単身赴任の役員社宅は1軒ずつ判定できる?小規模住宅の計算方法を分かりやすく解説
役員の転勤にともなって、会社が赴任先にも社宅を用意することがあります。
特に、お子さんの学校や家族の生活を考えて、家族はこれまでの社宅にそのまま残り、役員本人だけが単身赴任するというケースは珍しくありません。
この場合、会社から見ると、同じ役員に対して2軒の社宅を貸している状態になります。
そこで悩ましいのが、役員社宅の「小規模住宅」(床面積が一定の基準以下で、家賃を安く計算できる社宅のことです)に当てはまるかどうかの判定です。
2軒の社宅が、それぞれ単独では床面積の基準以内であれば、両方とも小規模住宅として扱ってよいのでしょうか。
それとも、2軒の床面積を合計して判定する必要があるのでしょうか。
今回は、家族が住む大阪の社宅と、役員本人が単身赴任先で使用する福岡の社宅があるケースをもとに、判定の考え方と実務上の注意点を、できるだけやさしい言葉で説明します。
今回のケース
大阪本社に勤務していた役員Aさんが、福岡支社へ転勤することになりました。
ただし、お子さんの教育や家族の生活環境を考え、家族は大阪の社宅にそのまま残ります。
役員Aさん本人は福岡へ単身赴任し、会社は福岡でも新たに社宅を貸すことになりました。
それぞれの社宅の構造と床面積は、次のとおりです。
・大阪の社宅:木造、床面積80㎡
・福岡の社宅:鉄筋コンクリート造、床面積51㎡
このようなケースでは、大阪と福岡の社宅を1軒ずつ別々に判定するのではなく、役員Aさんとその家族が「1つの世帯」として使用する社宅とみなして、2軒の床面積を合計して判定します。
ただし、2軒は建物の構造が異なるため、判定に使う床面積の基準も異なります。
そのため、80㎡と51㎡をそのまま足し算してよいわけではありません。
どちらか一方の基準に床面積を換算してから、合計する必要があります。
今回のケースでは、木造住宅の基準に換算した合計床面積が148㎡になります。
木造住宅の小規模住宅の基準である132㎡を超えるため、今回は小規模住宅としての取扱いは受けられない、という結論になります。
以下で、この考え方を順を追って整理していきます。
そもそも役員社宅の「小規模住宅」とは
会社が役員に社宅を貸す場合、役員から一定額以上の家賃を受け取っていれば、社宅を安く利用できることによる利益は、原則として給与として課税されません。
このとき、税務上の基準となる家賃のことを「賃貸料相当額」と呼びます。
賃貸料相当額とは、次のような意味を持つ金額です。
この金額以上の家賃を役員から受け取っていれば、原則として、社宅の貸与による利益について給与課税が生じない、という税務上の基準額のことです。
なお、役員が法律上必ずこの金額を支払わなければ社宅に住めない、という意味ではありません。
会社が賃貸料相当額よりも低い家賃で貸すこと自体は可能です。
ただし、実際に受け取った家賃が賃貸料相当額を下回る場合は、その差額が役員への給与として課税されます。
そして、この賃貸料相当額の計算方法は、社宅が次のどれに当たるかによって変わります。
・小規模住宅
・小規模住宅ではない一般の住宅
・社会一般の水準を超える「豪華社宅」
そのため、小規模住宅に該当するかどうかは、役員から毎月いくらの家賃を受け取ればよいのかを決めるうえで、とても重要な判定になります。
小規模住宅の床面積基準
役員社宅が小規模住宅に該当するかどうかは、住宅用建物の「法定耐用年数」(税法上、その建物を何年使えるものとして計算するかを定めた年数のことです)に応じて、次の床面積基準で判定します。
・法定耐用年数が30年以下の住宅用建物:132㎡以下
・法定耐用年数が30年を超える住宅用建物:99㎡以下
一般的な説明では、前者を「木造家屋」、後者を「木造家屋以外の家屋」と呼ぶことがあります。
ただし、税務上は、建物の名称だけで判断するわけではありません。
所得税基本通達では、「木造家屋以外の家屋」を法定耐用年数が30年を超える住宅用建物、「木造家屋」を法定耐用年数が30年以下の住宅用建物として区分しています。
特に鉄骨造の建物は、骨格材の厚さや用途によって法定耐用年数が変わるため、「鉄骨造だから必ず99㎡基準になる」とは限らない点に注意が必要です。
実務では、次のような資料で建物の構造や床面積を確認します。
・賃貸借契約書
・建物の登記事項証明書
・固定資産税の課税明細書
・建築確認関係の資料
・不動産会社や所有者から提供された建物資料
床面積が基準に近い場合は、物件広告の表示だけで判断せず、正式な資料できちんと確認しておくと安心です。
なぜ2軒の社宅を合計するのか
大阪の社宅には役員Aさんの家族が住み、福岡の社宅には役員Aさん本人が住んでいます。
物件は大阪と福岡に分かれていますが、役員Aさんが家族と別の世帯になったわけではありません。
転勤にともなう単身赴任によって、1つの世帯が2か所の社宅を使用している状態、という考え方になります。
所得税基本通達36-41では、小規模住宅の床面積について、2以上の世帯を収容する構造の家屋の場合は、「1世帯として使用する部分の床面積」により判定することとされています。
ここで一つ、正確にお伝えしておきたいことがあります。
この通達が本来想定しているのは、1棟の建物の中に複数世帯分の住戸がある構造(マンションの各住戸や、二世帯住宅のようなケースです)であり、「1世帯として使用する部分」というのは、その1棟の建物のうちどこからどこまでを、対象となる世帯が使っているかを切り分けるための考え方です。
今回のように、大阪と福岡という、まったく別の場所にある2棟の独立した建物にこの考え方を当てはめるのは、条文が直接想定している場面そのものではありません。
あくまで、通達の考え方を単身赴任という別の状況に応用した、実務上の解釈拡張だとご理解ください。
ここは、根拠を説明するときに少し注意が必要なところです。
通達の本文に、「単身赴任によって独立した2軒の社宅を使用している場合は、必ず2軒を合計する」と直接書かれているわけではありません。
今回取り上げている質疑応答事例では、通達に示された「1世帯として使用する部分の床面積」という考え方を、単身赴任で本人と家族が別々の社宅を使用するケースに当てはめています。
そのため、制度の根拠を説明するときは、次のように表現するのが正確です。
所得税基本通達では、1世帯として使用する部分の床面積を基礎として小規模住宅を判定する考え方が示されています。
今回の質疑応答事例では、この考え方を単身赴任のケースに当てはめ、本人が使用する赴任先の社宅と、家族が使用する従来の社宅の床面積を合計して判定する取扱いとされています。
「通達に2軒を合計すると明記されている」と説明するのではなく、通達の考え方を具体的な事例に当てはめた取扱いであることを、お客様にもお伝えしておくと誤解を防げます。
なお、この「2軒を合計する」という整理には、反対の考え方が入り込む余地もあります。
実際に、複数の営業所を担当する社長が2か所に社宅を持っていたケースで、税務調査官が合計床面積で判定すべきと主張したものの、最終的には1軒ずつ判定してよいという結論に至った事例も報告されています。
そのケースでは、「職務の都合上やむを得ず2か所に住まざるを得なかった」という事情を踏まえ、片方の社宅については別の非課税規定(所得税法施行令21条4号)が適用できると整理されました。
つまり、「1軒ずつ判定すればよいのではないか」という考え方にも、事情によっては相応の根拠があるということです。
今回のケースでも、合算するかどうかを機械的に決めつけず、赴任の経緯や必要性まで含めて検討する余地があることは、知っておいていただきたいポイントです。
1軒ずつ見れば、どちらも基準内に収まっている
大阪の社宅は木造で、床面積は80㎡です。木造住宅に対応する基準は132㎡以下ですから、大阪の社宅だけを見れば、小規模住宅の範囲内に収まっています。
一方、福岡の社宅は鉄筋コンクリート造で、床面積は51㎡です。
今回、福岡社宅には、法定耐用年数が30年を超える建物の基準である99㎡を用いるものとします。
福岡社宅だけを見ても、こちらも小規模住宅の範囲内です。
そのため、つい次のように考えたくなるかもしれません。
「大阪は80㎡で132㎡以下、福岡は51㎡で99㎡以下だから、どちらも小規模住宅でよいのではないか」
しかし、今回の事例では、1軒ずつ別々に判定するのではなく、1世帯が使用する住宅としてまとめて判定します。
ここが、最も間違えやすいポイントです。
80㎡と51㎡を、そのまま足してはいけない
では、2軒を合計するとして、単純に次の計算をすればよいのでしょうか。
80㎡+51㎡=131㎡
この131㎡だけを見ると、木造住宅の基準である132㎡以下に収まっているため、小規模住宅に該当するように見えてしまいます。
しかし、大阪社宅と福岡社宅では、そもそも基準となる床面積が異なります。
・大阪社宅に適用する基準:132㎡
・福岡社宅に適用する基準:99㎡
異なる基準の床面積を、そのまま足して比較することはできません。
たとえば、キログラムとポンドの数字を、そのまま足して重さを比べることができないのと同じです。
どちらか一方の単位にそろえてから、計算する必要があります。
今回も同じように、一方の建物の床面積を、もう一方の基準に換算してから合計します。
木造住宅の132㎡基準に換算する場合
今回は、福岡の鉄筋コンクリート造の社宅を、木造住宅の132㎡基準に換算してみます。
計算式は次のとおりです。
51㎡×132㎡÷99㎡=68㎡
福岡社宅の51㎡は、木造住宅の基準に換算すると68㎡に相当します。
これに、大阪の木造社宅80㎡を加えます。
80㎡+68㎡=148㎡
木造住宅の基準に換算した合計床面積は、148㎡です。
小規模住宅の基準は132㎡以下ですから、148㎡は基準を超えてしまいます。
したがって、今回の2軒の社宅については、小規模住宅の計算方法を使うことができません。
99㎡基準に換算しても、結論は同じ
反対に、大阪の木造社宅を、福岡社宅に適用する99㎡基準へ換算することもできます。
計算式は次のとおりです。
80㎡×99㎡÷132㎡=60㎡
大阪社宅80㎡は、99㎡基準に換算すると60㎡に相当します。
これに福岡社宅51㎡を加えます。
60㎡+51㎡=111㎡
99㎡基準で見た合計床面積は111㎡です。
基準となる99㎡を超えているため、こちらの計算方法でも、やはり小規模住宅には該当しません。
どちらの基準に換算しても、結論は変わらないということです。
小規模住宅に該当しなくても、社宅として貸せなくなるわけではありません
「小規模住宅に該当しない」と聞くと、会社がその住宅を社宅として貸せなくなるように感じるかもしれません。
ですが、そのようなことはありませんので、ご安心ください。
小規模住宅に該当しない場合に変わるのは、役員から受け取るべき賃貸料相当額の「計算方法」です。
小規模住宅の場合の計算方法
小規模住宅については、固定資産税の課税標準額(固定資産税を計算するときのもとになる金額で、市区町村から届く課税明細書などで確認できます)と床面積を使って、次のように計算します。
・建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
・+12円×建物の総床面積÷3.3㎡
・+敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
小規模住宅に該当しない場合の計算方法
一方、小規模住宅に該当しない場合は、その社宅が「会社が所有している社宅」なのか、「外部から借りて役員に貸している借上社宅」なのかによって、計算方法が変わります。
今回のケースでは、2軒を合計した結果、小規模住宅の基準を超えています。
そのため、原則として、大阪社宅と福岡社宅のそれぞれについて、所有関係や固定資産税の課税標準額、会社が支払っている家賃などを確認したうえで、小規模住宅以外の方法で賃貸料相当額を計算し直す必要があります。
会社が所有する社宅の場合
会社所有の社宅が小規模住宅に該当しない場合は、原則として次の合計額を12で割り、月額の賃貸料相当額を計算します。
・建物の固定資産税の課税標準額×12%
・+敷地の固定資産税の課税標準額×6%
・その合計額÷12か月
ただし、法定耐用年数が30年を超える住宅用建物については、建物部分に掛ける割合は12%ではなく10%になります。
外部から借りた住宅を社宅としている場合(借上社宅)
会社が不動産会社や家主から住宅を借りて、それを役員に貸している場合は、次の2つの金額を比較します。
・会社が家主へ支払う家賃の50%
・会社所有の社宅と同じ方法で計算した賃貸料相当額
このうち、金額が多いほうを賃貸料相当額として採用します。
たとえば、会社が家主へ月額20万円を支払っている場合、その50%は10万円です。
一方、固定資産税の課税標準額を使って計算した金額が月額12万円であれば、多いほうの12万円が賃貸料相当額になります。
「借上社宅なら、会社が支払う家賃の半分を役員から受け取っていれば必ず大丈夫」というわけではありませんので、この点は覚えておいていただけると安心です。
家賃が不足すると、差額が役員給与として課税されます
会社が役員から賃貸料相当額以上の家賃を受け取っていれば、原則として、社宅の貸与による利益は給与として課税されません。
一方、役員から受け取る家賃が賃貸料相当額より少ない場合は、原則として、その差額が役員に対する給与として課税されます。
たとえば、賃貸料相当額が月額10万円で、役員から受け取っている家賃が月額6万円であれば、差額の4万円が給与課税の対象になります。
役員から家賃をまったく受け取っていない場合は、賃貸料相当額の全額が給与課税の対象です。
なお、使用人(役員以外の従業員)の社宅については、賃貸料相当額の50%以上を本人から受け取っていれば、差額を課税しないという取扱いがあります。
しかし、役員社宅には、この「50%以上でよい」という取扱いはありません。
役員について給与課税を生じさせないためには、原則として、賃貸料相当額の全額以上を受け取る必要がありますので、この違いは特に注意しておきたいポイントです。
契約の名義が役員個人になっていないかも確認しましょう
借上社宅として扱う場合は、賃貸借契約の名義にも注意が必要です。
原則として、会社が家主との賃貸借契約の当事者となり、会社が借りた住宅を役員へ貸す、という形にします。
役員本人が家主と直接契約し、その家賃を会社が負担しているだけの場合は、税務上の社宅の貸与とは認められません。
この場合は、会社が負担した家賃が、住宅手当と同じように役員への給与として課税されてしまいます。
「会社が家賃を払っている」という事実だけでは、借上社宅として扱われるわけではない、ということです。
契約者が会社になっているか、会社と役員との間で社宅の貸与関係が明確になっているかを、あらためて確認しておきましょう。
月の途中で福岡社宅へ入居した場合
福岡社宅への入居によって小規模住宅の判定が変わる場合、いつから新しい賃貸料相当額を適用するのかも確認しておきたいポイントです。
所得税基本通達36-42では、住宅が月の途中で役員の居住用に使われるようになった場合、原則として、入居日の属する月の翌月分から役員社宅としての賃貸料相当額を計算することとされています。
たとえば、役員Aさんが7月15日に福岡社宅へ入居した場合は、原則として8月分から、2軒を使用する状態を前提とした賃貸料相当額を確認することになります。
ただし、契約日と実際の入居日が異なる場合や、月初から使用している場合などもありますので、実際の事実関係を確認したうえで判断する必要があります。
「単身赴任者が一部だけを使用する特例」とは別の話です
所得税基本通達には、単身赴任者のような方が、広い住宅の一部だけを使用している場合に、その使用状況を考慮して賃貸料相当額を計算する取扱いもあります。
これは、たとえば家族向けの広い住宅のうち、単身赴任者が一部だけを使用しているようなケースを想定したものです。
国税庁の令和8年版「源泉徴収のあらまし」でも、単身赴任者のような方が住宅の一部を使用しているにすぎない場合の計算方法が示されています。
今回の福岡社宅は、役員Aさんが51㎡の住宅全体を自宅として使用する前提です。
そのため、「単身赴任だから」という理由だけで、この一部使用の特例をそのまま適用できるわけではありません。
次の2つは、似ているようで別の論点として分けて考える必要があります。
・本人と家族が2軒の社宅を使用する場合の、小規模住宅の面積判定
・単身赴任者が広い住宅の一部分だけを使用する場合の、賃貸料相当額の計算
同じ「単身赴任」という言葉が出てきますが、それぞれ別の取扱いですので、混同しないようにご注意ください。
マンションは、共用部分も含めて判定します
社宅がマンションの一室である場合、専有部分の床面積だけを見ればよいとは限りません。
国税庁の質疑応答事例では、小規模住宅に該当するかどうかを判定するときは、廊下、階段、エントランスなどの共用部分についても、その部屋に対応する面積を合理的にあん分して加えることとされています。
たとえば、賃貸借契約書に「専有面積95㎡」と記載されていても、共用部分を加えると99㎡を超えることがあります。
床面積が99㎡または132㎡に近い物件については、契約書に記載された専有面積だけで判断せず、共用部分を含めた面積を確認しておくことをおすすめします。
「小規模住宅ではない」ことと、「豪華社宅」は別の話です
小規模住宅の基準を超えた住宅が、すべて「豪華社宅」になるわけではありません。
小規模住宅かどうかの判定と、社会一般の水準として認められる社宅かどうかの判定は、別のものだからです。
豪華社宅については、床面積が240㎡を超える住宅のうち、取得価額、会社が支払う家賃、内装や設備などを総合的に見て判断します。
また、床面積が240㎡以下でも、一般的な住宅にはないプールや、役員個人の好みを著しく反映した特別な設備がある場合は、豪華社宅に該当することがあります。
今回のように、2軒の合計が小規模住宅の基準を超えただけで、すぐに豪華社宅になるわけではありませんので、この点は分けて考えていただければと思います。
社会保険については、所得税とは別に確認が必要です
社宅の取扱いは、所得税だけ確認すれば終わり、というわけではありません。
健康保険や厚生年金保険では、社宅の貸与を「現物給与」(お金そのものではなく、住居の提供など、お金以外の形で受け取る利益のことです)として評価し、標準報酬月額(社会保険料を計算するときのもとになる金額です)の計算に含めることがあります。
この社会保険上の現物給与は、所得税の賃貸料相当額とは別の基準で計算されます。
所得税で給与課税が生じないからといって、社会保険でも必ずゼロになるとは限りませんので、あわせて確認しておくと安心です。
なお、2026年10月1日から、住宅に関する現物給与価額と算出方法が改正される予定です。
この記事を作成している2026年7月時点では、改正前後で計算方法が変わる時期にあたります。
実際に社会保険料を計算するときは、入居時期がどちらの適用時期にあたるのかを、あらためてご確認ください。
実務で準備しておきたい資料
役員に2軒の社宅を貸与するときは、次のような資料をあらかじめ整理しておくと、いざというときに安心です。
・大阪社宅と福岡社宅の賃貸借契約書
・各社宅の建物構造が分かる資料
・各社宅の床面積が分かる資料
・法定耐用年数を確認するための資料
・固定資産税の課税標準額が分かる資料
・会社が家主へ支払っている家賃の明細
・役員から受け取っている社宅家賃の記録
・給与から家賃を控除している場合の給与台帳
・社宅規程や役員社宅の利用条件
・転勤日と実際の入居日が分かる資料
・単身赴任となった事情が分かる社内資料
・マンションの場合は、共用部分の床面積が分かる資料
借上社宅の場合でも、賃貸料相当額を計算するために、固定資産税の課税標準額が必要になることがあります。
契約を締結した後になってから資料を集めようとすると、所有者や管理会社から情報を入手しづらいこともあります。
物件を契約する段階で、税務計算に必要な資料をあらかじめ取得できるかどうか、確認しておくとスムーズです。
よくある勘違い
今回のようなケースでは、特に次のような勘違いが起こりやすいので、ひとつずつ確認しておきましょう。
1軒ずつ小規模住宅の判定をしてしまう
大阪社宅も福岡社宅も、それぞれ単独では面積基準以内です。
しかし、今回の質疑応答事例では、1世帯が使用する社宅として、2軒を合計して判定します。
異なる構造の床面積を、そのまま足してしまう
80㎡と51㎡を単純に足すと131㎡です。
しかし、132㎡基準と99㎡基準をそのまま混ぜて比較することはできません。
どちらか一方の基準に換算してから合計する必要があります。
小規模住宅でなくなったのに、以前の家賃をそのままにしてしまう
大阪社宅だけを使用していた期間は小規模住宅に該当していても、福岡社宅を追加したことで判定が変わります。
入居を開始した時点で、あらためて賃貸料相当額を計算し直す必要があります。
借上社宅なら会社家賃の50%でよい、と決めつけてしまう
小規模住宅ではない借上社宅は、会社が支払う家賃の50%と、固定資産税の課税標準額を使って計算した金額のうち、多いほうを使用します。
役員本人を賃貸借契約の名義人にしてしまう
役員本人が直接契約し、会社が家賃を支払う形では、社宅の貸与と認められず、会社負担額が給与として課税されることがあります。
所得税だけ確認して終わってしまう
社会保険上の現物給与、法人税上の役員給与、会社の経理処理については、それぞれ別々に確認しておく必要があります。
転勤が決まったときの確認手順
役員の単身赴任が決まった場合は、次の順番で確認していくと、整理がしやすくなります。
1.まず、家族がこれまでの社宅に残るのか、退去するのかを確認します。
2.次に、赴任先でも会社が社宅を用意する場合は、2軒の構造・床面積・所有関係を確認します。
3.そのうえで、同じ世帯が2軒を使用するものとして、小規模住宅に該当するかを判定します。構造が異なる場合は、床面積を同じ基準に換算します。
4.小規模住宅に該当しない場合は、それぞれの社宅について賃貸料相当額を再計算します。
5.最後に、役員から受け取る家賃、給与計算、源泉徴収(お金を支払う側があらかじめ税金分を差し引いて国に納めるしくみです)、社会保険上の取扱い、社宅規程を見直します。
物件を契約してから数か月後に判定ミスが見つかると、過去の給与計算や源泉所得税をさかのぼって修正しなければならないことがあります。転勤日や入居日が決まった段階で、早めに資料をそろえて確認しておくと、後々のトラブルを防ぐことができます。
まとめ
役員本人が単身赴任先の社宅を使用し、家族が従来の社宅に残る場合、今回の質疑応答事例では、1世帯が使用する社宅として2軒の床面積を合計して、小規模住宅の判定を行います。
ただし、建物の区分によって床面積基準が異なる場合は、そのまま面積を足すことはできません。
今回のケースでは、次のように計算しました。
・大阪の木造社宅:80㎡
・福岡の鉄筋コンクリート造社宅:51㎡
・福岡社宅を132㎡基準に換算:51㎡×132÷99=68㎡
・合計:80㎡+68㎡=148㎡
木造住宅に対応する小規模住宅の基準は132㎡以下です。
合計床面積は148㎡となるため、今回の2軒については、小規模住宅の計算方法を適用することができません。
ただし、この「2軒を合算して判定する」という考え方自体、法令や通達に一義的に定められたものではなく、実務上の解説をもとにした整理です。
単身赴任に至った経緯や、2軒の社宅がそれぞれどのような必要性から貸与されているかによっては、1軒ずつ判定する余地が認められることもあります。
合算するかどうかは事案ごとに判断が分かれうる、慎重な検討が必要な論点であるとご理解いただき、実際の判定にあたっては、赴任の事情や契約の経緯を整理したうえで、税務署へご相談いただくことをおすすめします。
小規模住宅に該当しないからといって、社宅として貸せなくなるわけではありません。
小規模住宅以外の方法で賃貸料相当額を計算し、給与課税を生じさせないためには、原則として、その金額以上の家賃を役員から受け取ることになります。
役員の転勤や単身赴任によって社宅が増えたときは、物件を1軒ずつ見るだけではなく、次の点をあわせて確認しておきましょう。
・同じ世帯が何軒の社宅を使用しているか
・合計すると床面積基準を超えないか
・建物の区分が異なる場合に、換算が必要か
・役員から受け取る家賃は足りているか
・契約名義が会社になっているか
・給与計算や社会保険の見直しが必要か
この記事は、2026年7月時点で確認できる国税庁資料等と、ご提示いただいた質疑応答事例をもとに作成しています。
2軒を合計する具体的な取扱いについては、所得税基本通達36-41の本文に直接明記されているものではなく、同通達の「1世帯として使用する部分の床面積」という考え方を、単身赴任の事例に当てはめたものです。
実際の適用は、建物の構造、法定耐用年数、床面積、所有関係、契約内容、入居状況などによって異なります。
実際の適用には個別判断が必要ですので、具体的な賃貸料相当額を決める際は、正確な金額や最新の情報を、税務署へご確認ください。






