個人地主から駐車場用地を20年間借りるときの税金の考え方―舗装や土留めを「撤去する場合」と「地主に渡す場合」で、こんなに違います
はじめに
「隣の土地を、駐車場として20年間借りたい。ただし整地やアスファルト舗装、周りの土留め工事はそちらの会社で負担してほしい」
個人の地主さんから、こう条件を出されることがあります。
契約期間が20年という長いお話になると、
「権利金(土地を借りるときに、借主から地主へ最初にまとまったお金を支払う一時金のことです)を払わなくてよいのか」
「相当の地代(土地の値段に対して、目安として年6%程度とされる『適正な地代』の考え方です)として、土地価格の6%くらいを毎年払わなければいけないのか」
「工事費をこちらが負担するなら、地代は固定資産税くらいの低い金額でもよいのか」
「20年後に工事したものを撤去する場合と、地主にそのまま渡す場合とでは、何が違うのか」
といった疑問が次々に出てきて、頭を悩ませてしまう方が少なくありません。
結論から先にお伝えすると、こうしたケースでは「土地価格の6%を払えば安心」というような、単純な公式はありません。
地代の金額だけでなく、「誰が工事費を負担するのか」「20年後に工事したものをどうするのか」までを含めて、契約全体を一つの取引として考える必要があります。
少し複雑に感じるかもしれませんが、順番に整理していけば、決して難しい話ではありません。
今回は、
・地主は個人の方
・借主は法人
・両者の間に親族関係や資本関係などの特別なつながりはない
・使い道は法人の駐車場
・借主の会社が整地、アスファルト舗装、土留めなどの費用を負担する
・契約期間は20年
という設定で、①20年後に工事したものを撤去して元に戻す場合と、②20年後に舗装や土留めをそのまま地主に渡す場合の、それぞれの考え方を丁寧に見ていきます。
まず「土地の値段の6%」を機械的に当てはめる話ではありません
土地の貸し借りについて調べると、「相当の地代は、更地の価格のおおむね年6%」という説明を目にすることがあります。
そのため、「法人が20年間土地を借りるなら、毎年、土地価格の6%くらいを払わなければいけないのでは」と考えてしまいがちです。
しかし、これは必ずしも正しくありません。
国税庁が説明している「権利金の認定課税」という制度は、基本的には、法人が持っている土地を他人に使わせる場合の、法人税の仕組みです。
国税庁のタックスアンサー(国税庁が、税金についてよくある質問と回答をまとめて公開しているウェブページのことです)No.5730でも、「法人が所有する土地を他人に貸して、建物などを建てさせた場合」を前提として、通常であれば権利金をやり取りする慣習があるのに、権利金を受け取らなければ、原則として権利金を受け取ったものとみなして課税する、という説明がされています。
ちなみにこのNo.5730には、この権利金の認定課税を避けられる例外が二つ示されています。一つは、土地の値段からみて「相当の地代」を実際に受け取っている場合。
もう一つは、契約書に「将来、借主が土地を無償で返すこと」を定めたうえで、地主と借主が連名で「土地の無償返還に関する届出書」という書類を、遅滞なく税務署長に提出している場合です。
この届出書は、法人が地主であるケースや、個人の地主さんが自分の同族会社(家族などが経営する、特別な関係のある法人のことです)に土地を貸すケースを主な対象とした制度です。
今回は地主が個人の方で、しかも借主の会社との間に特別な関係もありませんので、この届出書がそのまま当てはまる典型的なケースではありません。
ただ、実務ではよく登場する言葉ですので、混同しないように触れておきます。
今回の地主さんは個人です。
ですから、法人の地主に対する法人税の権利金課税の考え方を、そのまま個人の地主さんに当てはめる必要はありません。
とはいえ、ここで「地主が個人なら、権利金や利益のことは何も考えなくてよい」と結論づけてしまうのは早すぎます。
個人の地主さんであっても、土地を貸すことに伴って、現金だけでなく、モノや土地の改良、借金の免除、その他さまざまな形の経済的利益(現金という形でなくても、モノやサービス、値引きなど、お金と同じような価値のあるものを受け取ることをいいます)を受け取れば、所得税の対象になる収入とみなされる可能性があります。
所得税基本通達(国税庁が、税法をどのように解釈し、実務上どう取り扱うかについての内部的な基準を示した文書です)36-15でも、資産を無償または低い対価で受け取った場合の利益などが、この「経済的利益」にあたることが示されています。
つまり、今回正しく整理すると、「個人地主については、法人税の権利金課税をそのまま考える必要はないものの、借主の会社から受け取る工事その他の経済的利益について、所得税の面での取り扱いは、別に検討する必要がある」ということになります。
駐車場だからといって「6%を必ず払う」わけでもありません
土地を駐車場として使う場合には、通常の借地権(建物を建てる目的で土地を借りる場合に生じる、強い権利のことです)の設定とは、少し違った扱いになることがあります。
法人税基本通達13-1-5では、物品置場や駐車場などとして、更地のまま土地を使う場合のように、通常は権利金のやり取りが行われない土地の利用については、相当の地代に満たない地代であっても、すぐに権利金を受け取ったものとみなして課税することはしない、という考え方が示されています。
ただし、この13-1-5も、1でお話しした5730と同じく、もともとは「地主が法人である場合」の法人税上の取扱いを定めたものです。
今回のように地主が個人であるケースにそのまま当てはまる規定というわけではありません。
とはいえ、駐車場のような土地利用については、通常は権利金のやり取りをしないという考え方が法人税の世界で広く定着していることを踏まえると、個人の地主さんが相手であっても、権利金相当額を機械的に認定して考える必要はないと、実務上は考えられています。
この13-1-5には、実はもう一つ大切な注書きが付いています。
それは、法人が駐車場等として土地を使いながら、その使用目的からみて通常支払うべき地代よりも著しく低い地代しか払っていない場合には、そのことに相当な理由が認められない限り、不足している分を借主(法人)への贈与とみなす、という内容です。
これも本来は地主が法人である場合の法人税上のルールですので、そのまま今回のケースに当てはまるわけではありません。
ただ、大切な視点が含まれています。
それは、「駐車場だから権利金の心配はいらない」と安心しすぎて、極端に低い地代を設定してしまうと、今度は逆に、借主の会社の側が思わぬ形で税務上の問題を抱えることになりかねない、ということです。
今回のように地主が個人であっても、地代を著しく低く設定する場合には、なぜその金額にしたのかを説明できるようにしておくことが、地主さん側だけでなく、借主の会社側にとっても大切だと言えます。
この点は、後ほどご説明する「地代の合理的な説明」にもつながる、重要な視点です。
ですから、「駐車場だから、土地価格の6%を必ず払わなければならない」というルールではありません。
ただ、今回のケースは、単に更地を駐車場として貸すだけの話とは、少し性格が異なります。
借主の会社が、整地、アスファルト舗装、土留め、排水設備、フェンスといった工事を行う可能性があるからです。
そのため、「駐車場だから、この通達だけですべて解決する」と決めつけてしまうのも適切ではありません。
土地の使い方の実態や、作られる構造物の規模、誰の所有物になるのか、契約期間、返し方といった点を、一つひとつ個別に確認していく必要があります。
「地主が個人だから権利金は関係ない」というわけでもありません
今回、権利金そのものよりも重要になってくる可能性があるのが、「借主の会社が負担する工事によって、個人の地主さんが経済的な利益を受けるかどうか」という問題です。
たとえば、借主の会社が2,000万円をかけて、土地を造成し、アスファルト舗装をして、大がかりな土留めや擁壁(土砂が崩れるのを防ぐために作る、コンクリートなどの壁のことです)を設置したとします。
この工事によって土地の価値そのものが上がり、その利益が最終的に地主さんのものになるのであれば、「現金の権利金はもらっていません」というだけでは、税金の話は片づきません。
所得税では、現金だけでなく、こうした経済的な利益も収入として扱われる可能性があるからです。
したがって、「地主が個人だから権利金のことは考えなくてよい」のではなく、「法人地主に対する法人税の権利金課税とは別に、個人の地主さんが実際に受け取る経済的利益を、あらためて検討する」という整理の仕方が適切です。
20年後に「撤去して元に戻す」場合の考え方
まず、借主の会社が舗装や土留めなどを作るものの、20年後には自社の費用で撤去し、土地を元の状態に戻して返す、というケースを考えてみます。
この場合は、税金の面では比較的整理がしやすくなります。
借主の会社が行う工事は、基本的には「借主自身が20年間、駐車場として使うための工事」という性格が強いからです。
しかも、20年後にその工事の成果を地主さんに残さず、借主自身が撤去するのであれば、地主さんに長く続く土地の改良利益が生じるという問題は、相対的に小さくなります。
国税庁にも「元に戻すなら利益は生まれない」という参考になる考え方があります
この点について、とても参考になる国税庁の質疑応答事例(国税庁が、個別の質問に対する見解を示した実例集のことです)があります。
個人の地主さんが、建物を建てるために必要な盛土などの造成工事を、土地を借りる人の負担で行わせたケースで、契約上、「田んぼの状態に戻したうえで返す」という原状回復義務(借りていたものを、借りる前の状態に戻して返す義務のことです)が定められていました。
この事例について国税庁は、「原状回復義務がある限りにおいては、宅地造成による利益は生じていないため、課税されません」と回答しています。
今回の駐車場工事とまったく同じ事例ではありませんが、非常に参考になる考え方です。
つまり、「借主が費用をかけて一時的に土地を良くしても、最終的に借主自身の費用で元に戻さなければならないのであれば、地主がその工事による経済的な利益を得たとは、すぐには評価しない」という考え方です。
とはいえ「契約書に原状回復と書けばOK」ではありません
ここは特に注意していただきたいところです。
この質疑応答事例は、あくまで「建物を建てるための盛土などの宅地造成」を前提とした事例であり、駐車場のアスファルト舗装や土留め工事そのものを直接対象とした公表事例は見当たりません。
ですから、今回のケースにこの考え方を当てはめるのは、あくまで似たような場面から考え方を借りてくる「類推」にとどまります。
工事の目的や内容が異なれば、当てはまり方も変わってくる可能性があることを、まず押さえておいていただきたいところです。
そのうえで、国税庁の質疑応答事例は、あくまで具体的な事実関係を前提としたものです。
したがって、「契約書に『原状回復』と一行書いておけば、どんな工事でも地主に利益は生じない」というわけではありません。
たとえば、大規模な盛土、地盤改良、地中の杭、大きな鉄筋コンクリートの擁壁、撤去すると土地の安全性が損なわれてしまうような構造物などは、「本当に20年後に元の状態へ戻せるのか」自体が問題になります。
実際には撤去する予定がなく、費用の面でも技術の面でも元に戻すことが現実的でないのに、契約書の上でだけ「原状回復」としているのであれば、その言葉だけで税金の扱いが決まるとは考えにくいでしょう。
大切なのは、契約上の原状回復義務があることだけでなく、実際に元に戻すことができる工事内容になっていて、実際にその義務が果たされる契約の実態になっていることです。
工事の規模や性質、実際に撤去できるかどうかによって判断が変わりうるという点は、専門家に個別に確認しながら進めることをお勧めします。
原状回復するなら、地代は固定資産税並みでも大丈夫?
次に問題になるのが、毎月の地代です。
今回、工事費も維持管理費も20年後の撤去費用もすべて借主が負担し、地主さんと借主は完全に第三者どうしであるなら、現金の地代を低めに設定するだけの、十分な経済的な理由があると考えられます。
ですから、地代が固定資産税くらいの水準だからという理由だけで、すぐに税金の問題になるとは限りません。
ただし、「固定資産税相当額なら、税務上は必ず適正な地代になる」というルールがあるわけでもありません。
税務上、公租公課(固定資産税など、国や自治体に納める税金や負担金のことです)程度以下しかやり取りがないケースを、使用貸借(家賃や地代を取らずに、無料で貸し借りをする契約のことです)として扱うことがあります。
ただしこれは、「使用貸借にあたるかどうか」を判断するための基準であって、「第三者どうしの土地の貸し借りにおいて、これだけ払えば絶対に安全」という基準ではありません。
「使用貸借程度」という言い方は避けたほうが安心です
そのため、今回のようなケースで、契約書や社内の稟議書に「使用貸借程度の地代とした」と書くことは、あまりおすすめできません。
むしろ、「借主が整地、舗装、土留めなどの工事費、維持管理費、契約終了時の原状回復費用を負担することを考慮し、双方の話し合いにより、賃料を月額○円とした」と書くほうが、実際の取引の内容に合っています。
大切なのは、地代が安いこと自体ではなく、「なぜその地代になったのか」を、後から誰に聞かれても説明できるようにしておくことです。
前にご説明した「借主側への贈与とみなされるリスク」を避けるためにも、この説明ができる状態にしておくことが役立ちます。
通常の家賃と工事の負担を比べてみましょう
たとえば、工事の負担がなければ、通常の家賃が月30万円だったとします。
20年間では、30万円×12か月×20年で、7,200万円になります。
一方、借主の会社が、最初の工事に2,000万円、20年後の撤去や原状回復に500万円を負担する代わりに、賃料を月15万円にするとします。
すると、15万円×12か月×20年で3,600万円となり、これに工事負担2,500万円を加えると、合計6,100万円になります。
これはあくまで、契約条件に合理性があるかどうかを確認するための、参考の計算です。
税法上「通常の家賃から工事費を差し引けば、それが適正な地代になる」という決まった計算式があるわけではありません。
しかし、「なぜ月30万円ではなく15万円なのか」と尋ねられたときに、借主が負担する工事や撤去の費用を含めて説明できる、大切な資料になります。
20年後に「地主へ渡す」場合は、考えることが増えます
次に、20年後にアスファルト舗装や土留め、擁壁、排水設備などを撤去せず、そのまま地主さんに渡す場合を見ていきます。
この場合は、原状回復するケースよりも、慎重な検討が必要になります。
なぜなら、契約が終わったときに、地主さんの手元に経済的な価値のある資産が残る可能性があるからです。
ですから、現金の地代だけでなく、工事の負担や、最終的に誰のものになるのかまで含めて、契約全体を見ていく必要があります。
工事費の全額が、そのまま地主の得になるわけではありません
たとえば、借主の会社が2,000万円の工事をしたからといって、それがそのまま「地主さんへ2,000万円を贈った」ことにはなりません。
借主自身がその設備を20年間使っていますし、20年後には劣化しているものもあるからです。
たとえばアスファルト舗装は、20年間使い続ければ、作った直後と同じ経済的な価値を持っているとは、通常考えにくいものです。
一方で、鉄筋コンクリートの擁壁や、長期間使える土留め、地盤改良、土地そのものの利用価値を高めるような造成については、20年後もかなりの利用価値が残っている可能性があります。
ですから、「工事費の総額=地主さんの利益」とは考えず、工事の内容ごとに考えていく必要があります。
借主の会社側では「寄附金」の心配が出てくることがあります
法人税の世界でいう寄附金(事業に直接関係のない相手に、無償や低い対価でお金や資産を渡すことをいいます。
会社が誰かに現金を贈る場合だけでなく、資産や経済的な利益を無償で渡す場合も含まれます)には、現金による寄附だけでなく、資産や経済的利益を無償で提供することも含まれます。
国税庁No.5281では、法人が行った資産や経済的利益の贈与・無償提供が寄附金にあたり、金銭以外の資産を贈った場合には、その時の時価(そのとき実際に売買するとしたら、いくらの価値があるかという金額のことです)で計算する、とされています。
したがって、20年後に、借主の会社が持っている価値ある擁壁などを、何の対価もなく地主さん個人に無償で渡した、と評価されると、借主の会社側で寄附金の問題が生じる可能性があります。
とはいえ「無償で渡した=必ず寄附金」でもありません
一方で、「20年後に無償で渡すから必ず寄附金になる」とも言い切れません。
たとえば、契約を結ぶ最初の段階から、通常より低い現金地代、借主負担による工事、20年間の使用、契約終了時に一定の構造物を地主さんへ渡すことを、一つの契約条件として合意していた場合です。
この場合、20年後の資産の移転は、独立した一方的な贈り物ではなく、20年間土地を利用するための契約条件、いわば対価関係の一部として評価すべき余地があります。
ただし、ここは個別の判断が必要な部分です。
国税庁が、「低い地代と20年後の無償譲渡を組み合わせれば、必ず寄附金にはならない」という一般的な安全な基準を示しているわけではありません。
ですから、契約全体として実質的な対価関係があるといえるのかを、市場の家賃相場、工事費、残っている価値、契約期間、地主さんの要望、借主の会社の事業上の必要性、途中で解約する場合の条件などから、説明できるようにしておく必要があります。
「帳簿の上の価値が1円だから大丈夫」とは限りません
借主の会社が構造物を少しずつ経費にしていく減価償却(高額なものを買ったときに、何年かに分けて少しずつ経費として計上していく仕組みのことです)を続けていくと、20年後には、税務上の帳簿価額(会計上、その資産が今どれくらいの価値として帳簿に記録されているかという金額のことです。
実際に売買される金額とは違うことがあります)がとても小さくなっていることがあります。
しかし、帳簿価額が1円だからといって、1円分の財産を地主さんに渡したことになるとは限りません。
無償で資産を提供した場合の寄附金については、国税庁も、渡した時点の時価をもとに計算するとしています。
ですから重要なのは、20年後の帳簿の上の価値ではなく、その時点で実際にどれくらいの経済的な価値があるかということです。
「新しく作ったら高いから、20年後も高いはず」でもありません
ここも注意が必要な点です。
たとえば「同じ擁壁を新しく作るなら2,000万円かかる」からといって、20年間使った擁壁の時価が2,000万円になるわけではありません。
新しく作り直す場合の価格は、あくまで参考になる一つの事情にすぎません。
実際の時価を考えるときには、経過した年数、劣化の状況、これから使える期間、補修の必要性、他の人に売れるかどうか、土地から切り離せるかどうか、土地とどれくらい一体化しているか、撤去にかかる費用、今後の利用価値といったことを、総合的に考える必要があります。
特に擁壁のような、土地と一体化した構造物には、一般の商品のような中古市場での価格があるとは限りません。
ですから、作り直す場合の価格だけで、時価を判断しないことが大切です。
「地主が引き取ってくれることで、借主が助かる」場合もあります
たとえば、20年後、擁壁の残っている利用価値が500万円程度ある一方で、借主がこれを撤去すると800万円かかる、というケースも考えられます。
この場合に地主さんが、「そのまま置いていってもらって構いません」と合意すれば、地主さんは構造物を手に入れる一方で、借主の会社は800万円の撤去費用を負担せずに済みます。
ですから、「地主さんだけが一方的に500万円得をした」と単純には整理できない場合があります。
もっとも、「構造物の時価から撤去費用を引いた金額が、そのまま寄附金の額になる」という税法上の計算式があるわけでもありません。
撤去費用が免除されることは、契約全体の経済的な対価関係を判断する際の、一つの事情として考えるべきものです。
「最初から地主のもの」という契約は、さらに慎重な検討が必要です
もう一つ注意していただきたいのが、「借主が工事費を負担するけれど、完成した構造物は施工したときから地主さんの所有物とする」という契約です。
この場合は、借主の会社が20年間、自分の資産として使い、最後に地主さんへ渡す、という構造ではありません。
最初から、借主の会社が、他人である地主さんの所有物を、自分の費用で作っている、ということになります。
したがって、その支出が、土地を使うための対価なのか、前もって払う地代のようなものなのか、何らかの権利を得るための支出なのか、あるいは地主さんへの経済的な利益の提供なのか、といったことを、工事をする時点からきちんと考えておく必要があります。
税金の面での取り扱いをはっきりさせるためにも、構造物の所有権が、いつ、誰のものになるのかを、契約書に明記しておくことがとても重要です。
個人の地主さん側では「いつ、どんな税金がかかるか」も状況次第です
20年後に、価値のある構造物を個人の地主さんが無償で受け取った場合には、地主さん側でも、所得税の面での経済的利益を検討する必要があります。
所得税基本通達36-15では、資産を無償または低い対価で受け取った場合の利益が、経済的利益に含まれるとされています。
ただし、「20年後には必ず不動産所得(土地や建物を貸して得た収入にかかる所得税の区分のことです)として課税される」と決めつけてしまうのは適切ではありません。
なぜなら、土地を貸したことの対価として受け取ったものなのか、借地権を設定したことの対価に近い性質があるのか、工事をした時点から地主さんのものだったのか、20年後にはじめて所有権が移るのか、経済的利益の金額がどれくらいかによって、所得として認識する時期や、所得の区分が変わる可能性があるからです。
国税庁No.3111でも、土地を貸して受け取る権利金などについて、原則的な不動産所得としての取り扱いだけでなく、その金額や権利設定の内容によっては、譲渡所得(土地や建物などの財産を売ったときの利益にかかる所得税の区分のことです)として扱われる場合があることが示されています。
ですから、「個人の地主さんが受け取る経済的利益については、原則として、土地を貸したこととの関係で所得税上の収入として認識するかどうかを検討するけれども、その所得の区分や認識する時期は、契約の内容などによって個別に判断する」という考え方が適切です。
撤去する場合と、渡す場合の違いをもう一度整理します
ここまでの内容を、あらためて整理してみます。
20年後に撤去して原状回復する場合、借主の会社が行う工事は、「自分自身が使うための工事」という性格が強くなります。
実際に原状回復することができ、契約上のその義務がきちんと果たされるのであれば、地主さんに長く続く土地の改良利益が生じるという問題は、相対的に小さくなります。
国税庁にも、借主負担で行った造成について、原状回復義務がある限り地主に造成利益は生じないとする質疑応答事例があります(ただし前述のとおり、この事例は建物建設のための造成が前提であり、駐車場工事への当てはめは類推になる点にはご留意ください)。
低い地代についても、工事費や維持費、将来の撤去費用を借主が負担しているという経済的な合理性を、説明しやすくなります。
一方、20年後に地主さんへ引き渡す場合には、経済的な価値のある構造物などが地主さんのものになる可能性があります。
ですから、現金の地代だけでなく、工事の負担と、最終的に誰のものになるのかまで含めて、契約全体を評価する必要があります。
借主の会社側では、寄附金にあたらないか、無償で提供した時点の時価はいくらか、残っている帳簿価額はいくらか、地代などとの対価関係はどうか、撤去費用の免除との関係はどうか、といったことを検討します。
個人の地主さん側でも、経済的な利益があるかどうか、その金額、所得として認識する時期、所得の区分について、検討が必要になります。
無償で渡す代わりに、地代を安くすることはできるのか
低い地代にすること自体が、すぐに問題になるわけではありません。
たとえば通常の相場家賃が月30万円だったとしても、地主さんが「地代は月10万円でよい。その代わり、舗装や土留めなどは借主の負担とし、20年後には一定の設備を残してほしい」という条件を出したとします。
地主さんと借主が完全な第三者どうしで、双方が経済的な合理性を考えたうえで合意したのであれば、現金の地代、工事の負担、20年後に誰のものになるかを、一つの契約パッケージとして評価する余地があります。
反対に、通常の家賃をほぼそのまま払いながら、さらに借主の会社が多額の工事費を負担し、20年後に価値のある資産まで地主さんへ無償で渡すのであれば、「借主の会社がなぜそこまで負担する必要があるのか」について、より慎重な説明が必要になります。
「6%」より、実際の相場家賃を重視しましょう
今回のようなケースでは、土地の価格に6%を掛けて地代を決めることよりも、実際の相場家賃を把握することのほうが重要です。
具体的には、同じ地域、同じくらいの広さ、駐車場や資材置き場としての利用、同じくらいの契約期間、似たような土地条件の賃料を調べます。
そのうえで、借主が負担する工事、修繕や維持管理、20年後の撤去義務、無償で引き渡す構造物、途中で解約するリスクといったことを総合的に考えて、現金の地代を決めるのが合理的です。
契約書でいちばん大事なのは「なぜこの条件にしたか」を書き残すこと
20年間という長い契約では、契約書がとても重要な役割を果たします。
少なくとも、次のようなことは明確にしておきたいところです。
・土地の使用目的、契約期間
・整地、舗装、土留めなどの工事内容と、その費用を誰が負担するか
・工事を地主さんが賃貸の条件として求めたこと、工事の負担を考慮して賃料を決めたこと
・構造物の所有者と、所有権がいつ移るのか
・維持管理や修繕費の負担
・途中で解約する場合の条件と、そのときの工事物の扱い
・契約が終わるときの原状回復義務と、実際に撤去する設備、そのまま残す設備
・無償で引き渡す場合の範囲や、地主さんが買い取る場合の計算方法
・地代を見直す条件
特に、「借主が工事費を負担すること、将来一定の構造物を地主さんのものにすることを考慮して、今の地代を決めている」ということであれば、その関係を契約書や別紙の覚書などに、はっきりと書き残しておくことが大切です。
社内の稟議書にも数字を残しておきましょう
借主の会社側では、社内の資料も重要です。
たとえば、相場の家賃が月30万円であるのに対して契約の賃料は月10万円であること、20年間の相場家賃との差額、最初の工事費が2,000万円であること、維持修繕の見込額、撤去した場合に想定される費用、地主さんに残す場合の想定される残存価値、20年間土地を確保することの事業上のメリットなどを整理しておきます。
これは、税法上の適正な地代を計算するための公式な書類というわけではありません。
目的は、「会社がこの条件で契約したことには、事業上・経済上の合理性があった」と、後になってからでも説明できるようにしておくことです。
20年後の正確な価値は、今は決められません
20年後の設備の価値を、契約を結んだ時点で正確に予測することはできません。
しかし、「分からないから何も検討しない」というのも適切ではありません。
少なくとも、舗装は相当劣化する可能性があること、擁壁などは価値が残る可能性があること、撤去費用は相応にかかる可能性があること、無償で引き渡すことを地代の設定条件に含めたということは、契約を結ぶ時点で整理しておくことができます。
そして20年後には、その時点の実際の状態にもとづいて、あらためて時価などの税務上の取り扱いを検討する、という進め方が現実的です。
とくに注意したいのは「土留め・擁壁」です
今回、アスファルト舗装よりも慎重に検討していただきたいのが、土留めや擁壁です。
アスファルトは、20年間使い続けることで大きく劣化する可能性があります。一方で、鉄筋コンクリートの擁壁などは、20年後も土地の利用にとって重要な役割を果たしている可能性があります。
また、撤去すること自体が技術的に難しかったり、撤去すると土地の利用に支障が出たりすることもあります。
ですから、「20年後に撤去する」と契約するのであれば、本当に撤去できるのかを、契約を結ぶ時点で確認しておくことが大切です。
反対に、「擁壁は地主さんに残す」ということであれば、その点を最初から賃料の設定や契約条件にきちんと反映しておくべきです。
税務上、整理しやすいのはどちらか
税金の面での分かりやすさだけを考えるなら、借主が20年後に工事したものを撤去し、実際に原状回復して返す契約のほうが、整理しやすいといえます。
地主さんに資産の価値が移るという論点が、小さくなるからです。
ただし、地主さんが「舗装や土留めは20年後も残してほしい」と希望すること自体は、税務上禁止されているわけではありません。
その場合には、「地主さんに残す資産があることを踏まえて、契約の最初の段階から地代などの条件を設定している」という契約の構造を、はっきりさせておくことがとても重要になります。
場合によっては、契約が終わるときに残っている価値を評価して、地主さんがその金額で買い取る、という方法も選択肢の一つになります。
まとめ
今回のように、個人の地主さんから法人が20年間駐車場用地を借り、借主の会社が整地、アスファルト舗装、土留めなどを負担する場合、まず、土地価格の6%程度の地代を機械的に払わなければならないとは限りません。
地主さんが個人であるため、法人地主についての法人税上の権利金課税を、そのまま個人の地主さんに当てはめるわけでもありません(なお、法人地主が権利金認定課税を避ける方法として「土地の無償返還に関する届出書」がありますが、これも主に法人地主や同族関係のあるケースを対象とした制度です)。
とはいえ、地主さんが個人だからといって、工事による経済的な利益を考えなくてよいわけではありません。
借主の会社から資産や土地の改良といった経済的な利益を受け取れば、個人の地主さん側で、所得税上の収入として認識する必要があるかどうかを検討することになります。
また逆に、地代を著しく低く設定しすぎると、借主の会社の側が贈与を受けたとみなされるリスクもありますので、地代の水準はどちらの方向にも配慮しながら決めることが大切です。
20年後に借主が工事したものを撤去し、実際に原状回復する場合には、借主の工事は自分自身の土地利用のための支出という性格が強くなり、地主さんに工事による利益が生じるという問題は、相対的に小さくなります。
国税庁も、借主負担で行った造成について、原状回復義務がある限り地主に造成利益は生じないとする質疑応答事例を公表しています。
ただし、この事例は建物建設のための宅地造成を前提としたものであり、駐車場のアスファルト舗装や土留め工事への当てはめは類推にとどまる点には注意が必要です。
契約書に原状回復義務を書くだけでなく、実際に元に戻すことができる工事内容であり、その義務が実際に果たされる実態があることが重要です。
一方、20年後に舗装や擁壁などを地主さんへ引き渡す場合には、その時点で経済的な価値のある資産が、地主さんのものになる可能性があります。
借主の会社側では、無償の譲渡が寄附金にあたらないかを検討する必要があります。
法人税の世界では、資産や経済的利益を無償で提供することも、そのときの時価をもとに寄附金となり得るからです。
もっとも、最初から「低めの現金地代+工事費の負担+20年後の一定資産の帰属」を一体の契約条件として合理的に設定していた場合には、20年後の資産の移転を、単独の無償の贈り物としてではなく、土地を使うことの対価関係の一部として評価すべき余地があります。
ただし、これは一律に認められる安全な基準ではなく、相場の家賃、工事費、資産の残っている価値、撤去費用、契約期間、事業上の必要性などを踏まえた、個別の判断となります。
また、個人の地主さん側についても、20年後に経済的な利益を得たからといって、必ずその時点で不動産所得になるとは限りません。
所得として認識する時期や所得の区分については、所有権が移る時期、土地を貸したこととの対価関係、権利設定の内容、利益の金額などを踏まえて、個別に検討する必要があります。土地を貸すことに伴う大きな権利金などについては、一定の場合に譲渡所得となる取り扱いもあります。
つまり、このような20年契約でいちばん大切なのは、「地代はいくらなら安全か」だけを考えることではありません。
大切なのは、なぜその地代になったのか、なぜ会社が工事費を負担するのか、20年後に誰が何を受け取るのかを、契約を結んだ時点の資料できちんと説明できるようにしておくことです。
そのために、次のような資料を残しておくと安心です。
・相場家賃が分かる資料や、不動産会社による査定
・地主さんとの交渉の記録
・工事の見積書と、工事内容の内訳
・20年間の負担を比較した資料
・将来の撤去費用の概算
・残す設備についての想定
・社内の稟議書
・所有権、原状回復義務、無償での引き渡しについて明確にした契約書
現金の地代だけを見るのではなく、「20年間の土地利用」という取引全体を、一つの経済的な取引として設計していく。
今回のような長期の駐車場用地の賃貸借では、この考え方がいちばん大切になります。
なお、本稿は作成時点における一般的な税務上の考え方を整理したものです。
実際の課税関係は、土地の現況、工事の内容、擁壁などの構造、資産の所有権が移る時期、地代の水準、原状回復義務の内容、途中解約の条件、20年後の資産の価値などによって異なりますので、実際の適用には個別の判断が必要になります。
具体的に契約を結ばれる際には、契約書案、工事の見積書、周辺の賃料資料などを合わせて、所轄の税務署にもご確認いただくことをおすすめいたします。






