障害者施設の入所費用は全額控除できる?医療費控除の対象範囲と確認方法
重い身体障害のあるお子さまが、市などの施設に入所して療養している場合、毎月、施設利用料や入所に伴う費用を支払うことがあります。
このような費用について、「施設に支払った金額は、確定申告の医療費控除(1年間に支払った医療費の一部を所得から差し引き、税金の負担を軽くする制度)に含められるのでしょうか」「療養のために入所しているのだから、全額を医療費として申告してもよいのでしょうか」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
結論からお伝えすると、施設への支払額のすべてが、自動的に医療費控除の対象になるわけではありません。
一定の法律に基づいて都道府県や市区町村に納付する費用については、そのうち医師による診療や治療などに相当する部分が、医療費控除の対象になります。
一方で、施設で生活するための支援、日用品、理美容、娯楽などに関する費用は、原則として医療費控除の対象にはなりません。
また、同じように「施設費」「入所費用」と呼ばれていても、施設の種類、利用しているサービス、支払先、請求内容によって税務上の取扱いが異なります。
そのため、支払額の全額をそのまま申告するのではなく、まずは「どの制度に基づく、何の費用なのか」を確認することが大切です。
※この記事は、2026年8月6日に確認した国税庁・厚生労働省の公表資料をもとに作成しています。
実際の適用には個別判断が必要ですので、詳細は税務署にご確認ください。
施設入所費用の全額が医療費になるわけではありません
施設に入所している方について、毎月まとめて請求される金額には、複数の費用が含まれていることがあります。
たとえば、次のような費用です。
医師による診療や治療の費用、看護や療養上のお世話に関する費用、障害福祉サービスの利用者負担額、食事代や光熱水費、施設で生活するための支援費用、日用品や衣類の購入費、理美容代、行事や娯楽に関する費用、個人的に希望したサービスの費用。
これらは、施設から一つの請求書でまとめて請求される場合があります。
しかし、税法上は、請求書の合計額をすべて同じように扱うわけではありません。
国税庁は、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法(いずれも、障害のある方への福祉サービスについて定めた法律です)などの規定により、都道府県や市区町村に納付する費用のうち、次のような費用に相当するものを医療費控除の対象としています。
医師などによる診療や治療に相当する費用、診療や治療を受けるために直接必要な一定の費用、義手・義足など、治療のために直接必要な一定の医療用器具に相当する費用です。
つまり、「障害のある方が施設に入所している」という理由だけで、支払額の全額が医療費控除の対象になるわけではありません。
支払額のうち、医療に相当する部分を確認する必要があります。
最初に確認したいのは、施設とサービスの正式名称です
「市の施設に入っています」「障害者施設に入所しています」という情報だけでは、医療費控除の対象額を正確に判断することができません。
同じように見える施設でも、根拠となる法律や提供しているサービスが異なるためです。
たとえば、障害のある方が利用する施設やサービスには、次のようなものがあります。
障害者支援施設、療養介護、医療型障害児入所施設、福祉型障害児入所施設、短期入所、共同生活援助、病院や診療所での入院・療養。
このほか、介護保険制度(65歳以上の方などを対象とした介護サービスの公的保険制度)に基づく施設に入所しているケースもあります。
施設やサービスの種類が違えば、利用者が負担する費用の内容も異なります。まずは、次の書類を確認してみましょう。
障害福祉サービス受給者証(市区町村から交付される、利用できる福祉サービスの内容を記載した証明書)、施設との利用契約書、市区町村から届いた支給決定通知書、利用者負担額の決定通知書、毎月の請求書、領収書、利用料の内訳書。
確認したいのは、単なる施設の呼び名ではなく、利用しているサービスの正式名称です。
支払先についても確認が必要です。国税庁が明示しているのは、身体障害者福祉法などの規定により、都道府県や市区町村に納付する費用のうち、医療に相当する部分です。
施設へ直接支払っている費用については、すべてが同じ取扱いになるとは限りません。
請求内容やサービスの根拠となる制度を確認したうえで判断する必要があります。
現在の障害福祉サービスでは、所得に応じて負担上限が設けられています
障害福祉サービスの自己負担には、原則として、所得に応じた月ごとの負担上限額が設定されています。
一定の所得区分に該当する方については、ひと月に利用したサービス量が多くても、定められた上限額を超える自己負担が生じない仕組みです。
所得を判断するときの「世帯」の範囲も、利用者が成人か障害児かなどによって異なります。
また、療養介護(医療的なケアと日常生活の支援をあわせて受けられるサービス)を利用する場合には、福祉サービス部分の自己負担、医療費、食事療養費を合わせて負担上限額を設定する「医療型個別減免」という仕組みがあります。
これは、食費・福祉サービス部分・医療費の3つの合計額が、その方の負担限度額を超えないように調整する仕組みです。
ここで、特に注意したい点があります。障害福祉制度上の利用者負担額と、所得税の医療費控除の対象額は、同じものではありません。
たとえば、障害福祉制度上の自己負担額が月額2万円だったとしても、その2万円の全額が医療費控除の対象になるとは限りません。
反対に、医療費部分が別に請求されている場合には、福祉サービスの利用者負担額とは別に確認が必要になることもあります。
厚生労働省の制度は、利用者が毎月いくら負担するかを決めるための仕組みです。
一方、医療費控除は、その支払額のうち、税法上の医療費に当たる部分がいくらかを判断する制度です。
この二つは目的が異なるため、分けて考えることが大切です。
「医療費に相当する部分」は、請求書や内訳書で確認しましょう
施設への支払額のうち、医療費控除の対象となる金額が分からない場合は、まず請求書や領収書の内訳を確認します。
書類に「医療費控除対象額」などの記載があれば、その金額をもとに申告を検討できます。
ただし、すべての自治体や施設が、医療費控除対象額を記載した証明書を必ず発行しているとは限りません。
そのため、書類を見ても分からない場合は、市区町村または施設に、次のように確認するとよいでしょう。
「確定申告で医療費控除を検討しています。支払額のうち、診療や治療などに相当する金額が分かる内訳はありますか」「請求額の中に、医療費部分と福祉サービス部分が含まれている場合、それぞれの金額が分かる資料はありますか」「医療費に相当する部分について、書面で確認できる資料はありますか」。
施設や市区町村から回答を受けた場合は、可能であれば、金額や計算根拠が分かる書面を受け取りましょう。
たとえば、利用料の内訳書、年間の支払額一覧、医療費部分が記載された領収書、自治体からの回答書、施設からの説明書、医療費と福祉サービス費が区分された請求書などです。
口頭で説明を受けた場合には、問い合わせた日、担当部署、担当者、説明された内容を記録しておくと安心です。
ただし、施設や市区町村が税務上の判断まではできない場合もあります。
内訳を確認しても、どの金額を医療費控除に含めてよいか分からないときは、関係書類をそろえて、税務署にご相談ください。
割合は自分で決めず、内訳を確認してから判断しましょう
医療費部分が分からないからといって、支払額を自己判断で分けてしまうのは避けましょう。
たとえば、次のような計算は適切とは限りません。
療養しているため全額を医療費にする、医療と福祉が半分ずつだと考えて支払額の2分の1を計上する、介護施設で使われている割合をそのまま障害者施設にも当てはめる、昨年と同じ割合で申告する、他の利用者と同じ金額を申告する、といった方法です。
特別養護老人ホームや介護老人保健施設など、介護保険制度上の施設には、施設の種類に応じた医療費控除の取扱いがあります。
しかし、その取扱いを障害福祉施設にそのまま当てはめることはできません。
施設名が似ていても、根拠となる制度が異なるためです。
医療費部分が分からない場合は、まず支払先に内訳を確認しましょう。
それでも判断できなければ、税務署にご相談いただくのが安全です。
焦って自己判断で計上する必要はありません。落ち着いて、順番に確認していけば大丈夫です。
具体例で確認してみましょう
たとえば、施設に年間48万円を支払っていたとします。
市区町村や施設から受け取った内訳書に、次のように記載されていたとします。
年間の支払総額48万円のうち、診療や治療などに相当する部分が18万円、生活支援、食費、日用品などの部分が30万円です。
この場合、医療費控除の対象として検討するのは、原則として18万円の部分です。
48万円の全額を医療費として申告するわけではありません。
さらに、この18万円について、高額療養費や保険金など、医療費を補てんする金額を受け取っている場合には、その補てん額を差し引いて医療費控除を計算します。
なお、この例は考え方を分かりやすくするためのものです。
実際の対象額は、施設の種類や請求内容によって異なりますので、ご自身のケースについては個別にご確認ください。
親が支払った場合は、親の医療費控除に含められることがあります
医療費控除は、自分自身の医療費だけを対象とする制度ではありません。
納税者が、自分と「生計を一にする」配偶者や子、親などの親族のために支払った医療費も対象になります。
したがって、施設に入所しているお子さまの医療費を親が実際に負担している場合は、親の医療費控除に含められる可能性があります。
ここでいう「生計を一にする」とは、必ず同じ家に住んでいるという意味ではありません。
療養などの事情により別々に生活していても、親子の間で継続して生活費や療養費などの送金が行われている場合は、生計を一にしていると判断されることがあります。
そのため、お子さまが施設に入所しているという事実だけで、親の医療費控除の対象外になるわけではありません。
ただし、医療費控除を受ける人は、原則として、その費用を実際に支払った人です。次のような資料を保存しておくと、支払者を確認しやすくなります。
親名義の口座からの振込記録、口座振替の明細、通帳の記録、クレジットカードの利用明細、施設から発行された領収書、親が費用を負担していることが分かる記録です。
請求書がお子さま名義であっても、親が実際に負担している場合があります。
一方で、お子さま本人の年金や預金から支払っている場合は、親が支払った医療費とは扱われない可能性があります。
名義だけで判断せず、誰のお金から、誰の負担として支払われたのかを確認しましょう。
医療費控除は、支払った金額がそのまま戻る制度ではありません
医療費控除は、対象となる医療費の全額が税務署から返金される制度ではありません。
一定の計算をした金額を所得から差し引き、所得税や住民税の負担を軽くする制度です。
通常の医療費控除額は、次のように計算します。
医療費控除額=実際に支払った対象医療費-保険金などで補てんされた金額-10万円。
ただし、その年の総所得金額等(1年間の所得の合計から一定の調整をした金額)が200万円未満の場合は、10万円ではなく、総所得金額等の5%を差し引きます。医療費控除額の上限は200万円です。
たとえば、医療費控除の対象となる支払額が年間30万円あり、補てんされる金額がなく、差し引く基準額が10万円の場合、医療費控除額は20万円です。
この20万円が、そのまま返金されるわけではありません。課税される所得から20万円が差し引かれるため、実際に軽減される所得税額は、その方に適用される所得税率などによって変わります。
正確な還付額は、実際の所得や税率によって一人ひとり異なりますので、あくまで目安としてご覧ください。
高額療養費や保険金を受け取った場合は差し引きます
施設費や医療費について、後から高額療養費(医療費の自己負担が一定額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される公的医療保険の制度)、入院給付金などを受け取ることがあります。
医療費を補てんする目的で支給された金額は、原則として、その給付の対象となった医療費から差し引きます。
たとえば、高額療養費、家族療養費(健康保険の被扶養者が医療機関にかかった際に支給される給付)、入院給付金、医療保険から支払われる保険金、自治体から支給される医療費助成の払い戻しなどです。
ただし、補てん額が対象となる医療費を上回った場合でも、余った金額を別の医療費から差し引く必要はありません。
また、給付金であれば、すべて医療費から差し引くわけではありません。
判断するときは、その給付金の名称だけでなく、「医療費を補てんする目的で支給されたものか」を確認します。
生活保障や所得補償を目的とする給付は、通常、医療費を補てんする金額とは扱われません。
給付決定通知書や保険会社からの支払案内を確認し、目的が分からない場合は、支給元や税務署などに確認しましょう。
現在は、領収書ではなく「医療費控除の明細書」を提出します
現在の確定申告では、原則として、医療費の領収書を確定申告書に添付するのではなく、領収書などをもとに「医療費控除の明細書」(1年間に支払った医療費の内容をまとめた一覧表)を作成して提出します。
領収書は、確定申告期限などから5年間、自宅や事務所で保存します。
税務署が申告内容を確認する必要があると判断した場合には、その期間中に領収書の提示や提出を求められることがあります。
施設入所費用については、領収書だけでなく、次の書類も一緒に保存しておくと安心です。
請求書、利用料の内訳書、医療費部分が分かる資料、市区町村や施設から受け取った回答書、年間支払額の一覧、負担額決定通知書、振込明細や通帳の記録、保険金や給付金の支払通知書です。
以前は、領収書に「うち医療費部分〇円」などと記入する方法が案内されることもありました。
現在は、確定申告書に領収書そのものを添付するのではなく、医療費控除の明細書を作成する方法が原則です。
そのため、領収書に自分で金額を書き込むだけでなく、内訳の根拠となる資料を一緒に保存することが重要です。
自治体や施設から計算内容の説明を受けた場合は、その説明が分かる書類や記録も残しておきましょう。
申告までの流れ
施設入所費用について医療費控除を検討する場合は、次の順番で確認すると分かりやすくなります。
施設とサービスの正式名称を確認します。
受給者証、契約書、支給決定通知書などを確認しましょう。
「市の施設」という呼び方だけではなく、どの制度に基づく、どのサービスなのかを確認します。
支払先を確認します。
費用を都道府県や市区町村に納付しているのか、施設に直接支払っているのかを確認します。
支払先によって、確認すべき資料や税務上の判断が異なることがあります。
その年に実際に支払った金額を集計します。
医療費控除の対象となるのは、その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費です。
12月分の請求であっても、翌年1月に支払った場合は、原則として翌年の医療費控除の対象になります。
医療費に相当する部分を確認します。
請求書、領収書、内訳書などを確認しましょう。
対象額が分からない場合は、市区町村または施設に問い合わせます。
補てんされる金額を確認します。
高額療養費、保険金、医療費助成などの払い戻しがないかを確認します。
誰が実際に支払ったかを確認します。
親が医療費控除を受ける場合は、親が実際に費用を負担したことが分かる資料を保存しましょう。
医療費控除の明細書を作成します。
施設入所費用のうち医療費に相当する部分を、病院代や薬代など、その他の対象医療費と合わせて記載します。
関係書類を保存します。
領収書や内訳書などを、原則として5年間保存しましょう。
よくある勘違いと、防ぐためのポイント
施設への支払額を全額申告してしまうケースです。
療養目的で入所していても、生活支援費や日用品費などが含まれている場合があります。
全額ではなく、医療費に相当する部分を確認しましょう。
障害福祉制度の自己負担額を、そのまま医療費控除に入れてしまうケースです。
障害福祉サービスの利用者負担額と、税法上の医療費控除対象額は同じではありません。
それぞれ別に確認する必要があります。
自分で2分の1などの割合を決めてしまうケースです。
他の施設に適用される割合を、そのまま障害福祉施設に当てはめることはできません。
内訳や根拠を確認してから申告しましょう。
市区町村や施設が必ず証明書を発行すると思い込んでしまうケースです。
医療費部分を記載した書類が発行されるかどうかは、自治体や施設によって異なる場合があります。
まずは内訳の有無を確認し、可能であれば書面を受け取りましょう。
施設に入所しているため、生計が別だと判断してしまうケースです。
療養のために別居していても、継続して生活費や療養費を負担している場合は、生計を一にしていると認められることがあります。
誰が支払ったかを確認しないまま申告してしまうケースです。
医療費控除は、原則として、医療費を実際に支払った人が受けます。
請求書の名義だけでなく、実際の支払者を確認しましょう。
保険金や高額療養費を差し引かずに申告してしまうケースです。
医療費を補てんする給付を受けた場合は、その対象となった医療費から差し引く必要があります。
どれも、少し手順を確認しておくだけで防げるものばかりです。
難しく考えすぎず、一つずつ確認していきましょう。
まとめ
障害のあるご家族が施設に入所している場合、施設入所に伴う支払額の一部が、医療費控除の対象になることがあります。
ただし、毎月支払っている金額の全額が、医療費控除の対象になるわけではありません。
特に重要なポイントは、次のとおりです。
施設やサービスの種類によって取扱いが異なります。
支払先が市区町村なのか、施設なのかを確認します。
一定の法律に基づいて市区町村などに納付する費用は、医療に相当する部分が対象になります。
生活支援、日用品、理美容などの費用は、原則として医療費とは区別します。
障害福祉制度上の利用者負担額と、医療費控除の対象額は同じではありません。
医療費部分が不明な場合は、まず市区町村や施設に内訳を確認します。
市区町村や施設が必ず証明書を発行するとは限りません。
親が実際に支払い、お子さまと生計を一にしている場合は、親の医療費控除に含められる可能性があります。
領収書や内訳書などは、原則として5年間保存します。
大切なのは、「毎月いくら支払っているか」だけでなく、「その支払額の中に医療費に相当する部分がいくら含まれているか」を確認することです。
施設の名称や請求書の項目だけでは判断できないこともあります。
確定申告の直前になって慌てないよう、早めに受給者証、契約書、請求書、領収書などを確認し、市区町村や施設へ問い合わせておくと安心です。
※国税庁の医療費控除に関する公表資料には、令和7年4月1日現在の法令・通達等に基づくものが含まれています。
制度改正や個別事情によって取扱いが異なることがありますので、実際の申告時には最新情報をご確認ください。






