知人に支払った送迎代は医療費控除できる?通院時の注意点を解説
足を骨折すると、病院に通うことそのものが大きな負担になります。
・駅やバス停まで歩けない
・松葉づえで電車に乗るのが危険
・家族になかなか送り迎えを頼めない
こうした事情から、近所の学生さんや知人に車で送ってもらい、「アルバイト料」として1回2,000円をお渡しする、というケースは少なくありません。
病院へ行くために支払ったお金ですから、「通院費として医療費控除(支払った医療費の一部を、その年の所得から差し引くことで、税金の負担を軽くしてもらえる制度)の対象になるのでは」と考えるのは、とても自然なことです。
ただ、このご相談については、税金のことを考える前に、まず確認しておきたいことがあります。
それは、知人の自家用車で有料の送迎をしてもらうこと自体が、道路運送法(自動車で人を運ぶことについてのルールを定めた法律)上、問題にならないかという点です。
先に結論からお伝えします。
近所の学生さんに「1回2,000円」と金額を決めて送迎をお願いする場合、そのお支払いは単なる「お礼」ではなく、「送迎というサービスの対価」と判断される可能性があります。
また、このような知人への送迎代を医療費控除の対象として認めた事例は、少なくとも私たちが確認できた範囲では見当たりません。
したがって、タクシー代と同じくらいの金額だから、2,000円を全額医療費控除に入れてよいとは、残念ながら言い切ることができません。
税務署だけでなく、必要に応じて運輸支局(自動車を使った運送の許可・登録を扱う国の窓口)にも確認しておくと安心です。
まず確認したいのは「道路運送法」の問題
自家用車、いわゆる白ナンバー(事業用ではない、一般の車に付けられるナンバープレートのこと)の車を使って、人を有料で運ぶことには法律上の制限があります。
国土交通省のガイドラインでは、自家用車は原則として有料で人を運ぶために使ってはならず、例外的に行うには国土交通大臣の許可または登録が必要とされています。
これは、タクシーのような旅客運送を仕事にしている会社と違い、一般の自家用車には、運行の管理や運転者の管理といった、乗る人の安全を守るための仕組みがもともと備わっていないためです。
とはいえ、知人の車に乗せてもらい、何かお金を渡したら、それだけですべて違法になるわけではありません。
国土交通省は、次のような場合は、原則として許可や登録が不要としています。
・運転してくれた人からお金を求められたわけではなく、利用する側が自主的に、常識の範囲でお礼を渡す場合
・ガソリン代や高速道路料金、駐車場代など、実際にかかった費用だけを負担する場合
一方で、運転する人があらかじめ料金を決めて、その支払いを条件に送迎する場合は、単なる「お礼」とは認められにくくなります。
実際に許可や登録が必要な「有償運送」に当たるかどうかは、どのような約束のもとで、どんな支払い方をしているかを踏まえて、個別に判断されます。
「1回2,000円のアルバイト料」は単なるお礼と言いにくい
今回のケースでは、送迎をお願いするたびに、アルバイト料として1回2,000円を支払っています。
この金額があらかじめ決められていて、送迎を受けるたびに必ず支払うのであれば、利用する側が自主的に渡す「お礼」とは性質が異なります。
たとえば、送迎が終わったあとに、運転してくれた人から何も求められていないにもかかわらず、「助かりました、これで飲み物でも」と自主的に渡すお金であれば、社会通念上のお礼として扱われる余地があります。
これに対して、病院まで往復してもらう代わりに、毎回2,000円をお支払いしますという約束をしている場合は、送迎というサービスと2,000円の支払いが直接結びついています。
国土交通省のガイドラインに照らすと、これは単なる自主的なお礼とは扱いにくく、有償運送に当たるかどうかを個別に確認する必要があります。
「アルバイト料」「謝礼」「お礼」など、支払いの呼び方を変えれば済むわけではありません。
法律上は、名前ではなく、実際にどのような約束で送迎と支払いが行われているかが重視されます。
医療費控除では通院費も対象になる
道路運送法の問題とは別に、ここからは税務上の取扱いを確認していきましょう。
医療費控除の対象になるのは、病院での診察代や薬代だけではありません。
治療を受けるために必要な、一定の通院費も対象になります。
国税庁は、医療費控除の対象となる通院費について、次の両方を満たすことが必要としています。
・医師などによる診療や治療を受けるために、直接必要な費用であること
・通常必要とされる範囲の費用であること
一般的な電車代やバス代は、この通院費に含まれます。
ただし、病院へ行く日に支払ったお金が、すべて自動的に通院費になるわけではありません。
「治療のために本当に必要だったか」「移動距離や病状からみて、金額や方法が常識の範囲だったか」を確認する必要があります。
骨折で公共交通機関を使えないときのタクシー代
タクシー代は、原則としては医療費控除の対象になりません。
電車やバスに乗れるのに、単に「そのほうが早いから」「疲れたくないから」という理由でタクシーを使った場合は、対象外になります。
一方で、病状からみて急を要する場合や、電車・バスを利用できない事情がある場合には、タクシー代が医療費控除の対象になります。
国税庁は、こうした場合について、病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えないタクシー代であれば、医療費控除の対象になるとしています。
タクシーを使わざるを得ない事情から、高速道路料金がタクシー代に含まれている場合は、その高速道路料金も対象になります。
たとえば、次のような事情がある場合です。
・骨折によって駅やバス停まで歩けない
・松葉づえで電車やバスに乗ることが危険である
・手術直後で、長い時間立って待つことができない
・医師から、できるだけ歩かないよう指示されている
・痛みが強く、公共交通機関での移動が難しい
ただし、骨折している方のタクシー代が、すべて自動的に認められるわけではありません。骨折の場所や程度、通院の距離、公共交通機関の状況などによって、判断は変わってきます。
知人に支払った2,000円は、医療費控除の対象になるのか
ここが、今回いちばん慎重に考えたいところです。
国税庁は、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場料金は、医療費控除の対象外としています。
その理由として、医療費控除の対象となる通院費は、電車代やバス代のように、「人から移動というサービスを受けたこと」に対して支払うお金である、という考え方を示しています。
この説明だけを見ると、「知人に送迎サービスの対価として支払ったお金も、対象になりそうだ」と思われるかもしれません。しかし、国税庁が現在公表している主な資料では、次のような取扱いが示されているにとどまります。
・電車代・バス代…通常必要な通院費であれば対象になる
・公共交通機関を利用できない事情があるときのタクシー代…対象になる
・自家用車のガソリン代・駐車場代…対象にならない
これに対して、近所の学生さんや知人が自分の車で送迎し、その方に1回2,000円のアルバイト料を支払ったという今回のようなケースについて、医療費控除の対象になると直接示した国税庁の公表資料は、少なくとも確認できた範囲では見当たりません。
そのため、タクシーでなければならないとは書かれていないから、知人への支払いも対象になるはずだと決めつけることはできません。
通院のために直接必要な送迎であったとしても、道路運送法上の問題、支払いの性質、金額の決め方などを含めて、個別に確認しておく必要があります。
タクシー代より安ければ認められる、というものでもありません
同じ区間をタクシーで往復すると3,000円かかるところ、知人へは2,000円しか払っていない、というケースで考えてみましょう。
金額だけを比べれば、知人への支払いのほうが安く済んでいます。
しかし、医療費控除には、「タクシー料金以下であれば認める」という明確な基準はありません。
タクシー料金は、あくまで「支払った金額が著しく高すぎないか」を考えるうえでの、一つの目安にすぎません。
そのうえで、次の点は別に確認する必要があります。
・病状からみて、車での通院が本当に必要だったか
・実際の診療や治療を受けるための送迎だったか
・支払いは送迎そのものへの対価か
・日頃のお礼や、別の用事に対する報酬が混ざっていないか
・送迎の方法が、道路運送法上問題ないか
したがって、「タクシーより安いから、2,000円を全額医療費控除にできる」と判断するのは、避けておいたほうが安心です。
「実費を負担すること」と「医療費控除に入れられること」は別の問題
国土交通省のガイドラインでは、無償の送迎に対して、ガソリン代や高速道路料金、駐車場代といった実費を利用者が負担することは、原則として許可や登録が必要な有償運送には当たらない、とされています。
ただし、これはあくまで道路運送法上の話です。
「ガソリン代を負担しても法律上は問題ない」ということと、「そのガソリン代を医療費控除に含められる」ということは、まったく別の問題です。
国税庁は、自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場料金について、医療費控除の対象外であると明確に説明しています。
そのため、知人の車に乗せてもらい、実際にかかったガソリン代だけを負担したようなケースについても、道路運送法上は問題がなかったとしても、医療費控除の対象になるとは限りません。
税務上の取扱いについては、申告の前に、税務署へご確認いただくことをおすすめします。
ご自身やご家族の車で通院した場合
ご自身の車で通院した場合のガソリン代や、病院の駐車場代は、医療費控除の対象になりません。
国税庁は、自家用車による通院費について、ガソリン代・駐車場料金のいずれも対象外であると明確にしています。
ご家族に自家用車で送ってもらった場合も、基本的には同じように考えておくのが安全です。
したがって、次のような費用は、原則として医療費控除には含めません。
・ご自身の車のガソリン代
・ご家族の車のガソリン代
・病院の駐車場料金
・車の修理代・維持費
・車両の購入費
「治療のために必要だった」という事情があっても、自家用車にかかった費用がすべて通院費になるわけではない、という点は覚えておいていただきたいところです。
すでに学生さんへ2,000円を支払っている場合は、まず事実関係の整理から
すでに送迎を受けて、2,000円を支払っている場合は、あわてて医療費控除に入れてしまう前に、まず状況を整理しておきましょう。
記録しておきたいのは、次のような内容です。
・通院した日
・通院先の病院名
・自宅から病院までの区間
・片道か往復か
・送迎してくれた方のお名前
・支払った金額
・支払いを事前に約束していたかどうか
・金額をどのように決めたか
・公共交通機関を利用できなかった理由
・実際に診療や治療を受けたことが分かる資料
可能であれば、「〇年〇月〇日、〇〇病院への往復送迎に関する支払いとして2,000円を受け取った」ということが分かる記録も残しておくと安心です。
ただし、こうした受領書があるだけで、医療費控除が認められるわけではありません。
受領書は、あくまで「お金を支払った」という事実を示す資料です。
その支払いが医療費控除の要件を満たすかどうかは、別に判断されます。
なお、医療費控除を申告するときは、原則として「医療費控除の明細書」を確定申告書に添付します。
領収書などは、税務署から確認を求められた場合にすぐ提示できるよう、原則として確定申告の期限などから5年間、保管しておいてください。
これからの通院は、許可を受けた交通手段の利用が安心です
今後も通院が続くようであれば、一般のタクシーや、適法に運行されている福祉輸送サービスなどを利用するほうが、税務面でも法律面でも説明しやすくなります。
とくに、近所の学生さんに毎回決まった料金を支払い、継続して送迎してもらう方法には、次のような点が気になります。
・道路運送法上の有償運送に当たる可能性があること
・万一事故が起きた場合の保険関係を、あらかじめ確認しておく必要があること
・医療費控除に含められるかどうかが、はっきりしないこと
・領収書や支払いの記録が残りにくいこと
一時的に知人に助けてもらうこと自体を否定するものではありません。
ただ、あらかじめ1回あたりの料金を決めて、繰り返し送迎してもらう場合は、善意の助け合いだけでは済まない問題が出てくることがあります。
継続して利用する前に、最寄りの運輸支局などへ一度確認しておくと、より安心です。
医療費控除は、支払った金額がそのまま戻ってくる制度ではありません
最後に、誤解の多いポイントを一つ補足します。
仮に、今回の2,000円の送迎代が医療費控除の対象として認められたとしても、2,000円がそのまま税務署から戻ってくるわけではありません。
医療費控除は、対象となる医療費を所得から差し引くことで、所得税や住民税の負担を軽くする制度です。
通常の医療費控除額は、原則として次のように計算します。
実際に支払った医療費 -保険金などで補てんされる金額 -10万円
なお、その年の総所得金額等が200万円未満の場合は、10万円ではなく「総所得金額等の5%」を差し引きます。
控除できる金額の上限は200万円です。
たとえば、計算の結果、医療費控除額が5万円になったとしても、5万円がそのまま返金されるわけではありません。
その5万円を所得から差し引いたうえで、ご自身に適用される税率に応じて、実際の税負担が軽くなる、というしくみです。
まとめ
足を骨折して公共交通機関を利用することが難しい場合、通院のためのタクシー代は、医療費控除の対象になることがあります。
一方で、近所の学生さんや知人の自家用車で送迎してもらい、1回につき2,000円などの一定額を支払った場合は、簡単には判断できません。
とくに、「1回2,000円」とあらかじめ決めている場合は、単なる自主的なお礼とは扱いにくく、道路運送法上、有償運送に当たるかどうかを確認しておく必要があります。
税務上も、国税庁の公表資料には、このケースについて医療費控除の対象になると明確に示したものは見当たりません。
そのため、
・タクシー代と同程度だから医療費控除にできる
・タクシーより安いから問題ない
・「お礼」という名前にすれば大丈夫
とは考えないほうがよいでしょう。
すでに支払っている場合は、通院日、病院名、送迎してくれた方、金額、金額の決め方、公共交通機関を利用できなかった理由などを整理し、申告に含める前に、税務署へご確認ください。
今後も通院が続く場合は、一般のタクシーや、許可・登録を受けて適法に運行されている輸送サービスの利用をご検討いただくのが安心です。
※この記事は、2026年7月26日時点で確認できる国税庁および国土交通省の公表資料をもとに、一般的な考え方をご説明したものです。
知人への送迎代の税務上の取扱いや、道路運送法上の許可・登録の要否は、実際の約束の内容、支払い方、送迎の回数などによって異なります。
実際の適用にあたっては個別の判断が必要になりますので、個別のケースについては、税務署、運輸支局などへご確認ください。






