原油価格が小さな会社に与える影響
はじめに:「うちには関係ない」と思っていませんか
「原油の話でしょ。うちは製造業じゃないし」
税理士として、こういう声を何度も聞いてきました。
飲食店のオーナー、美容室の店主、小さな運送屋さん、ネットショップを一人で回している方——それぞれ、自分の仕事と原油価格を結びつけて考える機会は、なかなかないと思います。
でも、実際のところ、原油は業種を選びません。
電気代に乗ってきます。
仕入れ値に乗ってきます。
取引先からの値上げ要請という形でやってきます。
気づいたときには「じわじわと」利益が削られている—これが、小さな会社にとって最も怖い原油高の実態です。
今回は、中東情勢の不安定化を背景にした原油問題を、難しい言葉を使わずにお伝えします。
そして、日本の家計や中小企業の現場に、どのような形で影響が出てくるのかを一緒に考えてみたいと思います。
30秒でわかる今回の話
何が起きているか
中東地域の緊張を背景に、原油やガスを運ぶ海の航路が不安定になっています。
「売らない」という問題ではなく、「運べないかもしれない」という問題です。
なぜ日本に関係するのか
日本で使う石油のほとんどは海外から船で運ばれてきます。
その航路が詰まると、価格や量の両方に影響が出ます。
生活や仕事への影響
ガソリン代だけの話ではありません。
電気代、食品、配送料、仕入れ値—あらゆるところに少しずつしみ込んできます。
「備蓄があるから大丈夫」は正確ではない
まず、よく聞かれる疑問に答えておきます。
「日本には石油の備蓄があるんじゃないの?」
あります。
国と民間合わせて、一定期間分の備蓄は確保されています。
これは間違いなく安心材料のひとつです。
ただ、私はここで少し立ち止まって考えてほしいのです。
備蓄とは、家計でいえば「非常用の貯金」です。
急な出費があったとき、貯金を崩せば乗り切れます。
でも、毎月の収入が入ってこなくなっても貯金だけで生活し続ければ、いつか底をつきます。
原油の備蓄も、まったく同じ構造です。
一時的に取り崩して不足をやわらげることはできます。
しかし、「新しく入ってくる原油が減り続ける」という状態が長く続けば、備蓄は徐々に減っていきます。
事務所を経営する立場からも、同じことが言えます。
資金繰りの「緊急口座」は、あくまで時間を稼ぐためのものです。
根本的な売上の問題を解決しなければ、結局は追い詰められます。
備蓄は「問題を消す魔法」ではなく、「考える時間を買うもの」です。
なぜ今、この問題が注目されているのか
少し背景を説明します。
原油は、車のガソリンだけに使われるものではありません。
トラック、船、飛行機の燃料、工場のエネルギー、電気の発電、プラスチック製品の原料—「世の中を動かす血液」といっても大げさではありません。
今回の不安の根っこにあるのは、中東の地政学的な緊張です。
その詳しい内容はニュースに譲りますが、注目すべきは「ホルムズ海峡」という場所です。
ホルムズ海峡は、中東の原油がアジアや日本に向かう際に通る、細い海の通り道です。
学校に例えるなら、廊下の一番せまい場所です。
全員がそこを通らなければ教室に行けないのに、その場所が混雑したり通れなくなったりしたら—遅刻が増え、混乱が起きます。
原油の輸送も同じです。
この海峡が不安定になると、船が通りにくくなります。
通れたとしても、保険料や輸送費が上がります。
結果として、日本に届く原油のコストが上がる可能性が高まります。
過去の石油危機では、産油国が「売らない」という政治的な決定が原因でした。
今回の懸念は少し違います。
「売る気はあっても、運べないかもしれない」という問題です。
ネット通販で考えると、「在庫あり」と表示されているのに、配送トラックが止まって届かない状態です。
注文はできる。
でも手に入らない。
こうなると、本当に必要な人ほど困ります。
家計への影響:じわじわと来る「3つの経路」
原油価格が上がると、生活にどのような影響があるか。
わかりやすく3つに整理します。
ガソリン・光熱費
最もイメージしやすい部分です。
ガソリン価格は原油価格に連動します。
電気・ガス料金も、発電や製造のエネルギー源として原油やガスが使われるため、同様に影響を受けやすいです。
食品・日用品の値段
食品を運ぶトラックの燃料費が上がれば、配送コストが増えます。
農作業や食品加工にもエネルギーが必要です。
これらが積み重なって、スーパーの棚の価格に反映されます。
すぐには変わらなくても、じわじわと来るのが怖いところです。
サービス全般の値上がり
飲食店の厨房の光熱費、美容室の暖冷房代、宅配業者の燃料費—どれも原油と無縁ではありません。
お客さんへの価格転嫁が難しい業種ほど、利益の圧迫が静かに進みます。
小さな会社が実際に受ける影響:3つの場面
ここが今回、特にお伝えしたい部分です。
場面① 運送・配送を使っている会社
食品の仕入れをしている飲食店でも、ネット通販を手がけている個人事業主でも、外部の配送業者を使っている方は多いと思います。
燃料費サーチャージ(燃料費の追加料金)は、原油価格の上昇に伴い引き上げられることがあります。
「送料が急に上がった」という経験をされた方もいるかもしれません。
これが広範囲に起きると、仕入れコストへの転嫁という形で小さな会社を直撃します。
場面② 光熱費が利益に直結する業種
飲食、製造、農業、介護—これらの業種は、光熱費が事業コストの中で大きな比重を占めています。
売上が変わらなくても、電気代やガス代が上がれば利益は減ります。
私がお付き合いしている飲食店の方も、「メニューを変えないのに、原価が上がってきている」と話されていました。
こうした「見えないコスト増」が、小さな会社の経営を少しずつ蝕んでいきます。
場面③ 取引先からの値上げ要請
素材や部品を仕入れている会社にとって、取引先から「原材料費の上昇を理由とした値上げ」の要請が来ることがあります。
断れば関係が悪化するかもしれない。
受け入れれば自社の利益が削られる。
こうした板挟みの相談を、私は多く受けるようになっています。
原油高は、こうした連鎖的なコスト増の引き金になることがあります。
株高と補助金で「問題が見えにくくなる」という落とし穴
もう一点、大事なことをお伝えします。
株価が上がっていると、「景気がよくなっている」という雰囲気になります。
政府の補助金でガソリン価格が抑えられていると、「たいしたことない」と感じやすくなります。
しかし、これが一種の落とし穴です。
補助金は、価格の上昇を「見えにくくしている」ものです。
本来の価格が抑えられているだけで、原油コストの問題が消えたわけではありません。
国が補助金を出せば、その財源はどこかに負担が残ります。
株価は、すべての人の生活水準をそのまま映すものでもありません。
経営者の視点から言えば、「業績が好調な時期こそ、コスト構造を見直すチャンス」です。
利益が出ているときに余裕があるように見えても、水面下でコストが上がり続けているなら、静かにリスクが積み上がっています。
税理士として、私はよくこんな言い方をします。
「見えているコストより、見えにくいコストの方が怖い」
補助金の陰に隠れた原油コストの変化は、まさに「見えにくいコスト」の典型です。
1970年代との違い:今回は「物がない」ではなく「届かないかも」
過去の石油危機と今回の懸念は、構造が少し違います。
1970年代の石油危機は、産油国が政治的な理由で「売らない」と決めたことが大きな原因でした。
当時は日本でもトイレットペーパーの買い占めが起きるなど、社会的な混乱がありました。
今回の問題は、「誰かが売らない」という話ではありません。
「海の道が不安定になって、届かないかもしれない」という懸念です。
これは、材料が倉庫にはあるのに、工場まで運ぶ手段がなくなる—そんなイメージに近いです。
小さな製造業の例で考えてみます。
毎月決まった材料を仕入れて商品を作っている工場があったとします。
材料費が少し上がるだけなら、工夫や価格転嫁でなんとかなるかもしれません。
でも、材料そのものが届かないとなると話は別です。
工場は止まり、納品は遅れ、信頼を失います。
今回の懸念は、こうした「現物が届かないかもしれない」という不確実性です。
価格の問題よりも、供給の問題の方がより深刻になる可能性があります。
もちろん、最悪の事態になるとは限りません。
国際的な交渉や代替ルートの確保、備蓄の活用によって、影響が抑えられる可能性もあります。
大切なのは「楽観しすぎず、かつ必要以上にあわてない」ことです。
まとめ:押さえておきたい3つのポイント
備蓄は時間稼ぎです。問題を消す魔法ではありません。
新しい原油が入りにくい状態が続けば、備蓄だけでは対応できません。
時間を使って、次の手を考えることが大切です。
今回の問題は「価格」より「届くかどうか」が本質です。
ホルムズ海峡のような重要な航路が不安定になると、日本やアジアへの供給に影響が出る可能性があります。
価格が安くても手に入らない状況は、価格が高い以上に深刻です。
株高と補助金で、危機感が薄まりやすいことを知っておく。
「見えているコスト」だけを見ていると、気づいたときに手遅れになることがあります。
ガソリン代、電気代、食品費、配送費—この4つを定点観測することが、最初の一歩です。
今日からできること:10分でできる点検
難しいことはしなくていいです。
まずは、自分の家計や事業のどこに原油が関係しているかを「見える化」するだけでいいです。
家庭の場合
先月のガソリン代・電気代・ガス代を合計してみてください。
そこに、食品や日用品の宅配送料も加えると、「原油の影響を受けやすい支出」の全体像が見えてきます。
会社・事業者の場合
光熱費・燃料費・外注配送費をひとまとめにして、売上に対する比率を出してみてください。
この比率が静かに上がっているなら、それは利益が削られているサインです。
「気づいていなかっただけ」という状況を防ぐために、月次で確認する習慣をつけることをお勧めします。
今すぐ買いだめをしたり、事業計画を大きく変えたりする必要はありません。
まず「自分のどこに関係しているか」を把握すること。
それだけで、いざというときの判断の速さがまったく違ってきます。
ニュースを難しく考える前に、自分の生活や仕事のどこに関係するかを確かめる。
それが、今日できる最も現実的な一歩です。
この記事は、2025年以降の中東情勢や原油市場をめぐる報道・議論をもとに、一般の方や中小企業の経営者向けに税理士の視点から解説したものです。






