甥っ子さん・姪っ子さんをアルバイトで雇うときのポイント

親族をアルバイトで雇う際の税務ポイント

個人事業主の方から、
「甥っ子(姪っ子)をアルバイトとして雇っても大丈夫ですか?」
というご相談をよくいただきます。

結論からお伝えすると、雇うこと自体は問題なく、経費にできるケースも多いです。

ただし、相手が親族である分、税務署はかなり厳しい目でチェックしてきます。

  • 本当に働いているのか?
  • 実は「お小遣い」を給与と言い換えているだけではないか?

ここでは、税務調査を経験した立場から、どこが問題になりやすいか、どうしておけば「経費として認められやすいか」を、できるだけ分かりやすく整理してご説明します。

税務署が必ずチェックする「2つのポイント」

税務署(特に個人事業を担当する部署)は、親族への給与について、まず次の2点を確認します。

本当に働いているか(勤務実態)

いちばん疑われやすいのは、「名前だけ借りているのでは?」という点です。

  • 実際には働いていないのに、書類の上だけアルバイトにしていないか
  • お年玉やお小遣いを、「給与」という名前に変えて経費にしていないか

たとえば、実際は月に1回しか手伝っていないのに、毎週シフトに入っているように見せている―といったケースは、税務調査ではかなり厳しく見られます。

「生計を一にしている親族」かどうか

もうひとつの大きなポイントが、「生計を一にしているかどうか」です。

「生計を一にする」とは税法上の言い方で、かんたんに言うと「同じ財布で生活しているような関係かどうか」を見ます。

  • 一緒に住んでいて、生活費を出してあげている
  • たとえ別居でも、こちらがほとんど生活費を負担している

このような場合、税務上は「生計を一にしている親族」と判断されることがあります。

この場合、原則として、その親族に払った給料は経費にしにくくなります。
(※ただし、後で説明する「青色事業専従者」という特別な制度を使う場合は除きます)

ケース別:甥っ子・姪っ子さんを雇ったときの扱い

甥っ子さん・姪っ子さんを雇う場合でも、一緒に暮らしているかどうか、生活費を負担しているかどうかで扱いが変わります。

A. 別居で、生計も別の場合(ふつうのアルバイトとして扱えるケース)

多くの方は、このパターンに当てはまることが多いです。

  • 甥っ子さん・姪っ子さんは親御さんと一緒に暮らしている
  • または、一人暮らしで、自分の生活費は自分でまかなっている
  • あなた(事業主)とは、生活費を出し合っていない(財布は別々)

このような場合は、税務上は一般のアルバイトを雇うのと同じ扱いになります。

【税務上の扱い】

支払った給与は、原則としてそのまま「給料賃金」として必要経費にできます。

ただし、税務署は次の点をチェックします。

【税務署が見るポイント】

時給や金額が相場と比べておかしくないか

他のアルバイトや同業者と比べて、極端に高すぎないかどうかを見ます。
たとえば、同じ仕事で他の人は時給1,000円なのに、甥っ子さんだけ時給3,000円―といったケースです。
このように明らかに高すぎると、「本当はお小遣いでは?」と疑われ、一部が経費として認められないことがあります。

お金が「仕事の対価」になっているか

実際に働いた時間だけを給与にしているかどうかを確認されます。
お店で遊んでいた時間まで労働時間に入れていないか、という点です。

たとえば、「店に来ていた3時間全部を勤務としてつけているが、実際に手伝ったのは1時間だけ」という場合は、調査で経費として認められにくくなります。

B. 同居している、または生活費を負担している場合(「生計を一にする親族」とみなされるケース)

次のような場合は、税法上注意が必要です。

  • 甥っ子さん・姪っ子さんが、あなたの家に住んでいる
  • あなたが生活費・学費などを主に負担している

このような関係は、税法上「生計を一にする親族」と判断される可能性が高いです。

【税務上の扱い(原則)】

この場合、支払った給与は、原則として必要経費にできません。
(所得税法第56条というルールがあります)

ただし、例外として、「青色事業専従者」という特別な制度を使うことで、一定の条件を満たせば給与を経費として認めてもらえる場合があります。

【青色事業専従者とは?(かんたん説明)】

この制度を使うには、いくつかの条件があります。

  • 個人事業の「青色申告」をしていること
  • その親族が、1年のうちほとんどをその事業の手伝いに使っていること
  • 給与の金額が、仕事内容や労働時間からみて「適正な範囲」であること
  • 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ出していること

また、この制度を使うと、その甥っ子さん・姪っ子さんは「扶養控除」などの対象から外れる場合があります。

税務調査で「お小遣い」と疑われないための4つのポイント

では、実際に雇うときに、どのような点に気をつければよいでしょうか。

税務調査の現場では、次のような資料がきちんと残っているかどうかで、「本当に働いているか」の判断が大きく変わります。

タイムカードや出勤簿をつける(ほぼ必須)

  • 何月何日の何時から何時まで働いたのか
  • どれくらいの時間、仕事をしたのか

これが客観的に分かる記録がないと、調査官は「本当に働いたのかどうか分からない」と判断しがちです。

【ポイント】

  • 手書きの簡単なメモだけではなく、「出勤簿」や「タイムカード」として残す
  • 書式はシンプルでかまいませんが、日付・出勤時間・退勤時間・休憩時間は分かるようにする

たとえば、ノートやExcelで次のように記録しておくと、とても有効です。

4月5日 13:00〜17:00(4時間) 商品の梱包・清掃

どんな仕事をしたか分かる「業務日誌」や「成果物」を残す

時間だけでなく、具体的な作業内容が分かると、説得力がぐっと増します。

  • 伝票整理
  • 商品の梱包・発送
  • 店内の清掃
  • SNSの投稿作業 など

かんたんなメモでかまいません。

「4月5日:ネットショップ用商品の梱包10件、棚卸し補助」

といったメモを、その日の出勤とセットで残しておくと安心です。

可能であれば、次のような「やった仕事の跡」が残るものを保管しておくと、より効果的です。

  • 実際に作成した資料
  • 伝票やリスト
  • SNS投稿の画面キャプチャ など

給与明細を作り、支払いは銀行振込にする

現金手渡しだけですと、「本当に支払ったのか」「もらったのはいつか、いくらか」といった点で、あとから証拠を出しにくくなります。

そのため、次のことをおすすめします。

  • 毎月、かんたんでよいので「給与明細」を作る
  • 支払いはできるだけ銀行振込にする
【給与明細に記載する項目】
  • 支払年月
  • 氏名
  • 勤務時間または日数
  • 時給(または日給)
  • 支給額(控除があれば控除内容も)

控えは事業側で保管しておきましょう。

銀行振込にしておけば、通帳の記録がそのまま支払いの証拠になりますので、税務調査でも説明がしやすくなります。

親族でも「雇用契約書」を交わす

親族同士だと、「口約束でいいか」「家族なんだから、そこまでしなくても…」となりがちです。

しかし、税務署から見ると、次のような印象を持たれます。

  • 書面がある → きちんとしたビジネスの契約
  • 書面がない → あいまいな関係かもしれない

できれば、次の内容をかんたんにまとめた雇用契約書(または覚書)を作成しましょう。

  • 時給(または日給・月給)
  • 勤務日数・勤務時間の目安
  • 主な仕事内容

お互いに署名・押印して1部ずつ保管しておくと安心です。

まとめ:親族だからこそ「きちんと書類を残す」のが安心

甥っ子さん・姪っ子さんをアルバイトとして雇うこと自体は、税法上「ダメ」というわけではありません。

ただし、親族であるがゆえに、税務署からは特に注目されやすい項目です。
次の点を意識しておくと安心です。

  • 生計が別なら、基本的には一般のアルバイトと同じように経費にできる
  • 同居していたり生活費を負担している場合は、「生計を一にする親族」とみなされ、原則として経費にしにくい。
    この場合は「青色事業専従者」という特別な制度を使えるかどうかを検討する
  • 税務調査で経費として認められるために、次の書類をしっかり残しておく

「出勤簿・タイムカード」

「業務内容のメモ」

「給与明細と銀行振込」

「雇用契約書」

「親族だから少しルーズでいいだろう」ではなく、「他人を雇うときと同じか、それ以上にきちんと記録を残す」という気持ちで対応していただくと、税務署に対しても自信を持って説明できるようになります。