海外へ一時的に出張・出国した場合、日本での「居住期間」はリセットされるのでしょうか
日本の所得税では、その方が日本の「居住者」にあたるのか、それとも「非居住者」にあたるのかによって、日本で税金がかかる所得の範囲が変わってきます。
そのため、海外出張や一時的な海外滞在があった経営者の方や従業員の方から、
「日本を出国した時点で、それまでの日本での居住期間はいったんゼロに戻ってしまうのでしょうか」
というご質問をいただくことがあります。
結論から先にお伝えします。
海外へ出国したという事実だけで、日本での居住期間が必ず途切れるわけではありません。
海外へ行った目的が明らかに一時的なものであり、日本での生活とのつながりが引き続き残っている場合には、海外に滞在していた期間も含めて「引き続き国内に居所(きょしょ。生活の本拠とまではいえないものの、実際に継続して生活している場所のことです)を有していた」と取り扱われることがあります。
これは、所得税基本通達2-2という国税庁の通達(法律の解釈や取り扱いを示した国税庁の内部指針)に示されている考え方です。
国税庁は、一時的な出国と認められる場合には、その海外滞在期間中も引き続き国内に居所を有するものとして、居住者や非永住者の判定を行うことを明らかにしています。
まず「居住者」とは、どういう方を指すのでしょうか
所得税法では、次のいずれかにあてはまる個人を「居住者」としています。
・日本国内に「住所」がある方
・日本国内に、現在まで引き続いて1年以上「居所」がある方
ここでいう「住所」は、単に住民票を置いている場所という意味ではありません。
税務上の住所とは、基本的には「その方の生活の本拠」を指します。
どこが生活の本拠にあたるのかは、実際の生活状況などの客観的な事実によって判断されます。
また「居所」は、生活の本拠とまではいえないものの、実際に継続して生活している場所のことです。
そのため、
・「住民票を日本から抜いたから非居住者になる」
・「外国に183日以上いたから非居住者になる」
といった、一つの事情だけで機械的に決まるものではありません。
国税庁も、居住者・非居住者の判定は滞在日数だけで行うものではなく、外国に年間183日以上滞在していても日本の居住者となる場合があると説明しています。
滞在日数はあくまで判断材料のひとつであり、それだけで結論が決まるわけではない、とご理解いただくとよいでしょう。
所得税基本通達2-2は、何を定めているのでしょうか
所得税基本通達2-2では、日本国内に居所を有していた方がいったん国外へ行き、その後再び日本へ入国した場合の取り扱いを定めています。
海外にいる間も、たとえば
・日本に配偶者やその他の生計を一にする親族を残している
・日本に帰国後住む予定の家屋などを保有している
・日本国内に生活用の家財道具などを預けている
・その他の事情から、海外へ行った目的が明らかに一時的である
といった事情がある場合には、海外に滞在していた期間についても、引き続き日本国内に居所を有していたものとして取り扱うこととされています。
つまり、「日本から出国した日で、それまでの居所の期間が必ずゼロにリセットされる」という仕組みではありません。
重要なのは、出国という形式だけを見るのではなく、その海外滞在が本当に一時的なものだったのか、日本での生活とのつながりが継続していたのかを確認することです。
たとえば、一時的な海外出張のケース
たとえば、外国籍のAさんが日本で生活しながら仕事をしており、勤務先の都合で数か月だけ海外へ出張したとします。
海外にいる間も、
・配偶者やお子さんは引き続き日本で生活している
・日本の自宅はそのまま維持している
・家具や日用品も日本の自宅に残している
・海外での仕事が終われば日本に戻ることが、当初から予定されている
という状況だったとします。
この場合には、海外へ出国したという理由だけで、日本国内の居所の継続期間が当然に途切れるわけではありません。
その海外滞在が明らかに一時的なものであれば、海外にいた期間についても国内に居所を有していたものとして扱われる可能性があります。
したがって、「日本に10か月住んだあと3か月海外へ行ったので、帰国後はまた1か月目から数え直す」とは限らない、ということです。
なお、「1年以上の居所」の期間計算は、国税庁の通達上、入国日の翌日から数え始めることとされています。
再入国許可の有無や海外滞在の日数だけでは決まりません
この点で気をつけていただきたいのが、
・「再入国許可があるから、日本の居住者のままのはずだ」
・「半年以上海外にいたから、日本の非居住者になったはずだ」
といった判断です。
所得税基本通達2-2が重視しているのは、再入国許可の有無そのものではなく、海外へ行った目的が一時的なものであったかどうかです。
また、居住者・非居住者の判定は、単純な滞在日数だけで決まるものでもありません。
国税庁も、居住者の判定は「生活の本拠」という客観的な事実によって行うとしています。
そのため一般的には、「再入国許可の有無や海外にいた期間だけで決まるわけではありません」とご理解いただくのが適切です。
海外滞在の長さも、事実関係を確認する際の材料のひとつにはなりますが、「何日以上滞在すれば必ず非居住者になる」といった単純な日数基準ではない、という点は覚えておいていただきたいところです。
ただし「海外勤務・海外赴任」の場合には、重要な例外があります
ここは、特に注意が必要な部分です。
「一時的な海外滞在であれば日本の居所が継続することがある」という所得税基本通達2-2の内容だけを見ると、
「日本に家族や自宅を残していれば、海外赴任をしても日本の居住者のままなのではないか」
と思われるかもしれません。
しかし、海外で仕事をするために生活の拠点を海外へ移す場合には、所得税法施行令第15条(法律の細かい運用ルールを定めた政令です)と、所得税基本通達3-3もあわせて確認する必要があります。
所得税法施行令第15条では、国外に居住することとなった方が、「国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業」についている場合には、原則として「国内に住所を有しない者」と推定する、と定めています。
さらに所得税基本通達3-3では、国外で事業を行ったり、仕事に従事したりするために国外に居住することとなった方については、海外での在留期間が契約などによってあらかじめ1年未満であることが明らかな場合を除き、原則としてこの施行令15条の規定にあたるものとして取り扱うこととされています。
つまり、1年以上を予定した海外勤務・海外赴任については、たとえ日本にご家族やご自宅を残していたとしても、原則として日本の非居住者として扱われる、というのがポイントです。
「実際に1年経過するまでは居住者のまま」ではありません
よくある勘違いに、「海外に1年以上住んだ時点で、初めて非居住者になる」という考え方があります。
これは正確ではありませんので、ご注意ください。
たとえば、会社から「海外支店に2年間赴任してください」という辞令を受け、2年間の海外勤務を前提として出国した場合を考えてみましょう。
この場合、最初の1年間だけ日本の居住者として扱われ、1年を超えた翌日から非居住者になる、という取り扱いではありません。
国税庁の質疑応答事例でも、当初から1年以上の予定で海外勤務のため出国した場合には、出国したその時点から非居住者として取り扱うことが明らかにされています。
つまり「1年以上」という数字は、「実際に海外で365日を過ごしたかどうか」という単純な日数判定ではなく、出国する時点でどのような予定・契約のもとで海外に居住することになったのかが重要になる、ということです。
反対に、当初は1年未満の予定だった場合はどうなるのでしょうか
では、「海外勤務は6か月だけ」という予定で出国したものの、その後事情が変わって2年間の海外勤務になった場合はどうなるのでしょうか。
国税庁は、このような場合についても具体的に説明をしています。
当初1年未満の海外勤務予定であれば、出国時点では原則として居住者として取り扱われます。
その後、事情が変わり、海外勤務が1年以上になることが明らかになった場合には、そのことが明らかになった日以後、非居住者として取り扱われます。最初の出国日にさかのぼって非居住者になるわけではありません。
反対に、当初2年間の海外勤務予定だったため出国時から非居住者として扱われていたものの、事情が変わって1年未満で帰国することが明らかになった場合には、そのことが明らかになった日以後は居住者として取り扱われます。
この場合も、出国日にさかのぼって判定が変更されるわけではありません。
このように、判定の切り替わりは「予定が変わったことが明らかになった日」を基準に考える、とご理解ください。
「一時的な出国」と「海外赴任」を分けて考えることが大切です
ここまでの内容を整理すると、大きく次の2つに分けて考えると分かりやすくなります。
一つ目は、日本での生活を基本的に維持したまま、一時的な目的で海外へ行き、その後日本へ戻る「一時的な海外出張・海外滞在」のケースです。
この場合には所得税基本通達2-2にもとづき、海外にいた期間も日本国内に引き続き居所を有していたと扱われる可能性があります。
二つ目は、海外で仕事をするため、その仕事の性質上、継続して1年以上海外に居住することが予定されている「海外赴任」のケースです。
この場合には、所得税法施行令15条および所得税基本通達3-3により、原則として国内に住所を有しない者と推定されます。
1年以上を予定した海外勤務であれば、多くの場合、出国時点から非居住者として取り扱われることになります。
この2つを混同しないことが、判断を誤らないための大切なポイントです。
外国籍の方の「非永住者」の判定にも関係してきます
所得税基本通達2-2は、単に居住者になるかどうかだけでなく、「非永住者」に該当するかどうかの判定にも関係してきます。
所得税法上の「非永住者」とは、居住者のうち、
・日本国籍を有しておらず
・過去10年以内に日本国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下
である方をいいます。
ここで、一時的に海外へ出国していた期間についても、所得税基本通達2-2によって「引き続き国内に居所を有していた」と取り扱われれば、その期間も5年の判定に影響する可能性があります。
これは、海外に所得や資産をお持ちの外国籍の方にとって、特に重要なポイントです。非永住者と、非永住者以外の居住者とでは、日本で課税される国外所得の範囲が異なってくるためです。
実務では「出国時点の予定」と「客観的な資料」がとても大切です
居住者・非居住者の判定では、ご本人が「一時的な出国のつもりでした」「日本に戻るつもりでした」とおっしゃっているだけでなく、その説明と実際の状況が合っていることが大切になります。
たとえば、次のような資料を確認し、手元に残しておくと安心です。
・海外赴任の辞令
・雇用契約書
・海外勤務の予定期間が分かる資料
・日本と海外の住居の賃貸借契約書
・ご家族がどこで生活しているか分かる資料
・日本の住居を維持していたかどうか分かる資料
・出入国の記録
・海外勤務期間の変更が分かる、会社からの通知
・家財道具などの保管・移転状況が分かる資料
特に、海外勤務期間が途中で変更された場合には、「いつ、その変更が明らかになったのか」が重要になります。
会社の辞令やメールなど、予定変更の日付を客観的に確認できる資料は、念のため残しておくことをおすすめします。
まとめ ― 経営者・ご担当者の方に押さえていただきたいポイント
所得税基本通達2-2のポイントは、一時的に海外へ出国しただけでは、日本国内の居所の継続期間が必ず途切れるわけではない、ということです。
日本に生計を一にするご家族を残している、帰国後に住む家を維持している、生活用品を日本に残しているなど、海外へ行った目的が明らかに一時的なものであれば、海外滞在中も引き続き国内に居所を有していたものとして扱われる場合があります。
ただし、ここで注意していただきたいのが「海外勤務・海外赴任」です。海外で仕事をするために国外に居住することとなり、その在留期間が契約などによってあらかじめ1年未満であることが明らかでない場合には、所得税法施行令15条および所得税基本通達3-3により、原則として国内に住所を有しない者と推定されます。
したがって、判断するときは「何日海外にいたか」だけを見るのではなく、
・なぜ海外へ行ったのか
・出国時点では何年間滞在する予定だったのか
・日本と海外のどちらに生活の基盤があったのか
・その予定が途中で変更されていないか
を確認することが大切です。
特に海外赴任の場合は、居住者・非居住者の区分が変わることで、給与にかかる源泉徴収(お金を支払う側が、あらかじめ税金分を差し引いて国に納める仕組みのことです)や確定申告、日本で課税される所得の範囲などが変わる可能性があります。
また、外国籍の方については、「非永住者」の5年判定にも影響する場合がありますので、あわせてご確認ください。
そのため、長期の海外赴任や海外滞在を予定されている場合には、出国してからではなく、できれば出国前の段階で、居住者・非居住者としての取り扱いを一度確認しておかれることをおすすめします。
早めに確認しておくことで、後から慌てて申告をやり直すといった事態を防ぎやすくなります。
なお、この記事は2026年9月3日時点で確認できた所得税法、所得税法施行令、所得税基本通達および国税庁の公表情報にもとづいて作成しています。
居住者・非居住者の判定は、それぞれの職業、ご家族の状況、住居、契約内容など、具体的な事実関係によって結論が異なる場合があります。
実際の適用にあたっては、個別の状況を確認したうえで、税務署にご相談ください。






