世界の長期金利上昇は一時的なのか―「低金利が当たり前だった時代」の終わりを考える
ここ数年、日本でも海外でも金利が大きく上昇しています。
日本では長い間、金利がほとんどない状態が続いてきました。
そのため、金利が少し上がっただけでも大きなニュースになります。
しかし、今起きていることを日本だけの問題として見てしまうと、大きな流れを見落としてしまうかもしれません。
世界を見ると、米国でも欧州でも、長い期間の国債金利が上昇しています。
特に注目したいのは、1年や2年といった短い期間の金利だけではなく、10年、20年、30年といった長い期間の金利が高くなっていることです。
これは単に、
「中央銀行が政策金利を上げたから、国債金利も上がっている」
という説明だけでは十分ではないように思います。
私は、今の世界ではもっと大きな変化が起きている可能性があると考えています。
それは、
「お金が余り、金利が下がり続ける世界」から、「政府も企業も大量のお金を必要とし、資金を奪い合う世界」への変化です。
もしこの見方が正しければ、現在の金利上昇は一時的なものではありません。
2008年の世界金融危機以降、長く続いてきた低金利の時代そのものが、大きな転換点を迎えている可能性があります。
短期金利ではなく、長期金利が上がっている意味
まず注目したいのが、長い期間の国債の金利です。
世界の国債市場を見ると、10年以上の期間を持つ国債の利回りは、2000年代前半以来の高い水準まで戻ってきています。
一方で、より短い期間の国債金利は、それより低い水準にあります。
この違いは重要です。
短期の金利は、中央銀行の政策に強く影響されます。
例えば中央銀行が、
「これから利下げします」
と言えば、短い期間の国債金利は比較的素直に下がります。
しかし、30年国債を買う人は事情が違います。
30年間もお金を固定するわけですから、
「30年後まで物価はどうなるのか」
「政府の借金はどこまで増えるのか」
「これから国債がどれほど発行されるのか」
「通貨の価値は守られるのか」
といったことまで考えなければなりません。
そのため、長い国債ほど将来の不確実性に対する上乗せ金利が必要になります。
この上乗せ部分を、専門的には「タームプレミアム」と呼びます。
簡単に言えば、
長期間お金を貸すのだから、その分だけ余分な利息をください
ということです。
今の長期金利上昇には、このタームプレミアムの上昇がかなり含まれている可能性があります。
もしそうであるなら、中央銀行が政策金利を少し下げただけでは、長期金利が以前の水準まで戻らないことも考えられます。
世界は「国債が足りない時代」から「国債が増え続ける時代」へ
2000年代から2010年代を振り返ると、世界にはお金が余りやすい環境がありました。
企業の設備投資はそれほど強くありませんでした。
人口構成や経済環境の影響もあり、多くの国や家計が貯蓄を増やしていました。
さらに、世界金融危機やコロナ禍の後には、各国の中央銀行が大量の国債を購入しました。
つまり、
国債を買いたいお金が多い一方で、市場で吸収しなければならない国債はそれほど多くない
という状況が生まれやすかったわけです。
需要が多く供給が少なければ、国債の価格は上がります。
国債の価格が上がれば、金利は下がります。
これが、世界的な低金利を支えた大きな理由の一つでした。
ところが、現在は状況が大きく変わっています。
世界各国の政府債務は増え続けています。
世界全体で見ると、政府債務はGDPと比べても非常に大きな水準まで膨らんでおり、この先さらに増える可能性があります。
しかも問題は、これまでに積み上がった借金だけではありません。
毎年の財政赤字も大きい状態が続いています。
すでに借金が大きいのに、さらに毎年借金を増やしているということです。
これが続けば、市場に供給される国債も増え続けます。
国債そのものの信用がなくならなくても、供給量が大きく増えれば、投資家は以前より高い金利を求めるようになります。
ここは非常に大切です。
国債金利が上昇する理由は、
「この国は破綻するのではないか」
という信用不安だけではありません。
もっと単純に、
国債がたくさん発行されるなら、以前と同じ低い金利では買いたくない
という需給の問題でも金利は上がります。
今後の国債市場を考えるとき、この「供給量」という視点はますます重要になると思います。
政府がお金を必要とする理由が増えている
では、なぜ政府はこれほどお金を使うのでしょうか。
一つだけの理由ではありません。
高齢化が進めば、年金、医療、介護などの社会保障費が増えます。
世界情勢が不安定になれば、防衛費も増えます。
電力網や道路、橋などのインフラ整備にもお金が必要です。
エネルギー問題への対応にも巨額の投資が必要になります。
気候変動への対応にも資金がかかります。
さらに景気が悪くなれば、政府は景気対策を行わなければならなくなります。
つまり、政府にとっては、
「借金を減らしたいから支出を減らします」
と簡単には言えない状況になっています。
むしろ政治の現実を考えれば、今後も政府支出はなかなか減らない可能性があります。
その結果、国債の供給も増えやすくなります。
政府だけではありません。企業も大量のお金を必要としています
現在の世界で非常に重要なのが、民間企業の資金需要です。
特にAI関連では、膨大な設備投資が始まっています。
AIそのものはソフトウェアのように見えますが、実際には大量の電力と設備が必要です。
データセンターを建設する必要があります。
高性能な半導体も必要です。
発電設備も送電網の強化も欠かせません。
工場や土地、冷却設備も必要になります。
つまりAIが成長すればするほど、現実の世界では大きな設備投資が必要になります。
さらに企業はAI以外にも、防衛、半導体、エネルギー、インフラなどに多額の資金を投じています。
ここで重要なことが起きます。
政府は国債を発行して資金を集めます。企業も社債や借入れなどで資金を集めます。
つまり、政府と民間企業が、同じ金融市場からお金を集めようとすることになります。
市場に無限のお金があれば問題ありません。
しかし実際の資本には限りがあります。
政府も欲しい。
企業も欲しい。
住宅を買う人も欲しい。
新しい事業を始める人も欲しい。
そうなれば、お金の値段は上がります。
その値段が金利です。
私は、現在の世界的な金利上昇を考えるとき、この「資本の奪い合い」という視点が非常に重要だと思っています。
「成長すれば借金問題は解決する」は本当なのか
政府債務を考えるとき、よく出てくる考え方があります。
それは、経済を成長させれば、借金の問題は小さくなる、というものです。
これは計算上は間違っていません。
例えば政府債務が100あったとします。
GDPも100なら、政府債務はGDPの100%です。
しかし経済が成長してGDPが150になれば、借金が100のままなら債務比率は約67%まで下がります。
そのため、経済成長は政府債務問題を解決するうえで非常に重要です。
現在、多くの国がAIなどによる生産性向上に期待している理由の一つもここにあります。
しかし、この考え方には注意が必要です。
経済成長が強くなれば、税収は増えるでしょう。
一方で、企業の設備投資も増えます。
賃金も上がりやすくなります。
資金需要も増えます。
物価にも上昇圧力がかかるかもしれません。
その結果、金利が上がる可能性があります。
つまり、経済成長が高くなれば、自動的に政府債務問題が解決するわけではありません。
成長率が上がっても、それ以上に金利が上昇すれば、政府の利払い負担は増えてしまいます。
例えばAIによって大きな経済成長が起きたとしても、そのためにデータセンター、発電所、半導体工場などへ巨額の投資が必要になれば、資金需要はさらに強くなります。
すると、成長率は上がる。
しかし金利も上がる。
ということが十分に起こり得ます。
これからの世界では、「経済成長率が何%になるか」だけではなく、経済成長率と金利のどちらが高くなるのかを見ることが非常に重要になります。
本当に怖いのは「高い借金」と「高い金利」が同時に起こること
政府債務が大きいこと自体は、新しい話ではありません。
日本をはじめ、多くの先進国では以前から政府債務が増えてきました。
しかし、それでも大きな問題にならなかった理由の一つは、金利が非常に低かったからです。
借金が大きくても、金利が0%に近ければ利払い負担はそれほど増えません。
ところが、金利が3%、4%、5%となれば話が変わります。
重要なのは、金利が何%かだけではありません。
その金利を、どれだけ大きな借金にかけるのか、ということです。
例えば債務がGDPの50%程度の国と、100%を超える国では、同じ5%の金利でも政府に与える影響はまったく違います。
これから警戒すべきなのは、高債務と高金利が重なる組み合わせです。
債務が大きい。
金利も高い。
すると政府の利払いが増えます。
利払いが増えれば財政赤字が拡大します。
財政赤字が増えれば、さらに国債を発行します。
国債の供給が増えれば、投資家はより高い利回りを求めます。
その結果、さらに金利が上がります。
このような悪循環が始まると、金利上昇は金融政策だけでは止めにくくなります。
景気後退が来れば金利が下がる、とは限らない
これまで世界では、大きな景気後退が起きると、ある程度決まった動きがありました。
景気が悪化します。
中央銀行が金利を下げます。
政府が景気対策を行います。
投資家は安全な国債を買います。
国債価格が上がります。
長期金利が下がります。
金利低下によって企業や家計の負担が軽くなり、やがて景気や株式市場が回復します。
これは2008年以降、多くの人が慣れてきた流れです。
しかし次の大きな景気後退でも、同じことが起きるとは限りません。
政府債務がすでに大きい状態で、さらに大規模な景気対策をすれば、国債発行は一段と増えます。
すると市場が、
「これだけ国債が増えるなら、もっと高い金利でなければ買えない」
と考える可能性があります。
つまり、景気が悪化し、政府が財政出動を行い、国債が増発され、その結果として長期金利が上昇するという、以前とは違う動きも起こり得ます。
これは非常に大きな変化です。
政府は景気を支えるためにお金を使う。
しかし、その結果として国債市場を不安定にする。
そのような難しい政策運営が求められる可能性があります。
米国の問題は「信用」より「量」かもしれない
米国の財政赤字は、かなり大きな状態が続いています。
重要なのは、これが大きな戦争や金融危機の真っただ中だけで起きているわけではないということです。
通常、大幅な財政赤字は非常時に増えます。
景気が回復すれば、税収が増え、財政赤字も少しずつ縮小していきます。
ところが平時でも大きな赤字が続くようになると、問題の性質が変わります。
次に本格的な景気後退が来れば、そこからさらに財政赤字を増やさなければなりません。
そのとき市場は、
「米国は返済できるのか」
だけを見るわけではありません。
むしろ、
毎年発行される大量の国債を、世界の投資家はいくらの金利なら買うのか
という問題になります。
米国債に信用があっても、供給量が増えすぎれば金利は上昇します。
これは、スーパーに同じ商品が大量に並べば値段を下げなければ売れないのと似ています。
国債の場合、価格が下がることは利回りが上がることを意味します。
これから米国債を見るときは、信用力だけではなく、供給量と買い手の力関係を見る必要があります。
国債の買い戻しだけでは根本問題は解決しない
最近では、国債市場を安定させるために、政府が市場にある国債を買い戻す動きもあります。
こうした方法には一定の効果があります。
市場で売買しにくくなっている国債を買い戻せば、市場の流動性を改善できます。
特定の年限の国債を減らすことで、長期金利への圧力を一時的に弱めることもできます。
しかし、根本的な問題が政府債務そのものの増加にあるのであれば、買い戻しだけで解決することはできません。
長期国債を買い戻して短期国債を多く発行すれば、国債の構成を変えることはできます。
しかし政府全体の借金が減るわけではありません。
そのため、こうした政策は、財政問題そのものを解決する政策というより、市場の痛みを一時的に弱める政策として見る必要があります。
最終的には、政府支出と税収の差をどうするのかという問題に戻ってきます。
日本の長期金利上昇も世界の流れと切り離せない
日本では、10年国債の利回りが大きく上昇してきました。
日本国内だけを見ていると、日銀の金融政策の変更、政府の財政政策、日本の政府債務といった国内要因だけで説明したくなります。
もちろん、これらは非常に重要です。
しかし、それだけではありません。
現在は米国、欧州、日本を含め、世界的に長期金利が上昇しています。
つまり日本は、世界的な長期金利上昇に、日銀の金融政策正常化、日本政府の財政問題、国内の国債供給増加といった複数の要因が同時に重なっていると考える方が自然です。
これが日本にとって難しいところです。
仮に日本政府が財政を少し改善したとしても、米国や欧州の長期金利が高いままであれば、日本の金利だけが以前のような極端な低水準に戻るのは難しいかもしれません。
世界の投資家は、日本国債だけを見て投資しているわけではないからです。
米国債の金利が高ければ、
「わざわざ非常に低い金利の日本国債を持つ必要があるのか」
という比較が行われます。
世界の資本市場はつながっています。
その意味で、日本の金利にも世界の金利環境が影響する時代になったと考えた方がよいでしょう。
特に注意したいのは30年、40年という超長期国債
日本では10年国債の金利がよくニュースになります。
しかし今後、より注意して見たいのは30年国債や40年国債です。
10年金利には、日銀が今後政策金利をどうするかという予想がかなり反映されます。
一方、30年、40年という長い期間になると、それだけではありません。
将来の財政、将来のインフレ、政府債務の増加、国債供給、通貨の価値といった問題がより強く影響します。
例えば日銀が利上げを止めたとします。
その結果、10年金利が落ち着いた。
ところが30年や40年の国債金利だけが上がり続ける。
このような状態になったとすれば、市場は単に日銀の政策を見ているのではなく、日本の長期的な財政やインフレに対して、より高い金利を求めている可能性があります。
これはかなり重要な警告になります。短期金利だけでは、国の財政に対する市場の評価は十分に分かりません。
これからは、国債市場の長い年限まで見る必要があります。
「低金利が当たり前」という考え方を変える必要がある
現在の金利水準だけを見れば、
「昔もこのくらいの金利はあった」
と思う人もいるでしょう。
確かに2000年代前半には、現在と同じ程度、あるいはそれ以上の国債金利が見られました。
しかし当時と現在では大きな違いがあります。
現在の方が、政府債務がはるかに大きいのです。
そのため、「金利が昔の水準に戻っただけ」と考えるのは危険だと思います。
むしろ重要なのは、2008年以降の世界を特別な時代だったと考えることではないでしょうか。
世界金融危機の後、世界中の中央銀行が大規模な金融緩和を行いました。
政策金利を下げました。国債も大量に購入しました。
さらに企業の投資需要も比較的弱く、世界に資金が余りました。
その結果、国債金利は歴史的に低い水準まで下がりました。
コロナ禍では、それがさらに極端になりました。
しかし現在は逆方向に動いています。
政府の借金は増えています。
国債発行も増えています。
企業の設備投資も増えています。
防衛費もAI投資もエネルギー投資も増えています。
高齢化による政府支出も増えています。
この状態で、「インフレさえ落ち着けば、また金利は昔の0%近くまで戻る」と考えるのは、少し楽観的かもしれません。
現在起きていることは、金利が一時的に上昇しているというより、極端な低金利を可能にしていた条件が消えつつあると考えた方が分かりやすいのではないでしょうか。
国債の金利が上がると、株式市場にも大きな影響が出る
この変化は、債券市場だけの話ではありません。
株式市場にも大きく影響します。
これまで金利がほとんどない時代には、投資家にとって大きな悩みがありました。
預金には利息がつかない。
国債にもほとんど利息がつかない。
そのため、「多少リスクを取ってでも株を買うしかない」という状況が生まれました。
株式以外に魅力的な投資先が少なかったわけです。
その結果、株式市場には大量の資金が入りました。
多少株価が高くても買われました。
将来大きく成長しそうな企業であれば、現在の利益が少なくても高い評価を受けました。
しかし国債だけでも数%の利回りが取れる世界になると状況は変わります。
例えば、安全性の高い国債で4%の利回りが得られるのであれば、投資家は考えます。
「わざわざ大きな値下がりリスクを取って株を買う必要があるのか」
株式が選ばれるためには、国債よりも高いリターンが期待できなければなりません。
これは株式の値段に大きく影響します。
高いPERが許されにくくなる
株価を見るときによく使われる指標にPERがあります。
例えばPER30倍ということは、現在の利益に対してかなり高い株価が付いているということです。
金利が0%なら、それでも投資家は受け入れるかもしれません。
他に魅力的な投資先がないからです。
しかし安全な国債でも4%や5%近い利回りが得られるなら、PER30倍の株を買うためには、それに見合う高い成長が必要になります。
そのため、高金利が長く続く世界では、高いPERの成長株、不動産、REIT、未公開株投資、借入れを多く使う投資などは、以前より厳しい評価を受けやすくなります。
逆に、しっかり利益を出せる企業、自分で価格を決める力がある企業、借金が少ない企業、現金を生み出す力が強い企業は、より評価されやすくなるでしょう。
これから株式投資で重要なのは、「株価が上がりそうか」だけではありません。
この会社は、国債で得られる数%の利回りを上回るだけの利益成長を生み出せるのか、という視点が必要になります。
これは投資の考え方そのものを変える可能性があります。
お金が株式市場へ流れ込み続ける時代ではなくなる
これまでの長い低金利時代には、市場に大量のお金が供給されました。
そのお金は、株式、不動産、REIT、未公開企業、さまざまな高利回り商品へ流れ込みました。
これが資産価格を押し上げました。
しかし国債そのものに十分な利回りが戻れば、資金の一部は安全資産へ戻ります。
これは、「世の中からお金が消える」という意味ではありません。
より正確には、株式市場へ行くしかなかったお金に、国債という競争相手が戻ってきたということです。
私は、この変化は非常に大きいと思っています。
過剰な資金が資産価格を押し上げ続けるという前提が崩れれば、株式市場も不動産市場も以前と同じ値付けではいられません。
だからといって、すぐ世界的な債務危機が起こるわけではない
ここまで読むと、
「世界の国債市場が崩壊するのではないか」
と心配になるかもしれません。
しかし、そこまで単純ではありません。
国債は金利が上がれば、買いたい投資家も増えます。
例えば非常に低い利回りでは買いたくなかった年金基金や保険会社も、十分な利回りが出れば買いやすくなります。
銀行にとっても同じです。個人投資家にとっても、国債で数%の利回りが得られるなら魅力は高まります。
つまり市場には、自分でバランスを取ろうとする力があります。
金利が上がる。
国債価格が下がる。
すると利回りが魅力的になる。
買い手が増える。国債価格が安定する。
こうした動きです。
したがって本当の問題は、国債に買い手がいなくなるかどうかではありません。
重要なのは、何%の金利なら十分な買い手が現れるのか、ということです。
以前は1%や2%でも買い手がいた。
しかし今後は3%でも十分でないかもしれない。
4%なら買う人が増えるかもしれない。
国によっては5%が必要になるかもしれない。
いま世界の国債市場は、その新しい金利水準を探している途中なのだと思います。
先進国では「破綻」より別の形で調整される可能性がある
日本や米国の政府債務が増えているからといって、すぐに典型的な国家破綻が起こるとは限りません。
日本も米国も、自国通貨で国債を発行しています。
中央銀行もあります。
国内の銀行や保険会社、年金基金など、大きな国債保有者もいます。
そのため、外貨で借金をしている国とは状況が違います。
むしろ先進国で考えなければならないのは、直接的な債務不履行ではなく、インフレ、通貨安、金融政策による国債市場への支援、低い実質金利といった方法で、長い時間をかけて債務負担を軽くしていく可能性です。
政府にとって、急激な増税や大幅な歳出削減は政治的に非常に難しいからです。
このため、「政府は借金を返せるか」という問いだけでは十分ではありません。
むしろ、どのような形で借金の実質的な負担を減らしていくのかを見る必要があります。
そのとき「金」の意味も変わってくる
もし世界各国が、政府債務を簡単には減らせない、大幅な増税も難しい、大幅な歳出削減も難しい、高い金利にも長期間は耐えにくい、という状況になれば、最終的にはインフレや通貨価値の低下によって調整しようとする可能性があります。
このとき注目されるのが金です。
金には企業の利益がありません。
利息も付きません。
しかし同時に、どこかの政府が返済してくれることを前提とした資産でもありません。
国債は政府の信用によって成り立っています。
預金は金融システムの信用によって成り立っています。
通貨は国への信頼によって成り立っています。
一方、金はそれとは少し違った存在です。
そのため、政府債務が増え続け、通貨の価値に対する不安が高まる環境では、金が一種の保険として選ばれやすくなる可能性があります。
最近、世界の中央銀行の一部が金の保有を増やしている背景にも、地政学だけではなく、こうした長期的な財政や通貨への不安があると考えることもできます。
本当に起きているのは「金利上昇」ではないのかもしれない
私は今の状況を、「金利が高くなった」という言葉だけで説明するのは不十分だと思っています。
より大きな変化は、低金利を可能にしていた世界の条件が変わったことではないでしょうか。
以前は、世界に貯蓄が多い。
企業の投資需要が弱い。
中央銀行が国債を大量購入する。
インフレが低い。
政府債務の利払い負担も小さい。
という条件がそろっていました。
だから金利は非常に低くなりました。
現在は、政府債務が増える。
財政赤字が続く。
国債発行が増える。
防衛投資もAI投資もエネルギー投資も増える。
高齢化による支出が増える。
企業も設備投資を増やす。
という方向へ変わっています。
これだけ資金を必要とする主体が増えれば、資本の値段である金利も高くなりやすくなります。
そう考えると、「中央銀行がいつ利下げをするか」だけを追いかけても、長期金利の方向は十分に分からなくなります。
これから10年で重要になる問い
これから世界の金融市場で、ますます重要になっていく問いがあります。
それは、巨大化した政府債務を、世界の誰が、どの金利で引き受けるのか、という問いです。
政府は借金を減らしたい。
しかし支出も減らしにくい。
企業は成長したい。
そのため設備投資を増やしたい。
家計も住宅を買いたい。
AI企業もデータセンターを建てたい。
電力会社も設備投資したい。
防衛産業も投資したい。
すべてが同じ資本市場からお金を求めます。
しかし資本は無限ではありません。
その有限な資本を誰が使うのか。
どのくらいの金利を払えば資金を集められるのか。
その調整役になるのが金利です。
だから私は、現在の世界的な長期金利上昇を、「資本が再び貴重なものになったことを、市場が価格に反映し始めている」と考えています。
日本にとっても他人事ではありません
日本は長い間、世界でも特に低金利の国でした。
そのため私たちは、金利はほとんど上がらない、国債金利は低いのが普通、住宅ローン金利も低い、企業も安く借りられる、という世界に慣れてしまいました。
しかし、もし世界全体の金利の基準そのものが上がるのであれば、日本もその影響を避けることはできません。
日本の場合は、さらに政府債務が非常に大きいという問題があります。
そのため、金利が少し上がっただけでも、長い時間をかけて政府の利払い負担が増えていきます。
もちろん国債の金利が上がったからといって、既存の国債すべての金利が突然上がるわけではありません。
国債は少しずつ借り換えられていきます。
そのため影響は徐々に出てきます。
しかし逆に言えば、高金利が長期間続けば、時間とともに利払い負担が積み上がっていきます。
ここが日本にとって非常に重要です。
一時的に3%になることより、3%前後の金利が何年続くのかの方が、はるかに大きな意味を持つ可能性があります。
これから見るべきなのは政策金利だけではない
私たちは金融ニュースを見ると、つい中央銀行の政策金利に注目します。
利上げするのか。
利下げするのか。
次の会合で何が決まるのか。
もちろん、それも重要です。
しかし今後は、それだけでは世界の金利を理解できなくなるかもしれません。
むしろ、政府の財政赤字はどのくらいか。
国債はどのくらい発行されるのか。
30年、40年国債の金利はどうなっているか。
投資家はどの程度の上乗せ金利を求めているか。
企業の設備投資はどの程度増えているか。
世界全体の資金需要はどのくらい強いか。
こうしたことを見る必要があります。
中央銀行が短期金利を下げても、政府が大量の国債を発行し続ければ、長期金利が思ったほど下がらないこともあります。
これからの金融市場では、短期金利と長期金利が別々の動きをする場面が以前より増えてくるかもしれません。
最後に
今起きている世界的な長期金利上昇を、一時的な金融政策の正常化だけで説明するのは難しくなってきているように思います。
もちろん、インフレや中央銀行の政策も大きな要因です。
しかし、それと同時に、政府債務の増加、財政赤字の常態化、国債供給の増加、高齢化、防衛支出、AI投資、エネルギー投資、インフラ投資など、世界全体でお金を必要とする理由が一気に増えています。
つまり、政府と企業が、限られた資本を奪い合う世界になりつつあります。
その結果として金利が上昇しているのであれば、問題は中央銀行が利下げすれば終わるほど単純ではありません。
私は、これからの世界で最も大切なのは、「中央銀行が次に何%利下げするのか」という短期的な予想だけではないと思っています。
もっと重要なのは、増え続ける政府債務と巨大な民間投資を、誰がどの金利で支えるのか、という問題です。
そして、この変化は債券だけにとどまりません。
株式、不動産、住宅ローン、企業の借入れ、政府財政、通貨、金など、ほぼすべての資産や経済活動に影響します。
これまで十数年間の投資や経営は、「金利は低い」という大きな前提の上に成り立っていました。
しかし、もしその前提が変わったのであれば、私たちも考え方を変えなければなりません。
株式であれば、単に成長するかどうかではなく、国債金利を上回るだけの利益を生み出せるのか。
企業経営であれば、安い借入れを前提とした投資計画になっていないか。
住宅購入であれば、金利が以前の水準に戻らない場合でも返済できるか。
政府財政であれば、高い金利が長期間続いたときに利払いを維持できるのか。
こうした視点が必要になります。
私は、今の世界で起きていることを一言で表すなら、「金利が上がった」というより、「低金利でいられた時代の条件が失われつつある」ということだと思っています。
そして、その変化を最も早く、最もはっきりと示しているのが株式市場ではなく、長期国債市場なのかもしれません。
これから数年間、世界経済の大きな変化を考えるうえで、長期金利、特に10年を超える国債の動きは、これまで以上に注意して見ていく必要があると思います。





