人手不足の会社はなぜもうかるのか―建設業界から読む、物価高の本質

人手不足時代の価格交渉戦略

はじめに:あなたの会社でも、同じことが起きていませんか?

「最近、外注費が上がって困っています」

こういう相談を、お客さまからよく受けるようになりました。
設備工事を頼んでも、以前より時間がかかる。
修理を依頼しても「今は職人が空いていない」と言われる。
打ち合わせをしても「その金額では受けられない」と断られる。

これは、建設業界でいま起きていることと、構造がまったく同じです。

ゼネコンと呼ばれる大手建設会社が、過去最高の利益を出しているというニュースがあります。
その一方で、全国の再開発では延期や縮小も出ているとされています。

「大きな建設会社の話なんて、自分には関係ない」

そう感じるかもしれません。

でも、この話は「人手不足の業界では値上げが通りやすくなる」という、あなたの会社やお客さまにも直結する話です。
今日は、その仕組みを一緒に考えてみましょう。

ゼネコンに何が起きているのか

まず、状況を整理します。

ゼネコンとは、大きなビル、駅前の再開発、ホテル、商業施設などの建設をまとめて請け負う大手建設会社のことです。

そのゼネコン大手4社が、そろって高水準の利益を出しているとされています。
純利益とは、売上からコストや税金を引いた後に会社に残るお金のことです。

なぜこれほど利益が出ているのか。

理由はシンプルです。
建てたい人は多い。
でも、工事できる人が足りない。

この一言に尽きます。

「人手不足=苦しい」だけではない

人手不足というと、多くの経営者は「採用が大変」「現場が回らない」というマイナスのイメージを持ちます。
もちろん、それは現実です。

でも、税理士として長年お客さまの経営を見てきた立場から言うと、人手不足には「もう一つの顔」があります。

それは、値段を下げなくても仕事が取れるようになる、という顔です。

仕事がたくさんあるのに、工事できる人や会社が少なければ、発注する側は「この業者に頼むしかない」という状況になります。
すると、受ける側は条件の良い仕事を選びやすくなります。

これを「選別受注」といいます。利益が出やすい仕事を選び、採算の合わない仕事は断る。
これが、今の大手ゼネコンの戦略です。

結果として、コストが上がっても価格に上乗せしやすくなり、利益が増えやすくなっています。

リフォーム会社の話で考えてみましょう

少し身近な例で考えてみます。

あなたの会社や自宅のキッチンをリフォームしたいとします。
3年前は100万円だった工事が、今は130万円になったとします。
材料費が上がり、職人さんの人件費も上がったからです。

でも、そのリフォーム会社には仕事の依頼がたくさん来ています。
職人さんの手が空かない。

この状況で会社はどう動くか。

「130万円でなければ受けられません」
「今すぐは難しく、半年後なら対応できます」
「この規模の工事は今は受けていません」

こう言いやすくなります。

仕事が少なければ、多少安くても受けに行かなければなりません。
でも、仕事が多くて人が足りなければ、条件の良い仕事だけを選べる。
これが、今の建設業界全体に起きていることです。

小さな会社でも同じ構造が起きている

同じような変化が起きている会社があります。

たとえば、地元の電気工事会社です。
社員10名ほどの会社ですが、最近は「見積もりを出しても、高いと言われても仕事が来る」という状態が続いているとのことです。

理由を聞くと、「地域に電気工事をできる業者が減っている。
若い職人が入ってこないし、廃業した同業者も多い」とのことでした。

以前は値段を下げて仕事を取りに行っていた。
今は、むしろ採算が合わない小さな工事は断るようにしている。
そのほうが、社員を守れる。

これは、会計事務所から見ても、経営として正しい判断です。

売上が少し下がっても、利益は増えている。
無理な仕事を受けなくなった分、現場のトラブルも減った。
このお客さまは、人手不足をうまく追い風にしている会社の一つです。

値上げが通る業界と通らない業界の違い

ただし、すべての人手不足業界が利益を増やせるわけではありません。

ポイントは一つです。
値上げをお客さんが受け入れてくれるかどうか。

たとえば、次のような業界はどうでしょう。
介護や保育は、人手不足が深刻です。
でも、利用者の多くは費用を行政が決めた基準に沿って支払うため、事業者が自由に価格を上げることが難しい面があります。

一方で、外食や宿泊、設備工事などは、状況によっては価格転嫁がしやすい場合があります。
必要なサービスであり、代わりが見つかりにくい場合には、多少高くてもお客さんが支払ってくれるからです。

建設業界の大手が好調なのは、「大規模な再開発や建て替えは、多少高くても発注せざるを得ない」という需要の強さがあるからです。

スマホ代でたとえると

もう一つ、わかりやすいたとえをします。

スマホは今や、仕事にも日常にも欠かせないものです。
料金が少し上がっても、すぐに「もう使わない」とはなりにくい。
必要だからです。

でも、あまりに料金が上がれば、安いプランを探したり、使い方を見直したりします。

建設も似ています。
「必要だから、多少高くても進める」という需要がある間は価格が通りやすい。
でも、費用が上がりすぎれば「今は延期しよう」「規模を小さくしよう」という判断が増えます。

全国で再開発の延期や縮小が出ているというのは、まさにその動きだと見ることができます。

楽観しすぎてはいけない理由

大手ゼネコンの利益が高水準になっているというニュースは、一面では明るい話です。
でも、私はお客さまに「それがいつまでも続くとは限りません」とお伝えするようにしています。

理由は3つあります。

一つ目は、コストのさらなる上昇です。
資材価格が今後も上がれば、発注する側が「もう払えない」と判断するケースが増えます。
受注できても、利益が出にくくなる可能性があります。
二つ目は、金利の上昇です。
お金を借りる費用が上がると、企業や個人が大きな投資を先送りしやすくなります。
大規模な建設や不動産開発には多額の借入が絡むことが多く、金利の動きはダイレクトに影響します。
三つ目は、需要には限りがあるということです。
再開発や建て替えの計画は有限です。
必要な工事が一通り終われば、注文は落ち着いていきます。
今の強い需要がどのくらい続くかは、誰にも確実にはわかりません。

経営者として、今見ておくべきこと

会計事務所を経営しながら、お客さまの経営を長く見てきた経験から言わせてもらうと、今の建設業界の話は「他人事」ではありません。

あなたの会社や、取引先の会社にも、似たような変化が起きているかもしれません。

人手不足なのに、なんとなく安くしてしまっている。
断れる立場なのに、断れていない。
コストが上がっているのに、値上げを伝えられていない。

こういう会社を、私は毎年いくつか見ています。そして、じわじわと利益が削られていきます。

逆に、自社の「替えのきかなさ」を冷静に把握して、適正な価格で仕事を取る会社は、人手不足の時代においても着実に利益を残しています。

建設業界の話は、その縮図として読むことができます。

まとめ

今回の話を整理すると、こうなります。

大手建設会社が高水準の利益を出している背景には、人手不足による選別受注と、価格転嫁のしやすさがあります。

一方で、建設費の上昇によって再開発の延期や縮小も起きており、需要にも限界があることが見えてきています。

これは建設業界だけの話ではなく、「人手不足×値上げが受け入れられる業界」では利益が増えやすいという、幅広い法則として見ることができます。

ただし、インフレや金利の動きによって、その好調がいつ変わるかは分かりません。

大切なのは、追い風を活かしながらも、冷静にリスクを見ておくことです。

今日からできる一歩

10分だけ、次の3つを考えてみてください。

自社や取引先で「値上げが通りやすくなった」変化がないか振り返る

以前よりも交渉がしやすくなった、断れるようになった、という感覚があれば、それは市場の変化のサインです。

自社のコストのうち、上がり続けているものを1つ挙げる

外注費、仕入れ、光熱費など。それを価格に転嫁できているか、確認してみましょう。

「うちが選ばれている理由」を1つ言語化する

代わりがいない理由、続けてもらえている理由。
それが価格交渉の土台になります。

物価高の時代は、受け身でいると利益が減っていきます。
でも、構造を正しく読めれば、次の一手が見えてきます。