【法人税】賃上げ促進税制の繰越額、翌期にいくら持ち越せる?よくある誤解と正しい考え方

賃上げ促進税制の繰越額管理と誤解しやすいポイント

はじめに

法人税の申告書を作っていると、「賃上げ促進税制の繰越額って、どこまで翌期に持ち越せるの?」と悩むことがあります。

特に多いのが、次のようなケースです。

・前期から賃上げ促進税制の繰越額がある
・でも当期は、給与の支給額が前年より少なかった
・こういう場合、当期の法人税額の20%分も翌期に繰り越せるの?

結論から先にお伝えします。

当期の調整前法人税額の20%相当額を、前期からの繰越額に上乗せして翌期に繰り越すことはできません。

この記事では、「なぜできないのか」「では何が繰り越せるのか」「申告書ではどう管理するのか」を、できるだけわかりやすくご説明します。

そもそも「賃上げ促進税制」とは

賃上げ促進税制とは、簡単に言うと、「従業員への給与を増やした会社が、増やした分に応じて法人税を安くしてもらえる制度」です。

中小企業の場合、前の年より給与の支給額が一定割合以上増えた事業年度に、一定額の税額控除(法人税から直接引き算できる金額)が発生します。

ただし、その控除額を全額その年に使いきれるとは限りません。
法人税額が少ない場合などは、控除しきれない部分が残ることがあります。

その「控除しきれなかった分」を翌期以降に持ち越す仕組みが、繰越税額控除限度超過額です。

この繰越額を管理するために使う申告書が、「別表六(二十四)」および「別表六(二十四)付表一」です。

「調整前法人税額の20%」は何のための数字か

賃上げ促進税制には、一度に控除できる金額に上限があります。

中小企業の場合、1つの事業年度で控除できる金額の上限は、「調整前法人税額の20%相当額」とされています。

たとえば、調整前法人税額が1,000万円あれば、その20%=200万円が、その年に控除できる上限です。

ここで誤解が生じやすいのですが、この200万円は「当期に控除できる上限額」です。

「翌期に繰り越せる金額」ではありません。

つまり、「法人税額が1,000万円あるから、200万円を翌期に繰り越せる」という考え方は、残念ながら誤りです。

繰越額として翌期に持ち越せるのは、あくまで「賃上げ要件を満たした年度に発生した控除限度額のうち、その年に控除しきれなかった金額」だけです。

当期に給与が減っていたら、繰越額はどうなる?

今回のケースのように、当期の給与支給額が前年より少なかった場合、当期は賃上げ促進税制の適用要件を満たしません。

要件を満たさないということは、当期に新たな税額控除限度額が発生しないということです。

発生していない以上、当期分として翌期に繰り越せる金額もありません。

したがって、次のような計算はできません。
前期からの繰越額 100万円
+ 当期の調整前法人税額の20%相当額 200万円
= 翌期繰越額 300万円 ← これは誤りです

正しくは、こうなります。
前期からの繰越額 100万円
- 当期に実際に控除した金額 0円
= 翌期繰越額 100万円

当期控除額がゼロであれば、前期からの繰越額がそのまま翌期に引き継がれるイメージです。
(ただし、繰越期間の期限が切れている部分があれば、その分は翌期に繰り越せません。)

よくある3つの誤解

誤解① 「毎期、法人税額の20%を繰り越せる」

法人税額があるだけでは、繰越額は生まれません。
繰越額が生まれるのは、まず賃上げ要件を満たした年度だけです。
20%は「控除できる上限」であって、それ自体が繰越額になるわけではありません。

誤解② 「給与が増えていなくても、法人税額があれば繰越額が増える」

賃上げ促進税制は、あくまで「給与を増やした会社」を対象にした制度です。
給与が増えていない年度では、制度の入口に立てていない状態ですので、新たな控除限度額は発生しません。

誤解③ 「当期に控除しないなら、付表一は不要」

これは要注意です。
当期に控除しない場合でも、前期からの繰越額を翌期以降に引き継ぐためには、別表六(二十四)付表一を申告書に添付して、繰越額の管理を続ける必要があります。

将来控除を使おうとしたときに、途中の年度で明細書が添付されていなかったことが判明すると、「この繰越額は本当に適正に引き継がれていたのか」という確認対象になります。

税務署はここを確認します

この制度について申告書を確認する際、税務署側が見るポイントは主に次の5点です。

当期に賃上げ要件を満たしているか

給与が前年より減っているのに、当期発生額が計上されていないかを確認します。

20%限度額を繰越可能額と誤解していないか

調整前法人税額の20%が翌期繰越額に加算されていないかを確認します。

前期からの繰越額が正しく引き継がれているか

前期申告書の翌期繰越額と、当期申告書の前期繰越額が一致しているかを確認します。

繰越期間を超えていないか

発生年度ごとに期限が設けられています。
古い年度の繰越額が期限を超えて使われていないかを確認します。

付表一の添付が毎期続いているか

途中の年度で添付が漏れていると、将来の控除時に説明が必要になる可能性があります。

実務での確認の順番

申告書を作成する際は、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

ステップ1:前期申告書を確認する

前期の別表六(二十四)付表一で、翌期繰越額としていくら記載されているかを確認します。
この金額が、当期の出発点です。

ステップ2:当期の給与支給額を確認する

当期の給与等支給額が、前年の金額と比べて増加しているかどうかを確認します。
増加していない場合、当期分の新たな税額控除限度額は基本的に発生しません。

ステップ3:当期に繰越控除を使えるか確認する

前期からの繰越額について、当期で控除できる要件を満たすかどうかを確認します。
要件を満たさない場合、当期控除額はゼロです。

ステップ4:付表一で翌期繰越額を管理する

前期からの繰越額・当期控除額・翌期繰越額を付表一で整理します。
このとき、当期の調整前法人税額の20%相当額を翌期繰越額に加算しないよう注意してください。

まとめ

今回のポイントを一言でまとめると、こうなります。

「調整前法人税額の20%」は、当期に控除できる上限であって、翌期に繰り越せる金額ではありません。

前期から繰越額がある会社でも、当期に給与が前年より減っていれば、当期分の新たな控除限度額は発生しません。
したがって、20%相当額を上乗せして翌期に繰り越すことはできず、翌期に持ち越せるのは前期からの繰越残額だけです。

また、当期に控除を受けない場合でも、別表六(二十四)付表一を添付して繰越額を毎期きちんと管理しておくことが、将来のトラブルを防ぐうえでとても大切です。

この記事は作成時点の情報に基づいています。
賃上げ促進税制は年度ごとに内容や様式が変わる場合があります。
実際の申告にあたっては、対象事業年度・発生年度・繰越期間・添付書類の要件を最新の情報で必ずご確認ください。
個別のご判断については、税務署にご相談することをお勧めします。