iDeCoは「貯めて終わり」ではない。退職金・年金と受け取り方を考える
iDeCoについて調べていると、
「掛金が所得控除になる」
「運用中の利益に税金がかからない」
といったメリットを目にすることが多いと思います。
一方で、意外と見落としやすいのが、積み立てたお金を最後にどう受け取るかです。
iDeCoは、積み立てて運用して終わりではありません。
老後になれば、その資産を生活のために使っていくことになります。
そして、受け取り方によって税金の計算方法が変わります。
会社員であれば、会社から受け取る退職金との関係もあります。
個人事業主や会社役員の方であれば、小規模企業共済など、iDeCo以外の退職金代わりの制度との関係も出てきます。
さらに65歳前後になれば、公的年金との組み合わせも考える必要があります。
そのため、iDeCoでは「いくら増えたか」だけではなく、最終的にいくら手元に残るのかという視点も大切です。
とはいえ、最初から複雑な税金の計算を覚える必要はありません。
まずは、
「一時金と年金では、使われる税制が違う」
「会社の退職金や公的年金と一緒に考える必要がある」
という基本を押さえておけば十分です。
今回は、iDeCoを受け取るときの税金について、できるだけやさしく整理してみます。
iDeCoには「一時金」と「年金」の受け取り方がある
iDeCoの老齢給付金は、主に2つの方法で受け取ることができます。
ひとつは、まとめて受け取る「一時金」。
もうひとつは、何年かに分けて受け取る「年金」です。
金融機関によっては、一部を一時金、残りを年金として受け取る方法を選べる場合もあります。
大切なのは、どちらを選ぶかによって税金の扱いが変わることです。
一時金として受け取る場合には、「退職所得控除」という仕組みが関係します。
年金として受け取る場合には、「公的年金等控除」という仕組みが関係します。
名前だけを見ると難しく感じるかもしれません。
まずは、一度にまとめて受け取るときの税優遇と、少しずつ年金として受け取るときの税優遇は別のもの、と考えておくとわかりやすいでしょう。
一時金なら「退職所得控除」が使える
iDeCoを一時金で受け取る場合、税金の上では原則として「退職所得」として扱われます。
退職所得には、「退職所得控除」という大きな控除があります。
一般的な計算では、控除額を計算する期間が20年以下なら、1年につき40万円。
20年を超えた部分については、1年につき70万円が加算されます。
たとえば、控除額を計算する期間が35年なら、800万円+70万円×15年となり、退職所得控除は1,850万円です。
さらに一般的な退職所得では、受け取った金額から退職所得控除を差し引き、その残りの2分の1が課税対象になります。
このため、普通の給与などと比べると、税金の負担が軽くなる仕組みになっています。
ここだけを見ると、「それならiDeCoは一時金で受け取ればよいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、会社員の場合は、もうひとつ確認しておきたいものがあります。
会社から受け取る退職金です。
会社の退職金とiDeCoは別々に考えられないことがある
たとえば、会社から退職金を受け取る予定があり、iDeCoにもまとまった資産がある人を考えてみましょう。
この場合、
「会社の退職金にも退職所得控除が使える」
「iDeCoにも、もう一度同じように控除が使える」
とは限りません。
会社の退職金を計算するときの勤続期間と、iDeCoの退職所得控除を計算するときの期間が重なっている場合には、受け取る順番や時期によって退職所得控除が調整されることがあります。
つまり、iDeCoだけを見ながら、「自分には1,500万円の控除があるから大丈夫」と判断するのは少し早いということです。
個人事業主や会社役員の方の場合は、退職金の代わりに小規模企業共済に加入しているケースも多いと思います。
小規模企業共済の共済金を一括で受け取るときも、税金の上では退職所得として扱われるため、iDeCoと合わせて考える必要が出てきます。
「会社員ではないから退職金との調整は関係ない」と考えず、ご自身が加入している制度全体を洗い出しておくことをおすすめします。
会社の退職金を何歳でもらうのか。
iDeCoを何歳で受け取るのか。
それぞれの金額はいくらになりそうなのか。
こうした条件をまとめて考える必要があります。
そのため、老後のお金を考えるときには、退職金、iDeCo、公的年金を別々に見るのではなく、ひとつの予定表に並べてみるという方法がおすすめです。
それだけでも、受け取り方の全体像がかなり見えやすくなります。
「数年ずらせば税金がゼロ」と単純には考えない
iDeCoの受け取り方について調べると、「iDeCoと退職金の受け取り時期をずらせば、退職所得控除をそれぞれ使える」といった説明を見かけることがあります。
ここは特に注意したいところです。
税制は改正されており、2026年からは、iDeCoなどの確定拠出年金を先に一時金で受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合の調整ルールが変わっています。
以前よく使われていた「5年以上空ければよい」という考え方を、そのまま現在の制度に当てはめることはできません。
一方で、会社の退職金を先に受け取り、その後iDeCoを一時金で受け取る場合にも、別の期間調整のルールがあります。
つまり、「何年空ければ必ず有利になる」という単純な話ではないということです。
ここで細かな年数を暗記する必要はありません。
むしろ大切なのは、「受け取る順番と時期によって税金が変わる可能性がある」と知っておくことです。
iDeCoを実際に受け取るのは、何年、あるいは何十年も先という人も多いでしょう。
その間に税制が変わる可能性もあります。
今の時点で受け取り方を完全に決めてしまうのではなく、受給時期が近づいたときに改めて制度を確認する方が現実的です。
年金として受け取ると「公的年金等控除」が関係する
では、iDeCoを一括ではなく、年金として受け取った場合はどうでしょうか。
年金方式で受け取るiDeCoは、税金の上では公的年金等に係る雑所得として扱われます。
ここで使われるのが「公的年金等控除」です。
一定の条件では、65歳未満の場合は最低60万円、65歳以上では最低110万円の公的年金等控除があります。
この数字だけを見ると、「65歳以降にiDeCoを年金でもらえば、110万円までは税金がかからないのでは?」と思うかもしれません。
ただし、ここにも注意点があります。
公的年金等控除は、iDeCoだけのために用意された控除ではありません。
老齢基礎年金や老齢厚生年金なども含めて計算されます。
たとえば65歳以降に公的年金を受け取りながら、同時にiDeCoも年金として受け取れば、それらを合わせて考えることになります。
そのため、公的年金の金額が比較的多い人の場合、iDeCoの年金部分にも税負担が発生する可能性があります。
逆に、公的年金をまだ受け取っていない時期であれば、iDeCoの年金に公的年金等控除を使いやすい場合もあります。
ここでも、「iDeCoだけを見るのではなく、公的年金と一緒に考える」という視点が重要になります。
税金だけでなく、社会保険料への影響も考える
老後のお金を考えるとき、もうひとつ見落としやすいものがあります。
それが社会保険料です。
所得が増えると、所得税や住民税だけでなく、退職後に加入する国民健康保険などの保険料に影響することがあります。
税金がかからなければ、社会保険料にも影響しないとは限りません。
税金と社会保険料では、計算の仕組みが違うからです。
また、所得税には「基礎控除」という仕組みもあります。
この基礎控除についても近年たびたび改正が行われており、以前使われていた「48万円」という数字を、そのまま現在の計算に使うことはできません。
2026年分・2027年分(令和8年分・令和9年分)の所得税では、合計所得金額が489万円以下の場合、基礎控除は104万円です。
ただし、この104万円という水準は令和8年分・9年分に限った特例的なもので、年分や所得金額によって控除額は変わっていきます。
そのため、「公的年金等控除と基礎控除を足せば、この金額までは必ず負担ゼロ」と単純に判断するより、自分の収入全体を見て考えることが大切です。
老後のお金では、税金を1円でも少なくすることだけが目的ではありません。
税金、社会保険料、毎月の生活費。これらを含めて、自分の手元に実際にどのくらい残るのかを見る必要があります。
公的年金を遅らせるという選択肢もある
老後のお金の受け取り方を考えるときは、公的年金の開始時期もひとつの選択肢になります。
老齢基礎年金や老齢厚生年金は原則65歳から受け取りますが、希望すれば受給開始を遅らせる「繰下げ受給」を選べます。
70歳まで5年間繰り下げると、年金額は原則42%増えます。75歳まで繰り下げれば、最大84%増です。
そのため、65歳からしばらくは貯蓄やiDeCoなどを使い、公的年金はあとから受け取る、という組み合わせを検討することもできます。
ただし、公的年金を遅らせれば必ず得になるわけではありません。
65歳以降も働いている場合や、受け取る年金の種類などによっては、すべての部分が単純に42%増えるとは限りません。
また、繰り下げている間の生活費を自分で準備する必要があります。
健康状態や家族構成、貯蓄額によっても判断は変わります。
たとえば、「年金を増やすために70歳まで待ったけれど、その間に預金が減りすぎて不安になった」という状態では、安心した老後とは言いにくいでしょう。
大切なのは、年金額を最大にすることではありません。
自分が安心して暮らせるお金の流れを作ることです。
「一番税金が安い方法」だけを探さない
ここまで読んで、「結局、一時金と年金ではどちらが得なの?」と思った人もいるかもしれません。
残念ながら、すべての人に共通する答えはありません。
会社の退職金が少ない人なら、iDeCoを一時金で受け取っても退職所得控除の範囲に収まりやすいかもしれません。
一方、退職金が大きい人は、一時金として受け取るiDeCoとの組み合わせによって税負担が増える可能性があります。
年金方式についても、公的年金の金額や他の所得によって結果は変わります。
さらに、税金だけを見れば有利でも、生活のしやすさでは別の答えになることがあります。
まとまったお金が必要な人もいれば、毎月一定額を受け取る方が安心できる人もいます。
住宅ローンが残っているかもしれません。
家の修繕や車の買い替えなど、大きな支出を予定している人もいるでしょう。
そのため、iDeCoの受け取り方を考えるときは、
・会社の退職金はいくらくらいになりそうか
・退職金は何歳で受け取る予定なのか
・iDeCoはいくらくらいになりそうか
・公的年金はいくらくらいになりそうか
・60代の生活費をどこから出すのか
・まとまったお金と毎月の収入のどちらが必要なのか
といったことを一緒に整理するのがおすすめです。
税金だけではなく、生活全体を見る。
それが、iDeCoの受け取り方を考えるときの大切な視点です。
まとめ|iDeCoは「積み立て方」だけでなく「受け取り方」も大切
iDeCoというと、
「毎月いくら積み立てるか」
「どの商品を選ぶか」
という部分に目が向きやすいものです。
もちろん、それらも重要です。
ただし、長い時間をかけて積み立てた先には、必ず「受け取る」という場面があります。
一時金として受け取れば、退職所得控除。
年金として受け取れば、公的年金等控除。
そして一時金では会社の退職金、年金では公的年金との関係を考える必要があります。
だからこそ、退職金・iDeCo・公的年金を、何歳から、どのように受け取るのかという視点を持っておくことが大切です。
とはいえ、今から何十年も先の受け取り方を決める必要はありません。
税制は変わることがあります。
働き方や収入、家族の状況、iDeCoの資産額も変わっていくでしょう。
まずは、
「iDeCoには積み立てるときだけでなく、受け取るときにも税金の仕組みがある」
「退職金や公的年金と組み合わせて考える必要がある」
と知っておくだけでも十分です。
そして受給時期が近づいたら、退職金の見込額、公的年金の見込額、iDeCoの残高を一度並べてみる。
そのうえで、その時点の制度を年金事務所などに確認しながら、自分に合った受け取り方を考えていただければと思います。
投資では、資産を増やすことだけがゴールではありません。
積み立ててきたお金を、どう安心して生活に戻していくか。
そこまで考えることで、老後のお金との付き合い方が少し見えやすくなるのではないでしょうか。






