AIは本物でも、AI投資はバブルになるのか
AIへの投資が、世界中で急速に膨らんでいます。
これまでは、巨大なIT企業や投資会社が中心になってAIへお金を投じてきました。
しかし最近では、各国の政府に関係する投資機関や、大きな年金資金なども、米国を中心としたAI関連分野へ積極的にお金を振り向けるようになっています。
AI企業だけではありません。
AIを動かすための半導体、巨大なデータセンター、それを支える電力設備、通信網、冷却設備など、AIを取り巻くさまざまな分野へ巨額のお金が流れています。
こうした動きを見ると、
「それだけ世界中がお金を出しているのだから、AIへの投資は安心なのではないか」
と思いたくなります。
ところが、少し違う見方もできます。
世界中の巨大なお金が同じ場所へ集まることは、その分野の成長を加速させます。
しかし同時に、お金が集まりすぎることで、必要以上の投資が行われる可能性も高くなります。
ここで大切なのは、AIという技術が本物であることと、AIへの投資価格が適正であることは、同じではないということです。
私は、これからAIを考えるとき、この二つを分けて見ていく必要があると思っています。
AIが本当に役立つことと、投資が儲かることは別です
AIはすでに多くの仕事の中へ入り始めています。
文章を作ったり、画像を作ったりするだけではありません。
製造現場では、熟練した人が持っている技術や判断をAIに覚えさせる取り組みがあります。
設備の異常を見つけたり、問い合わせ対応を自動化したり、研究開発を助けたりする使い方も広がっています。
人手不足が続く国では、AIによって一人あたりの生産性を高められる可能性もあります。
そのため、
「AIは一時的な流行にすぎない」
と考えるのは、少し無理があるように思います。
おそらくAIは、これから長い時間をかけて私たちの仕事や生活の中へ入っていくのでしょう。
ただし、ここで一つ注意しなければなりません。
AIが広く使われることと、現在行われているAI投資のすべてが十分な利益を生むことは、まったく別の話です。
インターネットを思い出すと分かりやすいかもしれません。
インターネットは社会を大きく変えました。
今ではインターネットなしで仕事をすることは考えにくいほどです。
しかし、インターネットが普及し始めた時代には、将来への期待が大きくなりすぎ、多くの会社へ巨額のお金が集まりました。
そして、そのすべての会社が生き残ったわけではありません。
技術としては正しかった。
社会も大きく変わった。
それでも、投資した人の中には大きな損をした人がいました。
AIでも同じことが起こる可能性があります。
世界のお金が、一つの場所へ集まり始めています
最近の大きな変化の一つは、政府に関係する巨大な投資資金まで、米国へ向かう割合を急速に高めていることです。
以前は世界のさまざまな地域へ比較的分散していた資金が、ここ数年で米国へ大きく傾いています。
中国など他の地域から資金を引き揚げ、その分を米国のAI関連分野へ振り向ける、という動きも報じられるようになりました。
そして、その中心にAIがあります。
AIを開発する企業だけでなく、データセンターや半導体、電力関連の設備などにも資金が流れています。
つまり、世界のお金が、
米国へ向かい、
その中でもAIへ向かい、
さらにAIを支える巨大な設備へ向かう、
という流れが強くなっているわけです。
お金が集まれば、新しい技術の開発は速くなります。
データセンターも建ちます。
半導体も売れます。
電力設備への投資も増えます。
それ自体は決して悪いことではありません。
問題になるのは、必要な量を超えてお金が集まり始めたときです。
国のお金は、普通の投資家とは少し違います
政府に関係する投資資金には、普通の投資会社とは少し違う特徴があります。
一般的な投資家であれば、
「この会社は高すぎないか」
「何年で投資したお金を回収できるのか」
「十分な利益が出るのか」
といったことを重視します。
もちろん政府に関係する投資機関も利益は考えます。
しかし、それだけではありません。
自国の産業を育てたい。
将来重要になる技術を確保したい。
米国との経済関係を強めたい。
AIの時代に取り残されたくない。
そうした国としての事情も投資判断に加わります。
その結果、
「少し価格が高いから今回は買わない」
ではなく、
「高くても将来のために参加しておきたい」
という判断が増える可能性があります。
こうした資金が巨額になれば、市場には大きな影響を与えます。
本来なら価格が高くなりすぎて投資が減る場面でも、資金が入り続けるかもしれません。
それによって、AIへの投資ブームがさらに長く続く可能性があります。
お金が入ることで、さらにお金が入る
AI投資には、もう一つ注意したいところがあります。
それは、投資が次の投資を呼ぶ循環が生まれやすいことです。
例えば、大きなAI企業がお金を集めます。
そのお金を使ってデータセンターを建設します。
大量の半導体を購入します。
すると、半導体会社の売上が増えます。
半導体会社の業績が良くなれば、AI関連企業への期待もさらに高まります。
株価が上がり、AI関連企業へさらにお金が流れます。
そのお金で、また新しいデータセンターが建設されます。
こうして、
お金が集まるから設備投資が増え、設備投資が増えるから業績が良く見え、業績が良く見えるからさらにお金が集まる
という流れができます。
成長の初期には、この循環はとても良い方向に働きます。
ただし、この循環がいつまでも続くわけではありません。
最近では、AI関連企業どうしがお互いに出資し合い、その資金でお互いの製品を購入し合うような、資金の流れが見えにくい取引も増えてきたと指摘されています。
誰が本当に儲けているのかが分かりにくくなれば、それだけ市場は不安定になりやすくなります。
最後には、
「その設備を使って、本当に十分なお金を稼げるのか」
という問題が出てきます。
最後に問われるのは、AIを使う人がいくら払うのかです
AIへの投資が成功するかどうかを決めるのは、最終的にはAIを利用する会社や個人です。
AIサービスを利用する人が増えることは、おそらく間違いないでしょう。
しかし、利用者が増えるだけでは不十分です。
利用者がAIサービスへ支払うお金によって、これまでに行われた巨大な投資を回収できる必要があります。
ここには難しい問題があります。
AIの世界では、技術が非常に速い速度で進歩しています。
今日、大量のコンピューターが必要だった処理が、数年後にはもっと少ない設備でできるようになるかもしれません。
同じ性能のAIを、今より少ない電力、少ない半導体、少ない計算量で動かせるようになる可能性もあります。
これは社会全体にとっては良いことです。
AIを安く使えるようになるからです。
しかし、すでに巨額のお金をかけて設備を造った側から見ると、必ずしも良い話ではありません。
例えば、将来必要になると思って巨大な工場を100棟造った後で、技術が進み、実際には30棟で足りることが分かったらどうでしょう。
その技術そのものは成功しています。
しかし、残りの設備は必要以上だったことになります。
AIでも同じことが起こる可能性があります。
つまり、
AIが成功したからこそ、今造っているAI設備の一部が余る
という、一見不思議なことも起こり得るのです。
AIが広がっても、AI関連企業の利益が増えるとは限りません
もう一つ考えておきたいのが、価格競争です。
AIを提供する会社が増えれば、利用料金は下がっていく可能性があります。
利用者は増える。
利用量も増える。
それでも、一回あたりの料金が大きく下がれば、企業の利益が期待ほど増えないことも考えられます。
例えば、利用量が10倍になっても、料金が大幅に下がり、必要な設備も以前より効率化されれば、現在想定されているほど大きな設備投資が必要なくなるかもしれません。
そこで初めて、
「これほど大きなデータセンターを造る必要があったのか」
「これほど多くの半導体を買う必要があったのか」
という疑問が出てきます。
AIが普及するかどうかではなく、AIによってどのくらいのお金が生まれるのかが重要になってくるわけです。
もし調整が起きても、AIがなくなるわけではありません
仮に将来、AIへの投資が行きすぎだったと判断される時期が来たとしても、AIそのものが消えるわけではないでしょう。
おそらく最初に起こるのは、企業の成長予想が引き下げられることです。
「思っていたほど早く利益が増えないのではないか」
という見方が広がれば、AI関連企業の株価が下がります。
すると新しいデータセンターの建設計画が見直されます。
半導体の注文が減ります。
半導体を造るための設備や、電力設備、冷却設備などへの注文も減っていきます。
さらに、データセンター建設のために借りたお金の返済が難しくなれば、今度は金融の世界にも影響が広がります。
つまり、AI投資の調整はAI企業だけの問題ではありません。
半導体、電力、不動産、建設、金融など、さまざまな分野へ広がる可能性があります。
ここが、世界中のお金が一つのテーマへ集中する怖さです。
昔のITバブルと似ているところ、違うところ
AIへの投資を考えると、2000年前後のITバブルを思い出す人も多いと思います。
当時もインターネットという大きな技術変化がありました。
通信網が造られ、新しい企業が次々と生まれ、株価が大きく上昇しました。
インターネットの将来性そのものは正しかったのです。
しかし、将来必要になる設備や企業の利益を、市場が早い段階で大きく見積もりすぎました。
その結果、大きな調整が起こりました。
AIにも似た部分があります。
ただし、大きな違いもあります。
現在AIへ巨額投資している企業の中には、すでに非常に大きな利益を稼いでいる企業があります。
本業から多くの現金が入ってくるため、しばらく投資の利益が出なくても設備投資を続けることができます。
さらに、政府に関係する大きな投資資金もあります。
短期的な値下がりですぐに売却する必要がなく、10年、20年という長い目で投資できます。
そのため、今回のAI投資ブームは、簡単には終わらない可能性があります。
これは安心材料のようにも見えます。
しかし、別の見方をすると、資金力があるからこそ、必要以上の投資が長く続くこともあるということです。
すぐに崩れるバブルよりも、長く続くバブルの方が最終的な規模が大きくなることもあります。
金利の上昇も無視できません
AI投資を考えるとき、金利も重要です。
世界では今、さまざまな理由で大きなお金が必要になっています。
政府は財政赤字を抱えています。
防衛やエネルギーへの投資も必要です。
道路や送電網などのインフラ整備もあります。
そこへAIの巨大な設備投資が加わっています。
つまり、政府も企業も同じ世界のお金を必要としているわけです。
お金を借りたい人が増えれば、金利が高くなりやすくなります。
実際に、データセンター建設を急ぐ企業が、長期のお金を借りる市場で巨額の資金を吸い上げるようになったことで、国が長期のお金を借りるときの金利にまで影響が及び始めている、という指摘も出てきました。
「クラウディングアウト」とは、本来、政府がお金を借りすぎて民間企業がお金を借りにくくなる現象を指す言葉ですが、今はその逆に、企業側が長期資金を吸い上げて国の資金調達を圧迫する場面が見られる、というわけです。
データセンターを建てるためのお金と、国を運営するためのお金が、同じ市場で綱引きをしているような状況だと考えると分かりやすいかもしれません。
金利が上がると、AI企業には二つの負担が生じます。
一つは、データセンターなどを造るためのお金を借りる費用が高くなることです。
もう一つは、将来大きな利益を稼ぐと期待されている企業ほど、株価が下がりやすくなることです。
低金利の時代なら、
「利益が出るのは10年先でもいい」
と考えやすくなります。
しかし金利が高ければ、
「10年後の利益より、今確実に得られる利息の方が良い」
と考える投資家が増えます。
その意味では、AI投資の本当の力が試されるのは、むしろ金利がある程度高い状態が続いたときなのかもしれません。
政府のお金が入っているから安全、とは限りません
政府に関係する巨大な資金がAIへ投資していると聞くと、
「国のお金まで入っているなら、やはりAIは間違いない」
と考えたくなります。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
国も将来を完全に予測できるわけではありません。
さらに政府に関係する投資には、投資利益だけではない目的があります。
そのため、民間の投資家よりも高い価格であっても投資を続ける場合があります。
結果として、政府のお金がAI相場を支えることは十分考えられます。
だからこそ、AI投資ブームが長く続く可能性があります。
しかし、もし将来、
「これ以上は投資を増やさない」
という判断が広がれば、それまで大きな買い手だった資金が止まることになります。
その影響も小さくありません。
大切なのは、
政府のお金が入っているから安全なのではなく、政府のお金まで入るほど世界中の期待が同じ方向を向いている
と見ることではないでしょうか。
米国以外へお金が回らなくなる問題もあります
もう一つ気になるのは、米国やAIへお金が集まる一方で、ほかの国や地域へ流れるお金が減っていることです。
世界には、まだ道路や電力、住宅、通信設備などの整備が必要な地域がたくさんあります。
本来なら、そうした場所にも投資資金が必要です。
しかし、世界中の投資家が
「今はAIだ」
「米国へ投資しておけばよい」
と考えるようになれば、ほかの地域へ向かうお金が少なくなります。
すると、お金を必要としている地域では投資が進まず、すでに大量のお金が集まっている場所へ、さらにお金が集中することになります。
これは世界全体から見ると、必ずしも効率の良いお金の使い方ではありません。
水が足りない畑がある一方で、すでに十分水がある畑へさらに水を流しているようなものです。
最初は作物がよく育ちます。
しかし流しすぎれば、水があふれることもあります。
現在のAI投資でも、似たことが起こっていないかを見ておく必要があります。
AI投資を見るなら、株価だけでは足りません
では、AIへの投資が行きすぎているかどうかを、どこで見ればよいのでしょうか。
私は、AI関連株の上げ下げだけを見るのでは不十分だと思います。
むしろ重要なのは、実際の事業です。
巨大IT企業が毎年増やしている設備投資に対して、AIから生まれる売上や利益がどのくらい増えているのか。
新しく造ったデータセンターが十分使われているのか。
半導体が不足しているのか、それとも余り始めているのか。
AI関連企業がお金を借りるときの条件が悪くなっていないか。
そして、長期的にAIへ投資してきた巨大な投資資金が、まだ新しい投資を増やしているのか。
こうした実際の数字に変化が出てきたとき、AI投資の流れが変わった可能性があります。
株価は期待で動きます。
しかし最後に投資を支えるのは、実際に生まれる利益です。
AIの時代に、日本企業にも別の可能性があります
世界のお金が米国のAI企業へ集まっている状況は、日本から見ると必ずしも悪いことばかりではありません。
AIが広がれば、それを支える設備も必要になります。
半導体材料、製造装置、冷却設備、空調、電力設備、送電網、ロボット、省エネ技術などです。
日本企業の中には、こうした分野で高い技術を持つ会社があります。
AIそのものを開発する会社だけが、AI時代の勝者になるとは限りません。
ゴールドラッシュの時代に金を掘る人だけでなく、道具を売る人も利益を得たと言われます。
同じように、AI時代にも、
AIを作る会社ではなく、AIが動くために必ず必要になるものを提供する会社
が重要になる可能性があります。
ただし、ここでも同じ注意は必要です。
AI関連だから何でも成長するわけではありません。
最終的には、その会社がどれだけ利益を残せるのかを見る必要があります。
「AI革命」と「AIバブル」は同時に存在できます
AIについて考えると、
「AIは本物なのか、それともバブルなのか」
という二つの選択肢で考えてしまいがちです。
しかし、私はこの考え方自体を少し変えた方がよいのではないかと思います。
AI革命が本物でありながら、AI投資がバブルになることはあります。
むしろ、技術が本物だからこそ、多くの人が将来を信じ、お金が集まりすぎることがあります。
鉄道も社会を変えました。
インターネットも社会を変えました。
しかし、その発展の途中には投資の行きすぎがありました。
AIでも、
「AIは世界を変えた」
という未来と、
「AIに投資しすぎた人が大きな損をした」
という未来は、同時に成り立ちます。
ここはとても大切なところです。
最後に
現在のAI投資を見ていて気になるのは、AIという技術そのものではありません。
私がより気になるのは、世界中の大きなお金が、急速に同じ方向へ向かっていることです。
巨大IT企業だけではありません。
投資会社、金融機関、政府に関係する資金など、非常に大きな資本がAIへ集まり始めています。
それはAIの可能性が世界中から認められている証拠でもあります。
そして、そのお金によってAIの進歩がさらに速くなることも期待できます。
一方で、お金が集まりすぎれば、必要以上のデータセンターが造られ、必要以上の半導体が生産され、企業の価値も必要以上に高く評価される可能性があります。
だから私は、
AIが成長するかどうか
だけでなく、
AIの成長に対して、世界がお金をかけすぎていないか
を見ることが大切だと思っています。
AIが世の中へ広がる未来は、かなり現実的になってきました。
だからこそ、次に問われるのは、
「AIは使われるのか」
ではありません。
「AIによって生まれる利益は、現在投入されている巨額のお金に見合うのか」ということです。
もし利益が投資額に追いつけば、現在の巨額投資にも意味があります。
しかし、期待したほど利益が生まれなければ、どこかで設備投資や企業価値の見直しが始まります。
そのとき起きるのは、「AIが終わること」ではありません。
AIは使われ続けながら、AIに対して払いすぎた値段や、造りすぎた設備だけが修正されることになるのでしょう。
そして、世界の大きな資金がAIへ集中すればするほど、その調整が起きたときの影響も広い範囲へ及ぶ可能性があります。
今のAIを考えるうえで大切なのは、熱狂することでも、必要以上に怖がることでもありません。
技術の成長と、お金の集まり方を別々に見ること。
AIという技術がどこまで社会を変えていくのか。
そして、その未来に対して今の世界はどこまで先回りしてお金を投じているのか。
その二つを冷静に見比べることが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。




