老健の費用はどこまで医療費控除になる?対象になる費用・ならない費用を整理
ご家族が「介護老人保健施設」に入所していると、毎月まとまった施設利用料がかかることがあります。
確定申告の時期になると、
「父が介護老人保健施設に入っているけれど、この費用は医療費控除に入れてよいのだろうか」
「介護費は分かるけれど、食費や部屋代も対象になるのだろうか」
「施設からもらった領収証の金額を、そのまま医療費として申告してよいのだろうか」
と迷う方も多いのではないでしょうか。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、確定申告をすることで所得税や住民税の負担を軽くしてもらえる制度です。
結論からお伝えすると、介護老人保健施設から受ける施設サービスについて支払った介護費・食費・居住費の自己負担額は、原則としてこの医療費控除の対象になります。
国税庁は、介護老人保健施設について、施設サービスの対価として支払った介護費・食費・居住費の自己負担額を、医療費控除の対象としています。
ただし、介護老人保健施設に支払った金額が、何でも医療費控除になるわけではありません。
理美容代などの日常生活費や、本人の希望によって利用する特別なサービスの費用などは、原則として医療費控除の対象外です。
そのため、確定申告をするときは、口座から引き落とされた施設利用料の総額だけを見るのではなく、施設から発行された領収証に記載されている「医療費控除対象額」を確認することが大切です。
この記事では、介護老人保健施設の利用料と医療費控除の関係について、税金に詳しくない方にも分かるように説明します。
介護老人保健施設とはどのような施設?
介護老人保健施設は、一般に「老健(ろうけん)」と呼ばれています。
要介護の方に対して、リハビリテーションや必要な医療、介護などを提供し、できるだけ自立した生活や在宅復帰につなげていくことを目的とした施設です。
厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」でも、介護老人保健施設について、在宅復帰を目指す方を受け入れ、リハビリテーションや必要な医療、介護などを提供する施設と説明されています。
たとえば、次のような方が利用するケースがあります。
・病院での治療を終えて退院したものの、まだ一人で歩くことが難しい方
・食事や着替えなどに介助が必要な方
・自宅で生活する前に、もう少しリハビリを続けたい方
ただし、病院から退院した方だけが入所できるという意味ではありません。ここでは、あくまで介護老人保健施設を利用する場面の一例として考えてください。
介護老人保健施設では、単に日常生活のお世話をするだけではなく、リハビリや必要な医療、看護、介護などが一体的に提供されています。
こうした施設の性格から、一定の利用料が所得税の医療費控除の対象とされています。
介護老人保健施設では、食費や居住費も医療費控除の対象
今回、特に知っておいていただきたいのがこの点です。
介護老人保健施設の施設サービスについては、介護費だけでなく、食費・居住費の自己負担額も医療費控除の対象になります。
国税庁では、介護老人保健施設について、次の費用に係る自己負担額として支払った金額を、医療費控除の対象としています。
・介護費
・食費
・居住費
「食事代や部屋代は生活費だから、医療費にはならないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、介護老人保健施設の施設サービスについては、介護費だけではなく、食費と居住費についても医療費控除の対象として取り扱われています。
たとえば、毎月の領収証に「介護費」「食費」「居住費」などが分けて記載されている場合には、施設側が記載している医療費控除対象額を確認して、確定申告に使用します。
ただし、同じ領収証に載っている費用だからといって、すべてが対象になるわけではありません。
理美容代などの日常生活費は対象にならない
介護老人保健施設に支払う費用の中には、医療費控除の対象にならないものもあります。
代表的なのが、次のような費用です。
・理美容代
・日常生活のために通常必要となる費用
・本人の希望で利用する特別なサービスの費用
国税庁も、理美容代などの日常生活費や、特別なサービス費用については医療費控除の対象外としています。
たとえば、施設内で髪を切ってもらい、その理美容代を施設利用料と一緒に支払ったとしても、通常、その理美容代まで医療費控除に入れることはできません。
つまり、「介護老人保健施設に払ったお金だから全部対象」というわけではありません。
一方で、「食費や部屋代だから医療費控除にはならない」というわけでもありません。
この区別が分かりにくいため、確定申告の際には施設から受け取った領収証を確認することが重要です。
個室料金も、場合によっては医療費控除の対象になる
個室などの特別室を利用した場合の料金についても注意が必要です。
介護老人保健施設の個室等の特別室の使用料については、診療や治療を受けるためにやむを得ず支払うものである場合には、医療費控除の対象になります。
国税庁もこの取扱いを明記しています。
反対に、「本人が個室を希望したから」「より快適な部屋を選んだから」という理由で支払う費用については、同じように考えられるとは限りません。
個室料金については事情によって判断が変わる可能性があるため、金額が大きい場合などは、施設や税務署に確認すると安心です。
特別養護老人ホームとは医療費控除の取扱いが違う
介護施設の医療費控除でよくある勘違いが、「どの介護施設でも同じように計算するのだろう」というものです。
実際には、施設の種類によって医療費控除の対象額が異なります。
介護老人保健施設では、介護費・食費・居住費の自己負担額が医療費控除の対象になります。
一方、指定介護老人福祉施設、一般に「特別養護老人ホーム」と呼ばれる施設などについては、対象となる介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1相当額が医療費控除の対象です。
つまり、介護老人保健施設と特別養護老人ホームでは、同じ計算をするわけではありません。
施設の名称が似ているため、「老人ホームだから半分だけだろう」「介護施設なら全部同じだろう」と自己判断しないよう注意しましょう。
まずは、入所している施設が「介護老人保健施設」なのか、「特別養護老人ホーム」なのかを確認することが大切です。
契約書や重要事項説明書、施設のパンフレット、領収証などを見ると確認しやすいでしょう。
確定申告では、まず領収証の「医療費控除対象額」を確認
実際に医療費控除を申告するとき、「いったいいくらを医療費として入力すればよいのか」と迷うことがあります。
基本的には、施設から発行された領収証を確認してください。
介護老人保健施設が発行する領収証では、医療費控除の対象となる金額が分かるように記載される取扱いとなっています。
国税庁も、施設が発行する領収証について医療費控除の対象額を確認するよう案内しています。
領収証には、「医療費控除対象額」「医療費控除対象」などの欄が設けられていることがあります。
たとえば、その月に施設へ合計15万円を支払ったとしても、その中に理美容代などの対象外費用が含まれていれば、15万円全額をそのまま医療費控除に入れるとは限りません。
したがって、「施設への支払総額」ではなく「医療費控除の対象額はいくらなのか」を見ることがポイントです。
領収証を見ても分からない場合には、施設の事務担当者に、「この領収証のうち、医療費控除の対象になる金額はどこですか」と確認するとよいでしょう。
高額介護サービス費の払い戻しを受けた場合は調整が必要
もう一つ忘れやすいのが、「高額介護サービス費」の払い戻しです。
介護サービスの自己負担額が一定の上限を超えた場合、要件に該当すれば、高額介護サービス費として払い戻しを受けることがあります。
介護老人保健施設の費用について高額介護サービス費の払い戻しを受けた場合には、その払い戻しの対象となった医療費から、高額介護サービス費を差し引いて医療費控除を計算します。
国税庁も、高額介護サービス費として払い戻しを受けた場合には、その金額を医療費から差し引いて医療費控除額を計算するとしています。
たとえば、介護老人保健施設の領収証に医療費控除対象額が記載されていたとしても、その対象となった介護費について後から高額介護サービス費の払い戻しを受けている場合には、領収証の金額だけを見て申告を終わらせないよう注意が必要です。
そのため、確定申告に備えて、施設の領収証と、高額介護サービス費の支給決定通知などを一緒に保管しておくことをおすすめします。
こうしておけば、確定申告の時期になってから「いくら払い戻されたのか分からない」ということを防ぎやすくなります。
父の施設利用料を子どもが払っている場合はどうなる?
ご家族の場合には、「父の介護老人保健施設の料金を、子どもである自分が払っている」というケースもあります。
医療費控除は、必ずしも医療や介護を受けた本人だけが利用できる制度ではありません。
自分と「生計を一にする」配偶者や親族のために医療費を支払った場合には、一定の要件のもとで、実際にその医療費を支払った人が医療費控除を受けられる場合があります。
ここでいう「生計を一にする」は、必ずしも同じ家に住んでいることだけを意味するものではありません。
たとえば、お父様が施設に入所して別居状態になっていても、生活費や療養費を継続して負担しているなど、実際の生活費の負担状況によって「生計を一にする」と判断される場合があります。
そのため、「父は施設に入っていて一緒に住んでいないから、自分の医療費控除にはできない」とすぐに判断する必要はありません。
ただし、この判断には個別の事情が関係します。
誰が実際に施設利用料を支払っているのか、親子の生活費や療養費の負担関係がどのようになっているのかを確認したうえで判断しましょう。
医療費控除は「支払った金額がそのまま戻ってくる制度」ではない
ここもよくある勘違いです。
たとえば、「年間30万円の医療費があったから、30万円の税金が戻ってくる」という制度ではありません。
医療費控除は、一定の医療費を所得から差し引いて、所得税などを計算し直す「所得控除」という仕組みです。
そのため、実際に税金がいくら少なくなるのかは、その方の所得や税率などによって変わります。
介護老人保健施設の利用料が医療費控除の対象になったからといって、その利用料と同じ金額が返金されるわけではありません。
この点は、確定申告をする前に理解しておくとよいでしょう。
領収証は捨てずに保管しておきましょう
医療費控除を受ける場合は、原則として「医療費控除の明細書」(1年間に支払った医療費の内容をまとめて記入する書類)を作成して確定申告を行います。
現在は、医療費の領収証を一枚ずつ確定申告書に添付する方法ではありません。
ただし、税務署から確認を求められる場合があるため、領収証は確定申告期限等から5年間、自宅などで保管しておく必要があります。
介護老人保健施設を長期間利用している場合には、毎月の領収証がかなりの枚数になることがあります。
年末になってから探し始めると大変ですので、「介護老人保健施設」「病院」「薬局」などに分けて、毎月保管しておくと確定申告が楽になります。
また、高額介護サービス費の払い戻しがある場合には、その支給決定通知なども同じ場所に保管しておきましょう。
なお、確定申告の受付期間は、例年2月中旬から3月中旬ごろに設けられています。
年によって開始日・終了日が多少前後することがありますので、正確な期間は国税庁の発表でご確認ください。
訪問看護やデイサービスは、施設入所とは別のルール
介護保険のサービスには、介護老人保健施設などに入所して受ける「施設サービス」のほか、自宅などで受ける「居宅サービス」があります。
この二つは、医療費控除の取扱いを分けて考える必要があります。
たとえば、訪問看護や訪問リハビリテーションなど、医療と密接に関係する一定の居宅サービスは医療費控除の対象になります。
一方、訪問介護や通所介護などは、一定の医療系サービスと併せて利用していることなどが要件となる場合があります。
また、医療費控除の対象とならない介護サービスもあります。
したがって、「介護保険を使ったサービスなら、全部医療費控除になる」と考えないことが大切です。
介護老人保健施設の施設サービスについてのルールと、自宅で利用する介護サービスについてのルールは分けて確認しましょう。
今からできることを整理しておきましょう
確定申告の時期になって慌てないよう、次の点を早めに確認しておくと安心です。
・入所している施設が「介護老人保健施設」なのか「特別養護老人ホーム」なのかを、契約書や重要事項説明書で確認する
・毎月の領収証にある「医療費控除対象額」を確認し、施設ごと・月ごとに保管しておく
・高額介護サービス費の払い戻しがある場合は、支給決定通知も一緒に保管しておく
・実際に施設利用料を支払っているのが誰か、生活費や療養費の負担関係を整理しておく
まとめ|介護老人保健施設の領収証をまず確認しましょう
介護老人保健施設、いわゆる「老健」に入所している場合、施設サービスとして支払う介護費・食費・居住費の自己負担額は、原則として医療費控除の対象になります。
「介護費は対象だけれど、食費や居住費は対象外」と思い込まないことが大切です。
一方で、理美容代などの日常生活費や、本人の希望によって受ける特別なサービス費用などは、原則として対象になりません。
また、特別養護老人ホームの場合には取扱いが異なり、対象となる介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1相当額が医療費控除の対象になります。
確定申告をするときは、まず施設から発行された領収証を確認して、「医療費控除対象額はいくらか」を確認してください。
さらに、高額介護サービス費などの払い戻しを受けている場合には、その払い戻しの対象となった費用について金額を調整する必要があります。
ご家族の介護では、施設利用料だけでなく、病院代や薬代など、さまざまな支出が重なることがあります。
医療費控除の対象になるものをきちんと整理しておけば、本来受けられる控除を見落とすことを防げます。
領収証や高額介護サービス費の通知書などは捨てずに保管し、確定申告の時期にまとめて確認できるようにしておくと安心です。
※この記事は、2026年8月12日時点で確認できる国税庁・厚生労働省などの公的情報に基づいて作成しています。
税制や介護保険制度は今後改正されることがあります。
また、個室料金、生計を一にする親族の判定、高額介護サービス費との調整などは、個別の事情によって判断が異なる場合があります。
実際に確定申告を行う際は、最新の国税庁情報をご確認いただくか、税務署へご相談ください。






