非上場株式の評価は、日経平均が上がると必ず上がるのか?

非上場株式の評価と日経平均の関係

近年、日経平均株価をはじめとする株式市場が大きく上昇しています。

そのため、同族会社(オーナー一族が株式を持っている会社)の株主の方から、こんなご相談をいただくことが増えてきました。

「上場株式の相場が上がると、うちのような非上場会社の株価も上がるのでしょうか?」
「相続税や贈与税の評価額にも、影響が出るのでしょうか?」
「日経平均が3年前より大きく上がっているなら、非上場株式も確実に高くなっていますか?」

結論から言うと、上場株式市場の動きは、非上場株式の評価に影響する場合があります。

ただし、「日経平均株価がそのまま非上場株式の評価額に連動するわけではない」という、大切なポイントがあります。

非上場株式の評価は、相続税・贈与税の場面では、原則として国税庁の財産評価基本通達という規則に基づいて行います。
税務署は「相場が上がったから評価額も上がるはず」という見方はしません。
評価の方法、会社の規模、誰が株主か、どんな業種か、会社の財務内容—これらをひとつひとつ確認していきます。

今回は、金属製品製造業の非上場会社を例に、上場株式相場の上昇が非上場株式の評価にどう影響するのかを、やさしく整理していきます。

まず確認するのは「誰が株式を持っているか」

非上場株式の評価で最初に見るべきことは、その株式を持っている人が「同族株主」かどうか、という点です。

同族株主とは、簡単に言えば、会社を実質的に支配しているオーナー一族のことです。

同じ会社の株式でも、誰が持っているかによって評価方法が変わることがあります。

同族株主が持っている株式については、原則として「原則的評価方式」を使います。
これは、会社の利益・配当・純資産・規模・業種などをきちんと見て評価する方法です。

一方、同族株主以外の少数株主(会社の支配には関係ない、少しだけ株を持っている方など)については、一定の場合に「配当還元方式」という特例的な方法を使うことができます。
配当還元方式とは、簡単に言えば「その株から受け取る配当を基に評価する方法」です。
会社全体の価値ではなく、配当を受け取る権利として評価する考え方です。

そのため、上場株式の相場が上がっても、配当が変わらなければ、配当還元方式による評価への影響は限定的です。
今回のケースは、株主が同族株主だけという前提です。 したがって、配当還元方式ではなく、原則的評価方式で評価します。

ここは税務署が非常に重視するポイントです。
同族株主であるにもかかわらず、評価額が低くなる配当還元方式を使っている場合、税務調査ではかなり厳しく指摘されます。

次に確認するのは「会社の規模」

同族株主が持っている非上場株式を評価するとき、次に重要なのが会社規模の判定です。
規模によって、使う評価方法が変わるからです。

大会社に該当する場合は、原則として「類似業種比準方式」で評価します。
中会社に該当する場合は、「類似業種比準価額」と「純資産価額」を一定割合で組み合わせて評価します。
小会社に該当する場合は、原則として「純資産価額方式」で評価します。

ここで気をつけていただきたいのは、会社規模は感覚では決められないということです。

「うちは従業員が少ないから小会社だろう」「年商が1億円程度だから小会社ではないか」と思われる方も多いのですが、税務上の規模判定は感覚では決まりません。

評価上は、主に従業員数、総資産価額(会社の資産合計)、直前1年間の取引金額(売上高等)の3つで判定します。
そして業種区分によっても基準が違います。
税務署も、この数字を評価明細書に当てはめて確認します。

今回の例:金属製品製造業の会社

今回の例として想定している会社の概要をご紹介します。

業種は金属製品製造業です。
従業員数は10名未満で、総資産額は約1億円規模、年間売上高も同じく約1億円規模です。
そして株主は同族株主のみという構成です。

この会社について、どの会社規模に当てはまるのかを見ていきます。

金属製品製造業は、規模判定上どの業種に分類されるか

会社規模の判定では、業種の区分がとても重要です。

大きく分けると、次の3区分があります。
卸売業とは、商品を仕入れて事業者などへ販売する業種です。
小売・サービス業には、小売業・飲食業・サービス業などが含まれます。
その他の業種には、製造業・建設業・不動産業・運送業などが含まれます。

金属製品製造業は、通常「その他の業種」に分類されます。

注意が必要なのは、複数の事業を行っている会社です。
たとえば、製造業のほかに不動産賃貸業や卸売業も行っている場合、どの事業の取引金額が最も大きいかを確認する必要があります。

税務署は、実態と違う業種で判定して評価額を操作していないかを確認します。
この点は実務上も注意が必要です。

従業員数が10名未満であれば、大会社ではない

規模判定でまず確認するのが従業員数です。
従業員数が70人以上であれば、原則として大会社に該当します。

今回の会社は10名未満ですから、従業員数だけで大会社になることはありません。

次に、総資産額と売上高を見ていきます。

なお、従業員数の数え方にも注意が必要です。
税務署は、代表取締役や役員を従業員に含めていないか、パート・アルバイトを不当に除外していないか、勤務時間による換算が必要ではないか、といった点を確認します。

同族会社では、役員と従業員の区別があいまいなことがあります。
「会社で働いている人が8人」という感覚ではなく、評価上の正しい数え方で確認してください。

総資産額・売上高が約1億円規模の場合

「その他の業種」(製造業など)では、総資産額と取引金額(売上高等)を基に、中会社か小会社かを判定します。

今回の会社は、総資産額も売上高もおおむね1億円規模です。

この水準であれば、小会社ではなく、中会社に該当する可能性が高いと考えられます。

さらに中会社の中でも、規模に応じて3つに分かれます。
中会社の大、中会社の中、中会社の小です。

従業員数が10名未満、総資産額・売上高が1億円前後であれば、通常は「中会社の小」と見るのが自然です。

この場合、評価上のL割合(後述)は、原則として0.60になります。

L割合とは何か

ここで出てくる「L割合」について説明します。

L割合とは、「類似業種比準価額をどれだけ評価に反映させるか」を示す割合です。

少し難しく聞こえますが、ポイントはこうです。
中会社の評価では、上場会社の株価を参考にした「類似業種比準価額」と、会社の資産・負債を基にした「純資産価額」を、一定割合で混ぜ合わせて評価します。

中会社の大であれば類似業種比準価額をより大きく反映し(L=0.90)、中会社の中はその中間的な割合(L=0.75)、中会社の小では類似業種比準価額を60%、純資産価額を40%反映します(L=0.60)。

今回の会社は「中会社の小」の可能性が高いため、L割合は0.60です。

つまり、評価額は「類似業種比準価額 × 60% + 純資産価額 × 40%」で計算することになります。

このL割合の考え方が、「上場株式相場の上昇がどこに効いてくるのか」を理解するうえで、とても重要になります。

上場株式相場の上昇は、どこに影響するのか

中会社の小でL=0.60の場合、評価額は「類似業種比準価額 60% + 純資産価額 40%」という構成です。

このうち、上場株式相場の上昇が直接影響しやすいのは「類似業種比準価額」の部分です。

類似業種比準価額とは、評価会社(今回の金属製品製造業)と似た業種の上場会社の株価・配当・利益・純資産などを参考にして計算する方法です。
上場会社の株価が大きく上昇すれば、類似業種比準価額も上がりやすくなります。

今回の会社はL割合が0.60ですから、類似業種比準価額に生じた影響は、評価額全体の60%部分に反映されることになります。

「やはり日経平均が上がれば、非上場株式の評価にも影響するのでは?」と感じるのは、間違いではありません。

ただし、「日経平均株価」そのものを見るわけではない

ここで、非常に重要なポイントがあります。

非上場株式の類似業種比準価額で使うのは、日経平均株価ではありません。

使うのは、国税庁が公表している類似業種の株価等です。

たとえ日経平均が3年前と比べて倍以上になっていたとしても、税務評価上は「日経平均が倍になったかどうか」ではなく、「その会社に対応する類似業種の株価がどのように動いているか」を見ます。

今回の会社は金属製品製造業ですから、金属製品製造業に対応する類似業種の株価が上がっていれば、類似業種比準価額に影響します。
逆に、日経平均全体は大きく上がっていても、該当する業種の株価上昇が限定的であれば、影響も限定的になります。

税務署は、ここを非常に重視します。
「日経平均が上がっているから評価額も上がるはず」ではなく、評価に使った類似業種の株価は正しいか、その業種選定は会社の実態に合っているか、評価時点に応じた株価を使っているか—こうした点を確認します。

日経平均が倍になっても、評価額が単純に倍になるわけではない

日経平均が3年前と比べて大きく上昇している場合、非上場株式の評価に影響する可能性はあります。
しかし、評価額が単純に倍になるということではありません。

理由は2つあります。

1つ目は、類似業種比準価額は上場株価だけで決まらないという点です。
類似業種比準価額は、上場会社の株価だけでなく、評価会社自身の配当・利益・純資産も組み合わせて計算します。
上場株価が上がっても、評価会社側の利益が下がっていたり、配当がなかったりすれば、評価額への影響は変わります。

2つ目は、使う株価は評価時点の一点だけではないという点です。
類似業種の株価は、評価時点の月だけでなく、一定の範囲の中から選ぶ仕組みがあります。
そのため、直近の株価急騰がそのまま全額反映されるとは限りません。

数字で確認してみましょう

たとえば、ある非上場会社の評価で、類似業種比準価額が1,000円、純資産価額が2,000円、L割合が0.60だったとします。

この場合の評価額は、類似業種比準価額1,000円の60%にあたる600円と、純資産価額2,000円の40%にあたる800円を合計した1,400円になります。

次に、上場株式相場の上昇により、類似業種比準価額だけが2倍の2,000円になったとします。
純資産価額は変わらず2,000円のままだとします。

この場合の評価額は、類似業種比準価額2,000円の60%にあたる1,200円と、純資産価額2,000円の40%にあたる800円を合計した2,000円になります。

類似業種比準価額は2倍になっていますが、評価額全体は1,400円から2,000円への上昇です。上昇率は約43%にとどまります。

このように、L=0.60の場合、上場株式相場の影響は60%部分に効いてきますが、評価額全体がそのまま倍になるわけではありません。

純資産価額にも影響する場合がある

ここまで、上場株式相場の上昇は主に「類似業種比準価額」に影響すると説明しました。
しかし、会社が上場株式や投資信託を保有している場合は、話が変わります。

会社が持っている上場株式の時価が上がれば、純資産価額にも影響します。
つまり、株式相場の上昇は、類似業種比準価額の60%部分だけでなく、純資産価額の40%部分にも影響する可能性があります。

特に、余裕資金で上場株式や投資信託を多額に保有している会社では、純資産価額の上昇も無視できません。

一方、会社の資産が現預金・売掛金・棚卸資産・機械装置などの通常の事業用資産中心で、上場株式をほとんど持っていない場合には、純資産価額への影響は限定的です。

「類似業種比準価額だけを見ればよい」ではなく、「純資産価額に含み益のある資産がないか」という視点も大切です。

税務署が確認しやすいポイントをまとめると

非上場株式の評価において、税務署が特に確認するポイントを整理します。

株主判定が正しいかについては、同族株主なのに、評価額の低くなる配当還元方式を使っていないかが問われます。
同族株主だけの会社であれば、原則的評価方式を使うべきです。

会社規模判定が正しいかについては、大会社・中会社・小会社の判定が正しいかを確認します。
従業員数、総資産額、取引金額を評価明細書に正しく当てはめているかが見られます。

L割合が正しいかについては、中会社の大・中・小によってL割合は変わります。
今回のような中会社の小であればL=0.60です。これを誤ると評価額が大きく変わります。

業種選定が正しいかについては、類似業種比準価額でどの業種の株価を使うかが重要です。実態と異なる業種を選んで評価額を下げていないか、税務署は確認します。
類似業種株価の使い方が正しいかについては、評価時点に応じた株価を使っているか、選択できる月の範囲内で適正に選んでいるか、古いデータを使っていないかが確認されます。

会社の利益・配当・純資産の数字が正しいかについては、類似業種比準価額では評価会社自身の利益・配当・純資産も使います。
決算書の数字や非経常的な利益の扱いなども確認対象になります。

純資産価額を低く見積もっていないかについては、土地・建物・上場株式・投資信託・生命保険積立金・役員貸付金などの資産の評価が問われます。
帳簿価額だけでなく、相続税評価額や時価の確認が必要なものがあります。含み益のある資産が過小評価されていないかを、税務署は確認します。

今回の会社ではどう考えるべきか

今回の会社(金属製品製造業・従業員10名未満・総資産額と売上高がそれぞれ約1億円規模・同族株主のみ)のケースを整理すると、次のようになります。

株主が同族株主のみのため、原則的評価方式で評価します。
規模判定上は、中会社の小に該当する可能性が高く、したがってL割合は0.60と考えられます。
評価額は「類似業種比準価額 60% + 純資産価額 40%」で構成されます。

この構造から、上場株式相場の上昇は、主に類似業種比準価額を通じて評価額全体の60%部分に影響します。

日経平均株価が3年前と比べて大きく上昇している局面では、金属製品製造業に対応する類似業種株価も上昇している可能性があり、非上場株式の評価に影響が出る可能性は十分に考えられます。

ただし、直接参照するのは日経平均ではなく、国税庁が公表する類似業種の株価です。
この点はくれぐれもご注意ください。

実務上の注意点と早めに確認すべきこと

「相場が上がったから何となく評価が上がる」という理解は、大まかには正しいですが、正確ではありません。

相続や贈与を検討されている場合、まず次の点を早めに確認しておくことをおすすめします。
現在の類似業種の株価水準(国税庁公表データ)、現在の純資産価額、会社規模判定とL割合、会社が保有する含み益のある資産(上場株式・土地など)、今後の利益見込み・配当の有無—これらを整理しておくことが大切です。

非上場株式の評価は、少しの前提の違いで評価額が大きく変わります。
日経平均や上場株式相場が大きく動いている時期は特に、過去の評価額をそのまま使い続けるのは危険です。

直近の評価額を試算し、税務署から見ても説明できる評価の根拠を整えておくことが、相続税対策・贈与対策の出発点になります。

現状の会社規模・株式構成・保有資産を確認するだけでも、見通しがはっきりしてきます。

この記事は作成時点の情報に基づいています。
実際の非上場株式の評価額は、会社の個別の状況や評価時点によって異なります。