2026年からiDeCo・企業型DCの退職所得控除ルールが変わりました

退職金とiDeCoの受け取り方で税金が変わる?2026年改正のポイントと注意点

「5年空ければ大丈夫」ではない、新しい9年ルールをやさしく解説

会社から受け取る退職金や、iDeCo(個人型確定拠出年金)・企業型DC(企業型確定拠出年金)から受け取る一時金は、老後の生活を支える大切なお金です。

これらの一時金は、一定の要件を満たすと「退職所得」として扱われます。
退職所得には「退職所得控除」という大きな控除があるため、通常の給与や事業所得と比べて、税負担が軽くなることがあります。

ただし、会社の退職金とiDeCoなどの一時金を複数回に分けて受け取る場合、同じ勤続期間や加入期間について、退職所得控除を二重に使うことはできません。
この重複を調整するルールが、2026年1月から一部変わりました。

特に影響を受けやすいのは、次のような方です。

・60歳でiDeCoや企業型DCを一時金として受け取る方
・その後も会社で働き、65歳以後に会社の退職金を受け取る方
・定年延長や再雇用により、60歳を過ぎても勤務を続ける方
・会社の退職金、確定給付企業年金、企業型DC、iDeCoなど、複数の退職給付を受け取る予定がある方
・転籍・合併・企業再編などにより、過去の勤続期間が現在の退職金計算に引き継がれている方

たとえば、58歳の会社員・佐藤さん(仮名)は、60歳でiDeCoの一時金を受け取り、65歳で会社の退職金を受け取る予定でした。
「5年ルールなら、iDeCoと会社の退職金は5年空けば別々に控除が使える」と考えていましたが、実はこの前提が2026年から変わっています。

この記事では、佐藤さんのようなケースを例にしながら、2026年からの新しいルールを、税金や年金制度に詳しくない方にも分かるようにご説明します。

今回の改正は、すべての退職金の税金を一律に増やすものではありません。
実際の税額は、受け取る順番、受給する年、過去の受給歴、勤続期間と加入期間の重なり方などによって変わります。
「何年空ければよいか」だけで判断せず、ご自身の受給予定を時系列に並べて確認することが大切です。

まず結論:2026年から何が変わったのでしょうか

今回の改正を簡単にまとめると、次のようになります。

2026年1月1日以後にiDeCoや企業型DCの老齢一時金(確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金)を受け取り、その後に会社の退職金などを受け取る場合、退職所得控除の重複調整の対象となる期間が広がりました。

改正前は、後から受け取る会社の退職金などについて、その受給年の「前年以前4年内」に受け取った一時金が、原則として調整対象でした。

改正後は、2026年1月1日以後に受け取った確定拠出年金の老齢一時金が、後の退職金を受け取る年の「前年以前9年内」にある場合、重複調整の対象になる可能性があります。

法律上は、「前年以前4年内」から「前年以前9年内」への変更です。
一般には、従来の取扱いが「5年ルール」、新しい取扱いが「10年ルール」と呼ばれることがあります。

ただし、正確には、受給日から受給日までの経過日数で丸5年、丸10年を数える制度ではありません。
原則として、受給した「年」を基準に判定します。
この点は、後ほど具体例で詳しくご説明します。

また、新しい9年ルールが適用されるのは、2026年1月1日以後に老齢一時金の支払いを受け、その後に受ける退職手当等も2026年1月1日以後に支払いを受けるべきものである場合です。

そもそも退職所得控除とは

退職所得控除とは、退職金などに税金をかける前に、一定額を差し引ける制度です。

退職金は、長年の勤務に対するお金を退職時にまとめて受け取るという性質があります。
そのため、通常の給与と同じようにそのまま税金をかけると、税負担が大きくなってしまいます。
そこで、勤続年数に応じた控除を設け、税負担を軽くする仕組みになっています。

一般的な退職所得控除額は、次のように計算します。

勤続年数が20年以下の場合は「40万円×勤続年数」、勤続年数が20年を超える場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」という計算式になります。

勤続年数が20年以下で、計算結果が80万円未満になる場合は、原則として80万円となります。
また、勤続期間に1年未満の端数がある場合は、原則として1年に切り上げます。

たとえば、勤続年数が30年の場合は、次の計算になります。

800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円

この場合、通常の計算では、退職所得控除額は1,500万円です。
退職金が退職所得控除額を超える場合、退職所得は原則として次のように計算します。

退職所得 =(退職金-退職所得控除額)× 2分の1

ただし、勤続年数が5年以下の役員退職金や、勤続年数が5年以下の方に支給される一定の退職金については、2分の1計算が制限される場合があります。
そのため、「退職金なら必ず、控除後の金額の半分だけに税金がかかる」とは限りません。

なぜ過去の退職金まで確認するのでしょうか

退職所得控除は、長年の勤務や年金制度への加入期間に応じて認められる控除です。
そのため、同じ勤務期間や加入期間について、複数の退職金で退職所得控除を重ねて利用することはできません。

たとえば、佐藤さんが20年間会社に勤務し、その20年間、企業型DCにも加入していたとします。
佐藤さんが企業型DCの一時金を受け取り、その後、同じ会社から退職金を受け取った場合、企業型DCの加入期間と会社の勤続期間が重なっています。
両方の計算に同じ20年間をそのまま使うと、同じ期間について退職所得控除を二重に使うことになってしまいます。

そこで、後から受け取る退職金の計算では、過去の一時金の計算対象となった期間と重なっている部分を取り除きます。
これが「勤続期間等の重複排除」と呼ばれる調整です。

難しい言葉ですが、イメージとしては、同じ勤続期間に「控除を使った」というスタンプを2回押すことはできない、という仕組みです。

なお、過去に一時金を受け取っているというだけで、必ず調整されるわけではありません。
後の退職金の勤続期間と、前の退職金や一時金の計算対象期間とが重なっていることが、基本的な条件になります。

改正前は「前年以前4年内」が基本でした

改正前、確定拠出年金の老齢一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金などを受け取る場合、後の退職金の受給年から見て「前年以前4年内」に一時金を受け取っていると、原則として重複調整の対象になりました。

たとえば、2025年にiDeCoの一時金を受け取り、2029年に会社の退職金を受け取る場合を考えます。
2029年の前年以前4年は、2025年から2028年です。
2025年に受け取った一時金は、この範囲に入ります。

一方、2025年に一時金を受け取り、2030年に会社の退職金を受け取る場合、2030年の前年以前4年は、2026年から2029年です。
この場合、2025年は範囲外になります。

この年単位の仕組みが、一般に「5年ルール」と呼ばれていました。
従来は、60歳でiDeCoなどの一時金を受け取り、65歳で会社の退職金を受け取るケースでは、4年の範囲から外れる可能性がありました。

しかし、定年延長などにより、60歳で確定拠出年金を受け取った後も働き続け、65歳以後に会社の退職金を受け取るケースが増えることを踏まえ、2026年から対象期間が見直されました。

2026年からは「前年以前9年内」の新しい区分が追加されました

改正後は、主に次の条件にすべて当てはまる場合、前年以前9年内に受け取った確定拠出年金の老齢一時金が、重複調整の対象になります。

1.2026年1月1日以後に、iDeCoまたは企業型DCの老齢一時金を受け取っている
2.その後、老齢一時金以外の退職手当等を受け取る
3.後の退職手当等を受け取る年の前年以前9年内に、老齢一時金を受け取っている
4.後の退職手当等の勤続期間と、前の一時金などの計算対象期間に重なりがある

具体例で確認してみましょう

佐藤さんが2026年に、60歳でiDeCoの老齢一時金を受け取ったとします。
その後も勤務を続け、2031年に65歳で会社の退職金を受け取った場合、2031年の前年以前9年は、2022年から2030年です。
2026年は、この範囲に入ります。

したがって、iDeCoの加入期間と会社の勤続期間に重なりがあれば、2031年に受け取る会社の退職金について、退職所得控除の調整が必要になる可能性があります。

改正前の前年以前4年で考えると、2031年の対象年は2027年から2030年です。
2026年は範囲外でした。つまりこの例では、改正前であれば調整対象外となる可能性があったものが、改正後は調整対象になるということです。
5年空いていても、もう安心とは言えなくなったわけです。

9年ルールでは、過去のDC一時金だけを確認すればよいわけではありません

今回の改正で、特に誤解しやすいのがこの点です。
新しい9年ルールは、単に「過去9年内のiDeCo・企業型DCの一時金だけを確認する」という仕組みではありません。

前年以前9年内に、2026年1月1日以後に受け取ったDCの老齢一時金がある場合、原則として、次の退職手当等も確認対象になります。

・2026年1月1日以後に受け取ったもので、受給年の前年以前9年内にある退職手当等
・2025年12月31日以前に受け取ったもので、受給年の前年以前4年内にある退職手当等

つまり、9年内にDCの老齢一時金を受け取っている方が、そのほかにも会社の退職金や企業年金の一時金を受け取っている場合、過去の複数の給付が調整対象になることがあります。

次のような受給歴がある方を考えてみましょう。
2027年にiDeCoの老齢一時金を受け取り、2030年に前の勤務先からの退職金を受け取り、2035年に現在の勤務先からの退職金を受け取る、という受給歴です。

2035年の前年以前9年は、2026年から2034年です。
この期間には、2027年のiDeCo一時金と、2030年の退職金の両方が含まれています。
したがって、2035年の退職金の勤続期間と、2027年・2030年に受け取った給付の計算対象期間に重なりがあれば、複数の給付を踏まえた調整が必要になる可能性があります。

「過去にiDeCoを受け取ったか」だけでなく、その間に別の退職金や企業年金一時金を受け取っていないかも、あわせて確認することが大切です。

「10年間空ければよい」と単純に考えないことが大切です

今回の改正は、一般に「5年ルールから10年ルールへの変更」と説明されることがあります。
ただし、実際の判定は、受給日から受給日までの日数ではなく、原則として受給した年を基準に行います。

たとえば、2026年に確定拠出年金の老齢一時金を受け取った場合を考えます。
2035年に会社の退職金を受け取ると、2035年の前年以前9年は、2026年から2034年です。
したがって、2026年の一時金は範囲に入ります。

一方、2036年に会社の退職金を受け取る場合、2036年の前年以前9年は、2027年から2035年です。
この場合、2026年の一時金は9年の範囲から外れます。

整理すると、2026年にDCの老齢一時金を受け取った方が2035年に会社の退職金を受け取る場合は、原則として9年ルールの範囲内に入ります。
一方、同じ2026年にDCの老齢一時金を受け取った方でも、会社の退職金を受け取るのが2036年になると、原則として9年ルールの範囲外になります。

ただし、範囲外になったからといって、必ず重複調整がなくなるとは限りません。
次にご説明する「過去の勤続期間を現在の退職金計算に通算している場合」には、4年・9年・19年とは別の確認が必要です。

4年・9年・19年の期間外でも、勤続期間を通算している場合は注意が必要です

退職所得控除の重複調整は、4年・9年・19年という期間ルールだけで決まるものではありません。
今回受け取る退職金の計算に、以前の退職金の対象となった勤続期間を通算している場合には、その重複期間について別途調整が必要になります。

たとえば、次のようなケースです。

・転籍前の会社の勤続期間を、転籍後の会社の退職金計算に引き継いでいる
・合併前の会社の勤続期間を、合併後の会社の勤続期間に含めている
・グループ会社間の転籍で、以前の勤続年数を通算する規定がある
・退職金制度や企業年金制度の移換により、過去の勤務期間が給付額の計算に引き継がれている
・一度退職金の支給を受けた後、再雇用後の退職金計算でも以前の期間を含めている

国税庁は、今回の退職手当等が、前年以前に支給された退職手当等の勤続期間を通算して計算されている場合、その重複期間に対応する退職所得控除額を差し引く取扱いを示しています。

つまり、「前の退職金から10年以上空いているから問題ない」とは、必ずしも言い切れません。
退職金規程などにより、前の勤務期間が現在の退職金計算に含まれている場合は、期間が空いていても、勤続期間の通算関係を確認する必要があります。

特に、転籍、合併、企業再編、退職金制度の変更があった会社では、単に入社日と退職日だけを見るのではなく、退職金規程や過去の支給内容まで確認することが大切です。

受け取る順番が逆の場合は「前年以前19年内」を確認します

今回の改正で特に影響を受けるのは、確定拠出年金の老齢一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金などを受け取る場合です。
一方、受け取る順番が逆の場合は、以前から別の取扱いがあります。

つまり、
1.会社の退職金や退職所得となる企業年金一時金を先に受け取る
2.その後、iDeCoや企業型DCの老齢一時金を受け取る
という順番です。

この場合、後から受け取るDCの老齢一時金については、原則として、その受給年の前年以前19年内に受け取った退職手当等を確認します。
一般には「20年ルール」と呼ばれることがあります。

たとえば、60歳で会社の退職金を受け取り、65歳でiDeCoを一時金として受け取る場合、5年間しか空いていません。
会社退職金は、iDeCo一時金を受け取る年の前年以前19年内に入ります。
勤続期間と加入期間に重なりがあれば、後のiDeCo一時金について、退職所得控除の調整が必要になる可能性があります。

受給順序ごとの基本的な考え方を整理すると、次のようになります。
退職手当等を先に受け取り、その後にまた退職手当等を受け取る場合は「前年以前4年内」を確認します。
2026年以後のDC老齢一時金を先に受け取り、その後に老齢一時金以外の退職手当等を受け取る場合は「前年以前9年内」を確認します。
そして、退職手当等を先に受け取り、その後にDCの老齢一時金を受け取る場合は「前年以前19年内」を確認します。

ただし、これは一般的なケースを簡単に整理したものです。
今回の退職金計算に以前の勤続期間を通算している場合や、同じ年に複数の退職金を受け取る場合には、別の計算が必要になります。

同じ年に複数の退職金を受け取る場合は、合算して計算します

同じ年に、2か所以上から退職手当等を受け取ることがあります。
たとえば、会社から退職金を受け取るのと同じ年に、企業年金基金から退職所得となる一時金を受け取るケースです。

この場合、後から支払う支払者は、原則として、先に支払われた退職手当等と今回の退職手当等を合わせて、源泉徴収税額(お金を支払う側があらかじめ税金分を差し引いて国に納める仕組みにおける税額)を計算します。

受給者は、先に受け取った退職金について、支払者名、支給額、源泉徴収税額、支払年月日、勤続年数などを「退職所得の受給に関する申告書」に記載します。
さらに、先に受け取った退職金の「退職所得の源泉徴収票」を添付して、後の支払者に提出する必要があります。

同じ年に受け取る場合は、4年・9年・19年という前年以前のルールとは異なる扱いになりますので、「同じ年に何を受け取るのか」も、受給予定表に記載しておきましょう。

2025年以前に受け取った一時金はどうなるのでしょうか

新しい9年ルールは、原則として、2026年1月1日以後に受け取った確定拠出年金の老齢一時金がある場合に適用されます。
2025年12月31日以前に受け取ったDC一時金が、すべて自動的に9年ルールの対象になるわけではありません。

ただし、従来からある前年以前4年内のルールに該当する可能性はあります。
たとえば、2025年にiDeCoの一時金を受け取り、2028年や2029年に会社の退職金を受け取る場合は、従来の4年の範囲に入る可能性があります。

一方、2025年に受け取り、2030年に会社の退職金を受け取る場合、2030年の前年以前4年は2026年から2029年です。
受給年だけを見ると、2025年は範囲外になります。
また、過去9年内に2026年以後のDC老齢一時金がある場合でも、2025年以前に受け取った別の退職手当等については、原則として前年以前4年内にあるものが確認対象となります。

経過措置を整理すると、次のようなイメージです。

・2026年以後に受け取った退職手当等は、一定の場合、前年以前9年内を確認する
・2025年以前に受け取った退職手当等は、原則として前年以前4年内を確認する
・今回の退職金計算に過去の勤続期間を通算している場合は、これらとは別に確認する

過去の一時金を受け取った年が、2025年以前か2026年以後かを分けて整理することが大切です。

どのくらい税額に影響するのでしょうか

影響額は、次の内容によって変わります。

・会社の勤続期間
・iDeCoや企業型DCの加入期間
・両方の期間が重なっている年数
・過去に受け取った一時金の金額
・後から受け取る退職金の金額
・ほかの退職金や企業年金一時金を受け取っているか
・過去の勤続期間が現在の退職金計算に通算されているか

単純化した例で考えてみましょう。

例:加入期間20年のDC一時金を先に受け取る場合

次の前提とします。

・2026年に企業型DCの老齢一時金を受け取る
・DCの加入期間は20年
・DCの一時金は800万円
・2031年に会社から退職金を受け取る
・会社の勤続年数は30年
・会社の退職金は1,500万円
・DCの加入期間20年は、会社の勤続期間30年の中にすべて含まれている
・DCの一時金800万円は、20年分の退職所得控除額800万円以上である

会社の退職金だけを見れば、勤続30年の退職所得控除額は1,500万円です(800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円)。

しかし、DCの加入期間20年と会社の勤続期間のうち20年が重複し、その20年分が過去の一時金の計算ですでに使われているとします。
単純化した計算では、重複する20年分の控除額800万円を差し引きます。

1,500万円-800万円=700万円

この場合、会社退職金について使える退職所得控除額が700万円になるとすると、一般的な退職所得は次のようになります。

(1,500万円-700万円)× 2分の1=400万円

重複調整がなければ、会社退職金1,500万円は退職所得控除額1,500万円の範囲内におさまります。
一方、重複調整があると、課税対象となる退職所得が生じる可能性があります。

ただし、これはあくまで仕組みを理解していただくために条件を単純化した例です。
過去の一時金の額が、その一時金について計算される退職所得控除額より少なかった場合には、実際の支給額を基に、控除を使ったものとみなす期間を計算する取扱いがあります。
そのため、過去の加入期間すべてが、必ずそのまま重複期間として差し引かれるわけではありません。
実際の計算では、過去の源泉徴収票、支給額、加入期間、勤続期間、退職金規程などの確認が必要です。

確定給付企業年金の一時金は、一律に9年ルールとは限りません

企業年金には、主に次のような制度があります。

・確定拠出年金(DC):掛金を運用し、その運用結果などによって将来受け取る金額が変わる制度。iDeCoも確定拠出年金の一つです。
・確定給付企業年金(DB):規約などに基づいて、給付の内容があらかじめ定められている制度です。

今回、新しく9年ルールのきっかけとなる「老齢一時金」は、確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金です。
したがって、確定給付企業年金の一時金が、それ自体で一律に「DCの老齢一時金と同じ9年ルールになる」というわけではありません。

ただし、確定給付企業年金の一時金が退職所得に該当し、その前に2026年以後のDC老齢一時金を受け取っている場合には、確定給付企業年金の一時金が「後から受け取る退職手当等」として、新しい9年ルールの影響を受ける可能性があります。
反対に、退職所得となる確定給付企業年金の一時金を先に受け取り、その後にDC老齢一時金を受け取る場合には、19年ルールの確認が必要になることがあります。

確定給付企業年金の一時金は、受給理由や受給時期によって、所得区分も変わることがあります。
たとえば、退職により支払われるものや、将来の年金給付の総額に代えて支払われる一定の一時金は、退職所得として扱われることがあります。
一方、年金の受給開始後に、将来の年金の一部だけを一時金として受け取る場合には、原則として一時所得(退職所得とは別の所得区分)になるとされた事例もあります。

また、定年延長中に受け取る一時金についても、給付事由や規約の内容により、退職所得に該当するかを個別に判断する必要があります。

制度名だけで判断せず、次の資料を確認しましょう。

・確定給付企業年金の規約
・給付決定通知書
・一時金の支給理由
・退職日
・加入資格を喪失した日
・年金の受給開始日
・全額を一時金にするのか、一部だけを一時金にするのか
・退職所得の源泉徴収票

会社側の実務では何を確認すればよいのでしょうか

退職金を支払う会社側では、本人の勤続年数だけを確認すればよいわけではありません。
過去に受け取った会社退職金、企業年金一時金、iDeCo・企業型DCの一時金についても確認する必要があります。

特に2026年以後は、60歳以後も継続勤務している従業員について、過去9年内に確定拠出年金の老齢一時金を受け取っていないかを確認する場面が増えます。
さらに、DC一時金を受け取った後に、別の退職金や企業年金一時金を受け取っている場合には、それらも含めて確認が必要になることがあります。

会社が確認したい項目

・過去に退職金や一時金を受け取っているか
・それぞれを受け取った年月日
・支払者の名称
・一時金の制度名と種類
・支給額
・過去の勤続期間・加入期間
・今回の勤続期間と重なる期間
・過去の勤続期間を今回の退職金計算に通算しているか
・過去に源泉徴収された税額
・退職所得の源泉徴収票があるか

退職金の支払いを受ける方は、原則として、支払者に「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。
同じ年に別の支払者から退職金を受け取っている場合には、過去の支払者、支給額、源泉徴収税額、支払年月日、勤続年数などを記載し、源泉徴収票を添付します。

申告書を提出していない場合、原則として、退職金の支給額に20.42%を掛けた所得税・復興特別所得税が源泉徴収されます。
その後、受給者本人が確定申告を行い、正しい税額に精算することになります。

申告書を提出しないと、退職所得控除を反映する前の支給額に20.42%が掛かるため、一時的に多額の税金が差し引かれることがあります。
会社側から早めに申告書の提出を案内しておくと、受給者の資金繰り面でも安心につながります。

2026年から退職所得の源泉徴収票の提出対象も広がりました

2026年からは、退職所得控除の重複ルールだけでなく、「退職所得の源泉徴収票」に関する実務も変わっています。

2025年12月31日以前に支払うべき退職手当等については、税務署や市区町村への提出が必要となる受給者は、原則として法人の役員に限られていました。
2026年1月1日以後に支払うべき退職手当等については、原則として、退職手当等を支払ったすべての方について源泉徴収票等を作成し、提出する取扱いに変わっています。

退職所得の源泉徴収票等は、原則として退職後1か月以内に、次の手続きが必要です。

・受給者本人へ交付する
・支払者の所轄税務署へ提出する
・受給者の住所地の市区町村へ提出する

ただし、税務署への提出分は、その年中の退職者分を取りまとめて、翌年1月31日までに提出しても差し支えありません。
また、2026年1月1日以後に支払うべき退職手当等に係る市区町村への特別徴収票については、当分の間、提出を省略できる取扱いがあります。

なお、死亡退職金のうち相続税の対象になるものや、非居住者に支払う退職手当等については、所得税の源泉徴収や使用する法定調書が異なる場合があります。「すべての退職金について同じ源泉徴収票を提出する」と一律に判断せず、受給者の状況を確認しましょう。

DC老齢一時金に係る退職所得申告書の保存期間は10年です

2026年1月1日以後に支払いを受けるべき確定拠出年金の老齢一時金に係る「退職所得の受給に関する申告書」は、支払者における保存期間が従来の7年から10年に延長されています。
すべての退職所得申告書が一律に10年になったわけではなく、確定拠出年金の老齢一時金に係る申告書が対象です。

企業型DCの運営に関係する会社や年金制度の管理担当者は、文書保存規程や電子データの保存期間を、この機会に確認しておきましょう。

本人が準備しておきたい資料

退職所得の計算では、何年も前に受け取った一時金の資料が必要になることがあります。
受け取った直後は不要に見えても、将来、会社の退職金や別の企業年金を受け取る際に必要になる可能性があります。

次の書類は、まとめて保管しておくと安心です。

・退職所得の源泉徴収票
・一時金の支給決定通知書
・iDeCoや企業型DCの加入期間が分かる書類
・確定給付企業年金の規約や給付案内
・会社の勤続期間が分かる書類
・退職金規程
・転籍や合併に伴う勤続期間の引継ぎが分かる書類
・退職所得の受給に関する申告書の控え
・受取日と振込額が分かる通帳や取引明細

特に、60歳でiDeCoなどの一時金を受け取り、その後も勤務を続ける方は、源泉徴収票や加入期間の資料をすぐに処分しないようにしましょう。
今後は、10年近く前の書類が必要になることもあります。紙の書類だけでなく、PDFなどの電子データとしても保管しておくと安心です。

よくある勘違い

「5年以上空ければ、必ず退職所得控除を満額使える」

2026年以後に受け取った確定拠出年金の老齢一時金については、後の退職金まで5年以上空いていても、前年以前9年内に入れば調整対象になる可能性があります。
また、現在の退職金計算に過去の勤続期間を通算している場合は、4年・9年・19年という期間だけでは判断できません。

「9年ルールでは、過去のiDeCoだけ確認すればよい」

前年以前9年内に2026年以後のDC老齢一時金がある場合、その期間内に受け取った別の退職金や企業年金一時金も、調整対象になることがあります。過去の受給歴を一つずつ確認しましょう。

「会社の退職金を先に受け取れば有利になる」

会社の退職金を先に受け取り、後からiDeCoや企業型DCの老齢一時金を受け取る場合は、後の一時金について前年以前19年内を確認します。
受給順序を入れ替えるだけで、必ず有利になるわけではありません。

「勤務先が違えば、勤続期間は重ならない」

転籍、合併、企業再編などにより、前の会社の勤続期間が後の会社の退職金計算に引き継がれていることがあります。
勤務先の名称が違っていても、退職金規程上の勤続期間が通算されていれば、重複調整が必要になる可能性があります。

「前の一時金が少額なら、影響はない」

過去の一時金がその時点の退職所得控除額より少ない場合、支給額に応じて、控除を使ったものとみなす期間を短く計算することがあります。
影響が小さくなる可能性はありますが、調整がまったく不要とは限りません。

「確定給付企業年金なら9年ルールと関係がない」

確定給付企業年金の一時金自体は、DCの老齢一時金と同じものではありません。
ただし、先に2026年以後のDC老齢一時金を受け取り、その後に退職所得となる確定給付企業年金の一時金を受け取る場合、新しい9年ルールの対象になる可能性があります。

「会社に過去の一時金を伝えなくても問題ない」

正しい源泉徴収を行うためには、本人から会社への情報提供が重要です。
過去の退職金や一時金を伝えず、退職所得控除が多く計算されていた場合、後から確定申告や税額の訂正が必要になることがあります。
分からない場合は、今からでも資料を整理して、会社の担当者へ相談しましょう。

受取方法を決める前に確認したいこと

iDeCoや企業型DCを一時金で受け取るか、年金で受け取るかは、税金だけで決められるものではありません。
次の内容を一覧にしてから検討すると、判断しやすくなります。

・会社の退職予定年
・会社から支給される退職金の見込額
・iDeCo・企業型DCの一時金見込額
・確定給付企業年金など、ほかの給付の有無
・各制度の加入期間
・過去に受け取った退職金や一時金
・過去の勤続期間を現在の退職金計算に通算しているか
・受取時期を変更できるか
・一時金と年金を併用できるか
・老後の生活費として、いつ現金が必要か
・年金受取にした場合の所得税・住民税などへの影響
・公的年金やほかの所得の見込額

「税金を少なくするために、受給を何年遅らせるか」という視点だけで考えると、必要な時期に資金を使えなくなる可能性があります。
一方、何も確認せずに一時金を受け取ると、後の会社退職金の税負担が想定より大きくなることもあります。
税金と資金繰りの両方から考えることが大切です。

まずは受給予定を年表にしてみましょう

受給方法を決める前に、次のように受給予定を書き出しておくと、重複関係が分かりやすくなります。
たとえば、2027年(60歳)に、加入期間2007年から2026年分としてiDeCoの老齢一時金を受け取り、2030年(63歳)に、加入期間2000年から2029年分として確定給付企業年金一時金を受け取り、2035年(68歳)に、勤続期間2000年から2035年分として会社の退職金を受け取る、というように整理します。

このように書き出しておくと、次の点を確認しやすくなります。

・受給年の間隔
・4年・9年・19年のどの期間に入るか
・勤続期間と加入期間がどこで重なるか
・9年内に複数の退職手当等があるか
・過去の勤続期間が後の退職金計算に通算されているか

受給予定額も記載しておくと、簡易的な税額の見積もりを行いやすくなります。
佐藤さんのように、まずは自分の受給予定を紙に書き出してみることが、最初の一歩になります。

まとめ

2026年1月から、確定拠出年金の老齢一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金などを受け取る場合の、退職所得控除の重複調整ルールが見直されました。

2026年1月1日以後に受け取ったiDeCo・企業型DCの老齢一時金については、後から受け取る退職手当等の受給年の「前年以前9年内」に入る場合、勤続期間や加入期間の重複調整が必要になる可能性があります。
特に、60歳で確定拠出年金の一時金を受け取り、65歳以後まで会社で働く方は注意が必要です。

さらに、今回の改正では、過去9年内のDC老齢一時金だけを確認すればよいわけではありません。
一定の場合には、その期間内に受け取った別の会社退職金や企業年金一時金など、複数の退職手当等が調整対象になることがあります。
また、4年・9年・19年という期間の外であっても、過去の勤続期間を現在の退職金計算に通算している場合には、別途、重複調整の確認が必要です。

実際の影響は、次の内容によって異なります。

・一時金と退職金を受け取る順番
・それぞれを受け取る年
・過去に受け取った退職金や一時金の数
・勤続期間と加入期間の重なり
・過去の一時金の金額
・会社退職金の金額
・過去の勤続期間の通算の有無
・確定給付企業年金など、ほかの制度の内容

会社側では、退職予定者から過去の退職金・一時金の情報を早めに集め、退職所得申告書や源泉徴収票を確認する体制を整えておきましょう。
本人側では、過去の源泉徴収票や支給決定通知書を保管し、受給前に会社の退職金とiDeCoなどの受取予定を年表にして確認しておくと安心です。

退職金は、長年働いて積み上げてきた大切な資金です。
税金だけにとらわれる必要はありませんが、受け取った後で「先に確認しておけばよかった」とならないよう、受給方法を決める前に一度、ご自身の受給予定を整理しておくことをおすすめします。

※この記事は、2026年7月24日時点の法令、財務省・国税庁の公表情報および提供資料に基づいて作成しています。
実際の適用関係は、給付制度の内容、退職日、税務上の支給時期、過去の受給歴、勤続期間・加入期間、退職金規程上の勤続期間の通算などによって異なります。
具体的な受給時期や税額については、勤務先の担当部署、各年金制度の運営管理機関、税務署にご確認ください。