NISAの1,800万円、ゆっくり積み立てる?早めに投資する?50歳から考える資産形成
「50歳から投資を始めても、もう遅いのではないか」
投資に興味を持ち始めた50代の方の中には、そんな不安を感じる人もいるかもしれません。
20代や30代であれば、老後までまだ何十年もあります。
一方、50歳になると、定年や老後が少しずつ現実的なものとして見えてきます。
そのため、
「今から始めても、それほど増えないのでは?」
「まとまったお金があっても、少しずつ投資した方が安全なのでは?」
「NISAの1,800万円の枠は、どう使えばいいのだろう?」
と迷うこともあるでしょう。
もちろん、投資に「この方法が正解」というものはありません。
ただ、資産形成を考えるうえで知っておきたい考え方があります。
それが、同じ金額を投資する場合でも、お金が運用される期間が長いほど、複利の効果を受けやすくなるということです。
今回は50歳から69歳末までの20年間を例に、同じ1,800万円を投資しても、投資する時期によって結果がどのくらい変わるのかを考えてみます。
同じ1,800万円を投資しても、結果は同じではない
まず、2つのケースを考えてみましょう。
どちらも投資する元本は合計1,800万円です。
1つ目は、50歳から69歳末までの20年間、毎月7万5,000円を積み立てる方法です。
毎月7万5,000円を1年間積み立てると90万円です。
それを20年間続けると、90万円 × 20年 = 1,800万円となります。
もう1つは、最初の5年間に毎月30万円ずつ投資する方法です。
毎月30万円なら、年間では360万円。
これを5年間続けると、360万円 × 5年 = 1,800万円になります。
つまり、どちらも最終的に投資する金額は同じ1,800万円です。
違うのは、いつ投資するかです。
一方は20年間かけてゆっくり投資します。
もう一方は最初の5年間で投資を終え、その後は追加投資をせずに運用を続けます。
この違いが、20年後の資産額に大きな差を生みます。
月7万5,000円を20年間積み立てると約2,729万円
まずは、毎月7万5,000円を20年間積み立てるケースです。
50歳から積み立てを始め、69歳末まで続けます。
投資元本は合計1,800万円です。
ここで、運用利回りを年4%と仮定してみます。
すると、69歳末の資産は約2,729万円になります。
1,800万円を投資して、約929万円増えた計算です。
もちろん、年4%で毎年きれいに増えていくわけではありません。
実際の投資では、価格が上がる年もあれば下がる年もあります。
投資信託や株式などには元本割れの可能性もあります。
金融庁も、投資商品は預貯金より高いリターンが期待できる一方、元本割れのおそれがあると説明しています。
そのため、2,729万円という数字は将来を約束するものではありません。
あくまで「平均して年4%で運用できたと仮定した場合」のシミュレーションです。
それでも、20年間という時間を使うことで、元本1,800万円に対して運用による増加が期待できることがわかります。
50歳から始めたとしても、69歳末までには20年間あります。
「50歳だから時間がない」と考えるより、まだ20年という時間を使えると考えることもできます。
最初の5年間で1,800万円を投資すると約3,576万円
では、もう1つのケースを見てみましょう。
50歳から54歳までの5年間、毎月30万円を投資します。
年間360万円なので、5年間で投資する金額は1,800万円です。
そして55歳以降は新しくお金を入れず、それまでに投資した資産を69歳末まで運用するとします。
同じように年4%で運用できたと仮定すると、69歳末の資産は約3,576万円になります。
元本は先ほどとまったく同じ1,800万円です。
ところが、
20年間かけて投資するケース:約2,729万円
最初の5年間で投資するケース:約3,576万円
となり、その差は約847万円になります。
かなり大きな違いです。
では、なぜ同じ1,800万円なのに、これほど差がつくのでしょうか。
大きな違いは「お金が働いている時間」
理由を理解するうえで大切なのが、運用期間です。
毎月7万5,000円ずつ20年間積み立てる場合、最初に投資したお金は約20年間運用できます。
ところが、最後の方に投資したお金には、ほとんど運用する時間がありません。
たとえば68歳で投資したお金なら、69歳末までの運用期間はそれほど長くありません。
一方、最初の5年間で投資を終える場合、多くのお金が早い段階から市場に置かれます。
50代前半に投資したお金が、その後60代を通して運用され続けるわけです。
つまり、投資した1,800万円のうち、より多くのお金に長い運用期間を与えることができます。
ここで効いてくるのが「複利」です。
複利とは、運用で増えた利益も含めて、さらに運用していく仕組みです。
たとえば100万円を運用して4万円増えれば、次は104万円をもとに運用することになります。
さらに利益が出れば、その利益も次の運用に加わります。
この繰り返しが長く続くほど、時間の影響が大きくなっていきます。
金融庁も、長い期間投資を続けるほど複利の効果が大きくなると説明しています。
だからこそ、同じ金額を投資するのであれば、早く運用に回ったお金ほど、長く複利の影響を受けることになります。
今回の2つのケースの約847万円という差は、単純に「たくさん投資したから」生まれたわけではありません。
投資元本はどちらも1,800万円です。
違うのは、1,800万円にどれだけ長く働いてもらったかなのです。
では、早く1,800万円を投資した方がいいのか
ここまで読むと、「それなら、できるだけ早く1,800万円を投資した方がいいのでは?」と思うかもしれません。
ただ、ここは少し慎重に考える必要があります。
計算上は、一定のプラスの利回りが続くなら、早く投資した方が運用期間を長く取れるため、有利になりやすくなります。
しかし現実の投資では、毎年4%ずつ安定して増えるわけではありません。
投資した直後に相場が大きく下落する可能性もあります。
たとえば、まとまった金額を投資した直後に資産価格が20%下がれば、資産額も一時的に大きく減ることになります。
毎月少しずつ積み立てる方法なら、投資時期を分けることができます。
価格が高いときにも買いますが、安くなったときにも買うため、「ある1日にまとめて投資してしまう」というリスクを小さくできます。
金融庁も、積立投資には購入時期を分散できる特徴があると説明しています。
つまり、早く投資する方法には「運用期間を長くできる」という良さがあり、ゆっくり積み立てる方法には「投資する時期を分けられる」という良さがあります。
どちらか一方が、すべての人にとって正しいわけではありません。
50代では「投資できる金額」と「投資してよい金額」を分けて考える
特に50代では、この違いを意識しておきたいところです。
預金口座に1,800万円あるからといって、その1,800万円をすべてすぐに投資してよいとは限りません。
50代になると、これから大きなお金が必要になる可能性があります。
住宅ローンの返済、子どもの教育費、住宅の修繕、車の買い替え、親の介護、自分自身の退職後の生活など、人によって事情はさまざまです。
数年以内に使う予定のお金まで投資してしまうと、必要になったときに相場が下がっている可能性があります。
そのため、「手元にいくらあるか」だけではなく、「このうち、長期間使う予定のないお金はいくらなのか」を考えることが大切です。
たとえば1,800万円の預金があったとしても、今後数年間の生活や大きな支出に備えて800万円は現金で持っておきたいと考える人もいるでしょう。
その場合、投資を検討できる金額は1,000万円かもしれません。
逆に、十分な預貯金や収入があり、今後使う予定のない資金が多い人であれば、もう少し早いペースで投資することを検討できるかもしれません。
大切なのは、NISAの枠を埋めることではありません。
自分の生活を守りながら、どのくらいのお金なら長期間運用に回せるのかを考えることです。
NISAの「1,800万円」は目標額ではない
NISAについても、少し整理しておきましょう。
現在のNISAには、生涯を通じて保有できる非課税保有限度額として最大1,800万円が設けられています。
また、年間投資枠は、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円を合わせて最大360万円です。
非課税保有期間には期限がありません。
そのため、制度上は年間360万円ずつ投資すれば、5年間で1,800万円に達します。
今回の「毎月30万円を5年間」というケースは、年間360万円を利用するイメージです。
ただし、NISAに1,800万円の枠があるからといって、必ず1,800万円を使わなければならないわけではありません。
まして、できるだけ早く枠を埋めることが目的でもありません。
NISAは、投資で得た利益を非課税にできる「制度」です。
どれくらい投資するのかは、その人の収入、預貯金、今後の支出、家族構成、そして値下がりにどの程度耐えられるかによって変わります。
月3万円が無理なく続けられる人もいれば、月10万円を投資できる人もいます。
すでに十分な預貯金があり、より早いペースで投資できる人もいるでしょう。
枠を使い切ることより、自分の生活に無理のない使い方をすることの方が大切です。
「50歳からでは遅い」ではなく、残された時間をどう使うか
50歳になると、「もっと若いころから始めておけばよかった」と感じることがあるかもしれません。
たしかに、投資では時間が大きな力になります。
30歳から始めるのと50歳から始めるのでは、運用できる期間が違います。
しかし、過去に戻ることはできません。
それよりも考えたいのは、これから使える時間がどれくらいあるのかということです。
50歳から69歳末までなら20年間あります。
さらに、69歳になった瞬間にすべての資産を現金にする必要があるとも限りません。
老後に少しずつ取り崩しながら、残った資産の運用を続けるという考え方もあります。
そう考えると、50代からでも「時間を使った資産形成」を考える余地はあります。
ただし、若い世代と比べれば、相場が大きく下落したあとに回復を待てる期間は短くなります。
だからこそ、「いくら増やせるか」だけではなく、
「どこまで値下がりしても生活に困らないか」
「いつ使う予定のお金なのか」
「現金をどれくらい残しておけば安心できるか」
まで含めて考えることが重要になります。
まとめ:同じ1,800万円でも「時間」が結果を変える
今回の例では、50歳から69歳末まで年4%で運用できたと仮定しました。
毎月7万5,000円を20年間積み立てた場合、1,800万円の元本は約2,729万円になります。
一方、最初の5年間に毎月30万円ずつ投資し、その後も69歳末まで運用を続けた場合は約3,576万円です。
同じ1,800万円でも、差は約847万円になりました。
この違いから見えてくるのは、投資では「いくら投資するか」だけでなく、いつ投資し、どのくらい長く運用するかも大切だということです。
ただし、早く投資すれば必ず大きく増えるわけではありません。
投資には値下がりがあり、元本割れの可能性もあります。
まとまったお金を早く投資すれば、その分だけ値下がりしたときの影響も大きく受けます。
そのため、「早くNISAの枠を埋めなければ」と焦える必要はありません。
まず考えたいのは、今持っているお金のうち、長期間使わずに置いておけるお金はいくらなのか。
そして、そのお金を、どのくらいのペースなら不安なく投資に回せるのか、ということです。
投資では、数字だけを見れば効率のよい方法があったとしても、それが自分にとって続けやすい方法とは限りません。
50歳からの資産形成では、残された時間を意識しながらも、生活資金とのバランスを取ることが大切です。
「早く始めるか、ゆっくり積み立てるか」という二択ではなく、自分にとって無理のない中間地点を探しても構いません。
投資を急ぐことより、まずは自分のお金を「近いうちに使うお金」と「長く使わないお金」に分けて考えてみる。
そこから始めるだけでも、50代からの資産形成はかなり整理しやすくなるはずです。
なお、今回の試算はあくまで一定の運用利回りを仮定したシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではありません。
実際にどのくらいの金額をどのペースで投資に回すかは、ご自身の資産状況やリスク許容度を踏まえたうえで、金融機関やファイナンシャルプランナーなど専門家に相談しながら検討されることをおすすめします。






