140年の歴史ある名門企業が地に落ちてしまう!
東芝は、粉飾により2,248億円にのぼる利益修正額を発表しました。
東芝の2014年3月期の有価証券報告書を見ると、従業員は連結で20万人超、東芝本体の平均給与8百万円超、辞任した歴代3社長(西田氏、佐々木氏、田中氏)の1年間の報酬額は3人とも1億円超、新日本有限責任監査法人への監査報酬額は年間10億円前後の巨大企業です。
「少なくとも1990年代まで不正は許さないという雰囲気があった。2000年頃から、計画を達成するためには不正が当たり前になっていった。」
「施策を出せ!連日連夜、会議で圧迫。」「達成できないと懲罰人事」等の東芝社員の相次ぐ悲鳴や会議でのパワハラの様子が日経ビジネス8月31号で再現されています。
また、日本経済新聞9月9日の記事によると、平成12年9月の社内会議で当時の佐々木社長が「残り3日で120億円の営業利益を改善せよ」と強く要求したとされています。
「期末が迫った3月下旬。つい半月前の3月初頭まで数十億円の赤字を計上していたはずなのに、「社長月例」を通ると一気に業績が改善する」(日経ビジネス同号)
このようなトップの片寄った利益重視の考え方が、多くの従業員や取引先を犠牲にした上での架空の利益計上に繋がってしまいました。
粉飾の方法としては「検収シフト(検収時期をずらしてコスト計上を先送り)」、「価値が落ちているのに在庫の評価損を適切に計上しない」等が日経ビジネス同号で紹介されています。
トップの責任は当然のこととして、新日本有限責任監査法人の責任も大きいと思います。
私は、上場企業の子会社で経理の責任者として監査法人から監査を受ける立場を経験しています。
監査では在庫を一緒に確認しながら「この別に除けてある在庫は何ですか?」とか、固定資産を一つ一つ確認しながら「価値が落ちているものは合理的な理由がない限り、減損(損失を計上すること)をしなければいけません。」等の細かな質問や指摘を数多く受けます。
また、3日間で120億円の利益改善等は不自然な取引を計上しない限り、できないはずです。
新日本有限責任監査法人には年間で10億円前後が支払われており、監査も相当数の公認会計士が関与しているはずで日本経済新聞や日経ビジネスで紹介されている粉飾の方法を見抜けないとは思えないのです。
東芝は社外取締役が監督する形を整えたり、取締役からなる監査委員会を設けるなど「ガバナンス先進企業」と言われてきましたが、監査委員会では不正を知っていた財務担当役員が監査委員長に横滑りとなっており、ガバナンスを骨抜きにしていたそうです。(日経ビジネス同号)
1996年当時東芝社長だった西室氏はスーパーリーダーと呼ばれ、今は日本郵政の社長ですが、東芝本社の役員フロアに君臨。引責辞任した歴代3社長の西田氏、佐々木氏、田中氏の3人は今なお東芝に出社しているそうです。
また、不正発覚後に田中氏は横浜の自宅を妻に生前贈与しているとのこと。(日経ビジネス同号)
今回の事件では、現場の社員は必死になって戦っているはずです。それなのにトップだった方達は、まず自分から先に逃げようとしていたり、辞任後も会社に守られ堂々としていることは、おかしいと思います。
いくら仕組みを整えてもトップ次第で東芝のような140年の歴史ある名門企業が地に落ちてしまう。
東芝の歴代トップ、新日本有限責任監査法人は責任の大きさを自覚して罪を償ってほしいと思います。それでないと東芝の従業員、取引先等は報われません。また、東芝の新たに経営を任される方には徹底的な再発防止策を講じるように願います。
1965年に石川島播磨重工業(IHI)から東芝社長に転じた土光敏夫氏は、著書(土光敏夫 信念の言葉)で次のように述べられています。
「使われる立場にいるときには使う立場にも考えを及ぼし、使う立場にいるときには使われる立場を思いやる。」
「死ぬまでは世の中のためになるというのが、責任でしょう。」
「幹部がえらい人であるゆえんは、一にかかって、上に立つほどより大きく思い責任を負う人であるからだ。幹部は権限もあるが、これは振り回さないほうがよい。そうすると残るのは、責任ばかりだ。私は誰かを重役に推薦するとき、あらかじめ本人をよんで、家庭を犠牲にするくらいの覚悟があるかどうか奥さんとよく相談してほしいと一~二週間の猶予を与えることにしている。だから経営者や幹部は、本当につらい人なのである。割に合わない商売なのだ。しかしそれくらいでなくては、これからの企業を預かる資格はないと思う。」
「日本の企業では、人がタテにつながって仕事をしている、とよくいわれる。一連のまとまった仕事でもヨコに分割され、上澄みのよい部分は上級者がとり、沈殿したつまらぬ部分は下級者に割り振られる。こんなことでは、若手の士気があがらぬのも無理はない。」
「自らの足で現場を歩き、自らの目で現場をみることだ。現場の空気を味わい、働く人々の感覚にじかにふれることによって、抽象化された情報は、にわかに具象性を帯びて生き生きとしてくる。現場には、「銀座通り」もあれば裏通りもある。幹部は裏通りを歩くべきだ。成績の悪い職場、問題をかかえている職場、陽の当らない職場こそみるべきだ。」
「一人の上位者の判断によって、一人の人間の一生を左右することがあってはならない。」
「部下の行動に気を配り、迷いがあればアドバイスし、困っておればヘルプし、ためらっているときは励ますといった態度が必要だ。部下に近づき、声をかける、親身になり、思いやりをかけるという心がけが必要になる。」
これらの言葉を読むと、辞任した歴代3社長は、いかにトップの資格がなかったかと思います。
東芝の歴代3社長と新たに経営を任される方には、この土光敏夫氏の言葉をじっくりとかみしめてもらいたい。
東芝の復活を望みます。
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