看護師用の独身寮、無償で貸したら税金はどうなる?

病院の独身寮無償貸与と所得税

ある病院では、多くの看護師さんを雇用し、日勤・深夜勤・早出などのシフトを組んで交代制で勤務してもらっています。

看護師さんの多くは、病院から車で20分ほどの場所にある独身寮に住んでおり、家賃は徴収していません。
一方で、自宅から通勤している看護師さんもいらっしゃいます。

ここで気になるのが、「この独身寮の無償提供は、税金の計算上、給与として扱われるのかどうか」 という点です。

まず、基本的なルールを確認しましょう

会社や病院が、役員や従業員に対して、

  • 住居をタダで貸したり
  • 相場より安い家賃で貸したり

した場合、その「得をした分」は、原則として給与の一部とみなされ、所得税がかかります。
(税金の世界では、この「得をした分」のことを「経済的利益」と呼びます。)

ただし、すべてが課税になるわけではありません。
「仕事のためにどうしても必要な住宅」 と認められる場合には、例外的に非課税(税金がかからない)となるケースがあります。

どんな場合に「非課税」になるの?

国税庁が出している通達(税金の取扱いを示したルール)では、住居の提供が非課税になる具体的なケースが定められています。

看護師さんに関係してくるのは、主に次の2つです。

パターン①:常に早朝・深夜に出退勤する人

24時間体制で動いている職場で、その人自身が「いつも」早朝や深夜に出退勤している場合です。

たとえば、工場やプラントなどで、昼も夜も交代しながら作業を続けていて、本人が常に早朝や深夜の時間帯に通勤しているようなケースが当てはまります。

パターン②:勤務時間外にも働くことが日常で、職場を離れられない人

通常の勤務時間外(深夜・早朝・休日など)にも働くことが当たり前になっていて、そのため職場から離れた場所に住むのが現実的に難しい場合です。

たとえば、夜間の急な呼び出しが頻繁にあり、病院から遠い自宅に戻っていては対応できない、そんな状況であれば、職場の近くに住んでいないと仕事が成り立ちません。

共通するポイント

どちらのパターンにも共通しているのは、「仕事の性質上、勤務先の近くに常にいなければならず、離れた場所に住むことが実質的に難しい」 という状況があることです。

看護師さんの独身寮は、どちらに当てはまる?

では、実際に看護師さんの独身寮はどう判断されるのでしょうか。
ケースごとに整理してみましょう。

【非課税になりうるケース】

次のような状況であれば、「仕事上どうしても必要な住宅」と認められ、非課税になる可能性があります。

その看護師さん本人が、常に早朝または深夜の勤務に従事していること。
通常の勤務時間外(深夜・早朝・休日など)にも働くことが日常的になっていること。
そのため、職場から離れた自宅で生活するのが現実的に難しく、職場近くに住むことが仕事を続けるための前提になっていること。

このような場合は、「その仕事をしてもらうために、やむを得ず提供している住宅」と判断されやすく、寮を無償や低い家賃で提供しても、給与として課税されない取扱いになりえます。

【課税が必要になりうるケース】

一方で、実際には次のようなケースが多く、この場合は課税対象となる可能性が高くなります。

日勤・深夜勤・早出などをローテーションで回している。
一人ひとりの看護師さんを見ると、「常に早朝・深夜勤務をしている」とまでは言えない。
自宅から通勤している看護師さんも一定数いて、「寮に住まなければ仕事ができない」とは言いにくい。

このような勤務形態では、病院全体としては24時間体制であっても、各看護師さんごとに見ると「常に」早朝や深夜に出退勤しているとは言えない、と判断されることが多くなります。

ここが大事なポイントです

通達で非課税が認められるには、「常時(=いつも)早朝・深夜勤務をしている」 というかなり厳しい基準を満たす必要があります。

単に「シフト制で夜勤がある」というだけでは、「常時」とは認められにくいのが実情です。

そのため、日勤・夜勤・早出などを交代制で勤務していて、独身寮に入るかどうかは本人の希望や通勤の便利さで決めている、といったケースでは、独身寮は「仕事上どうしても必要な住宅」ではなく、「福利厚生としての住宅」とみなされやすくなります。

この場合、独身寮を無償で貸しているのであれば、本来の家賃相当額を給与として課税すべきと判断される可能性が高くなります。

まとめ:判断のポイント

看護師さんの独身寮について、税務上の取扱いを整理すると、判断のポイントは大きく2つあります。

1つ目は、その看護師さん本人が「常に」早朝・深夜勤務をしているかどうかです。
ローテーションで回しているだけでは「常時」とは認められにくいのが実情です。

2つ目は、職場近くに住むことが実質的に必須かどうかです。
自宅から通勤している人も一定数いる場合は、「必須」とは言いにくくなります。
通達で認められている非課税の範囲は、思ったより狭いのが実情です。

実務で気をつけたいこと

看護師さん用の独身寮を無償または低い家賃で提供している場合は、「その看護師さん一人ひとりについて、勤務の実態や自宅との距離などを見たときに、寮に住まなければ仕事が難しいと言えるか」 を丁寧に確認することが大切です。

もし「福利厚生としての住宅」に該当する場合は、家賃相当額を給与として取り扱うことを検討する必要があります。