25年勤務のパートさんに退職金300万円。源泉徴収なしで支払ってよいか?

パート退職金300万円の源泉徴収税

結論:申告書を受け取っており、退職の事実があるなら、源泉税0円で支払って問題ありません

25年間、会社を支えてくれたパートさんがいよいよ退職される。
そのお気持ちに応えるかたちで、退職金として300万円を支払いたい。
しかも、「退職所得の受給に関する申告書」も支払前にきちんと提出してもらっている。

このケースであれば、所得税・復興特別所得税の源泉徴収税額は0円と考えて差し支えありません。

ただ、大切なのは「300万円だから税金がかからない」という単純な話ではないということです。
税務署が確認するのは、次の3つです。

一つ目は、その支払いが本当に退職に伴うものかどうか。
二つ目は、「退職所得の受給に関する申告書」を支払前に受け取っているかどうか。
三つ目は、勤続年数と退職所得控除額の計算が正しく行われているかどうかです。

この3点を丁寧に押さえておくことが、実務上の安心につながります。

そもそも「退職所得」とは何か

税務上、退職所得とは「退職によって、まとめて一時に受け取る給与」のことをいいます。
もう少し具体的にいうと、「もし退職していなければ支払われなかったもの」で、「退職したことをきっかけに一度だけ支払われるもの」が退職手当等に当たります。

反対に、退職のタイミングで支払われていたとしても、在職中の社員にも支払われるような賞与と本質的に同じ性格のものであれば、退職所得ではなく給与所得として扱われます。

今回のように、「25年間勤めてくれたことへの感謝として、退職の機会に一時金を支払う」というケースは、まさに退職所得にあたります。パートさんであっても、この点は変わりません。

「パートさんに退職金」は認められるのか

実務でよく聞かれる疑問です。
「正社員でもないのに、退職金として扱っていいのか?」と不安に思われる方もいらっしゃいます。

結論からお伝えすると、パートであることだけを理由に退職所得として認められない、ということはありません。

税務上の判断は、「正社員かパートか」という雇用形態ではなく、「退職により一時に受け取る給与かどうか」という実態で行われます。
国税庁の説明でも、退職所得とは退職手当や一時恩給、その他退職により一時に受け取る給与などに係る所得とされています。

つまり、パートさんであっても、次の条件を満たしていれば退職所得として処理できます。

会社との雇用関係があること、実際に退職すること、退職に伴って一時金を支払うこと、そして、賞与や給与の後払いではないことです。

今回はこれらの条件をすべて満たしていますので、退職所得として扱うことができます。

退職所得控除額を計算してみましょう

退職金に対する税金を計算するにあたって、まず「退職所得控除額」を求める必要があります。
退職所得控除額とは、長年の勤務に対する配慮から、退職金にかかる税金を計算する際に差し引くことが認められている金額のことです。

勤続年数が20年を超える場合の計算式は、次のとおりです。

800万円 + 70万円 ×(勤続年数 ― 20年)

今回の勤続年数は25年ですので、

800万円 + 70万円 ×(25年 ― 20年)
= 800万円 + 350万円
= 1,150万円

つまり、今回のパートさんの退職所得控除額は1,150万円です。

なお、勤続年数に1年未満の端数がある場合は、切り上げて1年として計算します。
たとえば24年8か月であれば、25年として計算する扱いです。

退職金300万円は控除額の範囲内

退職所得の計算は、次のように行います。

(退職金 ― 退職所得控除額)× 1/2

今回は、

(300万円 ― 1,150万円)× 1/2

という計算になりますが、退職金300万円よりも退職所得控除額1,150万円のほうがはるかに大きいため、引き算の結果はマイナスです。
この場合、課税退職所得金額は0円となります。

その結果、所得税・復興特別所得税は0円、住民税の退職所得分も0円です。

ですから今回のケースでは、退職金300万円をそのままお支払いしても、源泉徴収するべき税額が発生しないということになります。

「退職所得の受給に関する申告書」がなければ話が変わります

ここは非常に大切なポイントです。

先ほどの計算が成り立つのは、会社が「退職所得の受給に関する申告書」を支払前に受け取っているからです。
この申告書があってはじめて、退職所得控除額を使った正規の源泉計算ができます。

では、もしこの申告書がなかったらどうなるでしょうか。

その場合は、退職所得控除額を使った計算が適用されません。退職金の支給額に対して、20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%(=20%×2.1%)) を掛けた金額を源泉徴収しなければなりません。
国税庁も、申告書の提出がない場合は支給額に対して20.42%の税率による源泉徴収が行われると説明しています。

今回の300万円で申告書がない場合を計算すると、

300万円 × 20.42% = 612,600円

申告書があれば源泉税0円で済むところが、申告書がないと61万円以上を源泉徴収する必要が出てきます。
本人にとっても会社にとっても、大きな違いです。

この申告書は、税務署に提出するものではなく、会社が保管するものです。
税務署長から特に求められた場合を除き、税務署への提出は不要とされています。
会社は、退職金関係書類と一緒に大切に保存しておいてください。

実務上は、退職金を支払う前に必ずこの申告書を本人から受け取る、という手順を徹底することが重要です。

税務署が見るポイント

税務調査や源泉所得税の確認で問題になりやすいのは、書類の形式よりも「実態」です。
「退職金」という名前がついていても、実態を確認されます。

本当に退職しているか

税務署がまず確認するのは、退職の事実です。

退職金という名目で支払っていても、実際には退職せず勤務を継続している場合や、実態が賞与と変わらない場合は、退職所得ではなく給与所得とされる可能性があります。
国税庁も、他の在職者に支払われる賞与等と同じ性質のものは退職所得にならないと説明しています。

特に注意が必要なのは、次のようなケースです。
退職金を支払ったにもかかわらず実際には退職していない、退職後も全く同じ条件で勤務を続けている、退職届や退職日の記録がない、給与台帳上も雇用関係が途切れていないといった状況です。

今回のように、25年勤続されたパートさんが実際に退職し、その退職に伴う一時金であれば、通常は問題ありません。

勤続年数25年の根拠があるか

退職所得控除額は勤続年数で決まります。
25年が正確でなければ、控除額も変わります。

税務署が確認するのは、入社日が分かる雇用契約書、労働者名簿、給与台帳や賃金台帳、雇用保険・社会保険の加入記録、退職届や退職日の分かる書類などです。

パートさんの場合、昔の雇用契約書が手元にないことも珍しくありません。
それでも、給与台帳や雇用保険の加入記録などから「この日に入社して、この日に退職した」と説明できるよう、資料を確認しておきましょう。

退職金300万円の支給根拠があるか

税務署は「なぜ300万円なのか」を確認することがあります。

退職金規程がある会社であれば、その規程に基づいて計算したことを示せば説明しやすくなります。
退職金規程がない会社では、最低限、退職金支給決定書、代表者の決裁書、退職金計算書を作成しておくとよいでしょう。

税務署が見るのは支給額そのものより、支給の根拠があるかどうか、他の従業員とのバランスが極端に不自然でないか、恣意的な支給でないかという点です。

今回は親族や役員ではない一般のパート従業員への支給ですので、過度に神経質になる必要はありません。
ただし、後から説明できる資料を残しておくことは大切です。

源泉税が0円でも「源泉徴収票」は必ず作成してください

見落としやすいポイントです。

源泉税が0円だからといって、何も書類を作らなくてよいわけではありません。

退職手当等を支払った場合は、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を作成し、退職後1か月以内に本人へ交付する必要があります。
国税庁も、退職手当等を支払ったすべての方について作成・交付が必要としています。

「税額が出ない」ことと「書類が不要」は、別のことです。
源泉税0円でも作成・交付の義務は変わりません。
なお、令和8年1月1日以後に支払う退職手当等については、提出範囲や方法に関する取扱いが国税庁から示されています。
今回のような一般のパート従業員の場合、まずは「本人への交付」と「会社での控えの保存」を確実に行うことが実務上の基本です。

住民税も0円になります

退職金には、所得税だけでなく住民税も関係します。

住民税についても、退職所得の金額を基に税額を計算します。
計算の考え方は所得税と同様で、退職金から退職所得控除額を差し引いて2分の1を掛けた金額が課税対象となり、そこに住民税率を掛けます。

今回は退職所得控除額(1,150万円)が退職金(300万円)を大きく上回っているため、住民税の計算対象となる退職所得も0円です。
したがって、住民税の退職所得分についても特別徴収税額は0円と考えて差し支えありません。

実務上の処理の流れ

今回のケースでは、次の手順で進めると安心です。

ステップ1:退職の事実を確定する

退職日を明確にし、退職届や退職合意書など、退職の事実と退職日が分かる書類を残してください。

ステップ2:勤続年数を確認する

入社日と退職日を確認します。1年未満の端数は切り上げです。
24年8か月なら25年として計算します。

ステップ3:申告書を確認する

「退職所得の受給に関する申告書」を支払前に受け取っているか確認します。
この書類は会社が保管するものです。
退職金関係書類と一緒にまとめて保存しておくと安心です。

ステップ4:退職所得を計算する

退職金300万円から退職所得控除額1,150万円を引くとマイナスになります。
したがって、課税退職所得金額は0円、所得税・復興特別所得税は0円、住民税も0円です。

ステップ5:300万円を支給する

源泉徴収税額が0円ですので、300万円をそのままお支払いします。
ただし、これは「源泉徴収の計算をしなくてよい」という意味ではありません。
計算した結果として税額が0円になる、ということです。
この点は混同しないようにしてください。

ステップ6:源泉徴収票を作成・交付する

退職所得の源泉徴収票を作成し、退職後1か月以内に本人に交付します。
源泉税が0円でも、この手続きは必要です。

会社に残しておくべき書類

税務署から確認があったときに備えて、次の書類をひとまとめで保管しておくと安心です。

退職所得の受給に関する申告書、退職届または退職日の分かる書類、雇用契約書、労働者名簿、給与台帳・賃金台帳、退職金規程(ある場合)、退職金支給決定書、退職金計算書、振込記録、退職所得の源泉徴収票の控えです。

退職金規程がない場合は、特に「退職金支給決定書」と「退職金計算書」をきちんと作成しておくことをおすすめします。
税務署は、支払後に「なぜこの金額を支払ったのですか」と確認することがあります。
そのとき、口頭での説明だけより、書面があるほうが格段に説明しやすくなります。

よくある間違いとその対策

間違い①:申告書がないのに源泉税0円で支払ってしまう

これは危険です。
「退職所得の受給に関する申告書」がなければ、退職所得控除額を使った計算は適用されません。
退職金の支給額に対して、20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%(=20%×2.1%)) を掛けた金額を源泉徴収する必要があります。
今回の300万円なら、612,600円です。

支払前に必ず申告書を受け取る、という手順を徹底してください。

間違い②:退職していないのに退職金扱いにする

退職金という名目でも、実態が賞与や給与の後払いであれば、給与所得とされる可能性があります。
国税庁も、「在職者に支払われる賞与等と同じ性質のものは退職所得ではなく給与所得」と説明しています。
退職の事実が何より大切です。

間違い③:源泉税0円だから源泉徴収票を作らない

「税額が出ない」と「書類が不要」は別問題です。
退職所得の源泉徴収票は、退職金を支払ったすべての場合に作成・交付が必要です。

間違い④:退職金規程や支給決定書がない

退職金規程がないこと自体で直ちに否認されるわけではありませんが、支給理由や金額の根拠を説明できないと税務調査で不利になります。
特に、長年勤務されたパートさんへ感謝の意味で支払う場合でも、会社としての正式な決定資料を残しておきましょう。

今回のケースの最終整理

今回の条件をまとめると、次のとおりです。

対象者は25年勤務のパート従業員、支給額は退職金300万円、「退職所得の受給に関する申告書」は支払前に受領済み、退職所得控除額は1,150万円、課税退職所得金額は0円、所得税・復興特別所得税は0円、住民税も0円です。

この条件であれば、300万円を源泉徴収なしでそのまま支払って問題ないと判断できます。

ただし、正確にいうと「源泉徴収をしなくてよい」のではなく、「退職所得として源泉計算した結果、源泉徴収税額が0円になる」という整理です。
この違いは、実務上とても大切です。

まとめ

25年間勤務されたパートさんに退職金300万円を支払うケースでは、退職所得の受給に関する申告書を支払前に受け取っており、退職の事実がある場合、退職所得控除額は1,150万円となります。

退職金300万円は退職所得控除額の範囲内ですので、課税退職所得金額は0円です。
結果として、所得税・復興特別所得税の源泉徴収税額は0円、住民税の退職所得分も0円と考えて問題ありません。

一方で、税務署が確認するのは次の点です。本当に退職に伴う支払いかどうか、「退職所得の受給に関する申告書」を支払前に受け取っているかどうか、勤続年数25年を資料で説明できるかどうか、退職金300万円の支給根拠があるかどうか、そして源泉税0円でも退職所得の源泉徴収票を作成・交付しているかどうかです。

実務上は、申告書・退職届・退職金計算書・支給決定書・源泉徴収票の控えを一式で保存しておけば、税務署から確認があっても落ち着いて対応できます。

今回のケースは、退職所得としてきちんと処理すれば、源泉税0円で問題ない典型的なケースといえます。
長年のご貢献に応えるかたちで、安心してお支払いいただければと思います。

この記事は作成時点の情報に基づいています。
実際の適用には個別の判断が必要です。
詳細は税務署にご確認ください。