英国の長期金利が28年ぶりの高水準に。「自国民優先」の政治と財政の関係を、住宅・移民・国債からやさしく読み解きます

英国で広がる「自国民優先」の政治。その背景にある経済の問題とは?―住宅不足、移民、財政赤字、国債金利から考える

はじめに―英国で起きているのは、単なる政治の変化ではありません

2026年10月1日、英国の30年国債の利回りが、一時6%を超えました。
1998年以来、およそ28年ぶりの高い水準です。

同じころ、英国の政治にも、これまでとは少し違った動きが見られるようになっています。

長年にわたって英国政治の中心を担ってきたのは、労働党と保守党という二つの大きな政党でした。

労働党は、働く人々の生活や社会保障を重視する傾向があります。
一方、保守党は、企業活動や市場の自由、伝統的な価値観などを大切にしてきました。

実際の政策にはさまざまな違いがありますが、大まかに言えば、英国の政治はこの二つの政党が競い合うことで動いてきました。

ところが近年、その構図が変わり始めています。

新しい勢力であるリフォームUKが存在感を強め、以前からある大きな政党も、その主張を意識せざるを得なくなっているのです。

特に注目されるのが、移民政策や住宅政策、社会保障制度などを巡る動きです。

英国で暮らす人々の生活を優先し、限られた住宅や公共サービスをどのように配分するのかという議論が、以前にも増して強まっています。

一見すると、これは移民に対して厳しい政策が広がっているという話に見えるかもしれません。

しかし、もう少し広い視点で考えると、英国社会が抱える大きな問題が浮かび上がってきます。

それは、経済が十分に成長しなくなった社会では、人々の関心が「豊かさを増やすこと」から「今ある豊かさをどう分けるか」へ移りやすいということです。

住宅が十分に供給され、賃金が上がり、公共サービスも充実していれば、多くの人は将来に希望を持ちやすくなります。

しかし、住宅価格が上がり、働いても生活が楽にならず、医療や福祉に余裕がないと感じる社会では、人々の考え方も変わってきます。

限られた住宅を誰に提供するのか。

社会保障の恩恵を誰が受けるのか。

政府が集めた税金を、どのような人々のために使うのか。

こうした問題が、政治の中心になっていきます。

そして、その政治の変化は、政府の財政や国債の金利、さらには通貨の価値にまで影響する可能性があります。

冒頭で触れた国債利回りの上昇も、こうした流れと無関係ではありません。

今回は、英国政治の変化を出発点に、経済や金融市場とのつながりを考えてみたいと思います。

英国の政治は、二つの大きな政党だけでは動かなくなってきました

英国では、長い間、労働党と保守党が政治の中心を担ってきました。

ところが、近年の世論調査では、この二つの政党以外にも多くの支持が集まるようになっています。

その代表的な存在が、ナイジェル・ファラージ氏が党首を務めるリフォームUKです。

同党は、移民政策の厳格化や政府のあり方の見直しなどを強く訴えてきました。

2026年5月の地方選挙では大きく議席を伸ばし、政権を担っていた労働党は各地で議席を失いました。
この結果が、当時のスターマー首相の退陣を早める一因になったとも指摘されています。

そして7月には、労働党のアンディ・バーナム氏が新しい首相に就任しました。

リフォームUKの支持率は、2025年に一時30%前後まで高まりました。
その後は低下し、この夏以降は新しい首相のもとで勢いを取り戻した労働党に首位を譲っています。

それでも25%前後の支持を集める世論調査が多く、五つの政党が二けたの支持率を得るという、これまでにない状況が続いています。

このように新しい政党が一定の支持を集めるようになると、既存の政党もその主張を無視できなくなります。

例えば、ある地域で新しい政党が移民政策への不満を集め、多くの支持を獲得したとします。

それまで保守党を支持していた人々が、その新しい政党に移ってしまうかもしれません。

すると保守党は、自分たちの政策を見直す必要に迫られます。

労働党にとっても同じです。

労働者の生活を守ることを重視していても、住宅不足や生活費の上昇に対する不満を十分に受け止められなければ、支持を失う可能性があります。

その結果、考え方の異なる政党同士でも、移民や生活支援といった分野では似た問題を取り上げるようになります。

ただし、各党が同じ政策を目指しているわけではありません。

誰を支援するのか、どのような条件を設けるのか、政府の役割をどこまで広げるのかについては、今も違いがあります。

それでも、新しい政党が大きな支持を集めると、政権を担当していなくても、国全体の議論の方向を変えることがあるのです。

ここに、現在の英国政治の大きな特徴があります。

新しい政党は、政権を取らなくても政治を動かせます

私たちは政治を見るとき、どの政党が選挙に勝つのか、誰が首相になるのかという点に注目しがちです。

もちろん、それは重要です。

しかし、政治への影響力は、選挙に勝つことだけで決まるわけではありません。

ある政党が社会の不満を集め、これまで十分に取り上げられてこなかった問題を大きな争点にしたとします。

すると、それまでその問題を重視していなかった政党も、対応を迫られます。

例えば、住宅政策を考えてみましょう。

ある新しい政党が、若い世代が住宅を手に入れられないことを強く訴え、多くの支持を集めたとします。

すると、既存の政党も住宅政策に力を入れるようになります。

この段階で、新しい政党はすでに政治を動かしていることになります。

英国でも似たことが起きています。

リフォームUKの支持率がピークを過ぎた今でも、同党が訴えてきた移民や社会保障の問題は、国全体の主要な争点であり続けています。

ただし、ここには難しい問題もあります。

既存の政党が新しい政党の主張に近づけば、支持を取り戻せるかもしれません。

その一方で、有権者が「やはりあの政党の言うとおりだった」と感じ、かえってその政党への支持を強める可能性もあります。

また、これまでの支持者が、政策の変更に違和感を持つことも考えられます。

つまり、ほかの政党の人気のある政策を取り入れれば、必ず支持が増えるというわけではありません。

政治において重要なのは、単に政策を似せることではなく、社会が何に不満を感じているのかを理解し、その原因に対応することなのだと思います。

なぜ、今になって生活の優先順位が問題になるのでしょうか

ここで、政治から少し離れて、経済の仕組みを考えてみます。

経済が成長している社会では、企業の売上や利益が増え、働く人の賃金も上がりやすくなります。

税収が増えれば、政府も公共サービスを充実させるための財源を確保しやすくなります。

住宅の建設が進めば、若い人も住まいを見つけやすくなります。

もちろん、経済が成長していても格差や貧困は残ります。

しかし、社会全体として使えるお金やサービスが増えているときは、さまざまな問題を解決するための選択肢が広がりやすくなります。

反対に、経済の成長が弱くなるとどうでしょうか。

企業の利益が伸びず、賃金もなかなか増えません。

政府の税収も思うようには増えなくなります。

それでも、高齢化によって医療費や年金などの支出は増えていきます。

こうした状況では、政府が新しい支援を始めようとしても、簡単には財源を確保できません。

そこで、人々の関心が変わり始めます。

社会全体をさらに豊かにすることよりも、今あるお金やサービスを誰に優先して配るべきかという問題に関心が集まりやすくなるのです。

英国で見られる政治の変化も、こうした経済的な背景と無関係ではないと考えられます。

大切なのは、人々が突然、他者に厳しくなったと考えるのではなく、生活への不安が政治的な要求を変えている可能性に目を向けることです。

もちろん、移民に対する考え方には、文化や歴史、国家への帰属意識なども関係しています。

経済だけですべてを説明できるわけではありません。

それでも、暮らしに余裕があるかどうかは、政治に対する人々の考え方に大きな影響を与える要素だと思います。

住宅不足は、若い世代から将来への希望を奪っていきます

英国の問題を考えるうえで、住宅は特に重要なテーマです。

住宅は、単に雨風をしのぐための建物ではありません。

仕事を始め、結婚し、子どもを育て、地域で生活していくための基盤です。

ところが、住宅価格や家賃が高くなると、若い世代の人生設計は難しくなります。

例えば、毎月の給料が少しずつ増えていたとしても、家賃がそれ以上に上がれば、生活は楽になりません。

住宅を購入しようとしても、必要な頭金を貯められないかもしれません。

住宅ローンの金利が高くなれば、毎月の返済額も増えます。

その結果、働いて収入を得ているにもかかわらず、将来の見通しが立たないという人が増えていきます。

一方、以前から住宅を所有している人にとっては、住宅価格の上昇が資産の増加につながる場合があります。

ここに、世代による違いが生まれます。

同じ住宅価格の上昇でも、住宅を持っている人には有利に働き、これから購入する人には不利に働くことがあるのです。

もちろん、すべての高齢者が裕福で、すべての若者が困っているわけではありません。

しかし、住宅を所有しているかどうかによって、生活の安定や将来への安心感に違いが生まれやすいことは確かです。

この状態が長く続くと、若い世代の中に、今の社会の仕組みそのものに不満を持つ人が増えるかもしれません。

どれだけ努力しても、親の世代と同じような生活を実現することが難しいと感じるからです。

そして、こうした不満を受け止める政党が支持を集めるようになります。

住宅問題は、単なる不動産市場の問題ではありません。

人々が社会を公平だと感じられるかどうかに関わる問題でもあるのです。

移民問題は、住宅や公共サービスの問題と結びつきやすくなっています

移民政策を巡る議論には、さまざまな考え方があります。

外国から働きに来る人々を積極的に受け入れるべきだという意見もあれば、受け入れる人数や条件を厳しく管理すべきだという意見もあります。

文化や習慣の違いをどのように受け止めるのかという問題もあります。

ただ、最近の英国では、そうした議論が住宅や社会保障など、日常生活に関わる問題と結びついています。

例えば、公的な支援によって家賃を低く抑えた住宅があります。

入居を希望する人が多い一方で、供給される住宅の数が十分でなければ、入居まで長く待つ人が出てきます。

そのとき、住民の中には、住宅を利用できる人の条件や優先順位に疑問を持つ人もいるでしょう。

医療や福祉についても、似たことが起こります。

病院の予約が取りにくかったり、介護サービスを利用できなかったりすると、人々はその原因を考えるようになります。

ただし、ここで注意したいことがあります。

住宅不足や公共サービスの問題を、移民だけの問題として説明することはできません。

住宅不足には、長い間十分な数の住宅が建設されてこなかったことや、建設費の上昇、土地利用の制約など、さまざまな要因があります。

医療や福祉にも、人員不足や財政上の制約、サービスの運営方法などの問題があります。

また、移民として暮らす人々も税金を納め、働き、社会を支えています。

そもそも、正規の就労者、留学生、難民認定を求める人、在留資格を持たずに滞在している人では、法律上の立場も利用できる制度も異なります。

これらを一つにまとめて考えると、問題の本質が見えにくくなります。

生活への不安を理解することと、その原因を正確に考えることは、分けて考える必要があるのです。

外国から来る人は、公共サービスを利用するだけではありません

移民について考えるとき、もう一つ忘れてはいけない視点があります。

外国から来る人々は、住宅や医療などのサービスを利用する立場であると同時に、それらを支える立場にもなっているということです。

例えば、医療や介護の仕事を考えてみましょう。

高齢化が進む社会では、多くの医療従事者や介護職員が必要になります。

国内で必要な人数を確保することが難しければ、外国から来る人々の力が重要になります。

建設業でも同じことが言えます。

住宅が足りないから新しく建てようとしても、現場で働く人が不足していれば、思うように建設は進みません。

物流や飲食、農業などでも、人手不足が問題になる場合があります。

このとき、外国人労働者を減らす政策は、労働市場に影響を与える可能性があります。

一方で、人口が増えれば、住宅や公共サービスへの需要も高まります。

つまり、外国から人を受け入れることには、経済を支える面と、追加の住宅や公共サービスを必要とする面の両方があるのです。

どちらの影響が大きくなるのかは、その人々の年齢や職業、所得、家族構成、受け入れる地域の状況などによって違います。

ここで、英国の数字を見てみましょう。

英国の国家統計局によると、海外からの転入者数から海外への転出者数を差し引いた「純移民」は、2023年6月までの1年間には90万人を超えていました。
それが、2025年12月までの1年間では約17万1千人まで減っています。

数字の上では大きく減少したにもかかわらず、住宅や生活への不満は簡単には消えていません。

これは、現在の生活上の問題が、移民の人数だけで決まっているわけではないことを示唆しています。

移民政策を考えるうえで本当に大切なのは、人数だけではなく、受け入れた人々がどのような仕事を担い、社会にどのような影響を与えるのかを具体的に考えることだと思います。

政府に求められているのは、単なる支出の削減ではありません

英国政治の変化には、もう一つ興味深い特徴があります。

移民政策について厳しい立場を取る政党が、必ずしも政府の役割を小さくしようとしているわけではないことです。

これまで、保守的な政治思想の中には、政府の支出や規制を減らし、民間企業や個人の活動を重視する考え方がありました。

ところが最近の政治では、そうした分類だけでは説明しにくい主張が見られます。

移民や社会保障の受給資格には厳しい条件を設ける一方で、自国の住民への住宅支援や医療、介護などは充実させたいという考え方です。

これは、政府が何もしなくてよいという主張ではありません。

むしろ政府には、自分たちの生活を守るために、これまで以上の役割を果たしてほしいという期待が含まれています。

ただし、その支援を誰が受けられるのかについては、厳しく考えたいというわけです。

ここでは、政府の大きさそのものよりも、支援の対象や優先順位が重要になっています。

こうした考え方は、経済が十分に成長していない社会では、一定の支持を集めやすいと考えられます。

生活への不安が強い人ほど、政府による支援を求める一方で、その支援がきちんと自分たちに届いているかを重視するからです。

しかし、ここには大きな問題があります。

支援を必要とする人が増えるほど、政府には多くのお金が必要になるということです。

高齢化が進む社会では、政府のお金に余裕がなくなっていきます

英国も、高齢化による負担が増えている国の一つです。

高齢者が増えれば、年金や医療、介護に必要なお金も増えやすくなります。

英国の財政の見通しを示す独立機関である予算責任局は、今の仕組みのままであれば、公的年金の支出が2030年ごろまでに年間150億ポンド以上増える可能性があると見込んでいます。

一方、働く世代の人数が十分に増えなければ、税金や社会保険料を負担する人の割合は小さくなっていきます。

これは英国だけの問題ではありません。

日本を含め、多くの先進国が同じような課題を抱えています。

では、そのような社会で政府が住宅支援や医療、介護、防衛などの支出を増やそうとすると、何が起こるのでしょうか。

政府には、大きく分けると三つの方法があります。

税収を増やすこと、ほかの支出を減らすこと、そして国債を発行してお金を借りることです。

経済が成長して自然に税収が増えれば、負担を増やさずに支出を拡大できる場合もあります。

しかし、経済の成長が弱い状態では、それも簡単ではありません。

増税をすれば、家計や企業の負担が重くなります。

ほかの支出を減らせば、別の分野で不満が生まれるかもしれません。

国債を発行すれば、将来にわたって利息や返済の負担が発生します。

こうして考えると、政治家が生活を支える政策を約束することと、その約束を長く続けられることは、別の問題だとわかります。

必要な政策であっても、それを支える財源をどう確保するのかという説明が欠かせません。

そして、この問題が国債市場にも関係してきます。

移民を減らせば、働く人の賃金は上がるのでしょうか

移民の受け入れを減らす政策については、国内で働く人々の賃金が上がるのではないかという期待があります。

働き手が少なくなれば、企業は必要な人材を確保するために賃金を引き上げるかもしれません。

これは経済の仕組みとして十分に考えられることです。

しかし、賃金が上がることと、人々の生活が豊かになることは、必ずしも同じではありません。

例えば、飲食店で働く人の賃金が上がったとします。

店にとっては人件費が増えます。

その分を料理の価格に上乗せすれば、お客さんが支払う金額も増えます。

介護施設や運送会社などでも、同じようなことが起こる可能性があります。

人手不足が深刻になれば、サービスを提供すること自体が難しくなるかもしれません。

その結果、利用料金が上がったり、利用できるサービスが減ったりすることも考えられます。

もちろん、移民を減らしたからといって、必ず物価が上がるわけではありません。

人が減れば住宅などの需要も減る可能性がありますし、企業が機械や新しい技術を導入することで、人手不足を補える場合もあります。

また、移民が国内の賃金に与える影響は、職種や地域によって異なります。

それでも、働き手を減らす政策が人手不足を強める場合があることは、押さえておきたい点です。

その影響が物価の上昇につながれば、給料が上がっても生活が楽にならない可能性があります。

例えば、給料が年間3%増えても、生活費が5%上がれば、実際に買えるものは減ってしまいます。

大切なのは、給料の金額そのものではなく、その給料でどれだけの生活ができるかということです。

この点を考えないと、賃金を上げるための政策が、必ずしも生活の改善につながらない理由を見落としてしまいます。

英国で心配されるのは、景気が弱いのに物価が上がる状態です

一般的に、景気が良くなると企業の売上が増え、雇用も増えやすくなります。

そして、賃金や物価が上がる場合があります。

反対に、景気が悪くなると企業の活動が弱まり、物価の上昇も落ち着きやすくなります。

ところが、経済には少し厄介な状態があります。

景気が十分に良くないにもかかわらず、物価が上がり続ける状態です。

これを「スタグフレーション」と呼びます。景気の停滞を表す言葉と、物価の上昇を表す言葉を組み合わせた言葉です。

例えば、人手不足によって企業の人件費が増え、さらにエネルギー価格の上昇によって電気代や輸送費も高くなったとします。

企業は販売価格を引き上げなければ、利益を確保できなくなるかもしれません。

しかし、家計の収入はそれほど増えていないため、消費は伸び悩みます。

企業の売上も増えにくくなります。

つまり、景気が弱いにもかかわらず、物価だけが上がるような状況です。

これは、中央銀行にとって非常に難しい問題です。

物価を抑えるために金利を上げれば、住宅ローンや企業の借入れの負担が重くなり、景気がさらに悪くなるかもしれません。

一方、景気を支えるために金利を下げれば、物価の上昇が続いてしまう可能性があります。

英国では、2026年8月の消費者物価が前の年の同じ月と比べて3.1%上昇し、5か月ぶりの高い伸びとなりました。

中東での戦争をきっかけとした原油価格の上昇について、英国はほかの国よりも影響を受けやすいとも指摘されています。

そこに労働力の不足や財政支出の拡大が重なれば、物価を安定させることがさらに難しくなる可能性があります。

ただし、これは今後起こり得る危険の一つであり、必ずそうなると決まっているわけではありません。

経済の成長力が高まったり、労働生産性が改善したりすれば、状況が良くなることも考えられます。

30年国債の金利が6%を超えたことは、何を意味するのでしょうか

ここで、英国の金融市場に目を向けてみます。

冒頭でお伝えしたとおり、2026年10月1日、英国の30年国債の利回りは取引の途中で一時6.02%台まで上昇しました。
その後も、10月7日に6.03%台を付けるなど、高い水準が続いています。

期間の長い国債の金利としては、1998年以来の高さです。

同じころ、10年国債の利回りも5.5%前後と、2007年以来の水準まで上がりました。

この数字は、なぜ重要なのでしょうか。

そもそも国債とは、政府がお金を借りるために発行する証券です。

政府は国債を購入した人に、決められた条件に従って利息を支払い、満期が来れば原則として元本を返済します。

国債にも、短い期間のものから長い期間のものまで、さまざまな種類があります。

30年国債は、その名のとおり、満期までの期間が非常に長い国債です。

長い期間にわたってお金を貸すことになるため、投資家は将来の物価や金利、政府の財政などを考えて、購入するかどうかを判断します。

ここで覚えておきたいのは、国債の価格が下がると、一般にその国債の利回りは上がるという関係です。

利回りとは、国債を今の価格で買って満期まで持った場合に、1年あたりどれくらいの収益が得られるかを表す数字です。

将来の物価上昇が心配になったり、ほかの投資先の金利が上がったりすると、投資家は今までより高い利回りを求めるようになります。

その結果、国債が売られて価格が下がり、利回りが上がります。

長期金利が上昇することは、政府が新たにお金を借りたり、満期を迎えた国債を借り換えたりするときの負担が重くなりやすいことを意味します。

ただし、過去に発行された固定金利の国債の利息が、すべてすぐに6%へ変わるわけではありません。

負担が増える影響は、時間をかけて政府の財政に表れていきます。

一方で、英国は物価の動きに合わせて元本や利息が増える「物価連動国債」の割合が、ほかの先進国と比べて高い国です。

そのため、物価上昇が続くと、利払いの負担が比較的早く増えやすいという特徴もあります。

多額の国債を発行している国にとって、長期金利が高い状態が続くことは無視できない問題です。

国債金利が上昇した理由を、政治だけで説明してはいけません

今回の英国の長期金利上昇を考えるうえでは、注意が必要です。

国債金利が上がったというだけで、英国の政治が市場から信用されなくなったと判断することはできません。

国債金利は、国内の政治だけで決まるものではないからです。

例えば、米国の長期金利が大きく上昇すると、ほかの国の国債にも影響が及ぶことがあります。

投資家は、世界中の国債を比較しているからです。

米国の国債で高い利回りが得られるようになれば、英国の国債にも、より高い利回りを求める投資家が増えるかもしれません。

また、原油や天然ガスの価格が上昇すれば、将来の物価上昇への警戒が強まります。

物価が上がり続けると考えられれば、長期間お金を貸す投資家は、より高い利回りを必要とする可能性があります。

2026年10月上旬の金利上昇にも、こうした世界的な要因が重なっています。

一方で、英国独自の財政状況も無関係ではありません。

実際、2026年に入ってからの英国の長期金利の上昇幅は、米国やドイツよりも大きいと報じられています。

政府の借入れが増え続けると考えられれば、投資家は財政の先行きを気にするようになります。

さらに、金利の上昇によって、政府が財政上のルールを守りながら使えるお金の余裕が、春の見通しから半分程度に縮んだという民間の試算もあります。

10月28日には、バーナム政権にとって初めての予算案が発表される予定です。

市場は、新しい政権が生活を支える政策と財政の健全さをどう両立させるのかに注目しています。

したがって、現在の金利上昇は、世界の金利環境と英国自身の問題の両方から考える必要があります。

そして大切なのは、一時的に金利が上がったことよりも、高い金利が長く続くのかどうかです。

もし一時的な原油高や世界的な債券市場の変動によるものであれば、状況が落ち着くにつれて金利が低下する可能性もあります。

しかし、財政赤字の拡大や物価上昇への不安が長く続けば、高い金利が定着してしまうことも考えられます。

この違いは、英国経済の将来を考えるうえで非常に重要です。

金利の上昇は、国民の生活にも戻ってきます

国債の金利というと、政府や金融機関だけに関係する話のように感じられるかもしれません。

しかし、実際には家計や企業にも影響が及びます。

例えば、住宅ローンを考えてみましょう。

英国の住宅ローンは、2年や5年といった期間だけ金利を固定する仕組みが一般的です。
その金利は市場の金利の動きを受けて決まるため、国債金利が上がると、住宅ローンの金利にも上昇の圧力がかかりやすくなります。

そうなると、同じ価格の住宅を購入しても、毎月の返済額が増える可能性があります。

固定期間が終わって金利を見直す人にとっても、返済額が大きく増えることがあります。

住宅を購入できる人が減れば、住宅市場にも影響が及びます。

企業も同じです。

銀行から借り入れるときの金利が高くなれば、設備投資に必要なお金の負担が重くなります。

工場を新しく建設したり、機械を導入したりする計画を先延ばしにする企業も出てくるかもしれません。

政府にも影響があります。

借入れに必要な利息が増えれば、その分だけ、ほかの政策に使えるお金が圧迫されやすくなります。

住宅支援を充実させたいのに、国債の利息に使うお金が増えてしまう。

医療サービスを改善したいのに、財政上の余裕がなくなってしまう。

こうした問題が起こる可能性があります。

ここで、政治と金融市場がつながります。

国民の生活を改善するために支出を増やそうとした結果、財政への不安が強まり、金利が上がってしまえば、その金利上昇が再び国民生活を苦しくすることがあるのです。

これは、政策を考える際に非常に重要な視点です。

英国は、2022年にも金融市場から厳しい評価を受けました

英国では、以前にも政府の経済政策をきっかけに金融市場が大きく動いたことがあります。

2022年9月、当時のトラス政権が、財源の裏付けが十分に示されないまま大規模な減税を打ち出しました。

これをきっかけに財政運営への不安が強まり、英国国債が大きく売られて金利が急上昇しました。

同時に、英国の通貨であるポンドも急落し、対ドルで過去最安値を付けました。

英国の中央銀行であるイングランド銀行が、市場を落ち着かせるために国債を買い入れる事態となり、トラス首相は就任から短期間で退陣することになりました。

この出来事は、政府が経済を良くしようとして打ち出した政策でも、財政面での説明が十分でなければ、市場に不安を与える可能性があることを示しました。

ただし、当時と現在では、政治状況も金融市場の環境も異なります。

現在の金利上昇を、そのまま2022年と同じ問題として扱うことはできません。

それでも、共通する教訓はあります。

政府がお金を使うこと自体が悪いのではありません。

減税や支出の拡大にも、それぞれ目的があります。

重要なのは、その政策によって経済がどのように改善するのか、必要なお金をどう確保するのか、将来の財政にどの程度の負担が残るのかを、十分に説明できることです。

金融市場は、政策の効果だけでなく、長い期間にわたって財政を運営していけるかどうかも見ています。

金利が高くなっても、ポンドの価値が上がるとは限りません

通常、ある国の金利がほかの国より高くなれば、その国の通貨が買われやすくなる場合があります。

高い金利で運用できることが、投資家にとって魅力になるからです。

しかし、金利が上がれば必ず通貨高になるわけではありません。

ここで重要なのが、金利が上昇している理由です。

例えば、景気が良くなり、企業の利益が増え、経済全体が強くなった結果として金利が上昇している場合を考えてみます。

そのような状況であれば、投資家がその国の経済を前向きに評価し、通貨を買うことも考えられます。

一方、政府の財政や将来の物価への不安が強まった結果、金利が上昇している場合はどうでしょうか。

投資家は、高い金利を受け取れるとしても、その国の通貨を長く保有することに不安を感じるかもしれません。

通貨の価値が大きく下がれば、利息を受け取っても全体では損失が出ることがあるからです。

このような場合、国債が売られて金利が上昇すると同時に、通貨も売られる可能性があります。

英国であれば、国債価格の下落とポンド安が同時に起こるということです。

2022年の出来事は、まさにその典型でした。

ただし、ポンドの動きは、米国や欧州の金利、貿易、海外からの投資などにも左右されます。

そのため、英国の長期金利だけを見てポンドの将来を判断することはできません。

大切なのは、高い金利が経済の強さを表しているのか、それとも将来への不安を表しているのかを見分けることです。

英国とフランスには、似た問題が見られます

英国で起きている変化は、欧州全体の動きとも関係しています。

例えば、フランスでも近年、国民生活への不満や政治の分裂、財政運営の難しさが大きな問題になっています。

フランスでは、物価や公共サービス、年金、教育などを巡って、さまざまな立場から要求が出ています。

一方で、財政赤字を減らさなければならないという課題もあります。

政府が支出を減らそうとすれば、その支出に支えられている人々から反発が起こる可能性があります。

反対に、国民の要求に応えて支出を増やせば、財政への不安が強まるかもしれません。

政治的には、どちらも簡単ではありません。

英国でも、住宅や移民、医療、社会保障などを巡って似た難しさが見られます。

生活を改善してほしいという人々の要求が強まる一方で、政府が自由に使えるお金には限りがあります。

ただし、英国とフランスには重要な違いもあります。

英国は独自の通貨であるポンドを使い、イングランド銀行が金利政策を決めています。

一方、フランスはユーロを使っているため、金融政策は欧州中央銀行のもとで行われています。

そのため、財政問題が金融市場に与える影響や、政府が取れる対応は同じではありません。

それでも、二つの国から共通して見えてくることがあります。

それは、国民の生活を守るための支出を求める声が強まる一方で、その支出を支える財政の余裕が小さくなっているという問題です。

この難しさは、今後の欧州政治を理解するうえで重要になっていくと思います。

政治の対立は、右と左だけでは説明できなくなっています

これまで政治の対立は、保守的か進歩的か、政府の役割を小さくするか大きくするか、といった違いで説明されることが多くありました。

もちろん、現在でもこうした考え方の違いは重要です。

しかし、それだけでは最近の政治の変化を十分に説明できないように感じます。

例えば、住宅を持つ人と、住宅を持てない人。

安定した仕事に就いている人と、将来の雇用に不安を感じている人。

今の社会の仕組みに満足している人と、その仕組みでは自分の生活が良くならないと感じている人。

こうした違いも、政治への考え方に影響しているのではないでしょうか。

人々がどの政党を支持するかは、所得や資産だけで決まるものではありません。

文化、教育、地域、世代など、さまざまな要素が関係しています。

それでも、経済的な安定を感じられるかどうかは、大きな要素です。

今の社会の仕組みで生活が良くなると感じている人は、その仕組みを維持したいと考えるかもしれません。

一方、いくら働いても生活が変わらないと感じる人は、これまでとは違う政策や政治家に期待することがあります。

これは、単なる政党間の争いではありません。

社会の仕組みが、多くの人に将来への希望を与えられているかどうかという問題です。

英国で新しい政治勢力が支持を集めてきた背景にも、こうした社会の変化があると考えられます。

既存の政党が政策を変えても、不満が消えるとは限りません

ここで考えたいのは、既存の政党が新しい政党の主張に近づいた場合、何が起こるのかということです。

例えば、移民政策を厳しくすれば、それまで不満を持っていた人々が満足するかもしれません。

しかし、実際の生活が改善しなければ、政治への不満は残る可能性があります。

住宅が不足している状況で、移民の受け入れ人数だけを減らしたとしても、新しい住宅が十分に建設されなければ、住宅問題は簡単には解決しません。

医療サービスが不足している状況で、利用できる人の条件を変えても、医師や看護師が増えなければ、サービスの改善には限界があります。

また、生活費が高い状態が続けば、人々は次の政策を求めるようになります。

このとき、新しい政党の人気が落ちるとは限りません。

むしろ、既存の政党が十分な成果を出せなかった場合、新しい政党への期待が再び高まることも考えられます。

リフォームUKの支持率が一時的に下がっていても、その背景にある不満が解消されたとは限らないのです。

つまり、政治家が国民の不満に応えるために政策を変えても、問題の原因に対応できなければ、不満を解消することは難しいのです。

これは英国だけに限らない、政治の難しさだと思います。

そして、こうした状況が続けば、選挙のたびに政策の方向が変わり、政府が長期的な計画を進めにくくなる可能性もあります。

企業にとっても、政策が頻繁に変わることは投資判断を難しくします。

長い期間をかけて工場や住宅を建設する場合、税制や規制、労働市場の仕組みが安定していることが重要だからです。

政治の不安定さが、経済の成長力に影響する可能性もあるのです。

生活を守るための政策が、かえって経済を弱くすることもあります

政治家が国民の生活を守ろうとすること自体は、自然なことです。

住宅を手に入れやすくし、医療を充実させ、働く人の賃金を上げようとする政策には、大きな意味があります。

ただし、政策には必ず効果と負担の両方があります。

例えば、外国から来る働き手を大きく減らせば、一部の仕事では賃金が上がるかもしれません。

しかし、人手不足によって企業の活動が弱まり、サービスの価格が上がる可能性もあります。

社会保障を充実させれば、生活に困っている人を支えることができます。

しかし、その支出が税収の増加を大きく上回れば、財政赤字が拡大するかもしれません。

政府が国債の発行を増やして支出を拡大すれば、短い期間で見れば経済を支えることができる場合もあります。

一方で、物価が上がりやすい状況では、需要を増やす政策がインフレ(物価が継続的に上がること)を強める可能性もあります。

大切なのは、一つひとつの政策を単独で考えるのではなく、組み合わせたときに経済全体へどのような影響が出るのかを考えることです。

特に、働き手が不足している状況で政府支出を増やす場合には注意が必要です。

需要が増えても、その需要に応える人手や設備が足りなければ、生産やサービスの供給が十分に増えず、価格だけが上がってしまうことがあるからです。

経済政策では、お金を使うことだけではなく、社会が必要とする商品やサービスを実際に増やせるかどうかが重要になります。

英国は、国内では内向きになりながら、海外との関係を維持する必要があります

英国は、欧州連合から離脱したあとも、世界経済や国際政治に大きな影響力を持つ国です。

金融、貿易、外交、安全保障など、多くの分野で海外との関係を保っています。

しかし、国内政治で自国民への優先的な支援を求める声が強まると、海外から人を受け入れることや、外国との関係について、これまで以上に慎重になる可能性があります。

一方で、英国には国際社会で果たすべき役割もあります。

例えば、安全保障では北大西洋条約機構(NATO)を通じて、欧州や米国などとの協力が重要です。

防衛力を維持するためには、多くのお金が必要になります。

海外との貿易や投資も、英国の経済成長にとって欠かせません。

外国企業が英国に投資すれば、国内に新しい工場や研究施設ができ、雇用が生まれる場合があります。

海外から優れた研究者や技術者を受け入れることも、産業の発展につながる可能性があります。

そのため、国内の生活を重視することと、海外との関係を弱めることは、必ずしも同じではありません。

むしろ、国民の生活を豊かにするためにこそ、海外との関係を維持する必要がある場合もあります。

今後の英国にとって重要なのは、国内の不安に対応しながら、世界との経済的なつながりをどのように保つかということだと思います。

政府支出を増やすことが、すべて悪いわけではありません

ここまで、財政支出の拡大による問題を考えてきました。

しかし、政府がお金を使うこと自体を否定する必要はありません。

むしろ、適切な支出が将来の経済成長につながる場合もあります。

例えば、住宅不足が深刻な地域で、道路や上下水道などの整備を進め、新しい住宅を建設しやすくする政策を考えてみます。

短期的には政府の支出が増えるかもしれません。

しかし、住宅が増えれば、家賃や住宅価格の上昇を抑える方向に働く可能性があります。

働く人々が住みやすい環境が整えば、企業も人材を確保しやすくなります。

同じように、教育や職業訓練への投資によって働く人の能力が高まれば、企業の生産性が向上するかもしれません。

医療や介護の仕組みが改善すれば、健康上の理由で働けなかった人が仕事に戻りやすくなることも考えられます。

つまり、政府支出の中には、将来の経済を強くするものがあります。

問題は、支出の金額そのものではなく、そのお金によって何が生み出されるのかということです。

将来の生産力を高める支出と、現在の不足を一時的に補う支出では、長期的な効果が違う場合があります。

もちろん、生活に困っている人を支えるための支出も必要です。

ただ、それを長く続けていくためには、経済全体の力を高める政策も欠かせません。

目の前の生活を守る政策と、将来の豊かさを増やす政策の両方が必要なのです。

英国の政治に求められているのも、この二つをどのように両立させるかということではないでしょうか。

今回の英国の変化は、日本にとっても他人事ではありません

ここまで英国の問題を考えてきましたが、日本にも共通する部分があります。

日本では、少子高齢化が進んでいます。

働く世代の人数が減っていく一方で、医療や介護、年金などに必要なお金は増えやすくなります。

地方では人口減少が進み、医療や交通などのサービスを維持することが難しくなっている地域もあります。

その一方で、都市部では住宅価格の上昇が若い世代の負担になっています。

賃金が上がっても、食料品やエネルギーなどの価格が上がれば、生活が楽になったと感じにくくなります。

こうした状況では、日本でも、限られた財源やサービスをどこに優先して使うのかという議論が強まる可能性があります。

例えば、子育て支援を充実させることと、高齢者向けの社会保障を維持することです。

どちらも重要ですが、政府のお金には限りがあります。

また、人手不足に対応するために外国人労働者を受け入れることと、国内で働く人々の待遇を改善することも、同時に考える必要があります。

日々、中小企業の経営者の方とお話ししていても、人手の確保と賃上げの両立は、多くの会社に共通する悩みになっていると感じます。

ここで大切なのは、誰かの負担を減らすことだけを考えるのではなく、社会全体の生産力をどう高めるのかという視点です。

人口が減っても、一人ひとりが生み出す価値を高めることができれば、経済を支える力は強くなります。

企業が設備投資を進め、働く人が新しい技術を身につけ、生産性を高めることは、そのための大切な方法です。

また、働きたい人が無理なく働ける環境を整えることも重要になります。

日本には英国と異なる制度や経済環境がありますので、同じ問題が同じ形で起きるとは限りません。

それでも、低い成長の中で増え続ける支出をどう支えるのかという課題は共通しています。

英国の政治の変化は、日本がこれから考えるべき問題を映し出しているようにも見えます。

国民の生活を良くするには、分け方だけでなく、豊かさを増やすことが必要です

経済を考えるとき、私は、今あるものをどう分けるかという議論と、新しく何を生み出すかという議論を分けることが大切だと思います。

もちろん、今ある豊かさを公平に分けることは重要です。

生活に困っている人を支え、必要な医療や教育を提供することは、社会の安定につながります。

しかし、限られたものを分けることだけを考えていては、問題の解決に限界があります。

住宅が足りないのであれば、誰を優先するかという議論だけでなく、どうすれば住宅を増やせるのかを考える必要があります。

介護サービスが不足しているのであれば、利用する人の条件だけでなく、どうすれば働く人を確保し、効率よくサービスを提供できるのかを考える必要があります。

賃金が低いのであれば、単に人手を減らすことだけでなく、企業が高い賃金を支払えるだけの利益を生み出せるようにする必要があります。

財政赤字が問題なのであれば、支出を削減することだけでなく、経済成長を通じて税収を増やすことも考える必要があります。

つまり、不足しているものの取り合いを続けるだけではなく、不足そのものを小さくしていくことが重要なのです。

これは、言葉で説明するほど簡単なことではありません。

住宅を増やすには時間がかかります。

働く人を育てるにも時間が必要です。

企業の生産性を高めるためには、設備投資や技術開発が欠かせません。

しかも、すべての政策が期待どおりの成果を生むわけではありません。

それでも、長い目で見れば、こうした取り組みを積み重ねることが、生活の安定につながるのではないでしょうか。

これから英国を見るときに、注目したいこと

今後の英国を考えるとき、私は選挙や政党の支持率だけではなく、暮らしと経済の両方を見ていくことが大切だと思います。

まず、目前に迫った予定として、10月28日に発表される予算案があります。

新しい政権が、生活を支える政策の財源をどのように示すのかは、国債市場の動きを大きく左右する可能性があります。

11月上旬に予定されているイングランド銀行の金融政策の決定にも、注目が集まっています。

そのうえで、少し長い目で見ていきたいのが住宅の状況です。

住宅価格や家賃がどのように動いているのか、新しい住宅が十分に建設されているのかを見ることで、若い世代の生活に改善が生まれているかを考えることができます。

次に、雇用と賃金です。

失業率が上がっていないか、若い世代が安定した仕事を得られているか、賃金の上昇が物価の上昇を上回っているかが重要になります。

移民の動きも、引き続き確認する必要があります。

純移民の数だけでなく、どのような仕事に就く人が増えたり減ったりしているのかを見ることが大切です。

そして、政府の財政です。

財政赤字や国債の発行額がどのように変化しているのか、政府が新しい政策の財源をどのように確保しようとしているのかを確認する必要があります。

金融市場では、特に30年国債などの長期金利に注目したいところです。

長期金利が上昇し続ける場合には、その背景が世界的な物価や金利の変化なのか、英国独自の財政への不安なのかを考える必要があります。

さらに、ポンドの動きも重要です。

高い金利とポンド高が同時に起きているのか、それとも金利の上昇とポンド安が重なっているのかによって、市場の評価が異なる可能性があります。

なお、英国の国債や株式に投資する投資信託をお持ちの方は、こうした金利や為替の動きが基準価額に影響することも知っておくとよいでしょう。ただし、短い期間の値動きだけで売買を判断するのではなく、ご自身の目的や期間に合っているかを落ち着いて確認することが大切です。

こうした数字を一つずつ見るだけでなく、組み合わせて考えることで、英国経済の変化をより深く理解できるのではないでしょうか。

おわりに―英国の政治の変化から見える、これからの先進国の課題

英国で新しい政治勢力が存在感を強め、既存の政党も政策の見直しを迫られていることは、単なる政党間の競争ではないように思います。

その背景には、長い間積み重なってきた生活上の問題があります。

住宅を手に入れにくいこと。

働いても生活に余裕が生まれにくいこと。

医療や福祉に十分な安心感を持てないこと。

将来、自分たちの生活が今より良くなると信じにくいこと。

こうした不安が強まると、人々は政治に対して、これまでとは違う答えを求めるようになります。

政府には自分たちの生活を守ってほしいという期待が高まり、限られた財源やサービスの優先順位が大きな争点になります。

しかし、そこで政府支出を増やし続ければ、財政への負担が重くなる可能性があります。

財政への不安が強まれば、国債金利の上昇につながることもあります。

金利が高くなれば、政府だけでなく、住宅を購入する人や企業にも負担が及びます。

その結果、生活を良くするための政策が、別の形で生活を苦しくする可能性もあります。

ここに、現在の英国が抱える難しさがあります。

そして、こうした問題は英国だけのものではありません。

高齢化、経済成長の鈍化、住宅の負担、財政赤字、社会の分断といった問題は、多くの先進国で見られます。

これからの政治では、限られたものを誰に優先して配るのかという議論が、さらに重要になっていくかもしれません。

しかし、本当に必要なのは、それだけではないと思います。

誰かの取り分を減らすことで別の誰かの生活を良くするだけでは、社会全体の豊かさには限界があります。

新しい住宅をつくり、働く人の能力を高め、企業の生産性を向上させ、より少ない負担で質の高いサービスを提供できるようにすることが必要です。

経済が成長し、その成果が人々の生活に広がれば、今よりも多くの選択肢を持てるようになります。

政治が人々の不安に応えることは大切です。

しかし、その不安を一時的に和らげるだけではなく、不安が生まれる原因を小さくしていくことが、さらに重要なのではないでしょうか。

これからの先進国に問われているのは、限られた豊かさを誰に配るかという問題だけでなく、社会全体の豊かさをもう一度増やせるかどうかということです。

英国で進んでいる政治の変化と、長期金利の上昇をあわせて考えると、その問いの大きさが見えてきます。

今後も英国の政治を、選挙の結果だけでなく、住宅、雇用、物価、財政、そして国債金利やポンドの動きとともに見ていきたいと思います。

そこには、日本のこれからを考えるうえでも、多くのヒントがあるように感じています。

※本稿の数値は、2026年10月10日時点で確認できた情報にもとづいています。金利や為替は日々変動しますので、最新の情報もあわせてご確認ください。