制服と社員旅行の税務処理
中小企業が知っておきたい「会社からのプレゼント」と税金の関係
「制服を支給したけど、これって給料あつかいになるのかな?」
「社員旅行の費用って、税金はどう処理すればいいんだろう?」
制服代やレクリエーション費用、社員旅行などは、社長さんの「社員に喜んでもらいたい」という気持ちから出てくるものだと思います。
ところが税金の世界では、こうした「お金以外のプレゼント」も、場合によっては給料とみなされて税金がかかることがあります。
一方で、一定の条件を満たせば「福利厚生」として税金がかからない場合もあります。
この記事では、
- 制服・作業服
- レクリエーション(懇親会・運動会など)
- 社員旅行・永年勤続者への招待旅行
について、「どんなときに税金がかかるのか」「どんなときに税金がかからないのか」を、できるだけやさしく整理していきます。
会社からの「お金以外のプレゼント」も給料になる?
税金の考え方では、社員が会社から受け取る「給料」は現金だけではありません。
たとえば、
- 制服をタダでもらった
- 社員旅行に会社のお金で参加させてもらった
- 懇親会の飲食代を会社が全額出してくれた
こういったものも、「お金で受け取っているのと同じだよね」と考えます。
これを「経済的利益(けいざいてきりえき)」と呼びます。
かんたんに言うと、「社員が自分で払うはずだったものを、会社が代わりに払ってくれた」 ということです。
たとえるなら、こんなイメージです。
お店で5万円のスーツを買おうとしたら、会社が「それ、うちで払っておくよ」と言ってくれた。
→ 5万円もらったのと同じことになる。
ただし、なんでもかんでも給料あつかいにしてしまうと、会社が福利厚生をやりにくくなってしまいますよね。
そこで税金のルールでは、
- 仕事を円滑に進めるため
- 社員みんなの親睦や健康のため
といった「会社全体のための支出」については、一定の条件を満たせば「福利厚生費」として社員には税金をかけなくてよい、という扱いが認められています。
制服・作業服に税金がかかるケース
まず気になるのが「制服・事務服・作業服」です。
判断のポイントはシンプルで、「私生活でもふつうに使える服かどうか」 です。
税金がかかりやすい例
次のようなものは、給料とみなされる可能性が高いです。
- 一般的なビジネススーツ
- ワンピースやジャケットで、通勤やお出かけにもそのまま着られるデザインのもの
- コート・靴・かばんなど、日常でもふつうに使えるもの
たとえば、「営業職のAさんに、会社が高級スーツ一式を買ってあげた」という場合を考えてみましょう。
そのスーツは休みの日にも着られますし、退職しても本人の手元に残ります。
税務署の見方としては、「それは『スーツのプレゼント』であって、給料と同じですよね」となりやすいのです。
税金がかからない制服のポイント
一方で、「仕事専用」といえる服については、社員への税金がかからないケースがあります。
「仕事用」と分かりやすいもの
たとえば、次のような制服・作業服は、一般的に税金がかかりにくいとされています。
- 工場・倉庫などで使う作業着
- 看護師・介護職の制服、白衣
- 飲食店・ホテルの制服
- 警備員・運転手などの制服
- 会社名やロゴマークがはっきり入ったジャンパー
これらは、プライベートでわざわざ着て出かけることは考えにくいですよね。
「この服は会社で働くとき専用だよね」と誰が見ても思えるものは、仕事のための支給として、福利厚生の範囲になりやすいです。
税金がかかりにくくするための工夫
同じような事務服でも、運用のしかたで判断が変わることがあります。
次のような点を意識しておくと、税金がかかりにくくなります。
- 会社の所有物として貸し出す形にする(社員の私物にしない)
- 退職時には制服を返却してもらうルールにする
- 就業規則に「制服着用のルール」を明記しておく
- 会社名やロゴ、お店のイメージカラーを取り入れたデザインにする
たとえば美容室の場合、お店のロゴ入りエプロンや同じ色のシャツを支給して、退職時には返却してもらうルールにしておけば、「お店のユニフォーム」という性格が強まります。
私物の洋服とは区別しやすくなり、税金がかかりにくくなるのです。
逆に、ロゴもなく誰が着てもおかしくないブランドスーツをそのままプレゼントしていると、給料として税金がかかるリスクが高くなります。
レクリエーション費用(懇親会・運動会など)に税金がかからない条件
次に、懇親会や運動会、ボウリング大会などのレクリエーション費用についてです。
会社が「社員同士の親睦」「日頃の疲れをリフレッシュしてもらうこと」を目的として行う行事の費用は、一定の条件を満たせば社員への税金がかかりません。
税金がかかりにくい行事の例
- 全社員または部署全体を対象にした懇親会
- 納涼会・忘年会・新年会
- 社内運動会・ボウリング大会
- 日帰りバス旅行 など
ポイントは2つです。
- 一部の人だけではなく、みんなに参加の機会があること
- 費用や内容が「常識の範囲内」であること
税金がかかりやすいケース
逆に、次のような場合は「特定の人へのごほうび」と見られ、給料として税金がかかる可能性が高くなります。
- 役員だけの高額なゴルフコンペ
- ごく一部の社員だけを対象とした豪華な会食
- 高額な家電や旅行券などを景品として配るイベント
たとえば、「売上トップの3人だけをハワイ旅行に連れて行く」という場合はどうでしょうか。
他の社員には参加の機会がなく、旅行自体もかなり高額です。
このような場合は、その3人への「特別ボーナス」と判断されやすくなります。
社員旅行に税金をかけないための考え方
社員旅行も、やり方によっては福利厚生として税金をかけずに済みます。
ポイントは、
- 参加できる人の範囲
- 日数・内容
- 金額が「常識的な範囲」かどうか
といった点です。
税金がかかりにくい社員旅行の例
- 全社員、または部署全体に広く参加の機会を与えている
- 旅行の期間や内容が、常識から見て豪華すぎない
- 観光や親睦が目的で、内容もそれに沿っている
たとえば、「1泊2日の温泉旅行で、参加費の一部を会社が負担する」といった形であれば、多くの場合「福利厚生としての社員旅行」として認められやすいです。
注意したいポイント
次のような場合は、税務署から「これはレクリエーションではなく賞与(ボーナス)では?」と見られるおそれがあります。
- 役員や一部の社員だけを対象とした豪華旅行
- 長期間の海外旅行で、実態はほとんど観光ばかり
- 「研修旅行」と名づけているが、研修らしい内容がほとんどない
永年勤続者への招待旅行で気をつけたいこと
長く働いてくれた社員をねぎらう「永年勤続表彰」としての旅行も、一定の条件を満たせば税金をかけずに済みます。
税金がかかりにくいパターン
- 勤続10年・20年・30年…など、明確な基準を決めて一律に行っている
- 旅行の内容や金額が、常識的な範囲である
- 現金や商品券ではなく、会社が旅行を企画して社員を招待する形
たとえば、「勤続20年を迎えた社員は、配偶者1人まで同伴OKの国内1泊旅行に招待」といった制度をあらかじめ社内規程に定めておき、対象者が出るたびに同じように実施する場合は、福利厚生として認められやすくなります。
税金がかかりやすい例
- 対象者の選び方があいまいで、会社が自由に選んでいるように見える
- 金額・内容が極端に高額で、実質ボーナスといえるようなもの
- 「旅行ではなく現金」という形で支給している
このような場合は、永年勤続という名目であっても、税務署からはふつうの賞与(ボーナス)と同じ扱いにされる可能性があります。
迷ったときのチェックポイントとまとめ
制服や社員旅行などの税金の判断は、どうしても「グレーゾーン」が出てきます。
迷ったときは、次の4つをチェックしてみてください。
- 私生活でも自由に使えて、社員の手元に残るものか?
- 対象者が一部の人だけに偏っていないか?
- 内容や金額が、常識的なラインを超えていないか?
- 会社全体の福利厚生といえるか、それとも特定の人へのごほうびか?
このあたりを確認していただくと、大きな方向性が見えてきます。
この記事のポイントおさらい
基本の考え方
制服や旅行などの会社負担は、社員の「経済的利益」として給料あつかいになることがあります。
ただし、次のようなものは条件を満たせば税金がかかりません
- 仕事のために必要な制服・作業服
- 社員全体の親睦を目的としたレクリエーション
- 一定のルールに基づいた永年勤続者への招待旅行
判断のカギは3つ
- 私生活でも自由に使えるかどうか
- 一部の人だけが得をしていないか
- 内容・金額が常識の範囲かどうか
実際には、会社の規模や業種、旅行の内容などによって判断が分かれるケースもあります。
「社員に喜んでもらいたい」という思いを大切にしながら、税金の面でも無理のない形で、制服やレクリエーションの制度を上手に活用していきましょう。






