会社の土地を役員の自宅用に貸すときの税務上の注意点

会社の土地を役員に貸すときの注意点|「地代を払っていれば安心」は本当?相当の地代の考え方をやさしく解説

「土地の無償返還に関する届出書」を出しても、地代が安すぎると、その差額が役員の給料(給与)とみなされて税金がかかることがあります

会社が持っている使っていない土地を、社長や役員が自宅を建てるために借りることがあります。

たとえば、「会社に空いている土地があり、ちょうど役員が自宅用の土地を探している」というようなケースです。

こうした場合、会社としては、
「使っていない土地だから、役員に貸しても問題はないだろう」
「地代を少しでも受け取っていれば、税務上も大丈夫だろう」
と考えてしまいがちです。

しかし、税金の世界では、会社と役員は「別の人(別の存在)」として扱われます。
会社の土地は会社の財産であり、社長や役員が自由に使ってよいものではありません。
役員が会社の土地を、通常よりも安い地代で使っている場合には、その「安くなった分」が、会社から役員へのプレゼント(利益の提供)とみなされ、役員の給与として税金がかかることがあります。

また、「土地の無償返還に関する届出書」(土地を将来、無償で会社に返すことを約束する書類)を税務署へ提出したとしても、それだけですべての課税の問題が解決するわけではありません。

この記事では、会社が持っている土地を役員の自宅用地として貸し、役員から「固定資産税評価額の4%相当額」を地代として受け取る場合を例に、税務上どのような点に注意すればよいかを、できるだけやさしく説明します。

なお、この記事は2026年7月27日時点で国税庁ホームページに掲載されている情報をもとに作成しています。
実際の取り扱いは、契約内容や地域の慣行、評価方法などによって変わることがありますので、最終的な判断は所轄の税務署にご確認ください。

まず押さえておきたい結論

会社と役員が連名で「土地の無償返還に関する届出書」を提出している場合は、原則として、土地を貸し始めた時点で行われる「権利金の認定課税」(あとで説明します)は行われません。

ただし、実際に役員から受け取っている地代が、税務上の目安となる「相当の地代」よりも少ない場合には、その差額が役員への給与として扱われます。

考え方をひとことでまとめると、次のとおりです。

・相当の地代 - 実際に受け取っている地代 = 役員に対する給与とみなされる金額

つまり、固定資産税評価額の4%相当額を地代として受け取っていたとしても、それだけで「給与として課税されない」とは限らないということです。
無償返還の届出がある場合の適正な地代は、原則として、法人税に関する国税庁の通達(ルール)で定められている「相当の地代」をもとに判定することになっているためです。

なぜ、会社の土地を役員に貸すと税金の問題が生じるのか

会社と役員は、法律上も税務上も、それぞれ別の存在として扱われます。

役員が会社の創業者であったり、会社の株式をすべて持っていたりしても、会社が持っている土地は、役員個人の土地ではありません。
そのため、会社の土地を役員個人が使うときには、会社と役員との間で、きちんとした条件(適正な条件)で取引を行う必要があります。

たとえば、もし他人(第三者)に貸したら年間300万円の地代が取れる土地を、役員には年間100万円で貸したとします。

この場合、
・会社は、本来受け取れるはずだった200万円を受け取っていません。
・役員は、本来なら年間300万円を払うべきところを、年間100万円の負担で土地を使えています。つまり、差額の200万円分、得をしていることになります。

このように、現金そのものを受け取っていなくても、会社の財産やサービスを無償、または安い金額で利用することによって得られる利益のことを「経済的利益」といいます(お金のやり取りがなくても、税金の世界では「利益を受けた」とみなされる、というイメージです)。

会社が役員に、住むための土地や建物を無償、または安い金額で貸した場合、本来受け取るべき地代と、実際に受け取った地代との差額は、役員に対する経済的利益として扱われます。

土地を貸すと「借地権」の問題も生じます

会社が持っている土地に役員が自宅を建てる場合、役員は、その土地を長く使い続ける権利を持つことになります。

税務上、このような権利は「借地権」として扱われることがあります。
借地権とは、簡単にいうと、他人の土地を借りて、その土地の上に自分の建物を建てて持つための権利のことです。

地域によっては、土地を借りるときに、毎年の地代とは別に「権利金」を支払う慣行(習慣)があります。
権利金とは、土地を長期間使える権利を得るために、契約するときに土地の所有者へ支払うまとまったお金のことです。

権利金を支払う慣行がある地域であるにもかかわらず、会社が役員から権利金を受け取らず、しかも受け取っている地代も相当の地代より低い場合には、税務上、「会社が役員に、借地権に相当する価値のある利益を無償で与えた」と判断されることがあります。

この場合、実際には権利金のやり取りがなくても、税務上は「権利金が支払われたもの」とみなして税金を計算する「権利金の認定課税」が行われる可能性があります。
土地を借りている人が会社の役員である場合には、この認定された権利金相当額が、役員の給与として扱われることがあります。

「土地の無償返還に関する届出書」とは、どんな書類か

この「権利金の認定課税」を避けるための手続きの一つが、「土地の無償返還に関する届出書」です。

この届出書は、土地の賃貸借契約書などに、「将来、土地を返すときは、借地権の対価(お金)を請求せず、無償で土地を返す」という内容を定めたうえで、土地を持つ会社と、土地を借りる役員が連名で税務署へ提出するものです。

国税庁の案内では、契約書に「将来、土地を無償で返還すること」が定められていることが前提とされています。
提出の時期は、この無償返還の取り決めが契約で定められた後、「遅滞なく(できるだけ早く)」とされています。

この届出を適切に行っている場合には、原則として、権利金の認定課税は行われません。
つまり、「将来、その土地を借地権の対価なしで会社へ返すこと」をあらかじめ明確にしておくことで、「会社が役員に、価値のある借地権をタダで与えた」として、契約時に大きな金額の税金がかかることを防ぐための手続きです。

届出をしても、地代の問題は残ります

ここが、今回もっとも大切なポイントです。

「土地の無償返還に関する届出書」を提出すると、原則として、権利金の認定課税は行われません。
しかし、届出書を出したからといって、役員に土地をどんな金額で貸してもよい、というわけではないのです。

無償返還の届出がある場合でも、実際に会社が受け取っている地代が「相当の地代」より少ないときは、その差額を、土地を借りている人に与えたものとして扱います。

・土地を借りている人が一般の第三者であれば、この差額は、原則として贈与を受けたものとして扱われます。
・土地を借りている人が会社の役員や従業員である場合には、この差額は、給与を受け取ったものとして扱われます。

したがって、次の二つは、分けて考える必要があります。

・土地を貸し始めた時点での「権利金の認定課税」
・毎年の地代が低いことによる「給与課税」

無償返還の届出によって、原則として避けられるのは、一つ目の「権利金の認定課税」だけです。
二つ目の「地代の差額に対する給与課税」まで、自動的になくなるわけではありません。
この点は、誤解されやすいポイントですので、あらためて整理しておくと安心です。

税務上の「相当の地代」は、どのように計算するのか

税務上の相当の地代は、原則として、次のように計算します。

・土地の更地価額 × おおむね年6%

ここでいう「更地価額」とは、建物や借地権などが付いていない、まっさらな状態のその土地を、通常どおり売買するとした場合の時価(現在の価値)のことです。

法人税に関する通達の本文には「年8%程度」と書かれていますが、国税庁の別の取り扱いによって、当分の間は「年6%」として計算することとされています。
そのため、実務上の相当の地代は、原則として更地価額のおおむね6%程度、とイメージしていただくとよいでしょう。

なお、この6%や8%といった割合は、今後の制度改正によって変わる可能性もゼロではありません。
実際の計算にあたっては、最新の情報を税務署にご確認いただくと安心です。

更地価額として使える金額

相当の地代を計算するもとになる更地価額は、原則として、その土地を更地として通常どおり取引した場合の価額です。

ただし、課税上とくに問題がないと認められる場合には、次のいずれかの金額を使うことも認められています。

・近隣にある似た土地の公示価格などから、合理的に計算した価額
・相続税を計算するときの評価方法(財産評価基本通達というルール)によって計算した相続税評価額
・相続税評価額の、過去3年間の平均額

この「過去3年間」の考え方について、国税庁の取り扱いでは、「借地権を設定する年、または地代を改定する年から、さかのぼって3年間」とされています。
実際にどの年度の評価額を使うかについては、契約を始めた時期、地代を見直した時期、評価に使う資料が公表された時期などを確認しながら判断する必要があります。
この部分は判断が分かれやすいところですので、税理士に一度ご相談いただくことをおすすめします。

固定資産税評価額の4%では、足りないことがあります

今回のケースでは、会社は、役員から受け取る地代を、
・固定資産税課税標準額(固定資産税を計算するときに使う評価額のことです)× 4%
とする予定です。

しかし、無償返還の届出がある場合に、役員への給与課税があるかどうかを判断する基準は、原則として、先ほど説明した
・土地の更地価額 × おおむね6%
による「相当の地代」です。

固定資産税課税標準額と、土地の更地価額は、同じものではありません。
固定資産税課税標準額は、あくまで固定資産税を計算するために使われる金額です。
一方、更地価額は、その土地を更地として通常売買するとした場合の価額です。

そのため、「4%と6%の差の分だけ税金がかかる」と単純に考えることはできません。
計算のもとになる土地の価額そのものが違うため、それぞれの金額をきちんと計算したうえで、比べる必要があります。

また、固定資産税課税標準額の4%という地代は、不動産賃貸の実務上、一定の理由がある金額ではあります。
しかし、無償返還の届出がある場合の給与課税は、原則として、法人税に関する通達上の「相当の地代」との比較によって判断されます。
国税庁の取り扱いには、「固定資産税課税標準額の4%以上の地代を受け取っていれば、給与課税されない」という基準は設けられていません。

なお、この「固定資産税課税標準額の4%」という数字自体は、法人税基本通達など、税務上の公式なルールとして定められているものではなく、不動産賃貸の実務で使われている目安の一つにすぎません。
「4%」という数字にも何か公式な根拠があるはずだ、と考えてしまうと判断を誤りやすいため、この点はあらかじめ意識しておいていただくと安心です。

仮の数字を使って、実際に計算してみましょう

分かりやすくするため、仮の数字を使って考えてみます(あくまで説明のための仮定の数字です)。

・土地の更地価額が5,000万円
・固定資産税課税標準額が2,500万円
だったとします。

税務上の相当の地代は、

・5,000万円 × 6% = 年間300万円

役員から実際に受け取る地代は、

・2,500万円 × 4% = 年間100万円

相当の地代との差額は、

・300万円 - 100万円 = 年間200万円

この例では、会社は役員から年間100万円の地代を受け取っています。
しかし、税務上の相当の地代が年間300万円であれば、その差額である年間200万円について、役員が会社から経済的利益を受けたものとして扱われる可能性があります。
月額に直すと、約16万7,000円です。

この金額が、役員に対する「給与」となる経済的利益として扱われることになります。

なお、これはあくまで考え方を分かりやすくするための仮の例です。
実際には、土地の評価方法、土地の利用状況、契約を開始した日、地代の支払条件などを確認したうえで、個別に計算する必要があります。

役員本人には、給与所得として税金がかかります

相当の地代と、実際に支払っている地代との差額は、役員が会社から受けた経済的利益となります。
これは、役員が現金そのものを受け取っていなくても、税務上は給与として扱われます。

土地や建物などの財産を、継続して無償または安い金額で利用したことによる経済的利益は、原則として、利用した月ごとの月末に受け取ったものとして扱われます。

そのため、会社では、毎月の給与計算や源泉徴収(会社が給料を支払うときに、あらかじめ税金分を差し引いて、代わりに国へ納める仕組みのことです)において、この経済的利益をどのように反映するかを、確認しておく必要があります。

具体的には、次のような対応が必要になることがあります。

・役員の給与所得に、地代の差額を含める
・源泉所得税の計算に反映する
・給与台帳に、経済的利益の内容を記録する
・年末調整や源泉徴収票に反映する

経済的利益は、現金として支給されるものではありません。
そのため、源泉所得税をどのように徴収するかについては、通常の役員報酬とあわせて、事前に確認しておくと安心です。

なお、この経済的利益が給与として扱われる場合、社会保険(健康保険や厚生年金保険など)の取り扱いについても、あわせて確認が必要になる場合があります。詳しくは、年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。

会社側でも、役員給与の取り扱いに注意が必要です

会社側では、相当の地代と実際の地代との差額が、役員に対する給与となる経済的利益として取り扱われます。

ここで注意していただきたいのは、「役員給与として扱われること」と、「会社の経費(損金)として認められること」は、必ずしも同じではない、という点です。

役員に対する給与が、法人税上、会社の経費として認められるためには、一定の条件があります。
継続して与えられる経済的利益のうち、その金額が毎月おおむね一定であるものは、「定期同額給与」(毎月ほぼ同じ金額が支払われる役員給与のことで、法人税の経費として認められやすい種類の給与です)に該当する可能性があります。

会社が役員に、住むための土地や建物を無償または安い金額で提供したことによる経済的利益についても、毎月の金額が大きく変わらない限り、この定期同額給与として扱われる可能性があります。

一方で、次のような場合には、会社の経費として認められない可能性がありますので、注意が必要です。

・経済的利益の金額が、毎月大きく変動している
・役員給与として、適切に処理されていない
・経済的利益の金額が、不相当に高額である
・事実を隠したり、実際と異なる経理処理をしたりしている

土地を安く貸したことによる経済的利益は、土地を使用した月ごとに発生するものです。
決算のときに初めて、1年分をまとめて計算した場合には、それまでの毎月の給与処理や源泉徴収が適切であったかどうかを、あらためて確認する必要があります。

ただし、「決算時にまとめて計算した」という理由だけで、すぐに会社の経費として認められなくなるわけではありません。
法人税上、経費として認められるかどうかは、経済的利益が毎月おおむね一定であったか、定期同額給与の条件を満たしているか、適切に申告や源泉徴収が行われているか、といった点を踏まえて、個別に判断することになります。

相当の地代は、定期的に見直しましょう

土地の価額は、毎年同じとは限りません。
土地の価格が上がれば、相当の地代も、あわせて上がる可能性があります。

無償返還の届出がある場合の相当の地代については、おおむね3年以下の期間ごとに見直すこととされています。
最初に計算した地代を、その後10年、20年と一度も見直さずに使い続けてしまうと、土地の現在の価額と、地代の金額が大きくかけ離れてしまう可能性があります。

少なくとも3年に一度は、次のような内容を確認しておくと安心です。

・土地の現在の利用状況
・近隣の公示価格や基準地価
・相続税評価額
・相続税評価額の、過去3年間の平均額
・現在受け取っている地代
・相当の地代との差額
・毎月計上している経済的利益の金額

土地の価格が下がった場合は、相当の地代も下がる可能性があります。
反対に、土地の価格が上がっているにもかかわらず、地代を据え置いたままにしていると、役員に対する経済的利益の金額が、少しずつ増えていくことになります。

無償返還の届出をしなかった場合はどうなるか

「土地の無償返還に関する届出書」を提出せず、相当の地代も受け取っていない場合には、土地を貸し始めた時点で、権利金の認定課税が行われる可能性があります。

土地を借りている人が会社の役員である場合には、認定された権利金相当額が、役員の給与として扱われることがあります。
権利金相当額は、土地の価額や借地権の割合などによっては、大きな金額になる可能性がありますので、注意が必要です。

その後の地代の取り扱いは、認定された権利金の額、契約の内容、実際に受け取っている地代などによって変わってきますので、個別の確認が必要です。

なお、「無償返還の届出をしない方が有利」ということでは、決してありません。
届出を提出するかどうかは、毎年の地代だけで判断せず、契約時にかかる権利金の課税と、その後の役員給与への影響を、あわせて検討する必要があります。

契約書と届出書は、セットで準備しましょう

「土地の無償返還に関する届出書」だけを税務署へ提出すればよい、というわけではありません。
土地の賃貸借契約書などにも、「将来、役員がその土地を無償で会社へ返還すること」を、明確に記載しておく必要があります。

契約書の内容と、届出書の内容が一致していない場合には、税務調査などの際に、事実関係の説明が難しくなる可能性があります。
この点は、税務調査で特に確認されやすいポイントですので、意識しておくと安心です。

契約書には、少なくとも次のような内容を記載しておくとよいでしょう。

・土地の所在地、地番、面積
・土地の使用目的
・契約期間
・地代の金額
・地代の支払日
・地代の見直し方法
・固定資産税などの負担関係
・契約終了時に、土地を無償で返還すること

契約が終了するときの建物の取り扱い、建物を取り壊す費用、立退料、建物の買い取りなどについても、将来のトラブルを防ぐため、必要に応じて契約書で明確にしておくと安心です。
これらは税務だけでなく、借地借家法や民法という法律上の権利関係にも関わってきます。具体的な契約条項については、弁護士や司法書士にもあわせてご確認いただくことがあります。

届出のときに必要となる、主な添付書類

国税庁の案内では、「土地の無償返還に関する届出書」の添付書類として、次の資料が挙げられています。

・契約書の写し
・土地の価額の計算明細など、参考となる事項を記載した書類

届出書は、会社の納税地を管轄する税務署長へ、会社と役員の連名で提出します。
書面で提出する方法のほか、一定の方法によりe-Tax(国税電子申告・納税システム)で提出することもできます。

提出した後は、届出書、契約書、計算資料の控えを、大切に保存しておきましょう。

実務上、保存しておくと安心な資料

次の資料は、すべてが届出時に必ず必要な添付書類というわけではありません。
ただし、地代をどのように決めたのか、会社と役員との取引がどのような内容であったのかを、あとから説明できるように、保存しておくと安心です。

・土地の登記事項証明書
・公図や地積測量図
・固定資産税課税明細書
・固定資産評価証明書
・路線価図または倍率表
・近隣の公示価格や基準地価の資料
・不動産会社や不動産鑑定士から取得した価格資料
・相当の地代の計算書
・実際に受け取る地代の計算書
・土地賃貸借契約書
・土地の無償返還に関する届出書の控え
・税務署へ提出したことが分かる記録
・取締役会や株主総会などの議事録
・毎月の地代の入金記録
・役員給与として処理した経済的利益の計算資料
・給与台帳や源泉徴収に関する資料

とくに、地代を固定資産税課税標準額の4%とした場合には、その計算だけで終わらせず、法人税に関する通達上の「相当の地代」との比較資料もあわせて作成しておくことが重要です。

よくある勘違い

これまで多くの会社からご相談いただいた中で、とくに間違えやすいポイントをまとめました。
どれも「知らなかった」で済まされることの多い内容ですので、一つずつ確認しておきましょう。

無償返還の届出を出せば、地代はいくらでもよいと思っている

無償返還の届出は、主に権利金の認定課税を避けるための手続きです。
地代が低いことによる役員への給与課税まで、なくなるわけではありません。

固定資産税課税標準額の4%と、更地価額の6%を、そのまま比べている

この二つは、計算のもとになる土地の価額そのものが違います。
4%と6%という割合だけを比べても、地代の差額を正しく計算することはできません。

届出書だけを作り、契約書に無償返還の記載がない

無償返還の届出は、契約書に「将来、土地を無償で返還すること」が定められていることが前提です。
契約書と届出書は、両方セットで整えておく必要があります。

最初に地代を決めた後、一度も見直していない

相当の地代は、おおむね3年以下の期間ごとに見直す必要があります。
土地の価額が変動しているにもかかわらず、長期間同じ金額を使い続けてしまうと、経済的利益の計算が適切でなくなる可能性があります。

地代を受け取っているので、給与課税はないと思っている

少額であっても地代を受け取っていれば問題ない、というわけではありません。
相当の地代よりも実際の地代が低ければ、その差額が給与とみなされる可能性があります。

決算のときにだけ、差額を確認している

経済的利益は、原則として、土地を利用した月ごとに発生します。
決算時にまとめて差額を確認した場合には、毎月の給与計算、源泉徴収、給与台帳への記録が、それぞれ適切であったかどうかを、あらためて確認しておくと安心です。

今回のケースで確認していただきたい手順

会社が役員に土地を貸し、固定資産税課税標準額の4%相当額を地代として受け取る場合には、次の順番で確認していくと、頭の中が整理しやすくなります。

1.土地賃貸借契約書を作成する
 土地の所在地、使用目的、地代、契約期間、地代の見直し方法、将来の無償返還などを、契約書に記載します。
2.無償返還の条件を確認する
 契約書に、「将来、役員が借地権の対価を請求せず、土地を無償で会社へ返還すること」が、明確に定められているかを確認します。
3.届出書を提出する
 会社と役員が連名で「土地の無償返還に関する届出書」を作成し、会社の納税地を管轄する税務署へ、遅滞なく提出します。
4.土地の更地価額を計算する
 通常の取引価額、公示価格などから合理的に計算した価額、相続税評価額など、どの評価方法を使うかを決めます。
5.相当の地代を計算する
 原則として、土地の更地価額のおおむね年6%で、相当の地代を計算します。
6.実際の地代と比較する
 固定資産税課税標準額の4%で計算した実際の地代と、相当の地代とを比較します。
7.差額の給与課税を確認する
 差額がある場合には、役員に対する経済的利益として、給与計算や源泉徴収に反映する必要があるかどうかを確認します。
8.会社側の損金算入を確認する
 経済的利益が定期同額給与に該当するか、会社の経費として認められるかを、個別に確認します。
9.定期的に見直す
 おおむね3年以下の期間ごとに、土地の価額と相当の地代を見直します。

個人事業主の方との違いについて

今回のお話は、会社(法人)と役員という関係で生じる問題です。
個人事業主の方の場合は、事業主ご本人と事業とが法律上同じ存在(一体)として扱われますので、「自分の土地を自分に貸す」という今回のような形の問題は、基本的に生じません。

ただし、個人事業主の方でも、事業用の資産を家族に安く貸したり、逆に家族の資産を安く借りたりする場合には、別の形で税務上の注意が必要になることがあります。
この記事でご説明した「会社と役員」というケースとは仕組みが異なります。

資金繰りへの影響についても、あわせてご確認ください

経済的利益は、現金のやり取りを伴わないものです。
そのため、「実際にお金が動いていないのに、税金の計算だけが増える」という状況が起こり得ます。

具体的には、役員給与として扱われる経済的利益の分だけ、源泉所得税の金額が増えることがあります。
この源泉所得税は、会社が毎月の給与から差し引いて、国に納める必要がありますので、資金繰り(会社に出入りするお金の流れ)にも影響することがあります。
決算でまとめて発覚すると、過去にさかのぼって納税が必要になるケースもありますので、早めに確認しておくことをおすすめします。

まとめ

会社が持っている土地を、役員の自宅用地として貸す場合、実際に地代を受け取っているからといって、それだけで税務上問題がない、とは限りません。

「土地の無償返還に関する届出書」を適切に提出すれば、原則として、契約時にかかる権利金の認定課税を避けることができます。
ただし、実際に受け取る地代が、税務上の相当の地代に満たない場合には、その差額が役員に対する給与として課税されます。

今回のように、固定資産税課税標準額の4%相当額を地代とする場合には、とくに次の点が重要です。

・固定資産税課税標準額と、更地価額は、同じ金額ではありません
・相当の地代は、原則として更地価額のおおむね年6%程度です
・無償返還の届出をしても、地代の差額に対する給与課税は残ります
・その差額は、役員本人の給与所得となります
・会社側では、役員給与として経費にできるかどうかを、別に確認する必要があります
・決算時に計算したことだけを理由に、すぐに経費として認められなくなるわけではありません
・相当の地代は、おおむね3年以下の期間ごとに見直しましょう
・契約書、届出書、土地の評価資料、給与処理の記録は、あわせて保存しておきましょう

会社と役員との取引では、第三者との取引以上に、「金額を決めた根拠」と「手続きの記録」が大切になります。
土地を貸したあとで税務処理を考えるのではなく、土地の賃貸借契約を結ぶ前の段階で、土地の更地価額、適正な地代、無償返還の条件、役員給与への影響まで、まとめて確認しておくと、あとで慌てずに済みます。

私どもとしても、契約前の段階からご一緒に整理させていただければと思いますので、気になる点がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

この記事は、2026年7月27日時点で国税庁ホームページに掲載されている法人税基本通達、所得税基本通達、個別通達、手続案内およびタックスアンサーの情報をもとに作成しています。
実際の課税関係は、土地の所在地、権利金を授受する地域慣行、契約内容、土地の評価方法、役員給与の処理状況などによって変わることがあります。
実際の契約や申告にあたっては、関係資料を確認したうえで、所轄の税務署にご相談ください。