AIを使いこなすための小さな気づき
あなたはAIを「最後まで」使っていますか?
突然ですが、ひとつ聞かせてください。
ChatGPTやAIツールを試してみたことはありますか?
「ある」という方、そのあとどうなりましたか?
「しばらく使ったけど、なんとなくやめた」「使い方がよくわからなくて」「思ったより便利じゃなかった」—そんな方も少なくないのではないでしょうか。
私は税理士として、長年にわたってさまざまな業種の経営者の方々とお付き合いしてきました。
決算や税務申告を通じて、その会社の「お金の流れ」だけでなく、「仕事の流れ」も深く見せていただく機会が多くあります。
そして最近、クライアントとの会話でよく出てくるテーマのひとつが、AIです。
「試してはみたんですが、なかなか続かなくて」「うちみたいな小さな会社には関係ない話ですよね」—こういった声を、実はよく耳にします。
この「途中でやめた経験」こそ、今のAI時代を読み解くうえで大切なヒントになる。
私はそう考えています。
「AIを使っている人」と「使いこなしている人」は別の話
ある米国の調査では、仕事でAIを使ったことがあると答えた人の多くが、作業の途中でAIの利用をやめていたという結果が報告されていました。
「正しいかどうか確認するのが面倒」「自分の仕事の流れに合わない」といった理由が挙げられていたようです。
これはあくまで一つの調査ですが、私自身の実感とも重なります。
実は、私も会計事務所を経営する立場として、AIをいろいろ試してきました。
最初は「これは便利だ」と感じながらも、途中で使うのをやめたツールがいくつもあります。
出てくる答えが微妙にズレていたり、確認する手間が意外とかかったり。
「結局、自分でやった方が早い」と感じた場面は、正直、一度や二度ではありません。
だから、クライアントから「うまく使えない」と聞くたびに、「それは当然だと思いますよ」と答えるようにしています。
ここで大事なのは、「AIを使っている」と「AIを使いこなしている」は、まったく別の話だということです。
スマートフォンを持っていても、使うのはLINEと地図とカメラだけ、という方はたくさんいます。
でも、それが「使えていない」かといえば、そうとも言えません。
目的に合った使い方をしているわけです。
AIも同じです。
「入れたらすぐ便利」というものではなく、使う側が仕事の流れを分解して考えないと、本来の力を発揮しにくい。
そこを理解している人が、まだとても少ない。
だから今は、そこを理解するだけで差がつく時代だと思っています。
AIは「魔法」ではなく「段取りを手伝う道具」
税理士の仕事は、数字を扱うことだけではありません。
経営者の方が「今月、資金繰りが厳しくて」「このままだと来期が不安で」と話してくださる場面も多くあります。
そのとき私が心がけているのは、問題を整理することです。
何が原因で、どこが課題で、何から手をつけるか。
漠然とした不安を、分解して見えるようにする。
AIの活用も、まさにこれと同じだと気づきました。
料理でたとえるとわかりやすいです。
高性能な電子レンジを買っても、何分温めるか、何を先に切るか、どの皿に盛るかがわからなければ、料理は楽になりません。
むしろ、「マニュアルを読む手間」が増えることさえあります。
AIも同じです。
「何を頼むか」「どう頼むか」がうまくいかないと、出てきた答えを全部直す羽目になって、「自分でやったほうが早かった」となってしまう。
だから、AIを役立てるために本当に必要なのは、AI自体の知識よりも「仕事を分解する力」だと私は思っています。
これは、経営の現場で長年必要とされてきたスキルと、根っこは同じです。
仕事を「AIに任せる部分」と「人間が見る部分」に分ける
仕事を分解するとはどういうことか。少し具体的に考えてみます。
たとえば、毎日のルーティン業務を思い浮かべてみてください。
・情報を調べる
・内容をまとめる
・文章にする
・確認する
・判断する
・相手に伝える
この中で、AIが比較的得意なのは「調べる」「まとめる」「文章のたたき台を作る」といった工程です。
一方で、「最終的な判断をする」「相手の気持ちを読む」「責任をもって決める」といった部分は、人間が担う場面が多い。
私の事務所でも、たとえばお客様へのご説明文の下書きや、税制改正の要点整理といった作業にAIを使い始めました。
最初から完璧な文章は出てきません。
でも、「たたき台」として使うと、ゼロから書くよりずっと早く形になります。
そこに専門的な確認と、お客様ごとの事情を加えて仕上げる—この流れができてから、業務のリズムが少し変わりました。
家計の見直しにたとえると、さらにイメージしやすいかもしれません。
毎月の支出を節約しようとするとき、「全部切り詰めよう」とやみくもに動いてもうまくいかない。
まず家賃・スマホ・サブスク・食費・外食・保険と項目に分けて、「ここは削れる」「ここは削れない」を見極めることが先です。
AI活用も同じです。
「全部AIにやらせよう」ではなく、「この作業は任せる」「この確認は自分でやる」と仕分けすることが、最初のステップになります。
AIに任せると便利なこと、任せすぎると危ないこと
では、具体的に何を任せると便利で、何は気をつけたほうがいいのでしょうか。
AIに向いている作業の例
・メールの下書き、丁寧な言い回しへの言い換え
・会議メモからやることリストを作る
・長い文章を短くまとめる
・複数の案を比較・整理する
・アイデアを3〜5案出してもらう
こうした「整理や下書き」の工程を任せるだけで、毎日の積み重ねはかなり変わります。
毎日10分の作業が減れば、1か月では数時間になります。
小さな会社に置き換えると、イメージしやすいかもしれません。
たとえば、ホームページのお知らせ文、求人票のたたき台、お客様への案内文、社内マニュアル、よくある質問への回答—こうした文章を作る作業は、AIと相性がよい分野です。
「ゼロから書く」より「たたき台を直す」ほうが、はるかに早く、気持ちも楽になります。
反対に、価格をどう決めるか、誰を採用するか、取引先とどう向き合うか—こういった判断は、経営者自身の経験と責任が必要になります。
数字やデータだけでは測れない、長年の感覚や信頼関係が土台にあるからです。
AIはあくまで「素材を整える」役割であり、「決める」のは人間です。
気をつけたい場面
税理士として、ここは特に強調したいところです。
・税務・会計・契約に関わる最終判断
・法律的な解釈が必要な場面
・医療・健康に関する判断
・個人情報や機密情報を含む作業
・人事評価や重要な経営判断
AIは、もっともらしい文体で誤った情報を出すことがあります。
私たちの仕事でいえば、税法の解釈をAIに任せてそのまま使うのは危険です。
法律は頻繁に改正されますし、個々の状況によって判断が変わることも多い。
AIの出力はあくまで「参考」であり、専門的な確認は必ず人間が行う必要があります。
これは税務に限らず、経営判断全般に言えることです。
「全部任せる」ではなく「下書きや整理を任せて、最後は自分で確認する」。
この使い方が身につけば、AIは怖くありません。
むしろ、毎日の仕事を少しずつ軽くしてくれる、頼もしい存在になります。
経営者の「本当の強み」はAIには代替できない
長年、経営者の方々と向き合ってきて、あらためて気づくことがあります。
業績が安定している会社の経営者は、例外なく「自分の仕事の中身をよく見ている」ということです。
何にお金がかかっているか、どこで時間が取られているか、何が売上につながっているか—それを感覚だけでなく、数字として把握している。
AIを活用できる会社とそうでない会社の差も、おそらく同じところから生まれると思っています。
自分たちの仕事の流れを把握していれば、「ここはAIに任せられる」と判断できます。
でも、仕事の流れが整理されていない状態でAIを入れても、混乱が増えるだけです。
逆に言えば、AIを導入しようとするプロセスが、自社の業務を見直すきっかけにもなります。
「毎回同じ説明をしている場面はないか」
「毎回同じ資料を一から作っていないか」
「確認作業だけで時間が取られていないか」
「人でなくてもできる整理作業はないか」
この問いに答えていくこと自体が、経営の整理になります。
そして、その整理ができた会社こそが、AIを本当の意味で使いこなせるようになる。
AIを使いこなす力と、経営を整理する力は、実はセットになっているものだと、私は考えています。
まとめ:AI時代の「本当の勝ち筋」
整理すると、大事なポイントは3つです。
AIを使っている人は増えているが、使いこなしている人はまだ少ない
途中でやめる人が多い今は、使い続けるだけで差がつく段階です。
「全部任せる」ではなく「どこを任せるか」を考えることが大切
仕事を分解して、AIに向く部分と人間が担う部分を見極める力が鍵です。
経営を整理する力が、AI活用の土台になる
自社の仕事の流れを把握している会社こそが、AIを本当に役立てられます。
税理士として長年感じてきたのは、「うまくいっている会社は、自分たちの仕事をよく見ている」ということです。
AIの時代になっても、その本質は変わらないと思っています。
今日から15分でできる「仕分けワーク」
最後に、今日すぐ試せることをひとつご紹介します。
特別な準備は要りません。
手順はこれだけ
1.今日やった仕事や作業を5つ書き出す
(例:メール返信、資料作成、スケジュール調整、問い合わせ対応、調べもの)
2.それぞれに「AIに下書きを頼めそうか?」と印をつける
○できそう △一部ならできそう ×自分でやるべき
3.○か△を1つ選んで、AIへの頼み文を考えてみる
(例:「このメールを、丁寧で短い文章に直してください」)
これだけです。
AIを使いこなすための第一歩は、すごい知識を覚えることではありません。
毎日の仕事をよく見て、「ここを少し楽にできるかもしれない」と気づくこと—それは、経営を見直すことと、まったく同じ入口だと思っています。
その小さな気づきの積み重ねが、半年後・1年後に、じわじわと効いてきます。
ぜひ、今日のうちに一度試してみてください。






