署に相談されることをおすすめします。
この記事は、作成時点の法令や国税庁の公表情報をもとに、一般的な取り扱いを分かりやすく説明したものです。
実際の税務判断は、死亡退職金の支給内容、支給確定日、受取人、相続人の人数、ほかの相続財産の状況などによって変わることがあります。
個別の申告や納税については、最新情報を確認のうえ、税務署へご相談ください。






