今は追い風、あとで向かい風? 高価格路線と“次の世代”の距離感

長期経営戦略

結論を先に一言で
「今、値上げがうまくいっているときこそ、”未来のお客さん”が触れられる入口を残しておこう」—これが今回のテーマです。

30秒でわかる要約

何が起きた?

東京ディズニーリゾートで、4〜11歳の子どもの来場者が10年間で31%減った。
高価格路線で利益は好調なのに、「次の世代」が離れ始めている。

なぜ大事?

これはテーマパークだけの話ではない。
値上げで今の数字が良くても、「未来のお客さん」との接点が消えると、10年後・20年後に”じり貧”になりかねない。

生活にどう関係する?

会社を経営している人、お店をやっている人、仕事で「値段をどうするか」を考える人にとって、「今の利益」と「将来の種まき」を両立させるヒントになる。

何が起きた?(ニュースの中身)

日本経済新聞の報道によると、東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市にある、ディズニーランドとディズニーシーを合わせたエリア)で、ちょっと気になる数字が出ました。

ポイント1:子どもの来場者が減っている

「α(アルファ)世代」と呼ばれる4〜11歳の子どもたちの来場者数が、2024年度に約360万人。
これは10年前と比べて31%も減っています。
全体に占める割合も、16.6%から13.1%に下がりました。

ポイント2:家族の出費が増えている

同じ報道では、家族4人で1日遊ぶと「5万〜6万円」かかるとされています。
チケット代だけでなく、食事やグッズも含めると、けっこうな金額ですよね。

ポイント3:それでも利益は好調

高価格路線のおかげで、今の利益は出ています。
さらに、海外から来るお客さん(訪日客)が増えていたり、円安(日本円の価値が下がって、海外の人から見ると日本が”バーゲン”みたいに安く見える状態)の影響もあって、数字は良く見えているのです。

なぜ起きた?(背景)

ここで「なぜこうなったのか」を、前提ゼロで説明します。

背景1:値上げは「悪」ではない

まず大前提として、値上げ自体は悪いことではありません。
会社を続けていくには、お金が必要です。
材料費や人件費(働く人に払う給料)が上がれば、商品やサービスの値段を上げないと、会社が赤字になってしまいます。
ディズニーも、アトラクションを維持したり、新しいエリアを作ったりするのにお金がかかります。
値上げは、ある意味で「続けるための選択」なのです。

背景2:追い風があると、危機感が薄れやすい

今は「追い風」が吹いています。
海外からの観光客が増えている。
円安で海外の人には日本が安く見える。
こういう環境だと、値上げしても売上が落ちにくい。
だから「今のやり方で大丈夫」と感じやすくなります。

例え話で言うと……

これは、テスト勉強に似ています。
たとえば、たまたま得意な範囲が出て、あまり勉強しなくても点数が取れたとします。
「ラッキー、このままでいいや」と思いますよね。
でも次のテストで苦手な範囲が出たら、急に点数が下がる。
会社も同じで、「追い風で売上が取れている」ときに「これでいい」と思ってしまうと、風向きが変わったときに急に苦しくなります。

背景3:子どもが来なくなると、10年後の常連が消える

ここが一番大事なポイントです。

今、4〜11歳の子どもがディズニーに来なくなっているということは、その子たちが大人になったとき「思い出の場所」としてディズニーを選ばなくなる可能性がある、ということです。

人は「子どものころに楽しかった場所」に、大人になってからも行きたくなるもの。
逆に言えば、子ども時代に行ったことがない場所は、選択肢に入りにくい。

つまり、「今の子どもが来ない」は、「10年後・20年後のお客さんが減る」につながりかねないのです。

生活への影響(良い面と注意点)

この話、テーマパークだけのことではありません。
会社を経営している人、お店をやっている人、仕事で「価格」や「お客さんとの関係」を考える人にとって、大事なヒントが含まれています。

良い面:値上げで今を守ることは正しい

値上げをして、利益を確保すること自体は間違いではありません。
特に、材料費や人件費が上がっている今、「安いまま」を続けていたら会社が持ちません。
「今の利益を取りに行く」ことは、会社を続けるために必要なことです。

注意点:未来のお客さんが「入口」を失っていないか

一方で、気をつけたいのが「未来のお客さん」のこと。
値上げによって、これから関係を作るはずだった人たちが「高いから関係ない」と離れてしまうと、将来のお客さんが細っていきます。
今月の売上は良くても、「初めて来る人」「若い人」「これから成長する人」がいなくなると、長い目で見て苦しくなる。

家計で例えると……

「今月の食費を削って黒字にした」のは良いことです。
でも、栄養が足りなくて来月から体調を崩したら、結局もっとお金がかかりますよね。

会社も同じで、「短期の利益」だけを追いかけると、「未来の体力」(将来のお客さん、採用できる人材、会社の評判)が落ちてしまうことがあります。

事例:従業員10名前後の会社なら、こう考える

ここからは、もう少し具体的に「小さな会社ならどうするか」を見ていきます。

事例1:値上げで利益は出た飲食店——でも「親子の記憶」が減る

たとえば、街の飲食店を想像してください。

材料費(仕入れ)や人件費(スタッフの給料)が上がる中で、メニューを絞り、価格も上げました。
今は観光客が来るエリアなので、売上は悪くありません。
値上げは現実的な判断です。

でも、ここで起きやすいのが「静かな変化」です。

子連れのお客さんが減る。
学生が来なくなる。今月の売上は良いのに、「初めて来た人」が減り、「数年後の常連候補」が育っていない。

ディズニーで「α世代の足が遠のいている」という現象は、まさにこれに近いかもしれません(これは推測ですが)。

対策は「値下げ」だけじゃない

大事なのは「入口を残す」ことです。

・平日限定の短時間セット(滞在時間を短くして、回転で補う)
・子ども向けの小さな体験(無料のお菓子、スタンプカード、写真スポット)
・「最初の一回」を軽くする(初回だけ小皿サービス、テイクアウトのミニサイズ)

安売りではありません。
「高いから関係ない」で終わらせず、「まずは触れてみる」ができる入口を用意するのです。

事例2:高単価のBtoB(法人向け)に寄せた会社——若手との接点がゼロになる

次は、制作会社、士業(税理士や弁護士など)、コンサルタントのような、少人数で回している会社を想像してください。

単価を上げて、相性の良いお客さんに集中するのは、正しい戦略です。
人手が限られているから、「誰でも引き受ける」より「合う人としっかり付き合う」ほうが効率が良い。

でも、副作用として「若い担当者」「これから起業する人」との接点が途切れることがあります。

今は景気や補助金の追い風で仕事が埋まっていても、環境が変われば「あの会社は高い」と比較対象から外されてしまう。

対策は「入口を軽くする」こと

・無料で役に立つ情報を定期的に出す(短い動画、チェックリスト、テンプレート)
・相談の前段を軽くする(15分の事前ヒアリング枠、月1回のオンライン相談会)
・商品の階段を作る(小さなプラン→標準プラン→高単価プラン、の順で選べるようにする)

ここでのコツは「がっつり作り込まないこと」です。

「入口は軽く、奥はしっかり」が基本。登山で言うと、いきなり冬山に連れて行くのではなく、近所の低い山のコースを用意する感じです。
登った人だけが、「次の山にも行ってみたい」と思うようになる。

まとめ(大事なポイント3つ)

ここまでの話を、3つのポイントにまとめます。

今の利益を取りに行くことは、間違いではない。

値上げは「会社を続けるための選択」であり、否定されるものではない。

ただし、未来のお客さんとの「接点」を削ると、10年後に困る。

子ども、若手、これから成長する人たちが「高いから関係ない」と離れてしまうと、将来の客層が細っていく。

追い風のときこそ、将来の種を同時にまく。

観光客や円安など、値上げが通りやすい環境のときほど、「未来の入口」を意識して残しておく。

今日からできる3つのこと

最後に、明日から動けるアクションを3つ挙げます。

「未来のお客さん」を決める

あなたの仕事にとっての「α世代」は誰でしょうか。子ども本人? その親? 若手の担当者? これから起業する人?
まず1つに絞って、定義してみてください。

入口を1つだけ作る

安売りではなく、「触れられる入口」を1つ設計してみてください。
短時間版、ミニ版、無料の情報、初回だけの軽い体験—なんでも構いません。
「高いから関係ない」で終わらせない工夫です。

追い風依存を点検する

最近の売上が伸びている理由は何でしょうか。
値上げ? 観光客? 円安? 紹介? 感覚でいいので棚卸ししてみてください。
追い風が弱まったときに「穴」がどこにあるか、見えてきます。

おわりに

目先の利益を否定する必要はありません。
会社を続けるために、今の数字を作ることは大事です。

ただ、それと同時に「未来のお客さんが、初めて出会える場所」だけは削らないようにする。
これが「じり貧」を避ける、一番現実的な手当てだと思います。

追い風のときこそ、種をまく。
今日から、できることを1つ、始めてみてください。