使用人兼務役員でも従業員社宅扱いにならない?役員社宅で間違えやすい税務ポイント
会社が住宅を借りて、社長や役員に住んでもらう「役員社宅」は、中小企業でもよく使われている制度です。
役員が毎月きちんと家賃を会社へ払っていれば、会社が負担した家賃のすべてが役員の給料として税金の対象になるわけではありません。
うまく使えば、役員個人の住居費の負担を減らせる場合もあります。
ただし、役員社宅には、税金を計算するうえでの決まったルールがあります。
とくに次の2点は、誤解が多いところですので、最初にお伝えしておきます。
・役員社宅と、一般の従業員向けの社宅とでは、家賃の決め方が違います。
・「使用人兼務役員」という、役員でありながら従業員の仕事もしている人の社宅も、原則として「役員の社宅」として扱います。
使用人兼務役員とは、取締役などの役員でありながら、部長や支店長といった従業員としての肩書きも持っている人のことです。
名前に「使用人」という言葉が入っているため、
「一般の従業員と同じ社宅のルールを使えばいいのでは」
と思われることがあります。
しかし、社宅を貸すことで役員が受け取る経済的な利益(実質的に得をする部分のことです)については、使用人兼務役員も「役員」として扱われます。
ですので、一般の従業員社宅で認められている「賃貸料相当額の50%以上を受け取っていればよい」というルールを、そのまま当てはめることはできません。
この記事では、
・役員社宅の対象になる人
・家賃の計算方法
・使用人兼務役員の取扱い
・よくある勘違い
・会社が準備しておきたい書類
について、はじめての方にもわかるように順番に説明していきます。
役員社宅とは、どんな仕組み?
役員社宅とは、会社が持っている住宅や、会社の名義で借りた住宅を、社長や取締役などの役員に貸す仕組みのことです。
たとえば、会社が不動産会社と契約を結び、毎月20万円の家賃を払っているマンションに、社長が住んでいるようなケースがこれにあたります。
この場合、社長個人が不動産会社と契約しているわけではありません。
あくまで、契約の主役は「会社」です。
基本的な流れは、次のとおりです。
1.会社が、住宅の持ち主と賃貸借契約を結びます。
2.会社が、家主へ家賃を支払います。
3.会社が、その住宅を役員に貸します。
4.役員が、会社へ社宅の家賃を支払います。
会社が役員に社宅を貸したとき、役員から税金のルール上必要とされる一定額の家賃を受け取っていれば、会社が負担した家賃と役員が支払った家賃との差額は、原則として役員の給料としては課税されません。
この「税金のルール上必要とされる家賃」のことを、専門用語で「賃貸料相当額(家賃として適正とされる金額のことです)」と呼びます。
ここで大切なのは、役員社宅は、単に「会社が社長個人の家賃を肩代わりする制度」ではないということです。
会社が住宅を用意し、役員から適正な社宅家賃を受け取ってはじめて、役員社宅として認められます。
契約の仕方や家賃の設定が整っていないと、会社が負担した金額の一部、または全部が、役員への給料として扱われてしまう可能性がありますので、注意が必要です。
役員社宅の対象になる「役員」とは
税金のルールでいう「役員」には、一般的に次のような人が含まれます。
・取締役
・執行役
・会計参与
・監査役
・理事
・監事
・清算人
さらに、会社の登記簿に役員として載っていなくても、実質的に会社の経営に関わっている人は、「みなし役員(登記上は役員でなくても、税金の計算上は役員として扱われる人のことです)」とされることがあります。
たとえば、肩書きが会長・相談役・顧問などであっても、実際に重要な経営判断に加わっている場合には、税金のルール上の役員に該当することがあります。また、家族で経営している同族会社では、一定の株式を持つ親族が経営に関わっている場合、形の上では従業員であっても、役員とみなされることがあります。
役員にあたるかどうかは、登記や肩書きだけでは判断できません。実際の仕事内容や、経営にどれだけ関わっているかもあわせて確認する必要があります。
「執行役」と「執行役員」は、別のものです
役員の範囲を確認するときに、まぎらわしいのが「執行役」と「執行役員」です。
似た言葉ですが、意味は異なります。
・執行役…会社法という法律のうえで正式に定められた役職です。
・執行役員…会社が社内独自に設けている肩書きであることがあります。
そのため、「執行役員」という肩書きが付いているからといって、必ずしも税金のルール上の役員になるとは限りません。
ただし、執行役員が実質的に会社の経営に関わっている場合には、税金のルール上の役員に該当することがあります。
名称だけで判断せず、実際にどのような権限や仕事を持っているかを確認することが大切です。
使用人兼務役員とは
使用人兼務役員とは、役員でありながら、部長・課長・支店長・工場長といった、会社での従業員としての肩書きも持ち、実際に従業員としての仕事もしている人のことをいいます。
たとえば、「取締役営業部長」として取締役会に参加しながら、営業部長として営業部門の管理も行っている人がこれにあたります。
ただし、役員であれば誰でも使用人兼務役員になれるわけではありません。
次のような立場の人は、原則として使用人兼務役員にはなれません。
・代表取締役
・代表執行役
・代表理事
・清算人
・副社長、専務、常務など
また、家族経営の会社(同族会社)の役員については、持っている株式の割合などによって、使用人兼務役員になれない場合もあります。
使用人兼務役員は、役員としての立場と、従業員としての立場の両方を持っています。
そのため、給料や賞与の一部については、従業員としての取扱いが認められることがあります。
しかし、社宅については話が別です。社宅を貸すことで受ける経済的な利益に関しては、使用人兼務役員であっても「従業員」としてではなく、「役員」として扱います。
したがって、使用人兼務役員に貸している社宅は、一般の従業員向けの社宅ではなく、役員社宅として賃貸料相当額を計算するのが基本の考え方です。
なお、誤解のないようにお伝えしますと、使用人兼務役員の給料・賞与・福利厚生などのすべてを、一律に役員扱いするという意味ではありません。
今回お伝えしているのは、あくまで「社宅を貸すことによる経済的な利益」についての取扱いです。
従業員社宅との一番の違いは「50%ルール」
役員社宅と従業員社宅の違いを理解するうえで、もっとも大切なのが、いわゆる「50%ルール」です。
一般の従業員に社宅を貸す場合、従業員から受け取っている家賃が、税金のルールで計算した賃貸料相当額の50%以上であれば、差額については給料として課税しない、という取扱いがあります。
たとえば、従業員社宅の賃貸料相当額が月2万円だったとします。
従業員から月1万円以上の家賃を受け取っていれば、一定の条件のもとで、残りの差額は給料として課税されません。
一方、役員社宅には、この「従業員向けの50%ルール」は使えません。
役員社宅の賃貸料相当額が月2万円であれば、原則として月2万円以上を役員から受け取る必要があります。
月1万円しか受け取っていない場合、差額の1万円が、役員への給料として課税される可能性があります。
これは、使用人兼務役員についても同じです。
従業員としての仕事をしているからといって、社宅家賃を賃貸料相当額の50%に設定することはできません。
整理すると、次のようになります。
一般の従業員の場合
賃貸料相当額の50%以上を受け取っていれば、一定の条件のもとで差額は給料として課税されません。
役員・使用人兼務役員の場合
原則として、賃貸料相当額の全額以上を受け取る必要があります。
小規模な役員社宅では、家賃を計算する式そのものは従業員社宅と同じです。
しかし、役員から実際に受け取らなければならない金額は、従業員の場合と異なりますので、混同しないようにご注意ください。
役員社宅の家賃は、住宅の種類によって計算方法が変わります
役員社宅の賃貸料相当額は、すべて同じ方法で計算するわけではありません。
まず、対象になる住宅を、次の3つのどれかに分けます。
・小規模な住宅
・小規模ではない、一般的な住宅
・社会通念上、一般的な社宅とはいえない「豪華社宅」
どの区分にあたるかによって、役員から受け取るべき家賃の金額が変わってきます。順番に見ていきましょう。
まず「小規模な住宅」かどうかを判定します
小規模な住宅にあたるかどうかは、建物の法定耐用年数(税金の計算上、その建物が何年使えるとみなされているか、あらかじめ決められている年数のことです)と、床面積によって判定します。
・法定耐用年数が30年以下の建物…床面積が132平方メートル以下であること
・法定耐用年数が30年を超える建物…床面積が99平方メートル以下であること
一般的には、木造住宅などは法定耐用年数が30年以下となることが多く、鉄筋コンクリート造のマンションなどは30年を超えることが多いといわれています。
ただし、実際の法定耐用年数は、建物の構造や用途によって異なりますので、個別の確認が必要です。
マンションは、共用部分も含めて判定する点にご注意ください
分譲マンションなどでは、お部屋の中(専有部分)の面積だけで、小規模な住宅かどうかを判定するわけではありません。
廊下・階段・エントランスなどの共用部分の床面積も、持ち分に応じて合理的に配分し、その分を専有部分に加えて判定します。
たとえば、賃貸借契約書や物件広告に「専有面積95平方メートル」と書かれていても、共用部分の持ち分相当を加えると、99平方メートルを超えることがあります。
この場合、小規模な住宅にはあたらない可能性があります。
マンションについては、契約書に書かれている専有面積の数字だけを見て判断しないよう、気をつけましょう。
小規模な役員社宅の家賃の計算方法
小規模な役員社宅について、1か月あたりの賃貸料相当額は、次の3つを合計して計算します。
建物部分
その年度の建物の固定資産税課税標準額(固定資産税を計算するもとになる、市区町村が定めた評価額のことです。購入価格や時価とは異なります)× 0.2%
床面積部分
12円 × 建物の総床面積 ÷ 3.3平方メートル
土地部分
その年度の敷地の固定資産税課税標準額 × 0.22%
この3つを合計した金額が、役員から1か月あたり受け取るべき賃貸料相当額です。
ここで使う「固定資産税課税標準額」は、物件の購入価格でも、今の市場価格でもありません。
また、固定資産税の納税通知書に書かれている「税額」そのものでもない点にご注意ください。
原則として、固定資産課税台帳という帳簿に登録されている「課税標準額」という数字を使います。
計算例で確認してみましょう
たとえば、次のような小規模住宅を役員に貸すとします(マンションの場合は、共用部分を配分したあとの床面積として、80平方メートルとします)。
・建物の固定資産税課税標準額:800万円
・土地の固定資産税課税標準額:600万円
・床面積:80平方メートル
このとき、それぞれの部分の金額は次のようになります。
・建物部分:800万円 × 0.2% = 1万6,000円
・床面積部分:12円 × 80平方メートル ÷ 3.3平方メートル = 約291円
・土地部分:600万円 × 0.22% = 1万3,200円
これらを合計すると、1万6,000円+約291円+1万3,200円=約2万9,491円となり、1か月あたりの賃貸料相当額は、おおむね2万9,500円ということになります。
一般の従業員であれば、一定の条件のもとで、この金額の50%以上を受け取っていればよいという取扱いがあります。
しかし、役員や使用人兼務役員の場合は、原則としてこの約2万9,500円の全額以上を受け取る必要があります。
なお、この数字はあくまで説明のための例です。実際に計算する際は、物件ごとの固定資産税課税標準額、土地の持ち分、共用部分の床面積などを、そのつどご確認ください。
小規模ではない「自社所有」の社宅の場合
小規模な住宅にあたらない役員社宅については、会社が所有している物件か、会社が他人から借りている物件かによって、計算方法が変わります。
まず、会社が所有している住宅の場合です。1か月あたりの賃貸料相当額は、次の金額を合計し、12で割って計算します。
建物部分
建物の固定資産税課税標準額 × 12%
(ただし、法定耐用年数が30年を超える建物については、12%ではなく10%を使います)
土地部分
敷地の固定資産税課税標準額 × 6%
建物部分と土地部分を合計し、12で割った金額が、1か月あたりの賃貸料相当額になります。小規模な住宅の場合に比べて、役員が負担する社宅家賃が大きくなることがありますので、会社名義で住宅を所有したり借りたりする前に、あらかじめ賃貸料相当額を試算しておくと安心です。
小規模ではない「借上げ」社宅の場合
会社が不動産会社や大家から住宅を借り、それを役員に貸す場合は、次の2つの金額を比べます。
・会社が家主に支払っている家賃の50%
・固定資産税課税標準額を使って、自社所有社宅と同じ方法で計算した金額
このうち、金額が大きいほうが賃貸料相当額になります。
たとえば、会社が家主へ支払う家賃が月30万円で、その50%が15万円だったとします。
固定資産税課税標準額を使った計算結果が月9万円であれば、金額が大きい15万円のほうが賃貸料相当額です。
反対に、固定資産税課税標準額を使った計算結果が月17万円であれば、17万円のほうが賃貸料相当額になります。
つまり、「借上げ社宅なら、会社が支払う家賃の50%を役員から受け取っていれば必ず大丈夫」というわけではありません。
固定資産税課税標準額を使った計算結果とも、必ず比較する必要があります。
家賃に管理費が含まれている場合
家主に支払う賃料の中に、次のような管理費が含まれていることがあります。
・エレベーターの保守料
・共用部分の電気代
・火災報知機の保守料
・火災保険料
・共用設備の維持管理費
こうした管理費が家賃と一体になって支払われている場合には、管理費を含む総額をもとに計算してよいとされています。
ただし、役員が室内で個人的に使った電気代・水道代・ガス代などは、これとは分けて考える必要があります。
複数の役員社宅がある場合の「プール計算」
原則として、役員社宅の賃貸料相当額は、役員ごと、住宅ごとに計算し、それぞれ必要な家賃を受け取ります。
ただし、複数の役員に社宅を貸している会社では、一定の条件を満たせば、役員社宅全体でまとめて家賃を判定する方法が認められることがあります。
これは一般に「プール計算」と呼ばれています。
たとえば、次の条件を両方とも満たしている場合です。
・各社宅の状況に応じて、役員間でおおむね釣り合いの取れた家賃を設定していること
・すべての役員から受け取った家賃の合計額が、すべての役員社宅の賃貸料相当額の合計額以上になっていること
この場合、役員ごとに見れば多少の過不足があっても、役員全体としては経済的な利益がないものとして扱えることがあります。
ただし、次の点には注意が必要です。
・役員社宅と従業員社宅を一緒に計算することはできません。
・豪華社宅を含めて計算することはできません。
・役員間の家賃設定に大きな偏りがある場合は、認められない可能性があります。
中小企業では、社長おひとりだけが役員社宅を利用しているケースも多く、プール計算を使う機会は限られます。
豪華社宅には、通常の計算式は使えません
役員社宅が、社会通念上、一般的な社宅とはいえない「豪華社宅」にあたる場合、ここまで説明してきた計算式は使えません。
豪華社宅にあたる場合は、その住宅について通常支払うべき使用料、つまり実際の市場家賃などを考慮して、賃貸料相当額を決めることになります。
床面積が240平方メートルを超える住宅については、次のような事情を総合的に考えて判断します。
・住宅の取得価額
・会社が家主へ支払っている家賃
・内装や外装の状況
・設備の内容
・住宅全体の利用状況
床面積が240平方メートルを超えたからといって、自動的に豪華社宅になるわけではありません。
一方で、床面積が240平方メートル以下であっても、一般的な社宅にはないプールがある場合や、役員個人の好みを強く反映した特別な設備がある場合には、豪華社宅にあたることがあります。
家賃を受け取っていない場合は、どうなる?
役員に社宅を無償で貸している場合、原則として賃貸料相当額の全額が、役員の給料として課税されます。
また、役員から受け取っている家賃が賃貸料相当額よりも少ない場合には、その差額が給料として課税されます。
たとえば、賃貸料相当額が月8万円で、役員から月3万円しか受け取っていない場合、差額の5万円が給料として扱われる可能性があります。
給料として扱われると、役員個人には、次のような負担への影響が出てきます。
・所得税
・住民税
・場合によっては社会保険料
会社側でも、源泉所得税(お金を支払う側があらかじめ税金分を差し引いて、国に納める仕組みのことです)の計算や、法人税のうえでの役員給与の取扱いを、あわせて確認する必要があります。
役員に毎月継続して与えられている経済的な利益が、おおむね一定の金額であれば、法人税のルールのうえで「定期同額給与(毎月ほぼ同じ金額を支払う給与のことで、一定の条件のもとで会社の経費として認められやすい仕組みです)」に該当することがあります。
一方、毎月の金額が一定でない場合や、金額が不相当に高い場合、事実を隠して処理していた場合などには、会社の経費として認められない可能性がありますので、注意が必要です。
「不足していた家賃を、あとからまとめて精算すれば必ず問題がなくなる」とは限りません。
毎月、給料から天引きするか、役員から会社へ振り込んでもらうなど、実際に家賃を受け取ったことがわかる形にしておくと安心です。
役員個人の契約の家賃を会社が払っても、社宅にはなりません
役員本人が不動産会社と契約している住宅について、会社がその家賃を負担しても、原則として会社から役員への「社宅の貸与」とは認められません。
また、会社が役員へ現金で住宅手当を支給した場合も、基本的には給料として課税されます。
役員社宅として取り扱うためには、会社が住宅を借りて、それを役員に貸しているという実態が必要です。
個人契約の住宅を、途中から役員社宅へ切り替える場合、単に家賃の振込口座を会社に変えるだけでは足りないことがあります。
契約名義の変更や、新しい賃貸借契約の締結が必要になる場合もあります。
また、賃貸借契約のなかには、転貸(又貸しのことです)が禁止されている物件もあります。
切り替えを検討する際は、不動産会社や家主の承諾も、あわせて確認しておきましょう。
借上げ社宅では、固定資産税の資料が必要になります
役員社宅の家賃を計算するときには、建物と土地の固定資産税課税標準額が必要になることがあります。
会社が所有している物件であれば、固定資産税の課税明細書などで確認できます。
一方、借上げ社宅の場合、固定資産税の資料は原則として大家さんが持っています。
そのため、契約前、または入居前に、次の情報を提供してもらえるかどうか、確認しておくことが大切です。
・建物の固定資産税課税標準額
・土地の固定資産税課税標準額
・土地の持ち分
・建物全体と貸与部分の床面積
・マンションの共用部分に関する情報
・建物の構造や法定耐用年数を判断できる資料
実務上は、大家さんや管理会社から資料の提供を断られることもあります。
契約したあとになって計算資料を入手できないとわかると、正確な社宅家賃を設定できなくなるおそれがありますので、できるだけ契約前に確認しておきましょう。
固定資産税課税標準額が変わった場合
土地や建物の固定資産税課税標準額は、ずっと同じ金額のままとは限りません。
固定資産税評価額の評価替えなどによって、課税標準額が変更されることがあります。
役員社宅については、固定資産税課税標準額が改訂された場合、原則として、改訂後の課税標準額をもとにした固定資産税の第1期納期限が属する月の翌月分から、新しい金額を使って計算し直します。
一般の従業員社宅には、課税標準額の増減が20%以内であれば、賃貸料相当額を再計算しなくてもよいという取扱いがあります。
しかし、この取扱いは役員社宅にそのまま当てはまるものではありません。
役員社宅については、固定資産税の評価替えや契約家賃の変更があったときに、賃貸料相当額の見直しが必要かどうかを、そのつど確認するようにしましょう。
会社でそろえておきたい資料
役員社宅について、税務署から説明を求められる場面に備えて、次のような資料を整理しておくと安心です。
住宅の契約関係
・不動産賃貸借契約書
・会社が契約者であることがわかる資料
・転貸や社宅利用についての承諾書
・入居日がわかる書類
・更新契約書
賃貸料相当額の計算資料
・建物の固定資産税課税標準額
・土地の固定資産税課税標準額
・固定資産税課税明細書
・登記事項証明書
・建物の図面
・専有面積と共用部分の資料
・土地の持ち分がわかる資料
・賃貸料相当額の計算書
家賃を受け取った記録
・給与明細
・給与からの天引き記録
・役員から会社への振込記録
・会社の預金通帳
・総勘定元帳
会社内部のルール
・社宅規程
・役員社宅の利用条件
・家賃の決め方
・光熱費や駐車場代を誰が負担するか
・退去時の取扱い
役員社宅を利用するために、必ず大がかりな社宅規程を作らなければならない、というわけではありません。
ただし、会社と役員個人のお金の境目があいまいにならないよう、家賃の決め方や費用の負担範囲を、書面にしておくことがとても大切です。
とくに家族経営の会社では、会社と社長個人の境目があいまいになりやすいため、「会社が何を負担し、役員が何を負担するのか」を、あらかじめはっきりさせておきましょう。
光熱費や駐車場代まで、会社が負担してもよい?
役員社宅の計算の対象になるのは、基本的に住宅とその敷地の使用にかかる部分だけです。
次のような、役員個人が使った費用を会社が負担すると、役員の個人的な費用を会社が肩代わりしたものとして、給料課税の問題が生じる可能性があります。
・電気代
・ガス代
・水道代
・インターネット代
・個人的な設備の利用料
駐車場代についても、住宅の賃料にもともと含まれているのか、住宅とは別の契約なのかによって、取扱いを個別に検討する必要があります。
また、会社が家具や家電を用意した場合も、社宅本体の賃貸料相当額とは分けて、別の経済的な利益として評価することがあります。
「住宅に関係する支払いだから、すべて社宅家賃の中に含まれているはず」とは考えず、費用ごとに整理しておくようにしましょう。
消費税の取扱いにも注意しましょう
住宅の貸付けは、原則として消費税がかからない「非課税取引」です。
借上げ社宅についても、賃貸借契約書などから住宅として転貸することが明らかであれば、次の家賃は原則として消費税がかかりません。
・会社が家主へ支払う住宅家賃
・会社が役員や従業員から受け取る社宅家賃
ただし、事務所として使っている部分がある場合や、駐車場・家具・サービスなどを別に提供している場合には、消費税の判定が分かれることがあります。
また、社宅の取得費、借上料、修繕費などについて、会社が消費税の仕入税額控除を受けられるかどうかは、支出の内容によって異なります。
所得税の社宅家賃の計算と、消費税の取扱いは、別のルールで判断する、という点も覚えておいていただけたらと思います。
役員社宅で、よくある勘違い
これまでの内容をふまえて、実務でよく見られる勘違いを整理しておきます。
どれもよくあることですので、心当たりがあっても心配しすぎず、これから整えていけば大丈夫です。
勘違い1.会社が支払う家賃の半分を受け取ればよい
すべての借上げ社宅について、会社の家賃の50%を受け取っていれば大丈夫、というわけではありません。
小規模な住宅では、固定資産税課税標準額を使った計算が基本です。
小規模ではない借上げ社宅では、会社家賃の50%と、固定資産税課税標準額を使った計算結果とを比較する必要があります。
勘違い2.使用人兼務役員だから、従業員の50%ルールを使える
使用人兼務役員も、あくまで役員です。社宅の貸与については役員社宅として扱い、原則として賃貸料相当額の全額以上を受け取る必要があります。
勘違い3.契約は役員個人の名義でもよい
役員本人が契約している住宅の家賃を会社が負担すると、原則として給料として扱われます。
役員社宅として運用する場合は、会社が住宅を借り、それを役員へ貸している形を整えることが必要です。
勘違い4.マンションは専有面積だけで判定する
小規模な住宅にあたるかどうかは、共用部分の持ち分相当面積もあわせて判定します。
専有面積が99平方メートル以下であっても、小規模な住宅にあたらない場合があります。
勘違い5.一度計算すれば、家賃を変えなくてよい
固定資産税課税標準額の変更、契約家賃の改定、住居の変更などがあった場合には、賃貸料相当額を再計算する必要が出てくることがあります。
勘違い6.計算した記録を残していない
適正な家賃を受け取っていても、計算の根拠となる資料が残っていなければ、あとから説明することが難しくなってしまいます。
計算資料と、家賃を受け取った記録は、あわせて保存しておきましょう。
役員社宅は「無料で住める節税制度」ではありません
役員社宅は、上手に利用すれば、役員が個人で家賃の全額を負担する場合に比べて、個人の住居費の負担を抑えられることがあります。
一方で、会社には家主へ支払う家賃という負担が生まれます。
会社の利益、法人税、役員個人の所得税・住民税・社会保険料、そして会社の資金繰りなど、いろいろな面をあわせて考えなければ、本当に有利な制度かどうかは判断できません。
また、役員から受け取る家賃を少なく設定しすぎると、差額が給料として課税される可能性があります。
給料として課税された金額を、会社側で役員給与として経費にできるかどうかも、あわせて確認しておく必要があります。
役員社宅を検討するときは、次の順番で確認していくと、進めやすいかと思います。
1.入居する人は、税金のルール上の役員にあたるか
2.使用人兼務役員の場合、社宅の取扱いを役員として計算しているか
3.小規模な住宅にあたるか
4.自社所有か、借上げか
5.豪華社宅にあたらないか
6.固定資産税課税標準額を入手できるか
7.毎月いくら家賃を受け取る必要があるか
8.会社と役員をあわせた資金の負担はどうなるか
9.契約書や計算書を、きちんと保存できるか
まとめ
使用人兼務役員は、役員であると同時に、従業員としての仕事もしている人です。
ただし、社宅を貸すことによる経済的な利益については、一般の従業員としてではなく、役員として考える必要があります。
とくに大切なポイントを、あらためて整理します。
・使用人兼務役員の社宅は、原則として役員社宅として計算します。
・これは社宅の貸与についての取扱いであり、給料や福利厚生のすべてを一律に役員扱いするという意味ではありません。
・小規模な役員社宅は、従業員社宅と同じ計算式を使います。
・従業員向けの「賃貸料相当額の50%以上」というルールは、役員には使えません。
・小規模ではない住宅は、自社所有か借上げかによって、計算方法が変わります。
・借上げ社宅では、会社家賃の50%と、固定資産税課税標準額による計算額とを比較します。
・マンションは、共用部分もあわせて床面積を判定します。
・複数の役員社宅がある場合には、一定の条件のもとで「プール計算」が認められることがあります。
・豪華社宅には、通常の計算式は使えません。
・個人契約の家賃を会社が負担すると、原則として給料として課税されます。
・契約書、計算書、固定資産税の資料、家賃を受け取った記録は、きちんと保存しておきましょう。
役員社宅は、契約名義や計算方法を正しく整えて利用すれば、会社と役員の双方にとって、有効な制度になることがあります。
一方で、入居する人が役員にあたるか、住宅が小規模かどうか、固定資産税課税標準額をどう確認するかなど、物件ごとに個別の判断が必要になります。
契約したあとになって必要な資料を入手できないとわかったり、過去の家賃設定に不足が見つかったりすると、給料の計算や源泉所得税の修正が必要になる場合があります。
※この記事は、2026年7月27日時点で公表されている国税庁のタックスアンサー、所得税基本通達、法人税基本通達および2026年版「源泉徴収のあらまし」をもとに、一般的な取扱いをご説明したものです。
実際の取扱いは、役員の地位、住宅の構造や床面積、契約内容、設備、家賃の受け取り状況などによって異なります。
具体的な家賃の設定については、最新の法令・通達をご確認のうえ、税務署にご相談ください。






