世界の借金が膨らむ時代、日本はどう備えるべきか―金利と成長から考えるこれからの財政
世界各国で、政府の借金が増え続けています。
米国では長期の国債金利が高い水準で推移し、ヨーロッパでも財政の先行きを心配する声が強まっています。
日本でも、10年、20年、30年といった長い期間の国債ほど、金利の上昇が注目されるようになりました。
これらは、別々の国で起きている出来事に見えます。
しかし、少し離れたところから眺めると、共通した課題が浮かび上がります。
国が必要なお金を集めるための負担が重くなり、将来のために使えるお金が限られていく、という課題です。
この変化は、金融市場の専門家だけに関係する話ではありません。
税金、教育、医療、年金、物価、そして企業の借入金利まで、私たちの暮らしや仕事にもつながっています。
今回は、世界の財政問題を入り口に、日本の将来と、私たちが備えておきたいことを考えてみたいと思います。
世界の借金が、世界の経済規模に近づいています
IMF(国際通貨基金)によると、世界各国の政府が抱える借金の合計は、2025年の時点で世界全体のGDP(国内総生産)の90%台半ばに達しています。
さらに2020年代の終わりごろには、ほぼ100%に届くと見込まれています。
世界で1年間に生み出されるモノやサービスの価値と、政府の借金の残高が、ほぼ同じ大きさになるということです。
これは、第二次世界大戦の直後以来の高さだとされています。
もちろん、世界中の政府が一つの銀行からお金を借りているわけではありません。
国によって通貨も金利も違い、借金の返し方も異なります。
そのため、世界全体の数字がある水準に達したからといって、翌日からすべての国が返済に困るわけではありません。
それでも、長い目で見れば大きな変化です。
以前は、景気が悪くなったときに、政府が追加でお金を使う余地を確保しやすい国が多くありました。
今は、その余地が小さくなっている国が増えています。
大切なのは、借金の多さだけでなく、これから必要になるお金を無理なく用意できるかどうかではないでしょうか。
借金が多い国が、必ずしも最初に苦しくなるわけではありません
国の借金を比べるとき、よく使われるのが「債務のGDP比」です。
GDPとは、その国の中で1年間に新しく生み出されたモノやサービスの価値を合計したものです。
例えば、1年間のGDPが500兆円で、政府の借金が1,000兆円なら、債務のGDP比は200%になります。
この数字は大切ですが、これだけで国の財政の安全性を判断することはできません。
経済が成長して税収が増える国と、経済が縮んで税収が伸びない国とでは、同じ額の借金でも負担の重さが違います。
国債を自国の通貨で発行しているか、国内外に安定した買い手がいるかによっても事情は変わります。
さらに、政府が持っている資産、借金の返済期限、政治が予算を見直せるかどうかも重要です。
つまり、見るべきなのは「いくら借りているか」だけではありません。
「その国には返し続ける力があり、必要な見直しを実行できるか」という点まで確かめる必要があります。
注目すべきは、増え続ける利払いの負担です
国債を発行すると、政府は国債を持つ人たちに利息を支払います。
世界では長い間、金利の低い時期が続きました。
そのため、借金の残高が増えても、利息の負担はそれほど増えずに済んだ国もありました。
ところが、物価の上昇などを背景に、金利を低く保つことが難しくなっています。
IMFの分析では、各国政府がお金を借りる際に実際に負担している平均的な金利は、2021年の約2.3%から、2031年には約3.7%まで上がる見通しです。
米国では、利払い費がGDPに占める割合が、コロナ禍の前の3%弱から、2031年には5%台後半に達すると予測されています。
これは公的年金の支出に並ぶほどの規模です。
ここで注意したいのは、国債市場の金利が今日1%上がっても、政府が抱えるすべての借金の利息が明日から1%上がるわけではないことです。
過去に低い固定金利で借りた分は、通常、その条件が満期まで続きます。
ただし、古い国債の期限が来て、新しい国債に借り換えるたびに、高い金利が少しずつ予算に反映されていきます。
利払いが増えると、国の選択肢が減っていきます
家計に置き換えると、わかりやすいかもしれません。
毎月の住宅ローンの返済額が増えれば、家族旅行や子どもの教育、家電の買い替えなどに使うお金を見直すことがあります。
国の予算も、基本的な仕組みは似ています。
政府は、医療や年金を支え、学校や道路を整え、災害への備えを進めなければなりません。
防衛や子育ての支援も必要です。
その一方で、過去に発行した国債の利息も支払い続けます。
利払いが増えるほど、ほかの政策を充実させることは難しくなります。
実際には、利払いが増えた分だけ、教育費などが自動的に削られるわけではありません。
増税する、ほかの支出を見直す、さらに国債を発行するといった方法があります。
しかし、どの方法にも負担や限界があります。
財政に余裕がない状態とは、単にお金が足りないことではなく、政府が選べる方法が少なくなることなのです。
これからの時代は、支出を減らすことも簡単ではありません
政府の借金を減らしたいなら、支出を抑えればよいと考える方もいるでしょう。
しかし、いま各国が直面している課題は、それほど単純ではありません。
高齢化が進む国では、医療や介護に必要なお金が増えます。
安全保障への不安が強まれば、防衛やエネルギーの安定供給にも投資しなければなりません。
災害への対策、古くなった道路や水道管の更新、子どもの教育も、後回しにしにくい分野です。
そのうえ、物価が急に上がれば家計への支援を求める声が強まり、景気が悪くなれば雇用を守る対策も必要になります。
無駄な支出を減らせば、すべてが解決するわけではありません。
限られた財源を、何に優先して使うかを決めなければならない時代になっているのです。
AIへの投資は、成長の希望であると同時に、多くの資金を必要とします
人工知能、いわゆるAIの広がりには、大きな期待が集まっています。
仕事が効率化し、新しい商品やサービスが生まれれば、経済全体を押し上げる力になります。
人手不足に悩む日本にとっても、重要な技術です。
一方で、AIを動かすには、データセンター、半導体、発電設備、送電網などが欠かせません。
その整備には、非常に多くのお金がかかります。
IMFによると、AIに巨額の投資を続ける大手IT企業の社債発行は、2024年には世界の信用力の高い社債の発行額の1%未満でしたが、最近では約1割を占めるまでに増えています。
企業と政府が同じ時期に大量の資金を集めようとすれば、投資家のお金を奪い合う形になります。
こうした資金需要の高まりは、金利を押し上げる一因になると考えられます。
ただし、AI投資が増えれば必ず国債の金利が上がる、という単純な関係ではありません。
人々の貯蓄の量、中央銀行の政策、将来の物価の見通しなども影響します。
大切なのは、AIへの投資には「経済を成長させる効果」と「当面の資金需要を増やす効果」の両方がある、と理解しておくことです。
国債の返済期限にも、見逃せない違いがあります
政府の借金を考えるときは、残高と金利に加えて、「いつ借り換える必要があるか」も見ておきたいところです。
長い期間の固定金利で借りていれば、市場の金利が上がっても、すでに借りた分の利息はすぐには変わりません。
これに対し、期限の短い国債を多く発行している国は、何度も借り換えを行います。
そのときに市場の金利が高ければ、利払いの増加が早く表れます。
IMFも、返済期限の短い借金が多いことが、金利上昇の影響を早める要因になっていると指摘しています。
目先の利息が安いからといって、短い国債に頼りすぎることには危うさがあるのです。
日本の国債は、平均すると比較的長い期間で借りられています。
そのため、急な金利上昇の影響を、時間をかけて受けるという利点があります。
ただし、影響が消えるわけではありません。
金利の高い状態が続けば、借り換えのたびに負担が少しずつ積み重なっていきます。
世界の国々が、同じ問題を抱えているわけではありません
では、世界の借金が増えていく先に、何が起こるのでしょうか。
ある年に世界中の国が一斉に財政危機を迎えるというより、国ごとに異なる問題が少しずつ表面化していく可能性が高いと私は考えています。
米国は、世界中の投資家が国債を売買する巨大な市場を持っています。
それでも、政府の赤字と利払いの負担が膨らめば、国債をどの程度の金利で買ってもらえるかが重要な問題になります。
フランスのような国では、経済成長が伸び悩むなかで、年金や社会保障の制度をどう見直し、国民の理解を得るかが課題です。
日本では、巨額の債務を抱えながら、長く続いた低金利の時代からどのように移っていくかが大きなテーマになっています。
どの国も「借金が多い」という一言だけでは説明できません。
政治への信頼、経済の成長力、国債の買い手といった条件の違いが、今後ますます大きな意味を持つと考えられます。
日本の財政には、改善している部分もあります
日本の政府債務は、IMFの推計で2026年にGDPの約204%と、およそ2倍に当たる非常に大きな水準です。
主要国の中でも突出しており、この数字だけを見て不安になるのは当然です。
しかし、最近の動きを見ると、悪い話ばかりではありません。
コロナ禍の時期と比べると、日本の債務のGDP比は下がってきました。
また、「基礎的財政収支」も、大幅な赤字だった時期から改善しています。
基礎的財政収支とは、国債の利払いや返済を除いた収入と支出の差のことで、日々の政策に必要なお金を、どの程度借金に頼っているかを見るための指標です。
改善の背景には、物価や賃金の上昇で名目GDPが大きくなったこと、税収が増えたこと、歳出がある程度抑えられたことなどがあります。
さらに、日本の国債は主に円建てで発行され、比較的長い期間で借りられてきたという強みもあります。
日本の財政を評価するときは、借金の残高だけでなく、こうした改善の流れも合わせて見る必要があるでしょう。
ただし、数字が改善しているだけでは安心できません
ここで気をつけたいのは、債務のGDP比が下がった理由です。
GDPは、モノやサービスの量が実際に増えることでも大きくなりますが、値段が上がることでも大きくなります。
名目GDPには、物価上昇の影響も含まれているからです。
例えば、経済活動の量がほとんど変わらなくても、商品の値段が上がれば名目GDPは増えます。
その結果、借金をGDPで割った割合が下がることもあります。
しかし、それで家計が豊かになったとは限りません。
物価の上昇に賃金が追いつかなければ、暮らしはむしろ苦しくなります。
さらに、日本には過去に低い金利で発行した国債が多く残っています。
日本の長期金利も、ここ数十年で最も高い水準まで上がってきました。
今後、低金利の国債が高い金利で借り換えられていけば、利払い費は増えていく可能性があります。
債務比率の改善と、将来の予算の使いやすさは、必ずしも同じ方向に動くとは限らないのです。
良い変化があるからといって、財政への注意をゆるめてよいわけではありません。
金利と経済成長の関係が、将来を左右します
国の財政を考えるうえで、もう一つ大切な関係があります。
それは、政府が借金に実際に支払っている平均的な金利と、名目GDPの成長率との差です。
経済の規模が、利息の負担より速いペースで大きくなれば、借金のGDP比は下げやすくなります。
反対に、経済がほとんど成長しないのに利息の負担だけが増えれば、財政は苦しくなります。
もちろん、政府が毎年どれだけ新たな赤字を出すかも、大きく影響します。
ここで比べる金利は、その日の10年国債の金利ではなく、政府の借金全体に実際にかかっている平均的な金利です。
ニュースで「長期金利が上昇」と聞いても、ただちに日本の財政が同じ幅だけ悪化すると判断しないことが大切です。
これからは、借金の総額、毎年の赤字、実際の利払い費、経済の成長率を、一緒に見ていく必要があります。
日本が目指したいのは、将来の稼ぐ力を増やす投資です
財政を健全にする方法として、増税や支出の削減がよく話題になります。
必要な見直しは避けられませんが、それだけで日本の将来が明るくなるわけではありません。
国内で新しい価値を生み出す力を育てることも、同じくらい大切だと私は考えています。
例えば、工場の省力化、電力の安定供給、研究開発、人材育成などに資金が向かえば、企業が生み出すモノやサービスの量や質を高められる可能性があります。
働く人の給料が上がり、利益を生む企業が増えれば、税収の土台も強くなります。
ただし、「成長のため」という名前が付いた支出なら何でもよい、というわけではありません。
多額の税金を投入しても成果が小さければ、将来の負担だけが残ります。
本当に必要かを見極め、途中で効果を確かめ、うまくいかなければやり方を改める姿勢が欠かせません。
財政規律を守ることと、成長のための投資を行うことは、対立する考え方ではありません。
どちらも、将来の選択肢を守るために必要なことです。
財政問題は、やがて政治の難しい選択になります
財政に余裕がある時期には、多くの人に支援を広げやすくなります。
しかし、支出を増やす余地が小さくなると、政府は優先順位をはっきり決めなければなりません。
子育て支援と高齢者の医療、防衛と教育、目の前の減税と将来の負担の軽減。
どれも大切だからこそ、簡単に答えは出ません。
負担を誰が引き受け、誰を優先して支えるのかという議論では、世代や立場によって意見が分かれます。
政治がその違いを丁寧に説明せず、先送りを続ければ、国民の不満や対立が強まるおそれがあります。
反対に、何のためにお金を使い、何を見直すのかを示し、納得できる仕組みを整えることができれば、財政への信頼を守ることにつながります。
財政問題は、数字の計算であると同時に、社会がどんな未来を選ぶかという問題でもあるのです。
「国債は危険だから買わない」という話ではありません
国の借金が増えていると聞くと、「国債は買わない方がよいのでは」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、政府の財政が心配されていることと、すべての国債が同じように危険であることとは、別の話です。
国債には、発行する国、満期までの期間、金利が固定か変動かなど、さまざまな違いがあります。
一般に、固定金利の長期債は、市場の金利が上がると、途中で売るときの価格が下がりやすくなります。
一方、期間の短い債券は価格の変動が比較的小さいものの、満期を迎えた後に同じ利回りで運用できるとは限りません。
日本の個人向け国債のように、発行から1年が経てば、直近2回分の利子に相当する額を差し引いたうえで、国が額面で買い取ってくれる商品もあります。
投資を考えるときは、利回りの高さだけでなく、いつ使う予定のお金なのか、途中で換金する可能性があるかを確認することが大切です。
金利が上がる時代には、預金や国債の利息が増えるという良い面もあります。
「国債は安全か危険か」と一言で決めつけず、ご自身の目的に合うかどうかを考えたいところです。
具体的な商品選びは、取引のある金融機関などにも相談しながら進めると安心です。
中小企業と家計にも、少しずつ影響が広がります
国の財政や国債の話は、日常から遠いと感じるかもしれません。
しかし、金利の変化は、会社の資金繰りや家庭のお金の使い方に確実につながっています。
中小企業が設備を買うために借り入れをする場合、以前より高い金利を提示されることが増えていくでしょう。
例えば、5,000万円を借りている会社なら、金利が1%違うだけで、年間の利息はおよそ50万円変わります。
借り換えや新しい借り入れを考えている経営者の方は、将来の売上と返済計画を、これまで以上に慎重に見積もっておきたいところです。
家庭でも、住宅ローンや預金の金利が変われば、支出と貯蓄のバランスが変わります。
また、国の予算が厳しくなれば、税や社会保障の制度をどう維持していくかという議論も増えていくでしょう。
金利を単なる金融ニュースとして聞き流すのではなく、会社や家庭の将来の計画に関わるものとして理解しておくことが大切です。
次の危機に備える力こそ、国の本当の強さです
世界はこれまで、大きな危機を何度も経験してきました。
金融機関が揺らいだとき、感染症が広がったとき、政府は人々の生活や企業活動を守るために、多額のお金を使ってきました。
将来も、同じような危機が起こらないとは限りません。
エネルギー価格の急騰、大きな災害、金融市場の混乱など、何が引き金になるかはわかりません。
そのとき、政府に財政上の余裕があれば、必要な支援を素早く行いやすくなります。
逆に、普段から利払いの負担が重く、国債を追加で発行するたびに市場の信頼が揺らぐような状態では、打てる手が限られます。
まったく支援できなくなるとは限りませんが、必要な対策にかかる費用は高くなりかねません。
防衛力や経済の規模だけでなく、いざというときに社会を支えるお金を動かせることも、国の大切な強さなのだと思います。
おわりに―大切なのは、未来に使えるお金を残すことです
世界の政府債務が大きくなっているというニュースを、「借金が増えた」という話だけで終わらせたくはありません。
より大切なのは、過去の借金に支払うお金が増えることで、未来に向けた政策を選ぶ自由が狭まっていくことです。
日本には、債務が非常に大きいという弱点がある一方で、最近の債務比率や財政収支には改善も見られます。
この流れを生かすには、金利の上昇に気を配るだけでなく、働く人と企業が新しい価値を生み出せる環境を整え、お金の使い道の効果を確かめ続けることが必要です。
今の負担を無理に先送りせず、次の世代が本当に必要なときに使えるお金を残しておくこと。
それが、これからの財政を考えるうえで、最も大切な視点ではないでしょうか。






