廃業するとき、使っていた建物や車に消費税がかかることがあります―「みなし譲渡」をやさしく解説

売っていなくても消費税がかかる?廃業時の建物・車・設備の税務を解説

個人事業主の方が事業をやめる(廃業する)とき、多くの方が気にされるのは、その年の売上や経費の整理だと思います。
しかし、実はそれだけでは足りません。
廃業したときに手元に残っている建物、車、機械、備品といった「事業で使っていたもの」にも、消費税がかかることがあるのです。

「誰かに売ったわけではないのに、なぜ消費税がかかるのですか?」

そう思われる方は多いと思います。
ご安心ください。
この記事では、国税庁が公表している取扱いをもとに、その理由と、廃業前に確認しておきたいポイントを、税金にくわしくない方にもわかるように、順を追ってご説明していきます。

そもそも「みなし譲渡」とは何ですか?

消費税は、本来、商品を売ったり、サービスを提供したりして、お金(対価)を受け取ったときにかかる税金です。

ところが、個人事業主の方が、事業で使っていたものを、自分や家族の生活のために使うことにした場合には、実際にお金のやりとりがなくても、税金の計算上は「事業として売った」ものとして扱われることがあります。

たとえば、これまで仕事だけに使っていた車を、これからは完全にプライベートの車として使うことにした、というケースを思い浮かべてみてください。
自分から自分へお金を払って車を買い直したわけではありませんよね。
それでも、「仕事の車」から「生活の車」に変わったことで、税金の世界では「売ったもの」として扱われるのです。

これを一般に「みなし譲渡(実際には売っていなくても、売ったとみなして消費税を計算するしくみ)」といいます。

廃業すると、残った資産はどうなるのですか?

ここが、今回とくに気をつけていただきたいところです。

国税庁が公表している「タックスアンサー(よくある税の質問に対する国税庁の回答集)」の中に、個人事業を廃止した場合の取扱いを説明したものがあります。
それによると、事業をやめたことによって「事業用の資産」ではなくなった車などは、廃業した時点で家事のために使ったものとみなされ、みなし譲渡になるとされています。

そして、非課税となる特別な取引に当たらない限り、これは消費税がかかる対象になります。

つまり、
「売っていないから消費税は関係ない」
とは考えないほうがよい、ということです。

また、
「廃業してから、実際には何にも使っていないので、家事用ではない」
という理由だけで、みなし譲渡にならないと判断してしまうのも、注意が必要です。
国税庁の取扱いでは、廃業によってその資産が「事業用」ではなくなった時点で、原則としてみなし譲渡になるかどうかを確認することになっているからです。

建物も対象になることがあります

「国税庁の説明には『車両等(車など)』と書いてあるから、建物は関係ないのでは?」

そう思われるかもしれません。

しかし、建物についても、同じように注意が必要です。
国のお金の使われ方をチェックする機関である会計検査院は、個人事業者が廃業したときに、棚卸資産(お店の商品など、販売するために持っている資産)以外の資産は、原則として廃業したときにみなし譲渡として取り扱う、という考え方を示しています。

さらに、会計検査院が公表した実際の事例の中には、廃業した個人事業者が持っていた建物についても、みなし譲渡として消費税の計算に含める必要があると指摘されたものがあります。

ですから、店舗や事務所、工場などの建物をお持ちの個人事業主の方が廃業される場合には、
「建物を売っていないから関係ない」
と考えるのではなく、みなし譲渡に当たらないかどうかを、一度確認しておくことをおすすめします。

「土地」と「建物」は分けて考えます

不動産については、もうひとつ大切なポイントがあります。

消費税では、土地の譲渡(売却)は非課税とされています。
一方で、事業に使っていた建物の譲渡は、消費税を納める義務のある事業者(課税事業者)が行う場合には、原則として消費税がかかります。
国税庁も、土地と建物をまとめて売る場合には、土地部分は非課税、建物部分は消費税の対象として考える、という説明をしています。

そのため、たとえば「店舗兼土地」をお持ちの場合でも、土地と建物をひとまとめにして考えるわけではありません。
建物についてみなし譲渡を検討する必要が出てきたとしても、土地の部分にまで同じように消費税がかかるわけではないのです。

不動産は金額が大きくなりやすいものですから、土地と建物をきちんと分けて確認しておくことが大切です。

いくらを基準に消費税を計算するのですか?

次に気になるのは、
「みなし譲渡になるとして、いくらで計算するのですか?」
という点だと思います。

ここで使う金額は、原則として、その資産の「時価(そのとき実際に売買される場合の価格)」です。

国税庁は、個人事業者が事業用の資産を家事のために使った場合には、使った時点の時価に相当する金額を基準にして消費税を計算する、と説明しています。
廃業のときも同じように、事業をやめた時点での時価を、その廃業日をふくむ申告期間の金額に含める必要があるとされています。

たとえば、事業用の車について、
・購入したときの金額が300万円
・会計帳簿に残っている金額(帳簿価額)が80万円
・廃業したときの時価が120万円
だったとします。

この場合、「帳簿に80万円しか残っていないから、80万円で計算すればよい」とは限りません。
原則として、廃業したときの時価を確認したうえで判断する必要があります。

「帳簿価額」と「時価」はちがいます

ここは、とても勘違いしやすいところですので、少していねいにご説明します。

建物や車、機械などは、買ったときの代金を一度に経費にするのではなく、何年かに分けて少しずつ経費にしていく「減価償却(高額なものを買ったときに、使う年数に応じて少しずつ経費にしていくしくみ)」という考え方が使われます。

このため、会計帳簿に残っている金額(帳簿価額)は、実際に買ったときの金額よりも、かなり小さくなっていることがあります。

しかし、帳簿価額は、あくまで会計上の記録にすぎません。
その資産が実際にいくらくらいで売り買いされるかという「時価」とは、必ずしも一致しないのです。

とはいえ、帳簿価額がまったく参考にならない、というわけでもありません。
会計検査院の報告書では、財務省の説明として、原則は時価であるものの、資産の状態などによっては、まだ経費にしていない残りの金額(未償却残高)も、時価を判断するための材料のひとつになりうる、とされています。

つまり、「かならず帳簿価額でよい」わけでも、「帳簿価額はまったく使えない」わけでもありません。
資産の種類や状態に応じて、廃業したときのふさわしい金額を、そのつど検討していくことになります。
とくに建物のように金額が大きい資産については、どのような資料をもとに時価を判断したのか、あとから説明できるようにしておくと安心です。

商品などの「棚卸資産」には別の取扱いがあります

お店の商品などを、事業主ご自身が使った場合には、少しちがうルールがあります。

国税庁では、棚卸資産(お店の商品など、販売するために持っている資産)を家事のために使った場合について、次の2つの条件をどちらも満たす金額を売上として確定申告していれば、その金額での処理を認めています。

・仕入れたときの金額以上であること ・通常の販売価格のおおむね50パーセント以上であること

たとえば、小売店を営む方が、お店の商品をご自宅で使った場合などがこれにあたります。

ただし、この「販売価格のおおむね50パーセント」というルールを、そのまま建物や車などの固定資産に当てはめることはできません。国税庁も、棚卸資産以外の事業用資産を家事のために使った場合については、時価で課税すると説明しています。

「家事のために使うのなら、販売価格の50パーセントでよい」と覚えてしまうと、建物や車の場合に当てはめて間違えやすいので、注意しましょう。

廃業前に確認しておきたい5つのこと

個人事業主の方が廃業されるときは、少なくとも次の点を確認しておくと安心です。

廃業時にどのような資産が残っているか

建物、車、機械、パソコン、什器備品(お店や事務所で使う道具や設備)など、固定資産台帳を確認しましょう。

廃業した年に消費税の課税事業者(消費税を納める義務がある事業者)かどうか

みなし譲渡があっても、実際に消費税を納める必要があるかどうかは、その年の消費税の納税義務の状況によって変わります。

その資産が非課税取引に当たらないか

たとえば、土地の譲渡は消費税がかかりません。

廃業時の時価はいくらか

建物や高額な設備などは、時価をどのような資料で確認するかも重要です。

廃業した年の消費税申告に反映されているか

国税庁は、廃業によるみなし譲渡について、廃業日をふくむ申告期間の金額に含めるとしています。

よくある勘違い

「売っていないから消費税はかからない」

必ずしもそうとはいえません。
個人事業主の場合、実際に売っていなくても、家事のために使うことになったり、廃業時にみなし譲渡が生じたりすることで、消費税がかかることがあります。

「廃業後、建物を使わず放置していれば大丈夫」

国税庁が現在公表している取扱いに照らすと、この考え方は安全とはいえません。
廃業によって事業用資産でなくなった場合には、実際に住まいなどとして使っていなくても、廃業時のみなし譲渡を確認する必要があります。

「固定資産台帳の残高(帳簿価額)で計算すればよい」

これも、一律にそうとはいえません。
原則として、廃業したときの時価を基準にします。
ただし、資産の状態によっては、帳簿に残っている未償却残高が、時価を判断するひとつの材料になることもあります。

税務調査や経理処理で気をつけたい点

みなし譲渡は、実際にお金のやりとりがない取引ですので、うっかり記帳から抜け落ちてしまいやすい項目でもあります。
税務調査でも、廃業時に固定資産台帳に残っていた資産が、その後どうなったのか(売却したのか、ご家庭で使うことにしたのか、処分したのか)は、確認されやすいポイントのひとつです。

経理処理の面では、廃業時に「何が」「いくらの時価で」みなし譲渡になったのかを、社内の記録として残しておくことをおすすめします。
査定書や見積書、同じような資産の取引事例など、時価の根拠となる資料をあわせて保管しておくと、あとから説明を求められたときにも安心です。

資金繰りへの影響についても知っておきましょう

みなし譲渡でとくに気をつけていただきたいのは、実際に資産を売ってお金が入ってくるわけではないのに、消費税だけがかかる、という点です。

つまり、廃業のときには、思っていたよりも納める消費税が多くなる可能性があります。
手元の資金計画を立てる際には、この点もあらかじめ織り込んでおくと、あとで慌てずにすみます。
廃業を予定されている場合は、早めにおおよその金額をシミュレーションしておくことをおすすめします。

個人事業主と法人とでは、考え方が異なります

ここまでご説明してきた「みなし譲渡」は、個人事業主の方が事業をやめる場合の取扱いです。
株式会社などの法人が解散・清算する場合には、事業用資産の消費税の取扱いについて、個人事業主とは異なる考え方が関係してくることがあります。
法人を経営されている方は、廃業(解散・清算)のご相談の際に、個人事業主とは別の論点として、あらためて税務署にご確認いただくことをおすすめします。

まとめ 廃業前に「残る資産」まで確認しておきましょう

個人事業主の方の廃業では、最後の売上や経費を整理するだけでは終わりません。
廃業したときに残っている事業用の資産について、消費税のみなし譲渡がないかどうかを確認することも大切です。

現在、国税庁が公表している取扱いでは、事業をやめたことで事業用資産でなくなった車などの資産は、原則として、廃業したときに家事のために使ったものとしてみなし譲渡となり、非課税取引を除いて消費税がかかります。
課税する場合の金額は、原則として、廃業したときの時価です。

ですから、
「売っていないから大丈夫」 「使っていないから大丈夫」 「帳簿価額がほとんど残っていないから大丈夫」
と、ご自身だけで判断してしまわないことが大切です。
とくに、店舗や事務所などの建物、高額な車両・機械設備が残っている場合には、消費税額への影響が大きくなることがあります。

廃業を予定されている方は、廃業届を出したあとではなく、廃業前に固定資産台帳を確認し、「何が残るのか」「廃業時の時価はいくらか」「消費税申告でどのように処理するのか」まで整理しておくと、安心して廃業を迎えられます。

この記事は、2026年9月2日時点で確認できる消費税法、国税庁の公表情報、および会計検査院の公表資料をもとに、一般の方向けに整理したものです。
実際の課税関係は、廃業時に課税事業者に該当するかどうか、資産の種類、使用状況、時価などによって異なります。
具体的な申告内容については、所轄の税務署にご確認いただくことをおすすめします。