子どもの転地療養で借りた別荘代は医療費控除できる?判断のポイントを解説
お子さんの体が弱く、医師から「夏休みの間は、空気のよい海辺で過ごしてみてはどうでしょうか」と勧められたとします。
そこで、1か月間、海辺の別荘を借りて過ごした―このようなケースを考えてみましょう。
別荘の賃借料だけでなく、現地までの交通費、食費、水道光熱費なども含めると、家計にとってはかなり大きな負担になります。
遊びや観光が目的ではなく、お子さんの虚弱体質を改善するための滞在です。
しかも、医師の勧めに従って行ったものであれば、「病気をよくするために支払った費用なのだから、医療費控除(1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、税金の負担を軽くしてもらえる制度)の対象になるのではないか」と考えるのも、とても自然なことだと思います。
しかし、結論からお伝えすると、このような場合でも、海辺の別荘を借りるために支払った費用や、そこで生活するために支払った通常の生活費は、原則として医療費控除の対象にはなりません。
国税庁も、子どもの療養のため、医師に勧められて海辺の別荘を借りた場合について、その賃借料は医療費控除の対象にならないと説明しています。
理由は、このような「転地療養」(環境のよい土地に一時的に移り住んで、体調を整えること)のための費用が、医師などによる診療や治療の料金ではなく、診療や治療を受けるために直接必要な費用にも当たらないためです。
この記事では、なぜ医師の勧めがあっても医療費控除の対象にならないのか、入院費用とはどのような違いがあるのか、滞在中に病院を受診した場合はどうなるのかを、税金や会計に詳しくない方にも分かりやすく解説します。
結論|海辺の別荘代や現地での生活費は、原則として対象外です
医師から海辺での療養を勧められていたとしても、次のような費用は、原則として医療費控除の対象にはなりません。
・別荘、貸家、コテージなどの賃借料
・水道代、電気代、ガス代などの光熱費
・食料品や日用品の購入費
・外食代
・別荘まで移動するための交通費
・保養、買い物、観光などのための移動費
・一緒に滞在する家族の生活費
・気分転換や健康維持のために支払った費用
これらの費用は、お子さんの体調改善に役立つ可能性はあります。
しかし、医師による診療や治療そのものの料金ではありません。
また、通常は、医師による診療や治療を受けるために直接必要な費用ともいえません。
医療費控除では、「健康のために役立った費用か」ではなく、「診療や治療のために直接必要な費用か」という点が重視されます。
この違いが、今回のケースを理解するうえでのポイントになります。
なお、滞在中に実際に病院や診療所を受診した場合、その診療を受けるために直接必要となった電車代やバス代などは、別荘代とは分けて、医療費控除の対象になる可能性があります。
この点については、後ほど詳しくご説明します。
医療費控除は、健康のための支出がすべて対象になる制度ではありません
「医療費控除」という名前から、病気の改善や健康回復のために支払った費用は、広く対象になると思われることがあります。
しかし、実際には、健康に関係する支出がすべて対象になるわけではありません。
医療費控除の対象になるのは、主に次のような費用です。
・医師や歯科医師による診療や治療の料金
・治療のために必要な医薬品の購入費
・治療を受けるために直接必要となる通院費
・病院に支払う一定の入院費、部屋代、食事代
・治療のために直接必要な医療器具の購入費や賃借料
・看護師などから療養上の世話を受けるための一定の費用
これらの費用についても、病状などに応じて、一般的に必要と考えられる金額の範囲であることが必要です。
判断に迷ったときは、次の3点を確認すると整理しやすくなります。
・医師などによる診療や治療の料金か
・診療や治療を受けるために直接必要な費用か
・病状などから見て、通常必要と考えられる範囲の費用か
海辺の別荘で静かに生活することは、休養や体力回復に役立つかもしれません。
ただし、「健康に役立つこと」と「税法上の医療費に当たること」は、残念ながらイコールではないのです。
医師の具体的な指示があっても、それだけでは対象になりません
今回のケースで特に誤解しやすいのが、「医師に勧められた」という点です。
医師から勧められたことであれば、治療の一環として医療費控除の対象になるように感じるかもしれません。
しかし、医師から具体的な指示を受けていたとしても、それだけで医療費控除の対象になるわけではありません。
大切なのは、その費用が医師による診療や治療と直接結び付いているかどうかです。
たとえば、医師から次のように言われたとします。
「夏休みの間は学校を休み、空気のよい場所でゆっくり過ごしてください」
これは、お子さんの体調を考えた生活上の助言です。
一方で、次のようなケースは事情が異なります。
「この病院でなければ受けられない治療があるため、指定した日に受診してください」
この場合、その病院で治療を受けるために直接必要となる交通費については、一定の条件を満たせば医療費控除の対象になる可能性があります。
つまり、医師の言葉があったかどうかだけでなく、その支出が具体的な診療や治療を受けるために直接必要だったかどうかを確認する必要があります。
仮に医師が書面で海辺での療養を勧めていたとしても、それだけで別荘の賃借料や生活費が医療費控除の対象になるわけではありません。
国税庁の質疑応答事例(実際にあった質問とその回答をまとめた公表資料)も、医師に勧められて転地療養を行ったことを前提としたうえで、別荘の賃借料を対象外としています。
実際に体調が改善しても、別荘代が医療費になるわけではありません
海辺で1か月間生活した結果、お子さんの食欲が戻ったり、風邪をひきにくくなったり、元気に学校へ通えるようになったりすることもあるでしょう。
ご家族としては、「これほど効果があったのだから、治療費と同じように扱ってほしい」と感じるかもしれません。
そのお気持ちは、とてもよく分かります。
ただし、医療費控除の対象になるかどうかは、支払った後にどのような効果が出たかだけで決まるものではありません。
海辺の生活によって結果的に健康状態が改善したとしても、別荘の所有者や管理会社から医療行為を受けたわけではありません。
また、一般の別荘での生活そのものは、医師や看護師による診療、治療、看護とは異なります。
そのため、別荘代や通常の生活費は、医療費控除の対象にはならないと考えられます。
入院中の部屋代や食事代とは何が違うのでしょうか
ここで疑問になるのが、入院費用との違いです。
病院に入院した場合には、治療費だけでなく、病院に支払う一定の部屋代や食事代も医療費控除の対象になることがあります。
それなら、療養のために借りた別荘の家賃や食費も、同じように対象になりそうに感じるかもしれません。
しかし、両者には大きな違いがあります。
病院への入院は、医師による診療や治療を受けるために行うものです。
病院から提供される部屋や食事は、入院による治療を続けるうえで必要となるものです。
そのため、通常の入院費用に含まれる部屋代や病院食は、医療費控除の対象になります。
一方、海辺の別荘は病院ではありません。
別荘で生活している間、医師や看護師による診療、治療、看護が継続的に行われるわけではありません。
そのため、別荘の賃借料や食費は、一般的な住居費や生活費として扱われます。
なお、入院に関係する費用であっても、すべてが医療費控除の対象になるわけではありません。
たとえば、次のような費用は対象外です。
・入院のために購入した寝巻きや洗面用具などの日用品
・医師や看護師に渡したお礼や心付け
・本人や家族の都合だけで個室を希望した場合の差額ベッド代
・病院食とは別に注文した出前や外食の代金
国税庁も、これらの費用は医療費控除の対象にならないと説明しています。
滞在中に実際に病院を受診した場合は、費用を分けて考えます
海辺の別荘で過ごしている間に、お子さんが現地の病院や診療所を受診した場合は、すべての費用をまとめて対象外にするのではなく、内容ごとに分けて考えます。
たとえば、現地の病院で診察や治療を受けた場合、次の費用は医療費控除の対象になる可能性があります。
・現地の医療機関に支払った診察代
・医師による治療の料金
・治療のために処方された薬代
・診療を受けるために通常必要となった電車代やバス代
小さなお子さんや、病状から一人で通院することが難しいお子さんの場合には、付き添った親の交通費についても、通院のために通常必要なものであれば対象になることがあります。
一方、次の費用は原則として対象になりません。
・別荘の賃借料
・現地での通常の食費
・水道光熱費
・日用品の購入費
・保養や買い物のための交通費
・家族が生活するための費用
たとえば、別荘から病院まで路線バスで移動した場合、そのバス代は、診療を受けるために直接必要な通院費として対象になる可能性があります。
しかし、病院へ行く途中で買い物や観光をしたとしても、そのために追加で支払った交通費までは対象になりません。
また、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代は、原則として医療費控除の対象になりません。
タクシー代についても、電車やバスなどの公共交通機関を利用できない事情がある場合などを除き、原則として対象にならない点にご注意ください。
遠方の病院へ行く場合も、治療上の必要性がポイントです
遠方の病院へ行くための交通費も、すべて医療費控除の対象になるわけではありません。
近くの病院で同じ治療を受けられるにもかかわらず、本人や家族の希望で遠方の有名病院を選んだ場合、その交通費は対象にならない可能性があります。
一方、遠方の病院でなければ受けられない治療があるなど、相当な理由がある場合には、その病院で治療を受けるための交通費が対象になることがあります。
この場合も、「医師に勧められた」という事実だけでなく、遠方の病院へ行かなければ治療を受けられない事情があったかどうかが重要です。
海辺の別荘へ移動するための交通費は、通常、医師による診療や治療を受けるための交通費ではありません。
したがって、別荘の賃借料と同じように、転地療養そのもののための交通費も、原則として医療費控除の対象外と考えられます。
金額が大きくても、医療費控除の対象になるとは限りません
別荘を1か月間借りる場合、賃借料、交通費、食費、水道光熱費などを合わせると、相当な金額になることがあります。
支出が大きいほど、「これだけ負担したのだから、少しでも医療費控除を受けたい」と考えるのは自然なことです。
ただし、支払った金額の大きさは、医療費控除の対象になるかどうかを決める基準ではありません。
たとえば、100万円を支払ったとしても、それが一般的な生活費や保養費であれば、医療費控除の対象にはなりません。
反対に、金額が少なくても、医師による治療のために直接必要な薬代や通院費であれば、対象になる可能性があります。
大切なのは、金額ではなく「何に対して支払った費用なのか」です。
領収書や請求書に「療養費」「保養費」などと書かれていても、その名称だけで医療費控除の対象になるわけではありません。
実際に誰からどのようなサービスを受け、その費用が診療や治療とどのように結び付いているかを確認することが大切です。
医療費控除は、支払った金額がそのまま戻る制度ではありません
医療費控除については、「医療費が10万円を超えたら、超えた金額がそのまま返ってくる」と誤解されることがあります。
しかし、医療費控除は、支払った医療費を直接返してもらう制度ではありません。
一定の方法で計算した医療費控除額を、その年の所得(収入から必要経費などを差し引いた金額)から差し引く「所得控除」という制度です。
所得控除を受けることで、所得税や住民税の計算のもとになる金額が小さくなり、結果として税負担が軽くなる仕組みです。
医療費控除額は、基本的に次の計算式で求めます。
実際に支払った対象医療費 - 保険金や高額療養費などで補てんされた金額 - 10万円
ただし、その年の総所得金額等(給与や事業などから生じるすべての所得を合計したもの)が200万円未満の場合は、10万円ではなく、総所得金額等の5%相当額を差し引きます。医療費控除額の上限は200万円です。
たとえば、対象となる医療費が年間30万円あり、保険金などによる補てんがなく、差し引く基準額が10万円の場合、医療費控除額は20万円になります。
この20万円がそのまま戻るわけではありません。
所得から20万円を差し引いて、所得税や住民税を計算し直すことになります。
実際に減る税金の額は、その方の所得や税率などによって異なります。
今回の別荘代や通常の生活費は、そもそも対象医療費に含められないため、この計算には入れません。
確定申告では、別荘代と実際の医療費を分けて整理しましょう
今回のケースでは、海辺の別荘の賃借料や現地での通常の生活費を、医療費控除の明細書(1年間に支払った医療費の内容を一覧にした書類)に記載しないようにします。
一方、同じ年に支払った次のような費用は、要件を満たせば別途集計できます。
・お子さんの病院の診察代
・治療のために処方された薬代
・通院のために利用した電車代やバス代
・付き添いが必要な場合の親の通常の交通費
・家族のほかの対象医療費
医療費控除を受ける場合は、原則として「医療費控除の明細書」を確定申告書に添付します。
領収書そのものを確定申告書に添付する必要はありませんが、明細書に記載した医療費の領収書は、原則として確定申告期限等から5年間、自宅などで保存しておきましょう。
税務署から内容の確認を求められた場合には、領収書を提示または提出できるようにしておくと安心です。
なお、健康保険組合などが発行した一定の「医療費通知」(保険診療にかかった医療費の内容を組合などが通知してくれる書類)を確定申告書に添付した場合、その医療費通知に記載された医療費については、領収書の保存が不要となります。
医療費通知を利用するためには、①被保険者等の氏名、②療養を受けた年月、③療養を受けた者、④療養を受けた病院・診療所・薬局等の名称、⑤被保険者等が支払った医療費の額、⑥保険者等の名称という6つの項目が、国税庁の定める要件としてすべて記載されている必要があります。
医療費通知に記載されていない医療費や、記載内容に不足がある医療費については、領収書などをもとに明細書を作成し、その領収書を5年間保存する必要があります。
判断に迷ったときの確認ポイント
医療費控除の対象になるか迷ったときは、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
誰に支払った費用か
病院、診療所、歯科医院、薬局など、診療や治療を行う相手に支払った費用かを確認します。
ただし、医療機関に支払った費用であっても、テレビや冷蔵庫の利用料など、治療と直接関係のないものは対象にならないことがあります。
何のために支払った費用か
診察、治療、薬、入院、通院などのために支払った費用かを確認します。
「健康のため」「体力回復のため」「気分転換のため」という目的だけでは、医療費控除の対象にはなりません。
診療や治療に直接必要だったか
その費用を支払わなければ、医師による診療や治療を受けられなかったのかを考えます。
海辺の別荘を借りなくても、医師の診察を受けること自体は可能です。
そのため、別荘代は診療を受けるために直接必要な費用とはいいにくいのです。
医師の指示以外の条件も満たしているか
医師から指示を受けていたとしても、それだけでは十分ではありません。
その支出が治療のために直接必要であり、通常必要な範囲のものであるかを確認する必要があります。
領収書や明細で内容を説明できるか
領収書、請求書、処方箋、診療明細書などを確認し、何に対して支払った費用なのかを説明できる状態にしておきます。
交通費のように領収書が発行されないものについては、通院日、利用した交通機関、区間、金額などを記録しておくと安心です。
まとめ|「健康に役立ったか」ではなく「治療に直接必要だったか」で判断します
医師から勧められ、虚弱体質のお子さんのために海辺の別荘を借りたとしても、その別荘の賃借料や現地での通常の生活費は、原則として医療費控除の対象になりません。
海辺での生活によって体調が改善したとしても、別荘代や生活費が医師による診療や治療の料金になるわけではないためです。
また、医師から具体的な指示を受けていたとしても、それだけで医療費控除の対象になるわけではありません。
医療費控除の対象になるかどうかを判断するときは、次の点を確認しましょう。
・医師などによる診療や治療の料金か
・診療や治療を受けるために直接必要な費用か
・病状などに照らして通常必要な範囲の費用か
一方、海辺に滞在している間に実際に医療機関を受診した場合の診察代、治療費、薬代、通常必要な通院交通費などは、要件を満たせば別途、医療費控除の対象になる可能性があります。
費用をひとまとめにせず、「実際の診療や治療に直接関係する費用」と「一般的な生活費や保養費」に分けて整理することが大切です。
大きな支出だったからこそ、医療費控除に含めたいと考えるお気持ちは、とても自然なものです。
しかし、対象外の費用を無理に医療費に含めるよりも、対象となる診察代、薬代、通院費などを漏れなく集計するほうが、結果として安心につながります。
判断が難しい費用がある場合は、領収書、請求書、医師から受けた指示の内容が分かる資料などをそろえたうえで、一緒に確認していきましょう。
ご不安な点があれば、遠慮なく税務署にご相談ください。
※この記事は、2026年7月26日に国税庁ウェブサイトで確認できた公表情報をもとに作成しています。
主な根拠とした「転地療養のための費用」の質疑事例は、令和7年(2025年)8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成されています。
また、医療費控除に関する主なタックスアンサーは、令和7年(2025年)4月1日現在の法令等に基づいています。
実際の適用については、支出の内容、治療との関係、個別の事情などにより判断が異なる場合がありますので、詳細は税務署にご確認ください。






