残業時の食事支給と税務処理
製造業や建設業、物流業など、納期に追われやすい現場では、どうしても残業が続く時期があります。
そんなとき、会社としては「せめて夕食くらいは出してあげたい」と考えることも多いでしょう。
では、この残業時の夕食は、税金の面ではどう扱われるのでしょうか。
実は、「会社が弁当を配った場合」と「弁当の代わりに現金を渡した場合」とでは、結論が変わります。
まず結論:弁当の支給は原則非課税、現金支給は原則課税
残業した従業員に食事そのものを支給する場合は、原則として給与として課税しなくてよい取扱いになっています。
一方で、食事の代わりに現金を支給すると、原則として給与として課税の対象になります。
国税庁もこの考え方を示しています。
弁当業者から夕食を購入して残業中の従業員に配るケースを例にしましょう。
これは、通常の勤務時間外の残業に伴って支給する食事として扱われ、給与として課税しなくてよいとされています。
国税庁の所得税基本通達でも、残業または宿日直をした人に支給する食事は課税しなくて差し支えないと明示されています。
ところが、「今日は弁当の手配が面倒だから、1人1,000円を渡そう」というように現金で支給すると、話は別です。
現金は食事そのものではなく、従業員が自由に使えるお金です。
そのため、税務上は食事の支給ではなく手当の支給と見なされ、原則として給与課税の対象になります。
国税庁のタックスアンサーでも、現金で食事代を補助する場合は、一定の例外を除き、その全額が給与として課税されると案内されています。
なぜこんな違いが出るのか
「従業員のために出しているのだから、弁当でも現金でも同じでは?」と思うかもしれません。
気持ちとしては、そのとおりです。
ですが、税金の世界では「何を渡したか」がとても大事です。
弁当や夕食そのものを渡している場合、会社は「残業をしてもらうために必要な環境を整えている」と見られます。
たとえるなら、現場で必要なヘルメットや作業服を会社が用意するのに近い感覚です。
従業員の生活費を増やしているというより、仕事を進めるための配慮をしている、と考えられるわけです。
一方で現金を渡すと、従業員はそのお金で食事を買うこともできますし、別のことに使うこともできます。
会社としては「夕食代のつもり」で渡していても、税務上はそこまで限定して見てもらえません。
結果として、給与や手当に近いと判断されやすくなります。
会社で起こりやすい具体例
実務でよくある場面を見てみましょう。
弁当業者に注文して、残業者へ配布する
通常の勤務時間外の残業に伴う食事の支給であれば、課税しなくてよい扱いです。
従業員の給与に加算して所得税(源泉徴収)を計算する必要はありません。
コンビニ等で使えるよう、食事代として現金を渡す
原則としてその全額が給与課税の対象です。
名目が「夕食代」や「残業食事補助」であっても、現金である以上は手当と見られ、所得税(源泉徴収)の対象になります。
会社の都合で食事を手配できず、深夜勤務者に少額の現金を渡す
ここには例外があります。深夜勤務者に夜食を現物で支給できないためにやむを得ず現金を渡す場合、1食当たり650円以下(消費税等を除く)であれば、給与課税しない取扱いが認められています。
ただし、これは深夜勤務の限定的な例外であり、一般的な残業時の現金支給を広く非課税にするものではありません。
「通常の食事補助」とは別ルールなので混同に注意
ここで気をつけたいのは、残業時の食事と、普段の昼食補助や社員食堂の補助とでは、ルールが異なるという点です。
通常の食事補助については、「従業員が食事の代金の半分以上を自己負担していること」「会社の負担額が一定額以下であること」などの条件があります。さらに、2026年4月から会社負担額の判定基準が月額3,500円から7,500円に引き上げられました。
ただし、このルールは通常の食事補助に関するものであり、残業時の食事の非課税ルールとは分けて考える必要があります。
整理すると、次のとおりです。
・普段の昼食補助 → 従業員の自己負担割合や月額基準などの条件を見て判定する
・残業時の夕食支給(食事そのもの) → 原則として課税しなくてよい
・残業時でも現金支給 → 原則として給与課税の対象になる
この3つを混ぜてしまうと、社内の処理を誤りやすくなりますので、ぜひ区別して覚えておいてください。
実務上のおすすめ対応
会社として安全に運用するなら、残業時の食事はできるだけ現物支給の形にするのが分かりやすい方法です。
弁当業者への発注、社員食堂の延長対応、あるいは会社が実際の食事を手配する形にしておくと、税務上の整理がしやすくなります。
逆に、「毎回現金で精算する」「残業したら一律で食事代を渡す」という運用は、給与課税の問題が出やすくなります。
税務調査では、名目より実態で判断されます。
帳簿上だけ「食事代」と書いてあっても、現金であれば課税を免れるとは限りません。
残業食の運用を決めるときは、次の点を社内で整理しておくと、後から説明しやすくなります。
・誰が対象か
・通常の勤務時間外の残業か
・何を渡しているか(食事か、現金か)
・深夜勤務の例外に当たるか
まとめ
残業時の夕食については、税務上の考え方は意外とシンプルです。
会社が弁当や夕食そのものを支給するなら、原則として課税しなくてよい。
食事の代わりに現金を渡すなら、原則として給与として課税される。
言い換えると、「食べ物を渡す」のは非課税で済みやすく、「お金を渡す」と給与になりやすい、ということです。
ほんの少しの違いに見えても、税金の扱いは大きく変わります
。残業者への配慮として食事補助を考えるときは、「現物支給か、現金支給か」を最初に分けて考えることが大切です。
制度をうまく使えば、従業員にも会社にも無理のない形で、安心して運用できるようになります。






