株高の裏で進む金利上昇リスク
30秒でわかる、この記事のポイント
何が起きている?
株価は上がっていますが、その裏で日本国債の売買が細くなり、金利が急に上がるリスクが静かに高まっています。
なぜ大事なのか?
国債とは、国がお金を借りるための「借用証書」です。
ここが不安定になると、住宅ローンや会社の借入にも影響します。
生活にどう関係する?
ガソリン補助金や物価対策は家計を助けますが、やり方と出口次第では、将来の金利上昇や物価高につながるリスクがあります。
「株が上がっているから安心」とは言い切れない理由
税理士として、中小企業の経営者とお話しする機会が長年あります。
景気のよいニュースが続くとき、経営者の方から「先生、株も上がっているし、そろそろ設備投資してもいいですかね」と相談を受けることがあります。
その前向きな気持ちは、とても大切です。
でも私はいつも、もうひとつの視点もお伝えするようにしています。
「株価のほかに、金利の動きも一緒に見ておきましょう」と。
今まさに、その両方を同時に見ておく必要がある局面です。
株が上がっている背景には、低金利の時代に借りたお金や余剰資金が株式市場に流れ込んでいる側面があります。
一方で、日本の国債市場は以前より売買がしにくい状態が続いています。
この環境で政府がお金を使い続けると、何かのきっかけで金利が急に動くリスクがあります。
「金利」とは、お金を借りるときに上乗せで払う料金のことです。
住宅ローンも、会社の運転資金も、この金利と切り離せません。
株価が上がるのは、見た目には明るいニュースです。
でも、その裏側まで理解しておくことが、家計にとっても会社にとっても、長い目で見て大切だと思っています。
なぜ、こういう状況になったのか
背景には、大きく2つあります。
ひとつは、長期にわたる低金利です。
金利が低いと、お金を借りやすくなります。
家計でたとえると、クレジットカードの手数料がほぼゼロに近い状態です。
つい使いすぎてしまいそうになりますよね。
企業や投資家も同じで、安くお金を借りられるなら、株や不動産に積極的に投資したくなります。
その結果、市場にお金が入り、株価が上がりやすくなります。
もうひとつは、政府・日銀の政策が市場に深く関わってきたことです。
日銀(日本銀行)は、日本のお金の量と金利を調整する中央銀行です。
政府は物価高対策としてガソリン補助金を出したり、家計を支援したりしています。
円安が進みすぎると、「為替介入」として円を買い支えることもあります。
円安とは円の価値が下がることで、海外から買う原油や食料が値上がりしやすくなります。
支援策そのものは、生活を助ける面があります。
でも、支出を増やし続けると、国が発行する国債の量が増えます。
国債が増え、しかも売買しにくい市場のままだと、「この国債を持ち続けて本当に大丈夫か」と考える投資家が出てきます。
そうなると、国債を買ってもらうために、より高い金利をつけざるを得なくなる。
これが、金利上昇リスクの本質です。
小さな会社への影響:具体例で考える
ここからは、特に従業員10人前後の中小企業の経営者の方に向けて、実際の場面を想像してみましょう。
金利が上がったとき、真っ先に影響を受けるのは「変動金利の借入」です。
たとえば、運転資金として銀行から2,000万円を変動金利で借りているとします。
金利が1%上がれば、年間の利息負担は単純計算で20万円増えます。
売上が変わらなければ、その分だけ手元に残るお金が減ります。
私が関与している事務所のクライアントさんの中にも、「銀行の返済は今のところ問題ない」とおっしゃりながら、試算してみると金利が2%上昇した場合には利益が一気に赤字転落するという状況の方がいます。
普段から試算しておくことの大切さを、あらためて感じる場面です。
次に影響するのは、設備投資の判断です。
新しい機械を入れたい、倉庫を建てたい、車を買い替えたい。
こうした設備投資には、多くの場合、借入が伴います。
金利が上がれば、同じ設備を買うのに、返済総額は増えます。
「今が投資のタイミングか」を考えるとき、金利の動向は無視できません。
もうひとつ、意外に見落とされるのが「取引先への影響」です。
自社が直接借入をしていなくても、大口の取引先が資金繰りで苦しくなれば、支払いが遅れたり、発注が減ったりすることがあります。
自分の会社の財務だけでなく、取引先の財務状況にも、金利上昇の影響は波及します。
家計でたとえると「収入は増えたけど、カード払いも増えている」状態
国全体の話を、もう少し身近にしてみましょう。
給料が少し増えたとします。
これが「株高」に近い明るい面です。
でも同時に、クレジットカードの分割払いも増えていたら?
今の生活は楽に見えます。
欲しいものも買えます。
でも、あとから支払いが重くなります。
国の財政もこれに似ています。
物価対策やガソリン補助金は、今困っている人を助けます。
その意義は十分あります。
ただ、支出が膨らみ続けるなら、「あとでどう返すのか」「金利が上がったらどうなるのか」を誰かが考えなければなりません。
「補助金が悪い」という単純な話ではありません。
助けることは必要です。
ただ、続け方と出口を考えないと、金利上昇のリスクが静かに積み上がっていく、ということです。
市場は、静かなときほど急に動く
学校のテスト勉強にたとえてみます。
毎日少しずつ勉強していれば、テスト前にあわてません。
でも何もせず前日の徹夜で詰め込むと、一時的に点数が取れても、体調を崩したり次のテストでまた苦しんだりします。
金融市場も同じです。
補助金や政策で問題をその場しのぎにし続けると、市場がある日まとめて反応することがあります。
少し前のイギリスで、財政への不信感が広がり、国債が売られて金利が急上昇した出来事がありました。
いわゆる「トラス・ショック」と呼ばれるものです。
「日本も必ず同じことが起きる」と言いたいわけではありません。
ただ、国債市場の売買が細くなっているときに、何かのきっかけがあると、動きが大きくなりやすいという点は知っておいて損はありません。
スーパーで「明日から米が値上がりするらしい」という話が広まると、一斉に買いに行く人が増え、棚が空になりますよね。
国債市場でも、売りたい人が急増して買い手がいなくなると、価格が下がり、金利が跳ね上がりやすくなります。
市場というのは、静かなときほど、動き出すと速い。そのことを、頭の片隅に置いておいてください。
良い面と注意点、両方を見る
ここで、大事なことをひとつ。
不安ばかりを煽りたいわけではありません。
良い面もあります。
株価が上がれば、企業の価値が高く見られ、資金を集めやすくなります。
投資信託や企業年金を通じて、資産が増える方もいます。
また政府のガソリン補助金などは、特に地方で車が欠かせない家庭には、短期的に大きな助けになります。
注意点もあります。
金利が上がれば、住宅ローンの返済が増えます。
会社も借入が難しくなり、設備投資や採用に慎重になるかもしれません。
円安が続けば、輸入品の値段が上がり、電気代、食品、日用品にじわじわ影響します。
見るべきポイントは、次の3つです。
・株価だけでなく、金利を見る
・物価だけでなく、給料が増えているかを見る
・補助金だけでなく、そのお金をどう用意しているかを見る
この3つの視点を持つと、ニュースがかなり落ち着いて読めます。
まとめ:株、国債、金利、全部つながっている
今回のポイントを整理します。
・株高は明るい材料だが、借入や信用でお金が回っている側面がある
・日本の国債市場は売買が細く、何かのきっかけで金利が急に動くリスクがある
・補助金や円安対策は家計を助けるが、財政の拡張が続けば将来の金利上昇につながりうる
株、国債、金利、円安、補助金。別々の話に見えますが、全部つながっています。
家計でいえば、収入・借金・毎月の支払い・買い物の値段がつながっているのと同じです。
私が経営者の方々と長く仕事をしてきて実感するのは、「嫌なニュースを見ないようにする」でも「全部悲観する」でもなく、「つながりを知っておく」ことが、一番落ち着いて判断できる状態だということです。
毎日ニュースを追わなくても、このつながりだけ頭に入れておくと、変化に気づくアンテナが立ちやすくなります。
今日からできる一歩
所要時間:10分
まず、スマホのメモを開いてください。
次の項目を書き出してみてください。
・住宅ローン、車のローン、カードの分割払い、奨学金、事業の借入
書き出したら、その中で「金利が変わると返済額が増えるもの」に丸をつけてください。
それだけで十分です。
「わが家(あるいはわが社)は、金利が上がると困るタイプかどうか」を知ることが、今日できる最初の一歩です。
経営者の方なら、試算をひとつ加えてみてください。
「今の借入金利が1〜2%上がったとき、年間の利息負担はいくら増えるか」。
その数字を出しておくだけで、いざというときの判断がずいぶん変わります。
金利のニュースは難しく見えます。
でも、自分の毎月の支払いに置き換えると、とたんに身近になります。
難しく考えなくていい。まずは「自分ごと」にすることが、一番の始まりです。






