会社が不動産を買った・借りたとき─年明けに必要な「支払調書」の使い分け

不動産取引と支払調書の使い分け

会社を経営していると、事務所を移転したり、事業用の土地や建物を購入したりする機会があります。
そのとき、取引の翌年1月31日までに「法定調書」と呼ばれる書類を税務署に提出しなければならない場合があります。

法定調書にはいくつかの種類がありますが、不動産取引に関係してよく混乱するのが、「不動産等の譲受けの対価の支払調書」と「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」というふたつの書類です。
名前が長くて似ているため、「どちらを作ればいいのか」と迷われる方がとても多いです。

この記事では、この2種類の支払調書について、「何のために作るのか」「どんな場面で必要になるのか」「どこを間違えやすいのか」を、できるだけわかりやすくお伝えします。

「誰に払ったお金か」で整理する

この2種類の支払調書を理解するうえで、最も大切な視点は「誰に払ったお金か」です。

不動産を購入する場面では、複数の相手にお金を払います。
土地や建物を売ってくれた売主に代金を払い、仲介に入った不動産会社(仲介業者)に手数料を払い、物件を借りる場合には貸してくれる人(貸主)に家賃や礼金を払います。

このうち、売主に支払った土地代・建物代・借地権代などが「不動産等の譲受けの対価の支払調書」(以下、「譲受けの調書」)の問題です。
仲介業者に支払った仲介手数料・あっせん手数料は「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」(以下、「あっせん手数料の調書」)の問題です。
貸主に支払った家賃・地代・礼金・更新料などは、これら2種類とは別の「不動産の使用料等の支払調書」の問題になります。
今回の記事ではこの3つ目については触れません。

同じ不動産取引でも、支払先が違えば作成する調書が変わります。
ここを混同すると、売買代金をあっせん手数料の調書に書いてしまったり、仲介手数料を譲受けの対価として記載してしまったりという間違いが起きます。
「誰に払ったお金か」という一点を意識するだけで、かなり整理できます。

提出が必要なのは誰か・金額の目安は

この2種類の支払調書は、誰でも提出しなければならないわけではありません。
主な提出義務者は「法人(会社)」です。
不動産業を営む一定の個人も対象になりますが、一般の個人がマイホームを購入したり、居住用の賃貸物件を借りたりした場合には、通常はこれらの提出義務は問題になりません。

会社として不動産取引を行った場合─事業用の土地建物を購入した、事務所を借りるために仲介手数料を支払った、個人地主から土地を直接取得した─といったケースでは、支払調書の作成を確認する必要があります。

金額の基準としては、「譲受けの調書」は同一人への年間支払合計が100万円を超える場合、「あっせん手数料の調書」は同一人への年間支払合計が15万円を超える場合に提出が必要になります。
どちらも原則として消費税を含めた金額で判定します。
ただし、契約書や請求書で消費税額が明確に区分されている場合には、消費税を含めない金額で判定することも認められています。

特に、あっせん手数料の15万円という基準は比較的低い金額です。
たとえば、月額家賃20万円の事務所を借りた場合、仲介手数料は賃料の1か月分前後が多いため、支払った手数料が15万円を超えることは珍しくありません。
「不動産を買ったわけではないから関係ない」と思い込まないことが大切です。

「譲受けの調書」の書き方のポイント

この調書は、不動産を取得した会社(買主)が、売主に支払った代金を税務署に届け出るための書類です。
「この人から、この不動産を、この金額で取得しました」という情報を伝えるものです。

対象になるのは、通常の売買だけではありません。競売・公売・交換・収用・現物出資による取得も含まれます。

記載する主な内容は、売主の住所・氏名・マイナンバー(個人の場合)または法人番号(法人の場合)、取得した物件の種類(土地・建物・借地権など)、物件の所在地、細目(宅地・事務所・雑種地など)、数量(面積・戸数など)、取得年月日、支払金額、取引の種類(売買・競売など)です。

取得年月日については、契約日・引き渡し日・所有権移転登記日・代金決済日がそれぞれ異なることがよくあります。
契約書の条項を確認し、所有権が移転した日を正確に記載してください。

支払金額は「その年中に支払が確定した金額」を記載します。
実際に振り込んだ金額だけを書くわけではありません。
たとえば、12月に土地売買が成立し、代金3,000万円のうち2,000万円を年内に支払い、残り1,000万円を翌年1月に支払う約束だったとします。
この場合、支払調書には2,000万円ではなく、支払義務が確定している3,000万円全額を記載します。
帳簿上3,000万円の取得として処理しているのに、支払調書に2,000万円しか記載していなければ、数字が一致せず確認対象になりやすくなります。

補償金(土地取得に伴う建物移転費用の補償など)がある場合には、売買代金に含めて一括記載するのではなく、摘要欄に補償金の種類と金額を明記してください。
補償金の性質によって受け取った側の課税関係が変わることがあるため、内訳が分かるようにしておくことが大切です。

「あっせん手数料の調書」の書き方のポイント

この調書は、不動産の売買や賃貸借の仲介をしてくれた業者に支払った手数料を、税務署に届け出るための書類です。
不動産会社への仲介手数料が代表的な例です。

記載する主な内容は、仲介業者の住所・名称・法人番号、区分(そのあっせんが「譲受け」「借受け」のどちらに関するものか)、支払金額(未払分を含めた支払確定額)、あっせんに係る不動産の種類・所在地・数量・取引金額などです。

このとき注意が必要なのが、「名目ではなく実質で判断する」という点です。
実務では「仲介手数料」という名目ではなく、「紹介料」「情報提供料」「業務委託料」「コンサルティング料」などで処理されているケースがあります。
名目が何であれ、実質的に不動産の売買や賃貸借のあっせんに対する対価であれば、この調書の対象になる可能性があります。
勘定科目の名前だけで判断しないことが重要です。

あっせん手数料の調書を省略できるケース

不動産を購入した場合、「譲受けの調書」と「あっせん手数料の調書」の両方が問題になることがあります。
ただし、譲受けの調書の中に仲介業者の情報(住所・名称・支払確定年月日・支払金額など)をきちんと記載して提出する場合には、別途あっせん手数料の調書を作成しなくてよい場合があります。

省略できるとしても、仲介手数料の情報を何も残さなくていいわけではありません。
どちらの方法を選ぶかは社内でルールを決めておき、仲介業者にいくら支払ったかが必ず確認できる状態にしておくことが重要です。

よくある間違いと対処のヒント

ここでは、実務でよく起きる間違いをまとめます。

まず、売買代金と仲介手数料を同じ調書に混在させてしまうケースがあります。
売主への支払いと仲介業者への支払いは、作成する調書が別々です。
支払先ごとに分けて考えることが基本です。

次に、競売で取得した物件の支払先を「裁判所」と記載してしまうことがあります。
競売では代金を裁判所に納付しますが、支払調書に書くべきは「その不動産の前の所有者(前所有者)」です。
税務署が知りたいのは前所有者の課税関係ですので、登記事項証明書や競売関係資料で前所有者の情報を確認して記載してください。

また、共有名義の不動産を購入したとき、1枚の調書に複数の共有者をまとめて記載してしまうことがあります。
共有者ごとに別々の調書を作成し、持分に応じた支払金額をそれぞれ記載する必要があります。

そして、相手方に渡す控えにマイナンバーをそのまま記載してしまうことも注意が必要です。
税務署提出用の調書には個人番号を記載しますが、相手方に交付する控えには個人番号を記載してはいけません。
PDFで作成してメール送付する場合も、番号が残っていないかを必ず確認してください。

税務署が確認しやすいポイント

税務署は、支払調書と売買契約書・帳簿・振込記録・登記情報を照合して確認します。
特に目が向きやすいのは次のような状況です。

帳簿に土地建物の取得が計上されているのに、譲受けの調書が提出されていない場合、提出漏れが疑われます。
支払手数料の中に不動産会社への高額な支払いがあるのに、あっせん手数料の調書が提出されていない場合も同様です。
また、契約書上の売買代金と支払調書の金額が一致しない場合、共有名義なのに1人分の調書しか作成していない場合、競売取得なのに裁判所を支払先として記載している場合なども、追加の確認対象になりやすいです。

このような状態を避けるために、日頃から書類をきちんと整えておくことが一番の近道です。

実務での準備の流れ

法定調書の提出期限は翌年1月31日です。
年明けになってから慌てないためには、不動産取引が発生した時点で資料を整理しておくことをお勧めします。
準備しておきたい書類は、売買契約書または賃貸借契約書、登記事項証明書、仲介手数料の請求書・領収書、振込明細(支払日・支払先・金額の記録)、固定資産税精算金の計算書(ある場合)、補償金の明細(ある場合)などです。

支払調書を作成するとき、次の3つの視点で確認してみてください。
「誰に払ったのか」(売主か仲介業者かで調書が変わります)、「何の対価なのか」(土地代なのか仲介手数料なのかを確認します)、「その年中に支払が確定しているか」(未払分も含めて記載します)。
この3点を意識するだけで、記載ミスや提出漏れのリスクをかなり抑えることができます。

まとめ

「譲受けの調書」と「あっせん手数料の調書」は名前が似ていて混乱しやすいですが、「誰に払ったお金か」という視点で整理すると、かなりすっきりします。
売主に支払った土地代・建物代は「譲受けの調書」、仲介業者に支払った仲介手数料は「あっせん手数料の調書」、貸主に支払った家賃・礼金などは「不動産の使用料等の支払調書」(別途検討)です。

不動産取引は金額が大きく、売主側の譲渡所得、仲介業者側の売上、買主側の取得価額や経費処理にも関係します。
支払調書は「年明けのお決まり書類」ではなく、取引内容を税務署に正確に伝えるための重要な資料です。
取引が発生した時点から書類を整えておく習慣をつけておくことが、結果的に一番の安心につながります。

※この記事は作成時点の情報に基づいています。実際の適用には個別の判断が必要です。
詳細や最新情報は、税務署にご確認ください。