銀行の外側で動く巨額のお金―AI投資の熱気の裏で、私たちが考えたいこと
世界では今、人工知能(AI)を使った新しいサービスが次々と生まれています。
その裏側では巨大なデータセンターが建てられ、大量の半導体や電力設備が必要になっています。
技術の進歩に期待が集まるのは自然なことです。
しかし、その設備を誰のお金でつくり、どのように返していくのかという点は、あまり注目されていないように感じます。
企業が大きな投資をするとき、自分で稼いだお金だけでは足りないことがあります。
そこで銀行から借りたり、債券を発行したりして、外部から資金を集めます。
最近は、こうしたお金の貸し手として、銀行以外の投資会社やファンドの存在感が増しています。
新しい資金の流れは、経済を成長させる力になります。
その一方で、お金を借りた企業が返済に困ったとき、どこまで影響が広がるのかが見えにくくなる面もあります。
私は今、AIの技術そのものと同じくらい、それを支えるお金の仕組みに目を向ける必要があると考えています。
銀行以外からお金を借りる仕組みとは
企業がお金を借りると聞くと、まず銀行融資を思い浮かべるのではないでしょうか。
銀行は預金などを元手に、企業の経営状態を調べたうえで融資します。
大企業であれば、社債を発行して多くの投資家から資金を集める方法もあります。
これらとは別に、投資ファンドなどが企業に直接お金を貸す仕組みがあります。
一般に「プライベートクレジット」と呼ばれるものです。
取引所などで売買される社債とは違い、貸し手と借り手が一対一で条件を決め、その内容が広く公開されないことから、「プライベート(非公開)」と呼ばれます。
銀行融資や社債と競い合うだけでなく、それらでは対応しにくい資金需要を補う役割も担っています。
たとえば、将来の成長が期待される企業でも、今の利益が十分でなければ、銀行から希望どおりに借りられないことがあります。
新しい設備をつくってから売上が立つまで、長い時間がかかる事業もあります。
こうした企業にとって、返済時期や条件を柔軟に相談できる貸し手は貴重な存在です。
貸す側にも理由があります。
定期預金や一般的な債券より高い収益を求め、長期間お金を運用したい投資家がいるからです。
特に、何十年も先の保険金の支払いに備えて資金を運用する保険会社などにとっては、条件が合えば有力な選択肢の一つになります。
ただし、お金を借りたい企業が多いことと、どの企業にも安心して貸せることは別の話です。
ここを分けて考えることが大切だと思います。
お金が集まる企業と集まらない企業の差
景気がよく、金利も低い時期には、多少利益が少ない企業でも資金を借りやすくなります。
将来の売上が伸びるという期待が大きければ、投資家も融資に前向きになりやすいからです。
ところが、金利の高い状態が続くと事情は変わります。
毎年きちんと利益を出し、手元に現金が残る企業であれば、ある程度の利息負担には耐えられます。
一方、利益が少なく、新しい借入れで古い借金を返しているような企業は、少しずつ苦しくなっていきます。
しかも、プライベートクレジットの多くは、市場金利に合わせて利率が見直される変動金利です。
金利の上昇は、そのまま借り手の利息負担に跳ね返ります。
10億円を借りている企業で考えてみましょう。
金利が年3%なら、年間の利息は3,000万円です。
これが年7%になれば、利息は7,000万円に膨らみます。
借入残高は同じでも、毎年4,000万円の現金が余分に必要になるわけです。
売上が伸びていても、手元に現金が十分に残らなければ、支払いは難しくなります。
見落とせないのは、同じ市場にいる企業が、みな同じ方向へ進むとは限らないことです。
財務に余裕のある企業には引き続きお金が集まり、余裕のない企業には厳しい条件が示されるかもしれません。
市場全体が拡大している間にも、個々の企業の明暗は分かれていきます。
貸し倒れが少なくても、安心できるとは限りません
お金を貸す側にとって分かりやすい心配は、相手が返済できなくなることです。
こうした返済不能が増えていないかを確かめるのは当然です。
しかし実際には、返済不能として表に出るまでの間に、いくつもの変化が起こります。
ある企業が、利息を現金で払うのが難しくなったとします。
貸し手と話し合い、当面の利息を借入金に上乗せしてもらうことがあります。
毎月の現金支出は減りますが、借金の総額は増えていきます。
また、返済期限を延ばしたり、一時的に条件を緩めたりすることもあります。
こうした対応がすべて悪いわけではありません。
一時的な業績悪化を乗り越える時間を与え、事業の立て直しにつながることもあります。
景気が回復すれば、早く回収を迫らなかったことが、貸し手と借り手の双方によい結果をもたらす場合もあるでしょう。
問題は、回復の見込みが小さいのに、条件の変更を繰り返す場合です。
帳簿の上では返済が続いているように見えても、借り手が自分の事業でお金を生み出せるようになったわけではありません。
苦しさが先送りされているだけかもしれないのです。
実際、米国の大手格付け会社は、2026年6月までの1年間に返済不能となった借り手の割合を約4%と集計したうえで、苦しい借り手との利息の後払いや返済期限の延長も含めると、5.8%程度に上がると示しています。
表に出る数字と実態の間には、こうした差が生まれ得るのです。
だからこそ私は、返済不能になった企業の数だけでなく、利息を現金で払えているか、返済期限の延長が増えていないか、借金が膨らみ続けていないかに注目したいと考えています。
数字が大きく悪化する前の小さな変化にこそ、意味があるからです。
値段が動かないことと、安全であることは違います
株式や上場している債券は、市場で毎日売買されるため、価格が日々動きます。
企業への不安が強まれば、価格が下がることもあります。
投資家にとってはつらい値下がりですが、問題に早く気づくきっかけにもなります。
一方、非公開の融資は、毎日売買されるわけではありません。
そのため、保有している融資の価値は、一定の方法で見積もることになります。
借り手の状況が悪くなっても、評価額に反映されるまでには時間がかかることがあります。
土地で考えてみましょう。
毎日売りに出していなければ、昨日と今日で値段がいくら変わったのかは分かりません。
しかし、値札を書き換えていないからといって、土地の価値が変わっていないとは言えません。
非公開の融資にも、これと似た面があります。
必要なときに引き出せないお金もあります
投資する側がもう一つ忘れてはいけないのは、いつお金を取り戻せるかという点です。
一般に、すぐに売却しにくい資産には、その不便さに見合う高めの利回りが求められます。
高い利回りの一部は、換金しにくさを引き受ける対価とも考えられます。
数年間使う予定のないお金であれば、長期の融資に振り向けることもできるでしょう。
しかし、急に現金が必要になっても、借り手の企業に「明日すべて返してください」とは言えません。
企業は借りたお金を、すでに設備や事業に使っているからです。
投資ファンドの中には、一定の条件で途中解約できるものもあります。
ただ、解約の希望が一度に集中すると、払い戻せる金額に上限がかかる場合があります。
2026年には米国の大手運用会社の個人向けファンドで、四半期ごとの解約上限(一般に純資産の5%程度)を超える申込みが相次ぎ、払い戻しを一部にとどめる例が出ています。
これは資産を慌てて安値で売らずに済むための仕組みでもありますが、投資家から見れば、必要なときに現金にできないということです。
銀行の外側の問題が、銀行と無関係とは限りません
銀行以外の貸し手が増えれば、銀行の負担が軽くなり、リスクが分散されるという大きな利点があります。
ただし、貸し手が増えたからといって、金融機関同士のつながりがなくなるわけではありません。
ファンドが企業に融資し、そのファンドに銀行が資金を貸している場合があります。
保険会社がファンドに投資していることもあります。同じ企業に、銀行とファンドの両方が資金を出していることもあるでしょう。
こうした関係が重なると、ある企業の業績悪化が、最初の貸し手だけでは終わらない可能性があります。
直接お金を貸していない金融機関にも、資産価値の低下や資金回収の遅れという形で影響が及ぶかもしれません。
厄介なのは、誰がいくら損をするのかを、外から簡単には把握できないことです。
取引の中身が公開されていなければ、問題が起きて初めて、思わぬつながりが明らかになることも考えられます。
銀行が以前より厳しく管理されるようになったことは、金融の安定につながっています。
しかし、それだけでお金の貸し借り全体が安全になったとは言い切れません。
銀行だけを見て世界の金融の健康状態を判断する時代ではなくなっている、と私は感じています。
AIへの期待が、お金の流れを大きくしています
この問題を考えるうえで、今のAI関連投資は見逃せません。
新しいAIサービスを動かすには、大量の計算を処理する半導体、それを置く施設、冷却装置、安定した電力などが必要です。
設備の規模が大きく、先に支払う金額も膨らみがちです。
ここには時間のずれがあります。
設備を建てるお金は先に必要ですが、その設備から得られる利用料収入は、完成後に少しずつ入ってきます。
しかも、将来どれだけ多くの人や企業がAIにお金を払うのかは、まだ誰にも分かりません。
大手のIT企業であれば、自社の利益や、比較的有利な条件での社債発行で投資を支えられる場合があります。
それでも最近は、データセンターを別会社や合弁会社に持たせ、借入れを自社の決算書に直接載せない形で資金を集める例も増えているといわれます。
新しいデータセンター事業者や規模の小さい関連企業になると、外部からの借入れに大きく頼ることが少なくありません。
需要予測が当たり、設備が十分に使われれば、投資は成長の土台になります。
反対に、思ったほど利用料が入らなかったり、電力設備の不足などで完成が遅れて費用がかさんだりすれば、借入金の返済が重い負担になります。
大切なのは、AIサービスが便利になることと、AI関連のすべての設備投資が利益を生むことは別だという点です。
技術の将来性が明るくても、投資の規模やタイミングが行き過ぎれば、資金繰りに苦しむ企業は出てきます。
技術が進むほど、過去の投資が難しくなる場合もあります
技術の進歩が速いこと自体が、設備を持つ企業の悩みになる場合があります。
これまで大量の半導体を使わなければできなかった作業が、新しい技術によって少ない設備でできるようになったとします。
利用者は安く便利なサービスを使えるようになるので、社会全体にとっては望ましい変化です。
しかし、数年前に高額な設備を大量に購入した企業にとっては、事情が違うかもしれません。
新しい設備の性能が上がれば、古い設備の貸出価格が下がったり、利用者が新しい施設へ移ったりする可能性があります。
十分な収入を得る前に、設備の価値が下がってしまうことも考えられます。
困るのは、設備を持つ会社だけではありません。
その設備を担保にお金を貸した投資家も影響を受けるかもしれません。
担保とは、返済できなくなったときの備えとして差し出す財産のことですが、その財産の価値そのものが下がってしまうからです。
もちろん、計算が効率化して利用料が下がれば、AIを使う人が増え、結果として需要全体が拡大することもあります。
未来が必ず悪い方向へ進むという話ではありません。
ただ、技術が成功することと、個々の投資家が利益を得られるかどうかは、分けて考える必要があります。
企業同士でお金が回っているときは、最後の支払い手を見る
AI関連の事業では、半導体を製造する会社、計算設備を貸す会社、AIを開発する会社、サービスを販売する会社など、いくつもの企業が結びついています。
出資や融資、長期契約が組み合わされることもあります。
ある企業が別の企業へ資金を出し、受け取った企業がその資金で、出資元の設備を買うとします。
設備を売った側には売上が生まれ、買った側には将来への投資が残ります。取引そのものが不自然というわけではありません。
ただし、こうした取引が何段階も重なると、業界全体で大きな金額が動いていることに目を奪われがちです。
そのとき私が確かめたいのは、最後にAIサービスを利用する人や企業が、どれだけ継続的に料金を払っているかということです。
最終的な利用者から十分な収入が生まれなければ、設備を買うためのお金が企業の間を行き来しても、投資全体を回収することはできません。
大切なのは、契約や発表の金額よりも、実際に外から入ってくる現金です。
過去の金融危機と同じとは限りません
金融市場に不安があると聞くと、2008年のリーマン・ショックのような大きな金融危機を思い出す方もいるでしょう。
ただし、今の仕組みが当時とまったく同じわけではありません。
銀行には以前より厳しい管理が求められていますし、非公開の融資には、投資家が長期間お金を預けることを前提とした仕組みもあります。
そのため、問題が起きたからといって、すべての投資家が一斉に資金を引き出すとは限りません。
損失がすぐに売買価格へ表れるのではなく、新しい融資が減る、借り換えに時間がかかる、評価額が後から下がる、といった形でじわじわと進む可能性もあります。
私が気にしているのは、突然の大混乱だけではありません。
お金を貸す側が少しずつ慎重になり、その結果、投資を続けられなくなる企業が増えることです。
設備投資が減れば、建設、電力、機械、半導体など、さまざまな産業へ影響が広がるおそれがあります。
日本の中小企業にも関係のある話です
海外の大きな金融市場の話は、自分の会社とは遠いことのように感じられるかもしれません。
しかし、借りたお金で利益を生み、そこから返済するという基本は、日本の中小企業でも同じです。
日本でも2026年9月に政策金利が1.25%程度へ引き上げられ、借入金の利息は少しずつ重くなってきています。
新しい機械を入れるとき、「今なら融資してもらえるから」という理由だけで決めてしまうことはないでしょうか。
本当に考えるべきなのは、その機械によって売上や仕事の効率がどれだけ改善し、借入金を返したあとにどれだけ現金が残るかです。
以前、ある製造業の社長さんから、受注増に合わせて設備を入れたいというご相談を受けました。
返済予定表と月ごとの資金繰り表を並べ、売上が計画より1割少なかった場合も試算してみると、半年ほど資金が薄くなる時期があることが分かりました。
そこで導入時期をずらし、無理なく設備を入れることができました。
計画どおりに売上が増えなかった場合や、材料費、人件費、金利が上がった場合も考えておく必要があります。
利益が出ていても、売掛金の回収が遅れたり、大きな支払いが重なったりすれば、手元のお金が足りなくなることがあります。
銀行以外の資金調達手段が増えるのは、悪いことではありません。
事業承継や企業買収、新しい分野への挑戦などでは、通常の融資だけでは対応しにくい資金需要があるからです。
ただ、資金を調達できることが、その事業の成功を保証するわけではありません。
経営者が日頃から見ておきたいのは、売上の大きさだけでなく、毎月どれだけ現金が入り、どれだけ出ていくかという流れです。
借入金の返済予定を並べ、少し厳しめの売上を想定しても資金が回るかを確かめておくことが、景気の変化に備える第一歩になります。
投資する人が確かめておきたいこと
個人の資産運用でも、考え方は変わりません。
高い利回りをうたう商品には、それに見合う理由があります。
借り手の信用力が十分ではない、途中で売却しにくい、資産の値段が分かりにくい、といった条件が関係しているかもしれません。
確認したいのは、誰にお金を貸しているのか、借り手は何から返済するのか、投資したお金はいつ戻ってくるのか、という点です。
海外の資産であれば、為替の変動によって円に戻したときの金額が変わることにも注意が必要です。
仕組みを十分に理解できない商品に、生活に必要なお金を大きく振り向けないことも大切です。
高い収益を期待する前に、損失が出た場合と、すぐに現金に換えられない場合の両方を考えておきたいところです。
これから考えられる三つの道筋
今後の展開は、大きく三つに分けて考えられます。
一つ目は、企業の投資が十分な売上につながり、借入金も無理なく返済される展開です。
新しい資金の貸し手が銀行を補い、設備投資や技術開発を支える力になります。
貸す側も借りる側も、利益を得られる可能性があります。
二つ目は、事業の中身や財務の強さによって、資金調達の条件に差が広がっていく展開です。
現金をしっかり生み出す企業にはお金が集まり、返済の余裕が小さい企業には厳しい条件が示されます。
私は現時点で、この「選別」が進む可能性がもっとも高いと考えています。
三つ目は、AI関連の投資回収が想定より遅れ、借り手の返済問題と貸し手の資金不足が重なる展開です。
融資が急に細れば、設備投資を予定していた企業まで影響を受けるかもしれません。
ただし、これは備えておくべき可能性の一つであって、必ず起こると決まった未来ではありません。
どの方向へ進んでいるのかを見極めるには、大きなニュースだけでなく、企業の利払いの状況、借り換えの条件、ファンドの解約制限、設備投資から生まれる現金の動きといった、地道な情報が手がかりになります。
最後に―お金を集める力より、お金を生み出す力
新しい技術が広がるときには、期待も資金も一気に集まります。
それは社会を変える大きな力です。
銀行以外の貸し手が増えたことも、企業の挑戦を後押しするという意味では前向きな変化だと思います。
しかし、お金の通り道が増えるほど、どこで利益が生まれ、誰が返済の責任を負うのかが見えにくくなることがあります。
市場が成長しているという事実だけでは、その中にあるすべての取引が安全だとまでは言えません。
大切なのは、借りられる金額の大きさでも、発表された投資計画の華やかさでもありません。
投資の結果、利用者が本当に必要とする価値が生まれ、その対価として現金が入り、借りたお金を返していけるかどうかです。
私は、これからのAIの成長に期待しながらも、その足元にある資金の流れを丁寧に見ていきたいと思います。
技術の未来に希望を持つことと、お金の使い方を冷静に確かめることは、十分に両立するはずです。
※本記事は、特定の金融商品の購入や売却をお勧めするものではありません。





