返品・値引き・振込手数料控除があるときの「返還インボイス」—知っておきたい実務のポイント

適格返還請求書の基礎知識

はじめに:この記事を読んでほしい方

インボイス発行事業者として登録している会社で、次のようなケースがある方は、ぜひ最後までお読みください。

・商品の返品や値引きが時々ある
・取引先にリベート(割戻し)を支払うことがある
・振込手数料を売上から差し引かれて入金されることがある

「返還インボイス(適格返還請求書)」という書類の発行が必要になる場合がありますが、実は少額なら発行しなくてもOKというルールがあります。

今回は、実務でよくあるケースを中心に、分かりやすく解説していきます。

【まず知ってほしい】税込1万円未満なら、返還インボイスは不要です

返品・値引き・リベートなどで「お金を返す・減らす」処理をするとき、その金額が税込1万円未満であれば、返還インボイスを発行する義務はありません。

これは多くの会社にとって、実務上とても助かるルールです。

ただし「1万円未満」の判定に注意

ここが間違いやすいポイントです。
1万円未満かどうかは、商品1つずつで判定するのではなく、請求(または債権)の単位ごとに判定します。

具体例で確認しましょう

【ケース1】振込手数料440円を差し引かれた場合

・1万円の請求に対して、買手が振込手数料440円を差し引き、9,560円を入金
・売手は440円を売上値引きで処理
・判定:440円は1万円未満 → 返還インボイス不要

【ケース2】リベート3万円を支払う場合

・50万円の請求に対して、後日、総額3万円のリベートを支払う
・判定:3万円は1万円以上 → 返還インボイスが必要

このように、「減額した金額の合計」で判定する点を押さえておきましょう。

よくあるケース:振込手数料を差し引かれた場合の処理

多くの会社で発生するのが、この振込手数料の問題です。

消費税(インボイス)上の扱い

買手が支払時に振込手数料を差し引いて入金し、売手がそれを「売上値引き」として処理する場合、税法上は売上返還等(値引き)になります。

ただし、前述のとおり、振込手数料は多くの場合1万円未満なので、返還インボイスは不要です。

適用税率:元の売上げの税率に合わせます

売上値引きの税率は、会計上の科目(支払手数料で処理していても)に関係なく、元の売上げの税率に従います。

・軽減税率(8%)対象の売上げなら → 値引きも8%
・標準税率(10%)の売上げなら → 値引きも10%

複数の税率が混在する取引では、合理的に区分して処理しましょう。

経理処理のコツ

振込手数料を会計上「支払手数料」で処理する場合、課税仕入れとしての支払手数料と混ざらないよう、補助科目を分けておくと後で分かりやすくなります。

【重要】取適法(2026年1月施行予定)との関係

ここで注意したいのが、新しい法律との関係です。

下請法が見直され、「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」が2026年1月1日に施行されました。

この法律では、合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者側に負担させ、代金から差し引く行為が「減額」に当たり、違反となる可能性があります。

今からできる対策

「振込手数料は相手先負担で差し引き」という運用をしている会社は

・取引先の属性(委託事業者・中小受託事業者に当たるか)を確認
・契約条件を見直す
・必要に応じて、支払方法の変更を検討

といった対応を、今のうちに進めておくと安心です。

法律は改訂されることがあるため、最新情報は公的資料をご確認ください。

基本を確認:返還インボイスとは? いつ必要?

ここからは基本的な内容を確認していきます。

返還インボイスが必要になるケース

インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)は、売上げに関して「お金を返す・減らす」処理をする場合、原則として返還インボイス(適格返還請求書)を発行する必要があります。

具体的には

・返品(売上返品)
・値引き(売上値引き)
・リベート・割戻し(売上割戻し)
・早期支払割引など(売上割引)

返還インボイスに書くべき内容

返還インボイスには、次の項目を記載します。

・自社(発行側)の名前と登録番号
・返還等を行う日付、および元になった売上げの日付
・取引内容(何の返品・値引きか)
  軽減税率(8%)の対象なら、その旨も
・税率ごとに区分した返還額(税抜または税込)
・返還に係る消費税額 または 適用税率

実務のポイント

後日リベートを支払う場合は、「何月分の売上げに対するリベートか」「税率ごとの金額はいくらか」を明記しておくと、お互いの経理がスムーズです。

実務:売上年月日の書き方

返還インボイスに記載する「元になった売上年月日」は、実はまとめて書くこともできます。

まとめ書きのルール

課税期間の範囲内であれば、次のような書き方でOKです:

・「○月分」
・「○月~△月分」

また、会社で決めたルールに沿って継続的に処理している場合は、そのルールに基づいた日付の書き方も認められています。

実務のコツ

「うちの会社では返品は翌月締めで前月売上に戻す」といった運用なら

1.社内ルール(締め日・処理基準)を決める
2.毎回同じ基準で処理する

これで安心して対応できます。

特殊なケース:登録前の売上げに対する返金・値引き

少し複雑ですが、次のように整理してください。

基本的な考え方

インボイス発行事業者として登録する前に行った売上げについて、登録後に返金・値引きをした場合は、返還インボイスの交付義務はありません。

ただし注意点も

制度上は「インボイス発行事業者であった課税期間の取引」など、状況により取扱いが変わることがあります。

実際の判断は

・取引時期
・登録状況
・課税期間の区分

これらを整理して判断する必要があります。

実務のアドバイス

社内で取引パターンが複数ある場合は、表にして整理しておくと間違いを防げます。

まとめ:押さえておきたいポイント

最後に、重要なポイントをおさらいしましょう。

すぐ使える知識

・税込1万円未満の返還等なら、返還インボイスは不要(判定は請求・債権単位で)
・振込手数料の差引きは、多くの場合1万円未満なので免除になる

基本ルール

・返品・値引き・リベート等を行う場合、原則として返還インボイスが必要
・返還等の税率は、会計処理に関係なく元の売上げの税率に合わせる

これから注意すべきこと

・取適法(2026年1月施行予定)により、振込手数料の差引き支払は運用見直しが必要になる可能性がある
・今のうちに取引先や契約条件を確認し、必要に応じて対応を検討しておきましょう