退任する取締役に議事録の押印は必要?会社法・商業登記・税務からみた正しい対応

株主総会議事録の押印、実は全員に必要ない?退任取締役と代表取締役変更をめぐるよくある誤解

先日、精密部品の加工業を営むS社(従業員12名)の代表取締役から、こんなご相談をいただきました。

「来月の定時株主総会で、創業以来ずっと会社を支えてくれた取締役の一人が、任期満了で退任することになりました。長年お世話になった方なので、最後にきちんと議事録にも押印していただくべきなのか、それとも退任する人だからもう押さなくてよいのか、正直よくわからないんです。」

このようなご相談は、役員改選のシーズンになると、決して珍しいものではありません。
実は、「退任する取締役に押印してもらうべきか」という一見シンプルな質問の裏には、会社法、商業登記規則、そして役員退職金を支給する場合には税務まで、いくつもの論点が絡み合っています。

結論から申し上げると、退任する取締役だからという理由だけで、株主総会議事録への押印が法律上必要になるわけではありません。

会社法および会社法施行規則は、株主総会議事録の作成を義務付けていますが、株主総会議事録について、議長や出席取締役が必ず署名または記名押印しなければならないとは定めていません。

法務局も、会社法および会社法施行規則上、株主総会議事録への署名または記名押印は必要とされていないと明確に説明しています。

ただし、実務では、単に「会社法上は押印不要」とだけ考えることはできません。

少なくとも、次の点を確認する必要があります。

・会社の定款に、株主総会議事録への署名・押印に関する定めがあるか
・その取締役が、株主総会の開催中、取締役として出席していたか
・株主総会で代表取締役を定めるか
・代表取締役の変更登記に議事録を使用するか
・取締役会設置会社か、取締役会非設置会社か
・退任理由が任期満了、辞任、解任のいずれか
・退任によって法律または定款上必要な取締役数を欠かないか
・役員退職金を支給するか

これらを区別しなければ、法律上は不要なのに関係者全員から個人実印を集めてしまったり、反対に、役員変更登記で必要となる押印や印鑑証明書を用意し忘れたりすることがあります。

本記事では、株式会社を前提として、会社法、商業登記実務および役員退職金の税務上の注意点を、冒頭のS社のケースも交えながら順番に解説します。

株主総会議事録には、会社法上の押印義務がない

会社法第318条は、株主総会の議事について、法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならないと定めています。

会社法施行規則第72条では、一般的な株主総会議事録の記載事項として、主に次の事項が定められています。

・株主総会が開催された日時および場所
・議事の経過の要領およびその結果
・法令上、株主総会で述べられた意見または発言がある場合、その内容の概要
・出席した取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人の氏名または名称
・議長がいる場合、その氏名
・議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

一方、会社法および会社法施行規則には、株主総会議事録について「議長および出席取締役が署名または記名押印しなければならない」という規定はありません。

したがって、会社法上の原則だけを見れば、株主総会議事録は、議長や出席取締役の押印がなくても作成できます。

ここで注意したいのは、押印が不要だからといって、議事録の内容を簡略化してよいわけではないという点です。

押印の有無と、法令上必要な事項が正しく記録されているかどうかは、別の問題です。

取締役会議事録とは扱いが異なる

株主総会議事録と取締役会議事録では、署名・押印に関する会社法上のルールが異なります。

書面で取締役会議事録を作成する場合、会社法第369条第3項により、取締役会に出席した取締役および監査役は、議事録に署名または記名押印しなければなりません。

したがって、基本的には次のように整理できます。

株主総会議事録

会社法上、議長や出席取締役の署名・記名押印は原則として不要です。

取締役会議事録

書面で作成する場合、出席取締役および出席監査役の署名または記名押印が必要です。

代表取締役の選定に使用する議事録

会社法上の押印義務とは別に、商業登記規則によって、個人実印による押印や印鑑証明書の添付が必要になることがあります。

「取締役会議事録には出席役員全員が押印するため、株主総会議事録にも同じように全員が押印しなければならない」と考える会社がありますが、これは両者の規定を混同したものです。実際、S社のご相談でも、最初はこの二つを同じルールだと思い込んでいらっしゃいました。

また、通常の取締役会議事録について、会社法は「署名または記名押印」を求めていますが、常に個人実印を使用するよう求めているわけではありません。

個人実印と印鑑証明書が問題になるのは、代表取締役の就任による変更登記など、商業登記規則上の本人確認が必要となる場面です。

定時株主総会の終結時に退任する取締役は、総会中はまだ取締役

今回の問題で特に重要なのが、退任の効力が発生する時点です。

取締役が定時株主総会の終結時に任期満了となる場合、その取締役は、株主総会が終結するまでは取締役の地位にあります。

会社法第332条では、取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までとされています。

一定の非公開会社では、定款によって取締役の任期を最長10年まで伸長することができますが、その場合も、定款に基づく任期満了時点を確認する必要があります。

例えば、次のような場合を考えてみましょう。

・午前10時に定時株主総会が開会した
・退任予定の取締役Aが、取締役として総会に出席した
・後任取締役の選任決議が行われた
・午前11時に株主総会が終結した
・Aは株主総会の終結時に任期満了退任した

この場合、Aは午前11時に株主総会が終結するまでは取締役です。

したがって、株主総会議事録には、Aを「出席取締役」として記載するのが原則です。

また、定款に「議長および出席取締役が記名押印する」と定められている場合、Aも総会中の出席取締役として、原則として押印対象に含まれます。

議事録へ実際に押印する日が株主総会後であり、その時点ではすでに退任していたとしても、重要なのは、その株主総会にどの資格で出席していたかです。

S社のケースでも、退任される取締役の方は総会の最後まで出席するご予定でしたので、この原則がそのまま当てはまることになります。

定款に押印規定がある場合

会社法上、株主総会議事録への押印が不要であっても、会社の定款に次のような規定が置かれていることがあります。

株主総会の議事については議事録を作成し、議長および出席した取締役がこれに署名または記名押印する。

このような定款規定がある場合には、会社内部の手続として、原則として定款に従う必要があります。

そして、定時株主総会の終結時に退任する取締役が、その総会に取締役として出席していたのであれば、通常は「出席した取締役」に該当します。

したがって、その退任取締役にも署名または記名押印してもらうのが適切です。

ただし、定款に単に「記名押印する」と定められているからといって、必ず個人実印を押さなければならないとは限りません。

次の二つは分けて考える必要があります。

・定款上、株主総会議事録に押印する必要があるか
・商業登記のために、個人実印を押して印鑑証明書を添付する必要があるか

前者は会社内部のルールの問題であり、後者は商業登記規則上の本人確認の問題です。

定款上の押印を一部欠いた場合の法的効果については、定款の文言、決議内容、実際の手続などによって個別に判断されます。
単に押印が一つ不足したという事実だけで、株主総会決議が当然に無効になると一律に断定することはできません。

もっとも、定款に明確な規定がある以上、後日の紛争や登記上の補正を避けるためにも、原則として定款どおりに処理すべきです。

S社の定款を確認したところ、まさに「議長および出席した取締役が記名押印する」という条項が置かれていました。
このように、押印の要否を判断する出発点は、会社法の一般論ではなく、まず自社の定款を確認することにあります。

議事録末尾の文言と実際の押印者を一致させる

定款に押印規定がない会社でも、従来のひな型をそのまま使用し、株主総会議事録の末尾に次のような文章を記載していることがあります。

以上の決議を明確にするため、本議事録を作成し、議長および出席取締役全員が記名押印する。

この文章を記載したにもかかわらず、実際には一部の出席取締役しか押印していない場合、議事録に書かれた内容と実際の状態が一致しません。

会社法上、押印義務がないとしても、証拠書類としての整合性に疑問を持たれる原因になります。

出席取締役全員から押印を受けない方針であれば、例えば、末尾を次のような文言に変更することが考えられます。

以上の決議を明確にするため、本議事録を作成し、議事録作成者が記名押印する。

押印自体を行わない場合は、押印を前提とした文言を置かず、議事録の作成に係る職務を行った取締役を明記する方法もあります。

大切なのは、以前から使用しているひな型を機械的に流用するのではなく、次の事項に合わせて議事録を作成することです。

・現行定款
・会社の機関設計
・実際の出席者
・退任の効力発生時点
・代表取締役の選定方法
・予定している登記申請

長年同じひな型を使い続けている会社ほど、この末尾の文言と実際の押印状況がずれていることがあります。
役員改選のタイミングは、ひな型そのものを見直す良い機会でもあります。

取締役会非設置会社が株主総会で代表取締役を定める場合

株主総会議事録への実印による押印が特に問題になるのは、取締役会を設置していない株式会社が、株主総会または種類株主総会の決議によって代表取締役を定め、その就任による変更登記を申請する場合です。

この場合、商業登記規則第61条第6項第1号により、原則として、議長および出席取締役が株主総会議事録に個人の実印を押し、その印鑑に関する市区町村長作成の印鑑証明書を添付します。

法務局も、取締役会非設置会社が株主総会で代表取締役を定めた場合には、議長および出席取締役について、株主総会議事録への実印による押印と印鑑証明書が必要になると案内しています。

ただし、変更前の代表取締役が、株主総会議事録に登記所へ提出している会社の代表者印、いわゆる法務局届出印を押した場合には、この個人実印・印鑑証明書の取扱いについて例外が認められます。

例えば、次のようなケースです。

・会社は取締役会非設置会社である
・株主総会で後任取締役を選任する
・同じ株主総会で新しい代表取締役を定める
・旧代表取締役は株主総会の終結時に取締役を退任する
・旧代表取締役は総会に出席している
・旧代表取締役が、株主総会議事録に登記所届出印を押す

旧代表取締役が株主総会の終結時に退任する場合、総会の開催中はまだ取締役であり、変更前の代表取締役です。

そのため、株主総会議事録に登記所届出印を押すことにより、他の議長や出席取締役について、個人実印による押印や印鑑証明書の添付を省略できることがあります。

一方、旧代表取締役が総会開催前にすでに取締役を辞任している場合、その者は、原則として「出席取締役」には該当しません。

もっとも、これはあくまで原則的な整理です。
例えば、辞任によって取締役の法定員数を欠き、権利義務取締役として株主総会に出席しているような特殊なケースでは、出席取締役への該当性について異なる考え方もあり得ます。
日頃あまり意識されない論点ですが、退任する代表取締役の状況が単純な「重任」や「新任」のケースと異なる場合には、念のため司法書士に個別に確認していただくと安心です。

また、届出印による例外を利用できるかどうかは、議事録の内容、退任時期、代表取締役の選定方法などによって変わります。

退任する代表取締役との関係が円満でない場合や、退任後に連絡が取りにくくなる可能性がある場合には、株主総会の開催前に、司法書士または管轄法務局へ必要書類を確認しておくことが重要です。

取締役会設置会社では、株主総会後の取締役会が重要

取締役会設置会社では、一般的に次の流れで役員改選を行います。

・定時株主総会で取締役を選任する
・株主総会が終結する
・新たな取締役による取締役会を開催する
・取締役会で代表取締役を選定する

この場合、株主総会の終結時に任期満了退任した取締役は、原則として、その後の取締役会には取締役として出席できません。

株主総会の終結によって、すでに取締役の地位を失っているためです。

したがって、株主総会後の取締役会議事録に署名または記名押印するのは、その取締役会に適法に出席した新たな取締役および監査役です。

代表取締役の選定による変更登記では、原則として、出席取締役および出席監査役が取締役会議事録に個人実印を押し、それぞれの印鑑証明書を添付します。

ただし、変更前の代表取締役が引き続き取締役であり、代表取締役を選定する取締役会に出席して、登記所へ提出している会社代表印を取締役会議事録に押した場合には、他の出席役員について個人実印・印鑑証明書を不要とする例外が認められることがあります。

ここで重要なのは、単に「旧代表取締役」であればよいのではないという点です。

変更前の代表取締役が、代表取締役選定の取締役会に取締役として適法に出席し、議事録に登記所届出印を押している必要があります。

例えば、旧代表取締役が定時株主総会の終結時に取締役としても退任した場合、その後の取締役会には出席取締役として参加できません。

退任した旧代表取締役に、後から取締役会議事録へ会社代表印を押してもらったとしても、出席取締役として適法に押印したことにはなりません。

この場合には、原則どおり、取締役会に出席した取締役および監査役の個人実印と印鑑証明書を用意することになります。

「任期満了」「辞任」「解任」は分けて考える

一口に「退任」といっても、その原因によって取扱いが異なります。

任期満了

任期満了の場合、通常は定時株主総会の終結時に退任します。

したがって、株主総会の開催中はまだ取締役であり、定款が出席取締役の押印を求めている場合には、原則として押印対象になります。

辞任

辞任の場合は、辞任届の日付だけでなく、次の点を確認する必要があります。

・辞任の意思表示が会社へ到達した日
・辞任届に将来の効力発生日が指定されているか
・「定時株主総会終結の時をもって辞任する」と記載されているか
・辞任によって法律または定款上必要な取締役数を欠かないか

会社と取締役との関係には、委任に関する規定が適用されます。
辞任は一方的な意思表示によって行われますが、即時辞任であれば、原則として、その意思表示が会社に到達した時点が問題になります。
将来の日を辞任日として指定している場合には、その指定された時点を確認します。

例えば、辞任届に、

令和○年○月○日開催の定時株主総会終結の時をもって、取締役を辞任します。

と記載されていれば、株主総会の開催中はまだ取締役です。

一方、

令和○年○月○日付で、取締役を辞任します。

と記載され、その日が株主総会開催前で、会社への意思表示も到達している場合には、株主総会の時点ですでに取締役ではない可能性があります。

なお、株主総会議事録に、その取締役が辞任した旨が記載されている場合には、その議事録を辞任を証する書面として登記申請に利用できることがあります。

ただし、議事録を辞任の証拠として利用できることと、辞任した本人が議事録に押印しなければならないことは別問題です。

解任

解任の場合、取締役は株主総会の解任決議によって、その決議の効力が生じた時点で退任します。

解任される取締役が、株主総会議事録への押印を拒否することも考えられます。

しかし、株主総会議事録への署名・記名押印は会社法上の成立要件ではありません。
したがって、解任された取締役の押印がないという理由だけで、株主総会議事録を作成できなくなるわけではありません。

もっとも、解任をめぐって紛争になる可能性がある場合には、次の事項を詳細に記録しておく必要があります。

・株主総会の招集手続
・出席株主
・出席議決権数
・決議要件
・賛成・反対の結果
・本人の発言内容
・本人が途中退席した場合、その時刻
・解任決議が成立した時刻

任期満了や辞任と異なり、解任は当事者の感情的な対立を伴うことが少なくありません。
だからこそ、押印の有無にかかわらず、事実関係の記録を丁寧に残しておくことが、後日の紛争を防ぐ一番の備えになります。

後任が選任されなかった場合は「権利義務取締役」に注意

取締役が任期満了または辞任によって退任した結果、法律または定款で定められた取締役の員数を欠くことがあります。

この場合、会社法第346条により、退任した取締役が、新たに選任された取締役が就任するまで、引き続き取締役としての権利義務を有することがあります。

これを一般に「権利義務取締役」といいます。

例えば、定款で「取締役は3名以上とする」と定めている会社で、1名が任期満了となり、後任が選任されなかったため取締役が2名になってしまう場合です。

この場合、任期が満了した取締役は、会社法第346条に基づき、後任者が就任するまで取締役としての権利義務を負う可能性があります。

これは、登記上の抹消がまだ終わっていないから取締役として残るという意味ではありません。

法律上必要な員数を欠くことを防ぐため、会社法によって権利義務を負うものです。

役員改選の際には、次の点を確認してください。

・会社法上必要となる取締役数
・定款で定められた取締役数
・後任者が有効に選任されているか
・後任者が就任を承諾しているか
・取締役会を開催できる人数を満たしているか
・代表取締役を有効に選定できるか

役員数を欠く場合には、株主総会議事録への押印だけでなく、その後の取締役会決議や代表取締役の選定にも影響します。

ケース別に見る結論

ケース1 取締役会設置会社で、取締役が定時株主総会の終結時に任期満了退任する

会社法上、株主総会議事録への押印は必要ありません。

ただし、定款に「議長および出席取締役が署名または記名押印する」と定められており、退任取締役が総会に出席していた場合には、その退任取締役も原則として押印対象になります。

株主総会後に開催する取締役会には、その退任取締役は出席しません。

ケース2 取締役会非設置会社で、株主総会により新しい代表取締役を定める

代表取締役の就任による変更登記のため、原則として、議長および出席取締役が株主総会議事録に個人実印を押し、印鑑証明書を添付します。

ただし、変更前の代表取締役が総会に適法に出席し、議事録へ登記所届出印を押した場合には、個人実印・印鑑証明書に関する例外が認められることがあります。

ケース3 退任取締役が株主総会の開催前に辞任している

その者は、株主総会の開催時点では取締役ではありません。

したがって、取締役としての「出席取締役」には該当せず、出席取締役として押印する必要もありません。

株主または招待者として出席することはあり得ますが、その資格を議事録上明確にする必要があります。

ケース4 株主総会の終結時に辞任する

株主総会の開催中は取締役です。

したがって、定款が出席取締役の押印を求めている場合には、原則として押印対象になります。

ケース5 解任された取締役が押印を拒否している

株主総会議事録への押印は、会社法上の成立要件ではありません。

したがって、その取締役が押印を拒否したという理由だけで、議事録を作成できなくなるわけではありません。

ただし、後日の紛争に備え、解任決議の手続と結果を詳細に記録しておく必要があります。

ケース6 後任を選任せず、必要な取締役数を欠いている

退任取締役が、会社法第346条による権利義務取締役になる可能性があります。

通常の任期満了退任として処理せず、定款上の員数、後任者の就任状況およびその後の機関決定の有効性を確認する必要があります。

冒頭のS社のケースは、この中でいえばケース1にあたります。
押印は必要でしたが、それは「退任するから」ではなく、「定款に定めがあり、かつ総会に出席していたから」という理由によるものです。
この違いを理解しているかどうかで、対応の正確さが大きく変わってきます。

株主総会前に確認すべき実務チェックリスト

役員改選の株主総会を開催する前に、少なくとも次の事項を確認しておきましょう。

定款関係

・株主総会議事録への署名・記名押印規定があるか
・取締役の員数は何名と定められているか
・取締役の任期は何年か
・代表取締役をどの機関で定めることになっているか
・取締役会設置会社か、取締役会非設置会社か

退任関係

・任期満了、辞任、解任のいずれか
・退任の効力が生じる正確な時点はいつか
・辞任届が会社に到達した日はいつか
・辞任届と株主総会議事録の記載が一致しているか
・権利義務取締役になる可能性がないか

出席者関係

・退任予定の取締役は株主総会に出席するか
・出席時点で取締役の地位にあるか
・誰が議長を務めるか
・誰が議事録作成に係る職務を行うか
・監査役、会計参与などの出席状況はどうか

登記関係

・株主総会で代表取締役まで定めるか
・株主総会後の取締役会で代表取締役を選定するか
・変更前の代表取締役は、その決定機関に適法に出席できるか
・会社の登記所届出印を誰が押すか
・個人実印と印鑑証明書が必要か
・就任承諾書を別に作成するか
・辞任届を別に作成するか
・株主リストが必要か
・本人確認証明書が必要か

役員変更登記は、原則として、登記の事由が生じた時から本店所在地において2週間以内に行う必要があります。
必要な押印を総会後に初めて確認すると、退任者と連絡が取れず、登記が遅れるおそれがあります。

そのため、株主総会議事録だけでなく、登記申請まで含めた必要書類の一覧を、総会開催前に作成しておくことが大切です。

役員退職金がある場合は、税務上も議事録が重要

今回の問題は主として会社法・商業登記の問題ですが、退任取締役に役員退職金を支給する場合には、税務上も株主総会議事録が重要な資料になります。

法人が役員に支給する退職金のうち適正な額は、原則として損金に算入されます。

その損金算入時期は、原則として、株主総会の決議などによって役員退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度です。

ただし、法人が役員退職金を実際に支払った事業年度において、その支払額を損金経理した場合には、支払った事業年度での損金算入も認められます。

金額が具体的に確定する前の事業年度に、取締役会で内定した金額を未払金として計上しただけでは、原則としてその時点で損金算入することはできません。

したがって、役員退職金を支給する場合には、次の日付を明確に区別する必要があります。

・役員が実際に退任した日
・株主総会で支給方針を決議した日
・役員退職金の具体的金額が確定した日
・会計上、未払金または費用を計上した日
・実際に退職金を支払った日

これらの日付が一致しないこと自体が直ちに問題になるわけではありません。

ただし、損金算入時期を説明できるよう、各決定の内容と日付を明確な資料で残しておく必要があります。

役員退職金規程や功績倍率は法律上の必須要件ではない

役員退職金を支給する際、多くの会社では、次のような功績倍率方式を使用します。

最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

この方法は、役員退職金の算定方法として実務上広く使用されています。

国税庁の法人税基本通達でも、功績倍率法について、退職直前の給与額を基礎とし、業務従事期間および役員の職責に応じた倍率を乗じて支給額を算定する方法として説明されています。

ただし、次の点には注意が必要です。

・役員退職金規程を設けること
・功績倍率方式を採用すること
・特定の功績倍率以下にすること

これらは、役員退職金を損金算入するための一律の法律上の必須要件ではありません。

役員退職金規程や功績倍率方式は、支給額の計算過程を客観的に説明するための重要な資料・方法ですが、それだけで支給額の相当性が保証されるわけではありません。

法人税上は、役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金に算入されません。

支給額の相当性は、その役員が法人の業務に従事した期間、退職の事情、同種の事業を営む類似規模法人の役員退職給与の支給状況などを踏まえて判断されます。

したがって、功績倍率を用いる場合でも、次の資料を保存しておくことが望まれます。

・役員退職金規程
・計算明細書
・最終報酬月額の根拠資料
・役員在任期間の計算資料
・功績倍率を決定した根拠
・その役員の功績・貢献を示す資料
・同業種・類似規模法人との比較資料
・株主総会議事録
・必要に応じて取締役会議事録や代表取締役決定書

税務署が重視するのは、押印の有無だけではない

役員退職金を支給する場合、税務上重要なのは、退任取締役が株主総会議事録に押印したかどうかだけではありません。

株主総会議事録は重要な証拠資料ですが、税務上の判断は、議事録だけで完結するわけではありません。

主に問題となりやすいのは、次の三点です。

役員退職金の金額がいつ具体的に確定したか

「役員退職慰労金を支給する」とだけ決議し、具体的な金額を代表取締役または取締役会へ一任した場合には、その後、誰が、いつ、どのように金額を確定したかを説明する資料が必要です。

株主総会議事録に加え、取締役会議事録、代表取締役の決定書、役員退職金計算書などを保存しておく必要があります。

支給額に不相当に高額な部分がないか

役員退職金規程どおりに計算していても、その規程自体が不合理であったり、特定の役員にだけ著しく高い倍率を適用していたりすれば、相当性が問題になります。

反対に、規程がないことだけを理由として、直ちに全額が損金不算入になるわけでもありません。

重要なのは、支給額を客観的かつ合理的に説明できるかどうかです。

本当に退職したといえるか

登記上、取締役を退任していても、相談役や顧問などの名称で、従前と同じように会社の経営へ関与していることがあります。

法人税上の役員には、登記された取締役だけでなく、相談役や顧問などで、その地位や職務からみて実質的に法人の経営に従事していると認められる者も含まれます。

したがって、役員退職金を支給した後も、退任者が次のような行為を続けている場合には注意が必要です。

・重要な経営判断を実質的に行っている
・後任代表者へ恒常的に指示を出している
・大口取引の条件を決定している
・資金繰りや借入れの最終判断を行っている
・会社代表印や銀行印を管理し続けている
・従業員の採用・昇給・賞与などを決定している
・従前とほぼ同じ報酬を受け取っている
・従前と同じ執務室を使用し、常勤している

もっとも、これらの事情のうち一つが存在するだけで、直ちに退職の事実が否定されるわけではありません。

例えば、創業者が退任後、限定的な顧問業務や技術指導を行うこと自体が、直ちに問題になるわけではありません。

退任後の職務内容、権限、勤務状況、報酬額、重要な意思決定への関与などを総合して、実質的に経営から退いているかどうかが問題になります。

税務上の説明に備えるという観点では、次の資料や事実関係を整合させておくことが重要です。

・退任日
・役員変更登記
・役員報酬の終了日
・会社代表印・銀行印の引継ぎ
・通帳、電子証明書、インターネットバンキング権限の引継ぎ
・稟議・決裁権限の変更
・取引先・金融機関への代表者変更通知
・退任後の顧問契約書
・顧問としての具体的業務内容
・顧問料の金額と算定根拠
・退任後の勤務日数・勤務時間
・重要な経営判断への関与状況

これらは、一つでも欠ければ直ちに役員退職金が否認されるという形式的要件ではありません。

あくまで、本当に退職したか、退任後も実質的に経営へ従事していないかを判断するための間接事実です。

税務上、疑問を持たれやすい議事録と資料の不一致

役員退職金が関係する場合、次のような不一致があると、説明が難しくなります。

議事録の日付と実際の作成時期が不自然

株主総会の開催案内、出席者の予定、社内メール、会計処理日、振込日などと議事録の日付が整合していない場合、後から作成されたのではないかという疑問につながります。

退職金額の確定日が分からない

株主総会議事録には「支給する」とだけ書かれており、その後の金額決定資料が存在しないケースです。

この場合、どの事業年度で損金算入すべきかを説明しにくくなります。

辞任届、議事録、登記、給与台帳の日付が一致しない

例えば、次のような状態です。

・株主総会議事録では6月30日退任
・辞任届では7月1日辞任
・登記申請書では6月30日退任
・役員報酬は7月分まで支給
・顧問契約は6月1日から開始

各日付に合理的な理由があれば、直ちに税務上否定されるわけではありません。

しかし、形式と実態の不一致が多いほど、会社側の説明負担は大きくなります。

退任後も従前と同じ権限を持っている

登記上は退任していても、取引先との交渉、資金決済、人事判断、借入れの決定などを従前どおり行っている場合、本当に経営から退いたのかが問題になります。

株主総会議事録の記載例

以下は、定時株主総会の終結時に取締役が任期満了退任し、後任取締役を選任する場合の簡略化した記載例です。

取締役の任期満了と後任選任を記載する場合

第○号議案 取締役選任の件

議長は、本定時株主総会の終結の時をもって取締役○○○○が任期満了により退任するため、その後任として○○○○を取締役に選任したい旨を述べ、その可否を議場に諮ったところ、出席株主の議決権の過半数をもって原案どおり承認可決された。

なお、被選任者○○○○は、その就任を承諾した。

実際に議事録中の就任承諾の記載を就任承諾書として援用する場合には、会社の機関設計や登記内容によって住所の記載、押印、本人確認証明書などが必要になります。法務局の登記申請例を確認したうえで作成してください。

定款上、議長のみが記名押印する場合

以上をもって本日の議事を終了したので、議長は午前○時○分、閉会を宣した。

以上の決議を明確にするため、本議事録を作成し、議長が記名押印する。

定款上、議長および出席取締役が記名押印する場合

以上をもって本日の議事を終了したので、議長は午前○時○分、閉会を宣した。

以上の決議を明確にするため、本議事録を作成し、議長および出席取締役が記名押印する。

この場合、総会終結時に退任する取締役が取締役として総会に出席していたのであれば、通常、その者も出席取締役として記載し、定款に従って記名押印します。

ただし、代表取締役の変更登記に使用する場合は、単なる認印でよいとは限りません。

次の事項を事前に確認する必要があります。

・個人実印が必要か
・印鑑証明書が必要か
・変更前代表取締役の登記所届出印による例外を利用できるか
・議長が取締役ではない場合の取扱い
・就任承諾書の援用ができるか
・電子署名・電子証明書による提出を行うか

結論

株主総会をもって退任する取締役が、株主総会議事録に押印すべきかどうかは、次の順番で判断します。

第一に、会社法および会社法施行規則上、株主総会議事録への署名または記名押印は原則として必要ありません。

第二に、定款に議長や出席取締役の署名・記名押印を求める規定がある場合には、原則として定款に従います。

第三に、定時株主総会の終結時に任期満了退任する取締役は、株主総会の開催中はまだ取締役です。そのため、定款が出席取締役の押印を求めており、その取締役が総会に出席していれば、通常は押印対象になります。

第四に、取締役会非設置会社が株主総会または種類株主総会の決議によって代表取締役を定め、その就任による変更登記を申請する場合には、商業登記規則上、議長および出席取締役の個人実印と印鑑証明書が必要になることがあります。

第五に、取締役会設置会社が株主総会後の取締役会で代表取締役を選定する場合、株主総会終結時に退任した旧代表取締役は、その取締役会に出席取締役として押印することはできません。変更前代表取締役の登記所届出印による例外を利用するには、その者が引き続き取締役であり、代表取締役選定の取締役会に適法に出席して押印する必要があります。

第六に、辞任の場合は、辞任届に記載された日付だけでなく、会社への意思表示の到達日、将来の辞任日の指定、権利義務取締役となる可能性を確認する必要があります。

第七に、役員退職金を支給する場合、税務上重視されるのは議事録への押印の有無だけではありません。退職金額が具体的に確定した時期、支給額の相当性、実際に経営から退いたかどうか、退任後の経営関与の実態などが重要です。

また、役員退職金規程や功績倍率方式は、支給額の合理性を説明するうえで重要ですが、法律上一律に要求される必須要件ではありません。

退任者の押印が必要かどうかは、単に「退任する人だから押してもらう」「退任する人だから押さなくてよい」と判断するのではなく、次の事項を総合して判断する必要があります。

・定款
・退任理由
・退任の効力発生時点
・株主総会への出席資格
・会社の機関設計
・代表取締役の選定方法
・予定している役員変更登記
・商業登記規則上の印鑑証明書の要否
・役員退職金の有無
・退任後の職務と権限

冒頭でご紹介したS社のケースでは、退任される取締役の方が株主総会に取締役として出席されるご予定であり、かつ定款に出席取締役の記名押印を求める規定があったため、原則どおり、その方にも議事録への記名押印をお願いする形で対応いただきました。
押印は一見、単なる形式的な作業に見えるかもしれません。
しかし、退任の経緯や会社の機関設計を一つひとつ確認しながら進めることこそが、後々の登記手続の遅れや、思わぬ紛争を防ぐことにつながります。

役員改選を行う際には、株主総会の開催前に、現行定款、登記事項証明書、株主総会議事録案、辞任届、就任承諾書、取締役会議事録案、印鑑証明書、役員退職金関係資料を一式で確認することをおすすめします。

初めての役員改選や、退任理由が複雑なケース、代表取締役の交代を伴うケースでは、判断に迷う点も多いかと思います。
押印の要否や必要書類について不安な点があれば、株主総会の準備段階から司法書士にご相談いただくと安心です。

※本記事は、2026年7月16日時点で確認できる法令および公的機関の公表資料に基づく一般的な解説です。
個別の登記手続は、定款、役員構成、退任理由、代表取締役の選定方法などによって必要書類が異なります。
具体的な登記申請については司法書士または管轄法務局へ、役員退職金を伴う税務処理については税務署へ確認してください。