相続時精算課税は本当に得? 110万円の基礎控除だけで決めると危ない理由と注意点

相続時精算課税を選ぶ前に知っておきたい6つの注意点|自社株・不動産・暦年贈与との違いも解説

相続時精算課税(そうぞくじせいさんかぜい:生前に財産をもらったときの税金と、亡くなったときの相続税を、まとめて精算するしくみ)は、令和6年(2024年)から制度が大きく変わりました。

特に注目されているのが、毎年110万円の基礎控除(きそこうじょ:税金を計算するときに、条件なしで差し引ける金額)が新しく設けられたことです。

この改正によって、
「相続時精算課税でも、毎年110万円までなら贈与税(ぞうよぜい:財産をもらった人にかかる税金)がかからない」
「しかも、その110万円の部分は、原則として将来の相続税にも足し戻されない」
というメリットが生まれました。

そのため、
「これから生前贈与をするなら、暦年贈与(れきねんぞうよ:毎年1月1日から12月31日までの1年間で区切って行う、一般的な贈与の方法)より、相続時精算課税のほうが得なのでは?」
と考える方も増えていると思います。

たしかに、相続時精算課税が有利になるケースはあります。
しかし、「毎年110万円の基礎控除がある」という理由だけで選ぶのは、あまりおすすめできません。

相続時精算課税には、
・一度選択すると、その贈与者(財産をあげる人)については暦年課税へ戻せないこと
・贈与した財産が値下がりした場合に、かえって不利になることがあること
・相続時精算課税で贈与した宅地等には、小規模宅地等の特例が使えないこと
・自社株については、思わぬ「みなし贈与」が発生することがあること
など、長い目で見て確認しておきたい注意点があります。

相続や贈与は、目の前の贈与税だけを見て判断すると、後になって「別の方法のほうがよかった」ということが起こりやすい分野です。
この記事では、相続や贈与が初めての方にも分かるように、相続時精算課税の基本的なしくみから、制度を選ぶ前に確認しておきたいポイントまで、順番にご説明します。

※この記事は2026年9月2日時点で確認できる情報をもとに作成しています。
税制や取扱いは今後改正される可能性があります。
また、実際の適用については個別の事情によって判断が変わることがありますので、具体的な贈与を行う前に、最新の情報をご確認ください。

そもそも「相続時精算課税」とは?

相続時精算課税を簡単にいうと、
「生前に財産を贈与し、贈与のときには一定の方法で贈与税を計算しておき、最終的には贈与した人が亡くなったときの相続税で精算する制度」
です。

原則として、贈与をした年の1月1日時点で60歳以上の父母や祖父母などから、その年の1月1日時点で18歳以上の子や孫などへ贈与するときに選択できます。
より正確にいうと、財産をもらう人(受贈者)は、18歳以上の「贈与者の直系卑属(ちょっけいひぞく:子や孫など、まっすぐにつながる下の世代の血縁者)である推定相続人(すいていそうぞくにん:今、贈与者が亡くなったとすれば相続人になると考えられる人)または孫」であることが原則です。
事業承継税制など、一定の場合には別の取扱いもあります。

この制度を理解するうえで、とても大切なポイントがあります。
それは、相続時精算課税は贈与者ごとに選択する制度だということです。

たとえば、父からの贈与については相続時精算課税を選び、母からの贈与については暦年課税を続ける、ということはできます。
しかし、父からの贈与について一度相続時精算課税を選ぶと、その後の父からの贈与について、暦年課税へ戻すことはできません。

つまり、「今年だけ相続時精算課税を使って、来年は暦年贈与に戻そう」という使い方はできないのです。
ここは、相続時精算課税を検討するときの大きな注意点として、最初に押さえておいていただきたい点です。

令和6年から「毎年110万円の基礎控除」ができました

相続時精算課税が以前より使いやすくなった大きな理由が、令和6年1月1日以後の贈与について設けられた、年間110万円の基礎控除です。

現在の相続時精算課税では、贈与税を次の順番で計算します。

・まず、年間110万円の基礎控除を差し引きます。
・さらに、その残った金額から、特定贈与者(相続時精算課税を選んだ相手、つまり財産をくれた人)ごとに、累計2,500万円までの「特別控除」を差し引くことができます。
・基礎控除と特別控除を差し引いても金額が残る場合には、その残額に原則20%の税率をかけて贈与税を計算します。

ここで、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。
110万円の基礎控除と2,500万円の特別控除は、同じ「控除」という言葉でも、意味がまったく違うということです。

110万円の基礎控除については、令和6年以後の贈与であれば、原則としてその部分は将来の相続税の計算にも足し戻されません。
一方、2,500万円の特別控除は、あくまで贈与税を計算するときの控除です。
2,500万円まで贈与税がかからなかったからといって、その金額が将来の相続税の計算から消えてなくなるわけではありません。

さらに大切なのが、2,500万円の特別控除を使うためには、贈与税の期限内申告書(きげんないしんこくしょ:法律で決められた提出期限までに出す申告書)を提出する必要があるという点です。
国税庁も、特別控除は期限内申告書を提出した場合に限って使えるとしています。

「110万円の基礎控除」と「2,500万円の特別控除」は、金額だけでなく、必要な手続きも異なります。
この2つは、必ず分けて考えるようにしてください。

110万円は「贈与者1人につき110万円」ではありません

もう一つ、間違えやすいポイントがあります。
相続時精算課税の年間110万円の基礎控除は、特定贈与者1人につき110万円ずつ使える、というしくみではありません。

たとえば、同じ年に、相続時精算課税を選択している父と母の両方から贈与を受けたとします。
この場合、「父から110万円、母から110万円なので、合計220万円まで基礎控除の対象になる」とはなりません。

受贈者について使える相続時精算課税の基礎控除は、あくまで年間合計110万円です。
2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合には、この110万円を、それぞれの特定贈与者から受けた贈与についての贈与税の課税価格に応じて按分(あんぶん:それぞれの割合に応じて配分すること)します。

一方で、2,500万円の特別控除は、特定贈与者ごとに管理されます。
同じ110万円と2,500万円でも、「誰についていくら使えるのか」という考え方が違うということを、ぜひ覚えておいてください。

「2,500万円まで非課税」という説明には注意が必要です

相続時精算課税について、「2,500万円まで非課税で贈与できる制度です」と説明されることがあります。
分かりやすくするための表現ではありますが、この言葉だけを受け取ると、誤解につながるおそれがあります。

たとえば、父から子へ2,000万円を贈与したとします。
これまで父からの贈与について2,500万円の特別控除を使っておらず、期限内に必要な贈与税の申告を行うものとします。
また、その年の110万円の基礎控除を、全額この贈与に使えるものとします。

まず、2,000万円から110万円を差し引きます。
残った1,890万円についても2,500万円の特別控除の範囲内ですので、このケースでは、贈与時の贈与税は0円になります。

ここだけを見ると、「2,000万円を税金なしで子どもへ移せた」と思うかもしれません。
しかし、父が亡くなったときには、原則として110万円を差し引いた後の1,890万円が、相続税の課税価格に足し戻されます。

つまり、2,500万円の特別控除は、「2,500万円まで相続税も完全に非課税になる制度」ではありません。
相続時精算課税という名前のとおり、最終的には相続のときに精算するしくみです。
ですから、「今、贈与税がいくらになるか」だけではなく、「将来の相続税まで含めるとどうなるか」という視点をあわせて持つことが大切です。

暦年課税と比べると、110万円の基礎控除は大きな特徴です

暦年課税、いわゆる一般的な「毎年110万円までの贈与」にも、年間110万円の基礎控除があります。

ただし、暦年課税による生前贈与には、一定の場合に過去の贈与を相続税の計算へ足し戻す「生前贈与加算」というしくみがあります。
ここで大切なのは、過去に贈与を受けた人なら誰でも対象になるわけではない、という点です。

原則として、相続、遺贈(いぞう:遺言によって財産を渡すこと)や相続時精算課税に係る贈与などによって亡くなった方から財産を受け取った人が、その亡くなった方から加算対象期間内に暦年課税による贈与を受けていた場合に、その贈与財産が相続税の課税価格へ足し戻されます。
また、加算対象期間内の贈与であれば、贈与税が実際にかかったかどうかにかかわらず対象になります。
ですから、年間110万円以下で贈与税がかからなかった贈与についても、条件に当てはまれば、相続税の計算に足し戻されることがあります。

令和6年1月1日以後の暦年課税による贈与については、この加算対象期間が段階的に延長されています。
相続が始まった日によって、次のように取扱いが分かれます。

・相続開始日が令和8年12月31日までの場合は、相続開始前3年以内の贈与が対象です。
・相続開始日が令和9年1月1日から令和12年12月31日までの場合は、令和6年1月1日から相続開始日までの贈与が対象です。
・相続開始日が令和13年1月1日以後の場合は、相続開始前7年以内の贈与が対象です。

また、相続開始日が令和9年1月2日以後の場合には、相続開始前3年を超える期間に贈与された財産について、その合計額から総額100万円までを足し戻さない取扱いがあります。
ここは、毎年100万円ではなく、対象期間全体を通じて総額100万円という点に注意してください。

一方、令和6年以後の相続時精算課税では、毎年の110万円の基礎控除部分は、原則として相続税の課税価格へ足し戻されません。
この点は、相続時精算課税の大きな特徴といえます。

ただし、これだけを理由に、「暦年課税より相続時精算課税のほうが必ず得」と判断することはできません。
次の章から、その理由を一つずつご説明していきます。

注意点1 一度選択すると、暦年課税へ戻せません

相続時精算課税を検討するとき、最初に確認していただきたいのがこの点です。

一度、特定の贈与者について相続時精算課税を選択すると、その贈与者からのその後の贈与については、暦年課税へ変更することができません。

たとえば、父が70歳のときに相続時精算課税を選び、その10年後も元気だったとします。
10年の間には、税制が変わるかもしれません。
父の財産の内容も変わるかもしれません。
会社を経営していれば、自社株の価値が大きく変わることも考えられます。
それでも、「状況が変わったので、父からの贈与は暦年課税に戻します」ということはできません。

相続時精算課税は、「今年の贈与方法」を選ぶだけの制度ではありません。
将来の相続まで影響が続く、長期的な選択だと考えておく必要があります。

注意点2 値上がりする財産ではメリットが出ることがありますが、値下がりには注意が必要です

相続時精算課税では、将来の相続税の課税価格に足し戻す財産について、原則として贈与時の価額を基礎にします。
令和6年1月1日以後に贈与を受けた財産については、贈与を受けた年ごとに、贈与時の価額の合計額から110万円の基礎控除額を差し引いた残額を足し戻します。

このしくみは、相続税の課税価格に足し戻される金額という点から見ると、贈与後に大きく値上がりする財産についてメリットが生まれることがあります。

たとえば、贈与時に3,000万円だった自社株が、会社の成長によって将来1億円になったとします。
相続時精算課税では、原則として将来の1億円ではなく、贈与時の価額を基礎に相続税への足し戻し額を計算します。
そのため、贈与後の大きな値上がり部分を、相続税の課税価格から切り離せることがあります。

しかし、反対のケースもあります。
贈与時に3,000万円だった財産が、その後1,000万円まで値下がりしたとしても、単なる市場価格の下落を理由に、相続税へ足し戻す価額を1,000万円へ変更できるわけではありません。
贈与時の高い価額がそのまま残るため、結果として不利になる可能性があります。

ただし、「値上がりした財産なら相続時精算課税が必ず得」という意味ではありません。
相続税率、ほかの財産の状況、小規模宅地等の特例、贈与税額、相続人の人数などによって、最終的な税負担は変わってきます。
あくまで「相続税の課税価格へ足し戻される金額」という一つの側面で、メリットが出る可能性がある、というくらいに受け止めていただくのがよいと思います。

災害による大きな被害には、一定の救済制度があります

相続時精算課税には、災害についての救済制度も用意されています。

相続時精算課税によって贈与を受けた土地または建物が、贈与を受けた日から贈与者の相続税申告期限までの間に災害で相当の被害を受け、一定の要件を満たす場合には、相続税の課税価格へ足し戻す価額から、被害を受けた部分の価額を差し引ける場合があります。
保険金や損害賠償金などで補てんされた金額は除かれます。
また、原則として災害発生日から3年を経過する日までに承認申請書を提出し、税務署長の承認を受ける必要があります。

ただし、これは通常の値下がりを救済する制度ではありません。
「土地の相場が下がった」「自社株の業績が悪化して株価が下がった」という理由だけでは使えませんので、この点は誤解のないようにしていただければと思います。

注意点3 相続時精算課税で贈与した宅地等には「小規模宅地等の特例」が使えません

土地を生前贈与しようと考えている方には、特に注意していただきたいポイントです。

相続税には「小規模宅地等の特例」という重要な制度があります。
これは、一定の要件を満たす自宅や事業用の宅地などについて、相続税を計算するときの評価額を大きく減らせる制度です。
たとえば、一定の要件を満たす自宅の敷地であれば、330平方メートルまで80%の減額を受けられることがあります。

ところが、国税庁は、相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等については、小規模宅地等の特例を使えないと明記しています。

たとえば、「父の自宅の土地は将来値上がりしそうだから、今のうちに子へ贈与しておこう」と考えたとします。
贈与時の価額を基準に相続税へ足し戻せる点だけを見ると、相続時精算課税が有利に見えるかもしれません。
しかし、その土地を父が持ったまま相続を迎えていれば、小規模宅地等の特例によって、評価額を大きく減らせた可能性があります。
先に相続時精算課税で贈与したことによって、その特例を使えなくなるのであれば、結果的に相続税が増えてしまう可能性もあります。

土地の贈与については、「今贈与すると贈与税はいくらになるか」だけではなく、「相続まで持っていた場合に、どの特例を使えるのか」まであわせて比較することが大切です。

注意点4 自社株では「みなし贈与」が思わぬところで発生することがあります

中小企業の経営者の方に、特に注意していただきたいのが自社株です。

たとえば、父が経営している会社の株式を子へ贈与したとします。
その後、父が会社に対して持っていた貸付金を無償で放棄したとします。
会社から見ると、返さなければならない借金が減ります。
その結果、会社の純資産が増え、子が持っている自社株の価値も上昇することがあります。

このような場合、父から子へ株式を追加で直接贈与していなくても、税務上、その株式価値の増加部分について贈与を受けたものとして取り扱われることがあります。これが、いわゆる「みなし贈与」です。

国税庁の相続税法基本通達では、同族会社への無償の財産提供、債務免除、一定の低額譲渡などによって株式や出資の価額が増加した場合、その増加部分について、株主等が利益を与えた人から贈与によって取得したものとして取り扱うことが示されています。
そのため、自社株を相続時精算課税で贈与した場合、「贈与した日の株価を計算したので、もう終わり」とは限りません。
その後に会社と株主との間で行う取引についても、確認しておく必要があります。

ただし、債権放棄を行えば必ず株主に贈与税が発生する、という意味ではありません。
国税庁の通達では、会社が「資力を喪失した場合」に再建のため一定の債務免除などを受けたケースについて、その会社の債務超過額に相当する部分は贈与として取り扱わないという例外が示されています。
ここでいう「資力を喪失した場合」とは、再建のため実際に負債整理に入っているような場合をいい、単に一時的に業績が悪化して債務超過になっているだけでは、これに該当しないとされています。

したがって、自社株やオーナー会社への債権放棄については、「債権放棄したから必ず贈与税がかかる」「会社が赤字だから贈与税はかからない」と、どちらも単純に判断することはできません。会社の財務状況、債権放棄の理由、その後の株式価値の変化などを確認したうえで、判断していく必要があります。
「会社の税金」と「株主個人の税金」は、分けて確認することが大切です。

注意点5 「親子・孫だから大丈夫」と決めつけず、戸籍関係も確認しましょう

相続時精算課税では、贈与者と受贈者の関係も重要な確認ポイントです。

原則として、贈与者は贈与年の1月1日時点で60歳以上の父母や祖父母などである必要があります。
受贈者は、同じくその年の1月1日時点で18歳以上であることに加えて、贈与を受けた時点で、贈与者の直系卑属である推定相続人または孫にあたる必要があります。

ここで少し細かい点ですが、大切な違いがあります。「60歳以上」「18歳以上」という年齢の要件は、贈与年の1月1日時点で判定します。
一方、「直系卑属である推定相続人または孫にあたるかどうか」という続柄の要件は、1月1日ではなく、実際に贈与を受けた時点で判定します。ほとんどのご家庭では、年の途中でこの続柄が変わることはありませんので、実務上大きな問題になるケースは多くありません。
ただし、再婚、連れ子、養子縁組があるご家庭や、年の途中で相続人の順位が変わりうるご家庭では、「いつの時点の関係で判断するのか」によって結果が変わることがありますので、注意しておくと安心です。

また、「普段は孫として接している」「家族みんなが親子だと思っている」というだけで判断しないことも大切です。
再婚、連れ子、養子縁組などがあるご家庭では、法律上の親族関係がいつ成立したのかなどによって、判断が変わる可能性があります。

年齢要件についても、「贈与した日には60歳になっていた」ではなく、原則として贈与した年の1月1日時点で判定します。
贈与を実行した後になって「制度の対象ではなかった」と分かると、対応が難しくなってしまいます。相続時精算課税を使う場合には、金額だけではなく、戸籍関係と年齢についても、事前に確認しておくと安心です。

注意点6 財産をもらった子が、親より先に亡くなる場合も考えておきましょう

相続時精算課税は、長期間にわたって影響が続く可能性がある制度です。
そのため、「贈与者である親より、受贈者である子が先に亡くなる」というケースについても、考えておく必要があります。

たとえば、父から相続時精算課税を使って財産をもらった子が、その父より先に亡くなった場合です。このようなときには、相続時精算課税に伴う納税上の権利や義務が、その子の相続人へ引き継がれることがあります。

相続時精算課税を選ぶときには、「親が亡くなったときどうなるか」だけではなく、「万一、財産をもらった側が先に亡くなった場合はどうなるか」まで考えておくことが大切です。長期間影響が続く可能性があるからこそ、「今の家族関係」だけで判断しないほうが、あとあと安心につながります。

過去の申告書や財産評価資料は、長期間保存しておきましょう

相続時精算課税では、実務上、もう一つ大切なポイントがあります。
それが資料の保存です。

たとえば、20年前に自社株を相続時精算課税で贈与し、20年後に贈与者が亡くなったとします。
相続税を計算するときには、過去の相続時精算課税による贈与内容を確認する必要があります。
ところが、「当時の申告書が見つからない」「何株をいくらで評価したのか分からない」「いつから相続時精算課税を選択したのか分からない」となると、相続税申告のときの確認作業がとても大変になってしまいます。

特に自社株や不動産については、次のような資料も、あわせて整理しておくことをおすすめします。

・贈与契約書
・贈与税申告書の控え
・相続時精算課税選択届出書の控え
・不動産の評価資料
・自社株の評価明細
・送金記録
・戸籍など、親族関係を確認した資料

「贈与税申告が終わったら役目が終わる資料」ではなく、「将来の相続税申告でも必要になる可能性がある資料」と考えて、日頃から管理しておくと安心です。

2026年9月下旬からe-Taxで確認しやすくなる予定です

相続時精算課税では、過去の申告内容をきちんと把握しておくことが重要です。
この点について、国税庁は、e-Taxのマイページの「贈与税関係情報」に、新たに「相続時精算課税適用状況」という機能を追加すると案内しています。

2026年9月2日時点の国税庁の案内では、令和8年(2026年)9月下旬以降に対応予定とされています。
相続時精算課税を適用している場合には、特定贈与者の氏名や適用を始めた年分が表示され、特定贈与者を選択すると、これまでに申告した年分、財産の価額の合計額、相続時精算課税分の贈与税額などを確認できる予定です。

長く続く制度だけに、過去の申告内容を確認しやすくなるのは、実務上とても助かる話です。
ただし、現時点ではまだ「対応予定」の段階です。
実際に利用するときには、あらためて最新のe-Tax情報をご確認ください。
また、この機能が使えるようになっても、贈与契約書や不動産・自社株の評価資料まで不要になるわけではありません。
これまでどおり、ご自身でも資料を保管しておくことが大切です。

相続時精算課税を初めて使う年は「届出」に注意してください

相続時精算課税は、条件を満たしていれば自動的に適用される制度ではありません。

相続時精算課税を初めて選択する場合には、原則として、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を提出します。
あわせて、一定の書類の添付も必要です。
贈与税の申告書を提出する必要がある場合には、この届出書などを贈与税申告書に添付して提出します。

特に注意していただきたいのが、「贈与額が110万円以下だから、何もしなくてよいだろう」と考えてしまうケースです。
相続時精算課税を初めて選択する年については、贈与税額が発生しない場合でも、制度を選ぶための届出が必要です。
また、2,500万円の特別控除を利用する場合には、先ほどご説明したとおり、贈与税の期限内申告書が必要です。

つまり、「贈与だけして、手続きは後から考えよう」ではなく、贈与する前に制度を決め、必要な届出・申告・期限まであらかじめ確認しておくことが大切です。

では、どのような場合に相続時精算課税を検討すればよいのでしょうか?

ここまで注意点を多くご説明してきましたが、「相続時精算課税は危険だから使わないほうがよい」という意味ではありません。
使い方によっては、生前の財産移転や事業承継に役立つ制度です。

たとえば、将来大きく値上がりする可能性のある財産を早めに次世代へ移したい場合には、相続税の課税価格へ足し戻される金額を、贈与時の価額を基礎に計算できる点がメリットになる可能性があります。
また、令和6年以後は、年間110万円の基礎控除部分が原則として将来の相続税へ足し戻されません。

一方で、次のようなケースでは、特に慎重な判断が必要です。

・小規模宅地等の特例を使える可能性がある宅地を贈与しようとしている場合
・将来大きく値下がりする可能性がある財産を贈与しようとしている場合
・評価額が大きく変動しやすい自社株を贈与しようとしている場合
・再婚や養子縁組などがあり、家族関係が複雑なケース

大切なのは、「相続時精算課税という制度そのものが得か損か」を考えることではありません。
「この人が、この財産を、この時期に、この相手へ贈与する場合に適しているかどうか」を考えることです。

相続時精算課税を選ぶ前のチェックポイント

実際に制度を選択する前には、少なくとも次の点を確認しておくことをおすすめします。

・贈与者と受贈者の年齢・親族関係が、制度の要件を満たしているか
・贈与する財産は、現金、不動産、自社株など何にあたるのか
・将来値上がりする可能性と、値下がりする可能性の両方を考えているか
・暦年課税を続けた場合と、相続時精算課税を選んだ場合について、将来の相続税まで比較しているか
・宅地を贈与することで、小規模宅地等の特例が使えなくならないか
・自社株について、今後予定している債権放棄などの取引が、株価や贈与税に影響しないか
・贈与者の現在の財産総額と、将来予想される相続税額を把握しているか
・一度選ぶと、その贈与者について暦年課税へ戻れないことを理解しているか
・2,500万円の特別控除については、期限内申告が必要なことを理解しているか
・贈与契約書や財産評価資料などを、長期間保管できる体制になっているか
・受贈者が贈与者より先に亡くなった場合の影響についても確認しているか

これらを一つずつ確認していくと、「110万円使えるから相続時精算課税にしよう」という判断だけでは見えなかった問題点が、少しずつ見えてきます。

まとめ 110万円だけではなく「相続までの全体像」で判断しましょう

令和6年から毎年110万円の基礎控除が設けられたことで、相続時精算課税は以前より使いやすくなりました。
特に、この年間110万円の基礎控除部分については、原則として将来の相続税へ足し戻されないため、暦年課税と比較したときにメリットが出るケースがあります。

しかし、相続時精算課税は、単なる「年間110万円の非課税制度」ではありません。
また、2,500万円の特別控除も、「2,500万円まで相続税もかからなくなる制度」ではありません。
さらに、2,500万円の特別控除を利用するためには、贈与税の期限内申告書の提出も必要です。

そして、次の点もあわせて押さえておいていただきたいと思います。

・一度選択すると、その贈与者について暦年課税へ戻すことはできません。
・贈与した財産は、原則として贈与時の価額を基礎に、将来の相続税へ足し戻されます。
・相続時精算課税で贈与した宅地等には、小規模宅地等の特例を使うことができません。
・自社株では、会社への債権放棄などによって、株主に思わぬみなし贈与が生じることがあります。一方で、そのみなし贈与にも、会社の財務状況などによって別の取扱いがあるため、単純には判断できません。

こうしたことまで含めて、じっくり検討していただく必要があります。

相続時精算課税を選ぶときに大切なのは、「今年、贈与税がいくら安くなるか」だけを見ることではありません。
「父や母には、どのような財産があるのか」「将来の相続税はいくらくらいになりそうか」「何を誰に渡したいのか」「その財産は今後値上がりするのか、値下がりするのか」「贈与することで使えなくなる相続税の特例はないか」「10年後、20年後に家族や会社の状況が変わっても問題ないか」というところまで、少しずつ考えていくことが大切です。

相続時精算課税は、上手に使えば、とても有効な制度です。だからこそ、「110万円使えるから、とりあえず選んでおこう」ではなく、暦年課税を続けた場合と比較しながら、将来の相続まで含めた全体像で判断していただくことをおすすめします。

特に、不動産や自社株など金額の大きい財産を贈与する場合には、実際に贈与する前にシミュレーションを行い、ご家族全体でどの方法が適しているのか、時間をかけて確認しておくと安心です。
贈与税だけでなく、将来の相続税の納税資金や、会社を経営されている場合には資金繰りへの影響まで含めて考えておくと、より安心して進めていただけると思います。

※本記事は2026年9月2日時点の制度・公表情報に基づく一般的な解説です。実際の税務上の取扱いは、贈与者・受贈者の関係、財産の種類、贈与時期、相続の状況などによって異なる場合があります。
具体的な贈与を実行する際には、最新の国税庁情報を確認し、必要に応じて税務署へご相談ください。