為替も金利も読めない時代—中小企業が「壊れない経営」をつくる方法

急な円安、急な金利上昇……「来てから慌てる」をやめるための備え方

「金利はしばらく低いままだろう」「円安もそのうち落ち着くだろう」—そう思いながら様子を見ている経営者の方は多いのではないでしょうか。

ただ、少し気になるデータがあります。
いま日本の金利は、景気や物価のバランスから見て「ちょうどいい」とされる水準より、かなり低い状態が続いています。
為替についても、各国の物価差から計算した目安と、実際の相場がズレたままです。

このズレ自体は珍しいことではありません。
問題は、ズレが大きくなりすぎると、どこかで「調整」が起きやすくなることです。
そして調整は、ゆっくり来るとは限りません。
市場というのは不思議なもので、長い間動かなかったのに、ある日いきなり態度を変えることがあります。

もちろん、明日すぐ大きな変動が起きると断言はできません。
でも「可能性がある」なら、先に手を打っておく方が結果的に安上がりです。
火事が起きてから消火器を買いに走るより、先に備えておく方がコストは小さい。
経営も同じだと思います。

今回は、急な円安、急な円高、急な金利上昇—そのどれが来ても「うちは大丈夫」と言える状態をつくるための、現実的な備えについてお話しします。

【なぜ今、備えが必要なのか】

少しだけ背景を説明させてください。
専門用語は使わず、イメージでお伝えします。

金利には「景気を熱くも冷ましもしない、ちょうどいい水準」があると言われています。
経済学では「中立金利」と呼ばれるものです。
この水準より金利が低い状態が長く続くと、経済のどこかにゆがみがたまっていきます。

為替にも似た話があります。
「購買力平価」という考え方で、国ごとの物価の差から「為替はだいたいこのくらいが目安」という計算ができます。
ところが実際の相場は、この目安から離れたまま動くことがよくあります。

ゆがみは最終的にいろいろな形で現れます。
物価がじわじわ上がり続ける、円安がさらに進む、都市部の不動産が過熱する—どこに出るかは事前にはわかりません。

身近な例えで言うと、車のハンドルの「遊び」に似ています。
右に曲がりたいのに、遊びが大きくて最初は反応しない。
曲がらないから焦って回し続けると、ある瞬間にいきなり効き始めて、今度は曲がりすぎてしまう。
金利や為替も、ズレがたまると「ある時から急に動く」ことがあるのです。

だからこそ、「来るかもしれない」ではなく「来ても大丈夫」という状態をつくっておくことが大切です。

【事例1】仕入れが海外に絡む会社の備え方

まず、輸入品や輸入原材料を扱う会社について考えてみます。
飲食店、小さな食品加工業、海外から部品を仕入れて販売する商売などが当てはまります。

こうした業種で怖いのは、円安が進むと「仕入れが静かに上がっていく」ことです。
最初は月に数万円の増加でも、半年、1年と積み上がると、利益がいつの間にか消えています。
かといって、為替がこの先どう動くかを予測するのは、プロでも難しい。

ですから、予測を当てにいくのではなく、「どちらに転んでも利益が残る仕組み」に近づけることが大事です。

たとえば値上げの仕方。
一気に上げるのが難しければ、小さく回数を分ける方法があります。
人気メニューだけ先に20〜30円上げて、翌月にドリンクを10円上げる、といった具合です。
お客さんの心理的な抵抗を下げながら、仕入れ上昇に追いついていくことができます。

仕入れ先についても、いつも同じ商社・同じルートだけだと、値上げを言われたときに逃げ場がありません。
量は少なくても構わないので、もう一社と取引しておく。
これは一種の保険です。
いざという時に「別の選択肢がある」というだけで、交渉の余地が生まれます。

在庫の持ち方も見直しどころです。
円安で仕入れ値の上昇が続く局面では、回転の速い材料を少し厚めに持っておくと、結果的に安く済むことがあります。
ただし、過剰在庫は廃棄リスクや資金繰りの悪化につながるので、やりすぎは禁物です。

この事例でお伝えしたいのは、為替を予想するより「ルールづくり」に力を入れようということです。
円安でも円高でも、利益が残る仕組みにしておけば、相場を気にしてヤキモキする時間が減ります。

【事例2】借入が多い会社の備え方

次に、設備や車両、機械などで借入がある会社について考えます。
建設業、運送業、製造業など、設備投資型の業種が当てはまります。

金利が上がると、返済額がじわじわ増えていきます。
いまは低金利ですが、物価上昇が続くなら、金利も「ちょうどいい水準」に近づいていく可能性があります。
場合によっては、それ以上に上がる局面もあり得ます。

ここでの備えは、「金利が上がっても大丈夫な形」に会社を整えておくことです。

ひとつは、借入の条件を分散させることです。
すべて同じ条件で借りていると、金利が上がったときのダメージが一直線にやってきます。
金融機関と相談して、固定金利と変動金利を組み合わせたり、返済期間の異なる借入を持ったりしておくと、急上昇への耐性が上がります。

もうひとつは、返済額の「見える化」です。
細かい計算は不要で構いません。
「金利が0.5%上がったら、月の返済はだいたい何万円増えるか」を、社長がすぐ言える状態にしておくだけで、いざという時の判断が格段に速くなります。
月に一度、数字を確認する習慣をつけておくと安心です。

投資の優先順位も見直しどころです。
売上を増やすための投資は魅力的ですが、金利が上がる可能性がある局面では、「回収が早い投資」から優先する方が安全です。
たとえば、故障が多い機械を更新して残業を減らし、毎月の人件費を下げるような投資は、効果が読みやすい。
逆に、回収に5年、10年かかる投資は、もう少し状況が見えてからでも遅くないことが多いです。

この事例でお伝えしたいのは、金利の変化を「怖がる」のではなく、「耐えられる形に整える」という考え方です。
先に整えておくほど、コストは小さくて済みます。

【まとめ】

金利が景気や物価に対して低い状態が長く続くと、ゆがみが別の形で現れ、最後には急な調整—大きな変動—につながることがあります。
為替も同じです。

だからこそ、「当てにいく」より「来ても壊れない」ことを目指した方がいい。
予測が外れて慌てるより、どう転んでも持ちこたえられる状態をつくっておく方が、経営としては健全です。

最後に、明日からできることを3つだけ挙げておきます。

ひとつ目は、為替が10円動いたら粗利がどう変わるかを、紙に書き出してみることです。正確な数字でなくて構いません。ざっくりで大丈夫です。
ふたつ目は、金利が0.5%上がったら月の返済がいくら増えるかを把握しておくことです。これも概算で十分です。
みっつ目は、「逃げ道をひとつ作る」ことです。仕入れ先をもう一社増やす、借入の条件を分散させる、値上げを小分けにできるようにしておく—何でも構いません。選択肢がひとつあるだけで、いざという時の動きやすさが変わります。

「何が起きるか」を当てようとするより、「何が起きても持ちこたえる」。
この姿勢が、円や金利が急に動く時代に、いちばん効く備えだと私は思います。