初任給30万円の時代、中小企業は「人を雇う覚悟」を決めるしかない
「うちみたいな小さい会社でも、賃金を上げないといけないんでしょうか」
最近、こうした相談が増えています。
答えは「上げざるを得ない場面が増える」です。
ただし、それは「頑張って耐える」という話ではありません。
前提の置き方を変えれば、打ち手も変わります。
今回は、賃金上昇の時代に中小企業がどう向き合えばいいのか、具体的な事例を交えてお伝えします。
「上がった状態が普通」と置くと、見える景色が変わる
中小企業は、賃金が上がっていく前提で経営を考えなければいけない時代に入りました。
人を使っていくなら、その覚悟を持つ。
覚悟が持てないなら、人を使わない形で細々と続ける。
事業の拡大や利益は、この覚悟を持てるかどうかにかかっています。
この「二択」は、今後さらにはっきりしてくると思います。
大事なのは「気合」ではありません。
前提の置き方です。
「賃金が上がるのは一時的だろう」ではなく、「上がった状態が普通」と考える。
すると、やるべきことが見えてきます。
なぜ賃金は「勝手に上がっていく」のか
「低いままだと人が来ない」という問題が、じわじわと広がっています。
これは大企業だけの話に見えて、実は中小企業にも確実に効いてきます。
理由はシンプルです。
まず、人手が足りません。
地方でも都市でも「採れない」が続いています。
そして、比較が簡単になりました。
求人サイトで初任給や時給が一瞬で並べられる時代です。
さらに物価が上がりました。
生活費が上がれば、働く側が「賃金も上げてほしい」と思うのは自然なことです。
加えて、大企業が賃金を上げると「相場」が動きます。
相場が上がれば、周りも引っ張られます。
ここで、例え話をひとつ。
賃金の上昇は、雨に似ています。雨が降っているのに「今日は晴れのつもり」で外に出ると、濡れます。
傘を持つか、出かけないか、ルートを変えるか。
前提(天気)を見誤ると、対策が全部ズレてしまいます。
賃金も同じです。「上がる前提」で設計しないと、後から全部が苦しくなります。
事例1:飲食・小売(パート中心)の場合
ここからは、読者の皆さんが「自分ごと」として考えられるように、よくある2つの現場で見ていきます。
数字はイメージしやすくするための例です。
細かい計算の正確さより、「どこが痛むか」をつかんでください。
たとえば、ランチが主力の飲食店。
ピーク時間にパート3人、平日も回している。
ここで時給が「いまより200円上がる」としましょう。
1人あたり月80時間働くなら、月1万6,000円ほど増えます(200円×80時間)。
3人なら、月5万円前後がじわっと増えていきます。
「5万円なら頑張れば……」と思いたいところですが、問題は「毎月ずっと」という点です。
家賃のように、固定で出ていくお金が増えた状態になります。
このとき、現実的な選択肢は3つあります。
1つ目は、値段を見直すこと。全品を上げる必要はありません。人気メニューだけ、セットだけ、夜だけ。「上げ方」を工夫すればいいのです。
2つ目は、人の使い方を変えること。削るのではなく、組み直す発想です。仕込みを前日に寄せる、ピークだけ厚くする、注文の流れを整理する。「手間の山」をならしていきます。
3つ目は、仕事の中身を変えること。レジだけ、配膳だけ、ではなく、SNS投稿や予約管理など「売上につながる仕事」を組み込む。賃金を払うなら、それに見合う仕事を任せるということです。
「人を使って伸ばす覚悟」があるなら、この3つをセットで組みにいく。
覚悟が持てないなら、営業時間を短くする、席数を絞る、予約制に寄せるなど、「人を増やさない運営」に切り替える。
これは撤退ではありません。
設計変更です。
事例2:現場仕事(製造・建設・清掃・介護周辺など)の場合
従業員10名前後で、現場が回っている会社。
人が増えれば売上も増えるけれど、採用が難しい。
賃金を上げないと、そもそも応募が来ない。
この場合、「賃金を上げる=利益が減る」と考えると詰みやすいです。
代わりに、こう分けて考えます。
「同じ仕事」の単価を上げる(価格の見直し)。
「同じ人数」でできる量を増やす(段取り・道具・外注の組み方)。
「やる仕事」を選ぶ(儲けが薄い仕事を減らす)。
たとえば、「単価が低いけど手間が多い」案件を、少しずつ手放す。
その分、単価が取りやすい仕事に寄せていく。
これは強気に見えて、実は体力配分の話です。
登山で、重い荷物をずっと背負っているとバテます。
荷物(=利益が薄い仕事)を減らして、頂上(=利益)に届きやすくするイメージです。
そして「人を使って伸ばす覚悟」を持つなら、もう1つ必要なことがあります。
「払う賃金に見合う役割」を用意することです。
資格、段取り、顧客対応、後輩育成。
小さな会社ほど、1人が担う範囲が広い。
だからこそ、賃金を上げるなら「任せる範囲」もセットで設計します。
一方で、覚悟が持てない場合はどうするか。
「人を使わずに続ける」方向です。
具体的には、外注や協力会社を活用して固定の人件費を増やしにくくする。
自分の稼働を減らして、受ける仕事量を最初から絞る。
事業を「高く売れる部分」だけに寄せて、薄利の部分をやめる。
これも立派な経営判断です。「雇用しない=悪」ではありません。
まとめ:明日できる3つのこと
賃金が上がる時代において、「人を雇うなら、雇い方を変える」。
小企業は、「人を使って伸ばす」のか、「人を使わずに続ける」のか。
この二択を迫られる場面が増えていきます。
そして、どちらを選ぶにしても、必要なのは根性ではありません。
前提を置き直すことです。
最後に、明日できることを3つに絞ります。
① 1年後の時給・月給の前提を紙に書く
上がる前提で書いてください。「現状維持」は”希望”として分けておきます。
② 仕事を「儲かる/儲からない」で仕分けする
儲からない仕事は、値上げするか撤退するかを決めます。
③ 人を増やすなら「任せる範囲」を1人ずつ言語化する
賃金だけ上げて役割が変わらない状態を避けるためです。
賃金上昇は、避けられない「天気」になりつつあります。
傘を持って進むのか、雨の日ルートに変えるのか。
その判断が、これからの中小企業の伸び方を決めていきます。





