社会福祉法人への土地遺贈と所得税
亡くなった方に「みなし譲渡所得」が生じるケースに注意
相続の場面では、相続税だけを考えればよいと思われがちです。
しかし、亡くなった方が生前に所有していた土地や建物などを、遺言によって法人へ遺贈(いぞう・遺言によって特定の相手に財産を渡すこと)した場合には、相続税だけでなく、所得税の問題が生じることがあります。
特に注意したいのが、個人から法人に対して、土地などの譲渡所得の対象となる資産を遺贈した場合です。
この場合、実際には売却代金を受け取っていなくても、税法上は「時価で譲渡したもの」とみなされることがあります
。これを、一般に「みなし譲渡課税」といいます。
今回は、父が所有していた土地を遺言により社会福祉法人へ遺贈した場合を例に、所得税・相続税・法人税の課税関係を整理していきます。
読み進めていただければ、「なぜお金をもらっていないのに税金がかかるのか」という疑問にもお答えできます。
事例の内容
今回の事例の前提を整理します。
父である甲は、本年5月16日に亡くなりました。
甲が残した財産と遺言の内容は、次のようなものです。
土地Aについては、遺言によって社会福祉法人乙に遺贈されることになっています。
一方、その他の財産と債務については、相続人である子の丙と丁の2人が関係します。
丙と丁はいずれも相続を単純承認(相続について、プラスの財産もマイナスの債務もすべて引き継ぐことに同意すること)しています。
そして、遺産分割協議(相続人全員で、誰が何を引き継ぐかを話し合って決める手続き)の結果、土地A以外の財産と債務については、すべて丙が取得・承継することになりました。
妹である丁は、遺産分割協議で何も取得せず、何も承継しないという内容です。
このような場合に、所得税の課税関係が生じるのか。これが今回のテーマです。
結論からいうと、原則として、父甲に所得税の課税関係が生じます。
具体的には、土地Aを社会福祉法人乙に遺贈したことについて、甲に譲渡所得(土地や建物などを売ったときなどに生じる所得)があったものとみなされる可能性があります。
法人への遺贈では「売ったもの」とみなされることがある
通常、土地を売却した場合には、売却代金から取得費(その土地を購入したときにかかった費用)や譲渡費用を差し引いて、譲渡所得を計算します。
たとえば、昔1,000万円で取得した土地を、現在3,000万円で売却した場合には、単純化すれば、その差額部分が譲渡所得の対象になります。
では、売却ではなく、無償で法人へ渡した場合はどうでしょうか。
本人は売却代金を受け取っていません。
そのため、感覚的には「収入がないのだから所得税はかからないのではないか」と思われるかもしれません。
しかし、所得税法では、個人が法人に対して、土地や建物などの譲渡所得の基因となる資産を贈与または遺贈した場合には、その時の価額、つまり時価で譲渡したものとみなす取扱いがあります。
今回の事例では、父甲が社会福祉法人乙に土地Aを遺贈しています。
社会福祉法人は法人です。したがって、甲が乙に土地Aを遺贈した時点で、甲が土地Aをその時の時価で譲渡したものとみなされ、甲に譲渡所得が生じる可能性があります。
これが、今回の事例で所得税の課税関係が生じる理由です。
なぜ、代金を受け取っていないのに所得税がかかるのか
この点は、実務上も納税者の方に説明しにくい部分です。
亡くなった方は土地を売ったわけではありません。
相続人も、その土地の売却代金を受け取ったわけではありません。それにもかかわらず、所得税が問題になることがあります。
その理由は、含み益(取得時から値上がりした資産に潜在する利益)のある資産を法人へ移転する場面では、個人段階の譲渡所得課税を確保する必要があるからです。
仮に、個人が値上がりした土地を法人へ無償で移しても一切課税されないとすると、含み益を抱えた資産を法人へ移すことによって、個人の譲渡所得課税を回避できてしまう可能性があります。
そこで所得税法では、個人から法人へ一定の資産が無償または低額で移転した場合に、時価で譲渡があったものとみなして課税する仕組みを設けています。
遺贈もこの対象になります。
したがって、社会福祉法人に土地を遺贈した場合であっても、「公益性のある法人だから当然に所得税はかからない」と考えるのは危険です。
まずは、法人への遺贈である以上、みなし譲渡課税の対象になる可能性があると考えることが大切です。
所得税は誰の所得として申告するのか
今回の譲渡所得は、土地Aを所有していた父甲に生じるものです。
ただし、甲はすでに亡くなっています。
そのため、甲本人が確定申告をすることはできません。
このような場合には、相続人が、亡くなった方に代わって所得税の申告を行います。
これを「準確定申告(じゅんかくていしんこく)」といいます。
準確定申告では、亡くなった方のその年の1月1日から死亡日までの所得を計算し、相続人が申告と納税を行います。
今回、甲は本年5月16日に死亡しています。
そのため、甲については、本年1月1日から5月16日までの所得を計算する必要があります。
この期間中に、土地Aの社会福祉法人乙への遺贈によるみなし譲渡所得が生じる場合には、その譲渡所得も甲の準確定申告に含めることになります。
準確定申告の期限
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
今回、甲が本年5月16日に死亡し、相続人である丙と丁が同日に相続開始を知ったという前提であれば、準確定申告の期限は本年9月16日になります。
この期限までに、甲の死亡当時における納税地の所轄税務署長に対して、所得税の確定申告書を提出しなければなりません。
また、申告だけでなく、納税もこの期限までに行う必要があります。
ここで特に注意したいのは、準確定申告の期限は、相続税の申告期限よりも早いという点です。
相続税の申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
一方、準確定申告は4か月以内です。
つまり、相続税の申告準備を進めている途中で、先に準確定申告の期限が到来してしまうのです。
不動産の遺贈がある場合や、亡くなった方に事業所得・不動産所得・譲渡所得などがある場合には、早めに準確定申告の要否を確認しておくことが大切です。
準確定申告は丙だけがすればよいのか
今回、土地A以外の財産と債務については、遺産分割協議により、すべて丙が取得・承継することになっています。
妹である丁は、何も取得しません。では、準確定申告についても、丙だけが行えばよいのでしょうか。
この点については、注意が必要です。
今回の相続人は、丙と丁の2人です。
丁が遺産分割協議で何も取得しないとしても、丁が相続人であることに変わりはありません。
したがって、甲の準確定申告については、相続人である丙と丁の2人が関係します。
相続人が2人以上いる場合には、各相続人が連署(全員がそろって署名すること)により準確定申告書を提出する方法があります。
また、各相続人が別々に提出することもできます。
その場合には、他の相続人の氏名などを付記して提出することになります。
実務上は、相続人全員が関係する申告であることを前提に、誰が中心となって作成し、誰が署名し、納税資金をどのように負担するかを事前に整理しておく必要があります。
税金は誰が負担するのか
今回のような事例では、申告義務だけでなく、納税義務の承継も問題になります。
父甲に所得税が生じた場合、その所得税は相続人が承継します。
ここで重要なのは、遺産分割協議で「財産と債務をすべて丙が取得・承継する」と決めたとしても、税務署との関係では、当然に丁の納付義務がなくなるわけではないという点です。
国税の納付義務の承継は、原則として、民法上の相続分に応じて行われます。今回、相続人が子である丙と丁の2人だけであれば、法定相続分はそれぞれ2分の1です。そのため、甲の所得税についても、税務上は丙と丁がそれぞれ2分の1ずつ承継する関係になります。
もちろん、相続人間の内部的な取り決めとして、「準確定申告で発生する税額は丙が負担する」と定めることは考えられます。
実際に、その他の財産をすべて丙が取得するのであれば、内部負担としては丙が税額を負担するという整理が自然な場合もあるでしょう。
しかし、それはあくまで相続人間の内部関係です。
税務署との関係では、相続人である丁も、甲の納税義務を承継する立場にあることを忘れてはいけません。
妹丁が何も取得しない場合でも納付責任はあるのか
丁の立場からすると、「私は遺産を何ももらっていないのに、父の所得税を負担しなければならないのか」という疑問が出てくるかもしれません。
この疑問はもっともです。
国税通則法では、相続人が被相続人(亡くなった方)の国税を承継する場合のルールが定められています。
共同相続人がいる場合、各相続人は原則として相続分に応じて納付義務を承継します。
また、他の相続人が承継した税額についても、一定の限度で納付責任を負うことがあります。
ただし、その納付責任には限度があります。
具体的には、相続により取得した財産の価額から、その人が承継する税額を控除した金額を限度として、他の相続人の承継税額について納付責任を負うという考え方になります。
今回、丁は遺産分割協議により何も取得しないという前提です。
そのため、丁の実際の負担関係については、承継税額そのものと、相続により取得した財産の有無、内部的な遺産分割協議の内容を丁寧に確認する必要があります。
いずれにしても、「何も取得しないから準確定申告にも関係しない」と単純に考えるのではなく、相続人である以上、申告義務や納税義務の承継関係を確認しておくことが大切です。
社会福祉法人乙は準確定申告の義務を負うのか
今回、土地Aを取得するのは社会福祉法人乙です。
では、乙も甲の所得税について申告義務や納付義務を負うのでしょうか。
この点については、原則として乙は甲の所得税の準確定申告義務や納付義務を負いません。
なぜなら、今回の土地Aの遺贈は、特定遺贈(特定の財産を特定の相手に渡す遺贈)と考えられるからです。
これに対して、包括遺贈(遺産の全部または一定割合を包括的に遺贈するもの。たとえば「遺産の2分の1を乙に遺贈する」といった内容)を受けた包括受遺者は、相続人に近い立場で権利義務を承継することがあります。
しかし、特定遺贈を受けた者は、特定の財産を取得するにとどまります。
今回の社会福祉法人乙は、土地Aという特定の財産を遺贈により取得する立場です。
そのため、乙は包括受遺者には当たらず、所得税法上の相続人には含まれません。
したがって、甲の所得税について、乙が準確定申告を行ったり、甲の所得税を納付したりする立場にはなりません。
社会福祉法人への遺贈なら非課税にならないのか
ここまでの説明では、社会福祉法人乙への土地Aの遺贈について、甲にみなし譲渡所得が生じると説明してきました。
しかし、社会福祉法人のような公益性の高い法人に対する寄附や遺贈については、一定の要件を満たす場合に、譲渡所得が非課税になる制度があります。
それが、租税特別措置法40条の非課税承認制度です。
この制度は、個人が土地や建物などを公益法人等に寄附した場合に、一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を受けたときは、みなし譲渡所得を非課税とするものです。
ここでいう寄附には、贈与だけでなく、遺贈も含まれます。
したがって、今回のように父甲が社会福祉法人乙に土地Aを遺贈した場合でも、要件を満たして承認を受けることができれば、甲の譲渡所得が非課税になる可能性があります。
ただし、大切なのは、社会福祉法人への遺贈だからといって、自動的に非課税になるわけではないという点です。
原則としては、法人への遺贈としてみなし譲渡課税の対象になります。
そのうえで、別途、非課税承認の要件を満たすかどうかを検討することになります。
措置法40条の主な要件
租税特別措置法40条の非課税承認を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。
大きくいうと、次のような点が重要になります。
まず、その寄附が、教育・科学・文化・社会福祉など、公益の増進に著しく寄与するものであることが必要です。
今回の受遺者は社会福祉法人ですので、社会福祉への貢献という観点から、この要件に関係してきます。
次に、寄附された財産が、一定期間内に受贈法人の公益目的事業の用に直接使われること、または使われる見込みであることが必要です。
つまり、土地Aを社会福祉法人が取得したとしても、その土地が実際に公益目的事業に直接使われるかどうかが重要になります。
たとえば、社会福祉施設の敷地として使われる、福祉事業のための建物用地として使われるといった場合には、公益目的事業との関連性が問われます。
一方、単に将来売却して運転資金に充てる予定である場合などは、要件を満たすかどうか慎重な検討が必要です。
さらに、その寄附によって、寄附をした人の所得税の負担を不当に減少させたり、寄附をした人の親族などの相続税や贈与税の負担を不当に減少させたりする結果にならないことも必要です。
この要件は、形式的に公益法人へ財産を移しているものの、実質的には親族の税負担を軽くするための仕組みになっていないかを確認するためのものです。
非課税承認を受けるためには申請が必要
措置法40条の非課税承認は、自動的に適用される制度ではありません。
国税庁長官の承認を受ける必要があります。
そのためには、承認申請書を提出し、必要な書類を添付して、要件を満たしていることを説明する必要があります。
この申請には期限があります。
不動産を公益法人等に遺贈する場合には、準確定申告の期限との関係も含め、早めに準備を進めることが重要です。
特に、亡くなった方の土地を遺言により社会福祉法人へ遺贈するようなケースでは、相続人側だけで完結できる話ではありません。
受遺者である社会福祉法人側の協力も必要になります。
土地をどのように使うのか。公益目的事業の用に直接供するのか。
その予定をどのように説明するのか。
法人の定款・事業内容・土地の利用計画なども確認する必要があります。
したがって、遺言により公益法人等へ不動産を遺贈する場合には、相続開始後に慌てて対応するのではなく、本来は生前の段階から税務上の影響を確認しておくことが望ましいといえます。
土地Aの時価評価が重要になる
みなし譲渡課税では、土地Aを時価で譲渡したものとして扱います。
そのため、土地Aの時価をいくらと考えるかが非常に重要になります。
土地の時価評価は、相続税評価額と必ずしも同じではありません。
譲渡所得の計算における時価は、原則として通常の取引価額を基礎に考える必要があります。
実務上は、不動産鑑定評価・近隣の取引事例・公示価格・固定資産税評価額・相続税評価額など、さまざまな資料を参考にしながら検討することになります。
時価が高くなれば、その分、譲渡収入金額も大きくなります。
その結果、取得費との差額が大きくなり、譲渡所得税の負担が重くなる可能性があります。
一方、時価の把握が不十分なまま申告すると、後日、税務署から評価額について指摘を受ける可能性もあります。
特に、土地Aが広大な土地であったり、利用制限のある土地であったり、特殊な形状の土地であったりする場合には、評価に慎重な検討が必要です。
取得費が不明な場合にも注意
譲渡所得の計算では、収入金額から取得費と譲渡費用を差し引きます。
今回でいえば、土地Aの時価が収入金額に相当します。
そこから、甲がその土地を取得した際の取得費などを差し引くことになります。
しかし、古くから所有している土地の場合、取得時の売買契約書や領収書が残っていないことがあります。
先祖代々の土地であったり、何十年も前に購入した土地であったりすると、取得費が分からないケースは珍しくありません。
取得費が不明な場合には、概算取得費として譲渡収入金額の5%を取得費とする取扱いが問題になります。
この場合、収入金額の95%に近い部分が譲渡所得の対象になる可能性があるため、税負担が大きくなりやすいです。
たとえば、土地Aの時価が5,000万円で、取得費が不明なため概算取得費5%を使う場合、取得費は250万円にとどまります。
単純化すると、4,750万円に近い含み益があるものとして計算される可能性があります。
もちろん、実際には譲渡費用や特別控除の有無なども確認しますが、取得費が分からない土地は税負担が大きくなりやすいという点は押さえておく必要があります。
相続人の手元に売却代金が入らない点が大きな問題
法人への遺贈によるみなし譲渡課税で、もっとも注意すべき点は、納税資金の問題です。
通常の売却であれば、土地を売却して代金を受け取ります。
その売却代金の中から、譲渡所得税や住民税を納めることができます。
しかし、遺贈の場合は違います。
土地Aは社会福祉法人乙へ移転します。
相続人である丙や丁の手元には、土地Aの売却代金は入りません。
それにもかかわらず、甲にみなし譲渡所得が生じると、相続人が甲の所得税を承継して納税しなければならないことがあります。
つまり、相続人は、土地Aを取得していないにもかかわらず、その土地に係る所得税を負担する可能性があるのです。
今回の事例では、その他の財産を丙がすべて取得することになっています。そのため、丙の取得する財産の中から納税資金を確保できるかどうかが重要になります。もし、その他の財産が現金預金ではなく、不動産や換金しにくい財産ばかりであれば、準確定申告の納税資金をどう用意するかが問題になります。公益法人等への不動産遺贈では、この納税資金の問題を軽く見てはいけません。
相続税の課税関係
次に、相続税について確認します。
今回、社会福祉法人乙は、甲から土地Aの遺贈を受けます。
しかし、社会福祉法人乙は個人ではありません。
相続税は、原則として、個人が相続や遺贈によって財産を取得した場合に問題となる税金です。
そのため、社会福祉法人乙は、通常、相続税の納税義務者には該当しません。
一方、相続人である丙と丁については、相続または遺贈により取得した財産の合計額が、相続税の基礎控除額を超えるかどうかを確認する必要があります。
今回、法定相続人が丙と丁の2人であれば、相続税の基礎控除額は3,000万円に法定相続人の数×600万円を加えた金額です。
法定相続人が2人であれば、3,000万円+600万円×2人=4,200万円が基礎控除額になります。
相続財産の合計額がこの金額を超える場合には、相続税の申告が必要になる可能性があります。
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
甲が本年5月16日に死亡し、同日に相続開始を知った前提であれば、相続税の申告期限は翌年3月16日になります。
ただし、期限日が土日祝日に当たる場合には取扱いが変わることがありますので、実際の年のカレンダーを確認する必要があります。
社会福祉法人に相続税がかかる例外
社会福祉法人乙には、原則として相続税はかかりません。
しかし、例外的に注意すべき規定があります。
それが、持分の定めのない法人に対する相続税の課税です。
社会福祉法人は、通常、持分の定めのない法人(出資者が法人の財産を個人的に取り戻せない仕組みになっている法人)に該当します。
このような法人に財産を寄附または遺贈することにより、その寄附をした人の親族など特別の関係がある人の相続税や贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人に相続税が課されることがあります。
これは、公益法人等を利用して、実質的に親族の相続税負担を不当に軽くすることを防ぐための規定です。
たとえば、形式的には社会福祉法人に財産を遺贈しているものの、その法人を親族が実質的に支配しており、財産の利益が親族に還流するような場合には、問題になる可能性があります。
今回の事例でも、社会福祉法人乙が完全に独立した法人であり、遺贈された土地Aが適正に公益目的で使われるのであれば、通常はこの問題は大きくないかもしれません。
しかし、甲の親族と乙との関係が深い場合や、乙の運営に親族が大きく関与している場合には、相続税法上の問題がないか慎重に確認する必要があります。
法人税の課税関係
最後に、社会福祉法人乙の法人税について確認します。
社会福祉法人が贈与や遺贈により土地を取得した場合、その取得による経済的利益に法人税が課されるのでしょうか。
結論としては、通常、その取得自体について法人税は課税されません。
社会福祉法人のような公益法人等は、株式会社などの普通法人とは異なり、すべての所得に法人税が課されるわけではありません。
公益法人等については、原則として、収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課税されます。
土地を遺贈により取得することは、通常、収益事業そのものではありません。
そのため、社会福祉法人乙が土地Aを遺贈により取得したことによる経済的利益については、通常、法人税は課税されないと考えられます。
これに対して、もし受遺者が普通法人(株式会社など)であれば取扱いは異なります。
普通法人が無償で土地を取得した場合、その土地の時価相当額が受贈益(むしょうで受け取ったことによる利益)として益金に算入され、法人税の課税対象になります。
つまり、同じ「法人への遺贈」であっても、受け取る法人が社会福祉法人のような公益法人等なのか、株式会社のような普通法人なのかによって、受け手側の法人税の取扱いは変わってくるのです。
今回の事例を整理すると
ここまでの内容を、今回の事例に即して整理します。
父甲は、土地Aを社会福祉法人乙に遺贈しました。
この土地Aは、譲渡所得の基因となる資産です。
そして、乙は法人です。
そのため、所得税法上、甲が土地Aを時価で乙に譲渡したものとみなされ、甲に譲渡所得が生じる可能性があります。
甲はすでに死亡しているため、その所得税については、相続人である丙と丁が準確定申告を行います。
準確定申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内です。
本年5月16日に死亡し、同日に相続開始を知った前提であれば、本年9月16日が申告・納付期限になります。
また、丙と丁は、遺産分割協議の結果にかかわらず、相続人として甲の所得税の納税義務を承継する関係になります。
遺産分割協議で、その他の財産と債務をすべて丙が取得・承継し、丁は何も取得しないことになっていても、税務署との関係で丁が完全に無関係になるわけではありません。
一方、社会福祉法人乙は、土地Aの特定遺贈を受けた者であり、包括受遺者ではありません。
そのため、乙は甲の所得税について、準確定申告義務や納付義務を負う立場にはありません。
ただし、土地Aの遺贈について、租税特別措置法40条の非課税承認を受けることができれば、甲の譲渡所得が非課税になる可能性があります。
この承認を受けるには、土地Aが公益目的事業の用に直接供されることなど、一定の要件を満たす必要があります。
社会福祉法人への遺贈だからといって自動的に非課税になるわけではないため、必ず個別に確認する必要があります。
実務上の確認ポイント
このような事例では、次のような点を順番に確認していくことが重要です。
まず、遺言の内容を確認します。
土地Aが誰に、どのような形で遺贈されているのか。
特定遺贈なのか、包括遺贈なのか。
この違いによって、受遺者の立場が変わる可能性があります。
次に、土地Aが譲渡所得の対象となる資産かどうかを確認します。
土地や建物は、典型的な譲渡所得の基因となる資産です。
そのため、法人への遺贈であれば、みなし譲渡課税の対象になる可能性が高いです。
次に、受遺者が法人か個人かを確認します。
個人に対する相続や遺贈であれば、通常、被相続人に譲渡所得が生じるわけではありません。
一方、法人に対する遺贈であれば、みなし譲渡課税の問題が生じます。
次に、土地Aの時価と取得費を確認します。
みなし譲渡所得を計算するためには、遺贈時の時価と、甲の取得費を把握する必要があります。
取得費が不明な場合には、概算取得費5%の取扱いも検討しなければなりません。
次に、措置法40条の非課税承認を受けられる可能性があるかを確認します。
社会福祉法人乙が土地Aをどのように利用するのか。
公益目的事業の用に直接供されるのか。
親族等の相続税負担を不当に減少させる結果にならないか。
これらを検討する必要があります。
最後に、納税資金を確認します。
土地Aは社会福祉法人乙へ移転するため、相続人の手元には土地Aの売却代金が入りません。
その一方で、準確定申告により所得税が発生する可能性があります。
相続財産の中に十分な現預金があるか、誰が税金を負担するのか、相続人間の内部負担をどのように整理するのかを早めに決めておく必要があります。
生前の段階で確認しておきたいこと
今回のようなケースは、相続開始後に初めて問題が表面化すると、対応が難しくなることがあります。
特に、遺言によって公益法人等に不動産を遺贈する場合には、生前の段階で税務上の影響を確認しておくことが非常に重要です。
遺言者としては、社会福祉法人に財産を役立ててもらいたいという思いで遺贈を決めていることが多いでしょう。
その気持ち自体は尊重されるべきものです。
しかし、税務上の取扱いを確認しないまま遺言を作成すると、相続人に予想外の税負担が生じることがあります。
特に、不動産は高額になりやすく、含み益も大きくなりがちです。
その不動産を法人に遺贈した結果、相続人が受け取っていない財産について、準確定申告で多額の所得税を納めなければならないという事態も起こり得ます。
そのため、公益法人等への不動産の遺贈を考える場合には、次の点を事前に確認しておくことが望ましいです。
その不動産に含み益があるか。取得費を証明する資料が残っているか。
遺贈先の法人が公益目的でその不動産を直接使用する予定があるか。
措置法40条の非課税承認を受けられる可能性があるか。
承認申請に必要な資料を準備できるか。
相続人に納税資金の負担が生じないか。遺言の内容として、納税資金の手当てができているか。
こうした点を確認したうえで遺言内容を設計すれば、遺言者の意思を実現しつつ、相続人に過度な負担を残さない形に近づけることができます。
まとめ
父が所有していた土地を、遺言により社会福祉法人へ遺贈した場合、相続税だけでなく、所得税の課税関係に注意する必要があります。
個人が法人に対して土地などの譲渡所得の対象となる資産を遺贈した場合には、原則として、その時の時価で譲渡したものとみなされます。
そのため、父甲に土地Aの譲渡所得が生じる可能性があります。
甲はすでに亡くなっているため、その所得税については、相続人である丙と丁が準確定申告を行います。
準確定申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内です。
今回のように本年5月16日に死亡し、同日に相続開始を知った前提であれば、本年9月16日が申告・納付期限になります。
また、遺産分割協議で、その他の財産と債務をすべて丙が取得・承継し、丁は何も取得しないことになっていても、丁が相続人である以上、甲の所得税の申告義務や納税義務の承継関係から当然に外れるわけではありません。
一方、土地Aを受け取る社会福祉法人乙は、特定遺贈を受ける立場であり、包括受遺者ではないため、甲の所得税について準確定申告義務や納付義務を負うわけではありません。
社会福祉法人乙については、土地Aを遺贈により取得したこと自体について、通常、法人税は課税されません。
また、社会福祉法人乙は個人ではないため、原則として相続税の納税義務者にもなりません。
ただし、持分の定めのない法人への遺贈により、親族等の相続税負担を不当に減少させる結果となる場合には、例外的に相続税法上の問題が生じることがあります。
そして、今回のような社会福祉法人への不動産の遺贈では、租税特別措置法40条の非課税承認制度を検討することが非常に重要です。
この承認を受けることができれば、みなし譲渡所得が非課税になる可能性があります。
しかし、社会福祉法人への遺贈だからといって、自動的に非課税になるわけではありません。
土地が公益目的事業の用に直接使われること、公益の増進に著しく寄与すること、親族等の税負担を不当に減少させないことなど、一定の要件を満たす必要があります。
したがって、今回の事例では、次のように整理できます。
父甲が土地Aを社会福祉法人乙に遺贈したことについては、原則として甲にみなし譲渡所得が生じます。
その所得税は、相続人である丙と丁が準確定申告により申告・納付する必要があります。
ただし、措置法40条の非課税承認を受けることができれば、譲渡所得が非課税となる可能性があります。
相続税については、社会福祉法人乙には原則として課税されませんが、丙と丁については、相続財産の合計額が基礎控除額を超えるかどうかを確認する必要があります。
法人税については、社会福祉法人乙が土地Aを遺贈により取得したこと自体は、通常、課税対象になりません。
不動産を法人へ遺贈する場合には、「売却していないから所得税は関係ない」と考えないことが大切です。
特に、公益法人や社会福祉法人への遺贈では、遺言者の善意とは別に、相続人に思わぬ準確定申告と納税負担が生じることがあります。
そのため、法人への不動産遺贈では、相続税だけでなく、所得税のみなし譲渡課税・準確定申告・措置法40条の非課税承認・納税資金の確保まで含めて、総合的に検討する必要があります。
相続の場面では、誰が財産を取得するかだけでなく、その財産の移転によって、誰に、どの税金が、いつ発生するのかを丁寧に確認することが重要です。
この記事は作成時点の情報に基づいています。
税制は改正されることがありますので、実際の手続きにあたっては最新の情報を確認のうえ、税務署にご相談ください。
個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。






