金利が上がると、なぜ株価には逆風になるのか―「金余り」の時代が変わり始めている可能性
日本の長期金利が、これまででは考えにくかった水準まで上昇してきました。
10年国債の利回りも3%に近づく場面が見られるようになり、さらに期間の長い国債では、それ以上の利回りが意識されるようになっています。
もちろん、金利が上がったからといって、すぐに株価が暴落するわけではありません。
しかし私は、この動きを「国債の金利が上がった」というだけで終わらせてはいけないと思っています。
もっと大きな視点で見ると、これまで株式市場を支えてきた「大量のお金がリスク資産に向かいやすい環境」そのものが、変わり始めている可能性があるからです。
これは日本株だけの問題ではありません。米国株にも、不動産にも、社債にも、プライベートクレジットにも、そして企業の資金調達にもつながっていく問題です。
今回は、金利上昇によって何が起こる可能性があるのかを、できるだけわかりやすく整理してみます。
ゼロ金利の時代は「株を持たないこと」にもコストがありました
まず、これまでの環境を振り返ってみます。
日本では長い間、預金金利も国債金利も非常に低い状態が続いてきました。
銀行にお金を預けていても、ほとんど利息は付きません。
日本国債を持っていても、大きな利回りは期待できませんでした。
すると、ある程度の収益を得たい投資家は、より高いリターンを求めて、少しずつリスクの高い資産へ向かわざるを得ません。
国債で十分な利回りが得られない。
それなら社債を買おう。
社債でも足りなければ株式を買おう。
さらに高い収益を求めれば、不動産や未公開企業、さまざまなファンドにも資金を振り向けよう。
このように、お金がより高い収益を求めて動いていく状態が長く続いてきました。
その背景には、中央銀行による大規模な金融緩和もありました。
市場には大量のお金が供給される一方で、安全な資産から得られる利回りは非常に低い。
その結果、「投資するお金はたくさんあるのに、十分な利回りを得られる投資先が少ない」という状態が生まれました。
これが、いわゆる「金余り」と呼ばれる環境の一つです。
これは株式市場にとって非常に大きな追い風でした。
企業の利益がそれほど増えていなくても、投資家のお金が株式市場へ流れ込めば、株価は上昇できます。
多少株価が高く見えても、「他にお金を置く場所がない」という理由で株式が買われることもありました。
ところが、ここに大きな変化が起き始めています。
国債に3%近い利回りが付けば、株式には強力な競争相手が現れます
仮に日本国債で3%前後の利回りを得られるようになったら、投資家の判断は大きく変わります。
特に生命保険会社、銀行、年金基金など、巨額の資金を運用している機関投資家にとって、この違いは非常に大きなものになります。
ほとんど利回りを得られなかった時代であれば、「株式や海外債券などを持たなければ運用できない」という面がありました。
ところが、日本国債だけでもある程度の利回りを得られるようになれば、「そこまで大きなリスクを取らなくてもよいのではないか」という選択肢が生まれます。
しかも日本国債であれば、日本の投資家にとって基本的には為替変動を心配する必要もありません。
これは非常に大きな変化です。
例えば、新しく1,000億円を運用する必要がある投資家がいたとします。
以前なら、そのお金のかなりの部分を株式や海外債券、社債などに向けていたかもしれません。
しかし、日本国債の利回りが十分に高くなれば、そのうち数百億円を国内国債に振り向けるという判断もできます。
ここで大切なのは、株式を大量に売らなくても株価には影響が出るということです。
株価を支えているのは、今持っている人だけではありません。
これから新しく株を買おうとする人も重要です。
仮にこれまで新しく入ってくる100円のうち80円が株式へ向かっていたものが、国債の魅力が高まることで50円しか株式へ向かわなくなったとします。
この場合、世の中から30円が消えたわけではありません。
30円は国債へ移っただけです。
しかし株式市場から見れば、新しく入ってくる買い手のお金が減ったことになります。
これだけでも、株価の上昇力は弱くなります。
「お金がなくなる」のではなく、「お金を使うための値段」が高くなる
金利上昇と流動性の関係については、少し注意が必要です。
金利が上昇したからといって、突然、世の中から何十兆円ものお金が消えてしまうわけではありません。
株を売って国債を買えば、お金の置き場所が変わっただけです。
ですから、「金利上昇=市場のお金が消える」と単純に考えるのは正確ではありません。
むしろ重要なのは、これまでほとんど無料に近かった資金に、再び値段が付き始めるということです。
お金を借りるにも金利が必要になります。
企業が社債を発行するときにも、以前より高い利息を払わなければなりません。
住宅ローンや企業融資の金利も上昇します。
投資家も、「安全な国債を持っていれば一定の利回りを得られるのだから、株式を買うならもっと高い収益が欲しい」と考えるようになります。
つまり、株式を含めたさまざまな資産が、より厳しく比較される時代になるということです。
私は、この変化を考えるとき、「金余りが突然終わる」と考えるよりも、「ほとんど値段が付いていなかった資本に、再び値段が付き始める」と考えた方がわかりやすいと思います。
株価には二つの方向から逆風が吹きます
金利上昇が株価に与える影響には、大きく二つあります。
一つ目は、これまで説明してきた「資金の移動」です。
国債の利回りが高くなれば、株式を買う必要性が下がります。
株式に流れ込むお金が減れば、当然、株価を押し上げる力も弱くなります。
もう一つは、株価そのものの計算方法に関係します。株式の価値は、簡単にいえば「その会社が将来どれくらい利益や現金を生み出すのか」によって決まります。
ただし、10年後にもらえる100万円と、今すぐもらえる100万円は同じ価値ではありません。
今100万円を持っていれば、そのお金を運用できるからです。
そのため、将来受け取るお金は、現在の価値に計算し直す必要があります。
この計算に大きく関係するのが金利です。
金利が高くなるほど、遠い将来にもらえるお金の現在価値は低くなります。
そのため金利が上昇すると、将来大きく成長すると期待されている会社ほど、株価が下がりやすくなります。
金利が上がるとPERが下がりやすくなります
株価を考えるときによく使われる数字にPER(株価収益率)があります。
非常に簡単にいえば、株価=企業利益×PERと考えることができます。
企業利益が同じでも、投資家が高いPERを認めれば株価は高くなります。逆にPERが下がれば、企業利益が変わらなくても株価は下がります。
ゼロ金利に近い時代には、安全な資産からほとんど利益を得られませんでした。
そのため、「多少高い株価でも買おう」という投資家が増えやすくなります。
例えば、1株あたり100円の利益を出している企業について、投資家がPER30倍まで許容すれば、100円×30倍=3,000円という株価になります。
ところが、安全な国債で3%程度の利回りが得られるようになれば、「株式で値下がりする危険を負うなら、もっと安い価格で買いたい」と考える人が増えます。
するとPERが30倍から25倍、20倍へ下がることがあります。
企業の利益が100円のままだとしても、PER30倍なら3,000円、PER25倍なら2,500円、PER20倍なら2,000円です。
会社の売上や利益がまったく悪化していないのに、株価が大きく下がることがあるわけです。
これがいわゆる「バリュエーションの調整」です。
今後の株式市場を見るうえで、私はこの動きが非常に重要になると思います。
特に影響を受けやすいのは「将来の利益」を高く評価されている会社です
金利上昇の影響は、すべての会社に同じように出るわけではありません。
特に影響が大きくなりやすいのは、現在の利益よりも「5年後、10年後には大きく成長するだろう」という期待によって高い株価が付いている企業です。
例えば、AI関連企業、半導体関連企業、まだ利益が少ない成長企業、赤字でも将来性を評価されている企業、非常に高いPERで取引されている企業などです。
こうした企業の価値は、遠い将来の利益を大きく期待して計算されています。
そのため金利が上昇すると、その将来利益の現在価値が低下しやすくなります。
これは「AIが成長しなくなる」という話とは違います。
AI産業が大きく成長したとしても、金利が高くなれば「その成長に対して今いくらまで払えるのか」という株価の基準が変わります。
企業の将来性が変わらなくても、株価の評価方法が変わる可能性があるのです。
AIの成長そのものが金利上昇につながる可能性もあります
ここには少し興味深い問題があります。
AI産業は、今後さらに大きく成長すると考えられています。
しかし、その成長には非常に多くのお金が必要です。
大規模なデータセンターを建設しなければなりません。
高性能な半導体も大量に必要です。電力供給設備、送電網、冷却設備、土地なども必要です。
そのためAI関連企業は今後、世界でも最大級の資金需要を生み出す可能性があります。
一方で、各国政府も大量の資金を必要としています。
高齢化による社会保障費、防衛費、インフラ更新、エネルギー政策、半導体支援、子育て政策と、支出は増える一方です。
政府が十分な税収だけでこれらをまかなえなければ、国債を発行することになります。
すると世界では、政府もお金を必要とする、AI企業もお金を必要とする、一般企業もお金を必要とする、不動産事業者もお金を必要とする、投資ファンドもお金を必要とする、という状況になります。
言い換えると、世界中で同じ資金を取り合うことになるわけです。
これは2010年代の環境とはかなり違います。
当時は、中央銀行が大量の資金を市場に供給する一方で、企業の設備投資などは今ほど強くありませんでした。
お金が多く、投資先が少ない状態でした。
ところが今後、必要とされる資金の方が、安く提供できる資金より多くなるようであれば、当然、金利は高くなりやすくなります。
AI産業が成長すればするほど大量の資本が必要となり、その資金需要が金利を押し上げる。
そして高くなった金利が、結果的にAI企業の株価評価を押し下げる。
そのような少し皮肉な関係が生まれる可能性もあります。
日本の金利上昇は米国株とも無関係ではありません
日本の国債金利の話は、日本国内だけで終わるとは限りません。
日本の生命保険会社、銀行、年金基金などは、長い間、海外にも巨額の資金を投資してきました。
その理由の一つは、日本国内の債券では十分な利回りを得にくかったからです。
そこで米国債など、海外の債券にも資金を振り向けてきました。
しかし、日本国債で十分な利回りを得られるようになれば、「為替変動のリスクを負ってまで海外債券を買う必要があるのか」という判断が出てきます。
もし日本の投資家が海外債券への投資を少し減らし、国内債券へ資金を戻すようになれば、海外の債券市場にも影響が及ぶ可能性があります。
特に世界最大の債券市場である米国では、国債の発行額そのものが非常に大きくなっています。
その一方で、海外投資家の購入が弱くなれば、国債を買ってもらうために、より高い利回りが必要になるかもしれません。
米国の長期金利が高止まりすれば、米国株にも影響します。
特に、成長期待によって高いPERが付いている巨大テクノロジー企業やAI関連企業にとっては、金利の上昇は大きな問題になります。
つまり、日本の金利上昇は「国内国債の問題」だけではなく、「世界の資金の流れが変わる問題」として考える必要があるのです。
国債が民間の資金を吸い上げる可能性もあります
政府が大量に国債を発行することにも注意が必要です。
国債を発行すれば、誰かがその国債を買います。
生命保険会社かもしれません。
銀行かもしれません。
年金基金かもしれません。
個人投資家かもしれません。
いずれにしても、そのお金が国債へ向かえば、ほかの投資先へ回るお金は減ります。
例えば、ある投資家が1億円を持っていたとします。
以前であれば、そのうち5,000万円を株式、3,000万円を社債、2,000万円を現金としていたかもしれません。
ところが国債の利回りが大きく上昇すれば、国債4,000万円、株式3,000万円、社債2,000万円、現金1,000万円という配分に変えることも考えられます。
国債が投資資金を吸収することで、株式や民間企業への資金供給が弱くなる。
この現象は「クラウディングアウト」と呼ばれます。
言葉は難しく聞こえますが、考え方は単純です。
政府が大量のお金を借りることで、民間企業が使える資金の一部が政府へ向かってしまうということです。
これが世界のさまざまな国で同時に起きれば、資金の取り合いはさらに激しくなります。
本当に怖いのは「資金移動」ではなく「信用収縮」です
ここまでは、主にお金の置き場所が変わる話をしてきました。
株式から国債へ。
海外債券から国内債券へ。
高リスク資産から安全資産へ。
この段階では、お金そのものが消えているわけではありません。
しかし、金利上昇がさらに進むと、もう一段深刻な問題が出てきます。
それが「信用の縮小」です。
企業が銀行から1億円を借りるとします。
金利が1%なら、年間の利息は100万円です。
しかし金利が4%になれば、年間400万円です。
同じ1億円を借りていても、毎年300万円負担が増えます。
借入額が100億円なら、その差は3億円です。
多額の借金を抱えている企業ほど、金利上昇の影響は大きくなります。
すると、借金の多い企業の利益が減る。返済が苦しくなる。
一部では返済できない企業が出てくる。
銀行や投資ファンドが貸し出しに慎重になる。
新しい融資が減る。企業が設備投資を減らす。
買収や新規事業も減る。
景気が弱くなる。という流れが生まれます。
ここまで来ると、単なる「株から国債への資金移動」とは意味が違ってきます。
銀行融資などを通じて作り出されていた信用そのものが減っていくからです。
これが本当の意味での流動性縮小です。
プライベートクレジットにも注意が必要です
近年、銀行以外から企業へ資金を貸す仕組みが世界的に大きくなっています。
銀行から借りるのではなく、投資ファンドなどから企業が直接お金を借りる仕組みです。
こうした市場は、低金利時代に急速に拡大しました。
投資家は高い利回りを求め、ファンドは企業へ積極的に貸し出しました。
しかし金利が上昇すると、借り手企業の負担も大きくなります。
すると、企業の返済能力が低下する。
貸し倒れが増える。
投資家がファンドから資金を引き出そうとする。
ファンドは新しい貸し出しを減らす。
企業が資金を借りにくくなる。という逆回転が起きる可能性があります。
この段階になると、株式市場への影響も一段と大きくなります。
企業の利益が減るだけでなく、「お金を借りにくくなる」からです。
私は、今後の市場を見るうえで、金利が高くなっているかどうかだけではなく、企業がお金を借りられる状態が続いているかを見ることが非常に重要だと思います。
金利上昇には段階があります
この流れは、いくつかの段階に分けて考えるとわかりやすくなります。
最初の段階では、国債の利回りが上昇します。すると投資家は、「株式だけでなく国債も持とう」と考えます。
これは資産配分の変化です。
次に、企業の借入金利や社債金利が上昇します。
企業の利払い負担が増えます。
その後、返済が苦しくなる企業が増えれば、銀行やファンドが融資に慎重になります。
ここまで進むと、信用そのものが縮小します。
ですから、第一段階は「資金の行き先が変わる」、第二段階は「資金を借りにくくなる」と考えるとわかりやすいと思います。
株式市場にとって本当に危険なのは、第二段階まで進んだときです。
今はまだ「資産配分の見直し」の段階かもしれません
現在の状況を考えると、まだ世界中で金融システムが止まっているわけではありません。
銀行融資も行われています。
企業も社債を発行しています。
株式市場にも大量の資金があります。
ですから、「金利が上昇したので、すぐ金融危機になる」と考える必要はありません。
むしろ現在は、国債にも十分な利回りが戻ってきたので、投資家が資産配分を見直し始める段階と考えた方がよいでしょう。
ただし今後、国債金利の急上昇、企業の借入金利上昇、社債市場の悪化、貸し倒れの増加、銀行の融資姿勢の厳格化、投資ファンドからの資金流出などが同時に起き始めれば、状況は変わります。
その段階では、「金利が高い」という話から「お金を貸してもらえない」という話へ変わります。
そこが大きな分岐点になると思います。
それでも「金利上昇=株価暴落」ではありません
ここまで読むと、「それなら株価は下がるしかないのではないか」と思うかもしれません。
しかし、必ずしもそうではありません。
株価は企業利益×PERで考えることができます。
確かに金利が上昇すればPERには下落圧力がかかります。
しかし企業利益が大きく増えれば、PERが低下しても株価は上昇できます。
例えば、ある会社の利益が100円でPER25倍なら、100円×25倍=2,500円です。
金利上昇によってPERが20倍まで下がったとすると、普通なら株価は100円×20倍=2,000円へ下がります。
しかし企業利益が150円まで増えれば、150円×20倍=3,000円です。
PERは25倍から20倍へ低下しているのに、株価は2,500円から3,000円へ上昇しています。
つまり今後重要なのは、金利が上がるかどうかだけではありません。
企業利益がどれくらい増えるのか、その利益成長が金利上昇の悪影響を上回れるのかが重要になります。
「何を買っても上がる相場」ではなくなる可能性があります
この点から考えると、これから株式市場では企業ごとの差が大きくなる可能性があります。
低金利時代には、市場全体に大量のお金が流れ込むことで、多くの株が一緒に上昇することがありました。
企業の中身に多少問題があっても、「成長しそう」「将来性がある」という期待だけで買われることもありました。
しかし安全な国債から一定の利回りが得られるようになれば、投資家はより厳しく企業を選ぶようになります。
「この会社は本当に国債以上の収益を生み出せるのか」「借金が多すぎないか」「利益は本当に増えるのか」「高い株価に見合う成長ができるのか」という点が問われます。
その結果、株式市場全体が一緒に上昇する相場から、会社ごとの差が大きく出る相場へ変わっていく可能性があります。
金利上昇に弱い企業とは
一般的には、借金の多い会社ほど金利上昇に弱くなります。
借入金の金利が上昇すれば、利息負担が増えるからです。
また、現在は利益が少なく、将来の大きな成長を期待されている企業も影響を受けやすくなります。
さらに、不動産業などのように、多額の借入金を使って事業を行う業種も注意が必要です。
不動産投資信託なども、低金利の恩恵を受けやすい仕組みになっているため、金利の上昇は逆風になりやすいと考えられます。
買収を借金に頼っている企業や投資ファンドなども同じです。
低い金利でお金を借り、その資金で企業や不動産を買い、高い収益を得る。
この仕組みは借入金利が低いほど有利です。
金利が上昇すれば、当然、収益を出すことが難しくなります。
金利上昇が追い風になる企業もあります
一方で、金利上昇がすべての企業に悪いわけではありません。
代表的なのは銀行です。
銀行は預金者からお金を集め、それを企業などへ貸し出します。
長い間、日本では金利が非常に低かったため、貸出金利も低く、銀行は大きな利ざやを得にくい状態でした。
金利が正常な水準へ戻れば、銀行の貸出金利も上昇し、利益を増やせる可能性があります。
保険会社も、これから新しく運用するお金を、以前より高い利回りの国債へ投資できるようになります。
また、多くの現金を持っている会社であれば、預金や債券から得られる利息収入が増えることもあります。
借金が少なく、毎年安定した利益と現金を生み出している企業は、相対的に評価されやすくなる可能性があります。
つまり、高金利になれば株式全体が悪くなるというより、低金利で得をしていた企業から、金利正常化によって利益を得られる企業へ資金が移ると考える方がよいでしょう。
円相場にも変化が起きるかもしれません
日本の金利が上昇すれば、円相場にも影響する可能性があります。
これまで日本の投資家が海外へ多くの資金を投資していた理由の一つは、日本国内では十分な利回りを得られなかったことです。
もし国内の国債でも高い利回りを得られるようになれば、海外へ出ていた資金の一部が日本へ戻ることも考えられます。
その場合、円を買う動きが増える可能性があります。
もし円高が進めば、日本企業の中でも影響は分かれます。
自動車、機械、電機など、海外売上が多い企業にとって円高は一般的には逆風になります。
海外で稼いだドルを円に換算したときの利益が小さくなるからです。
一方、原材料や商品を海外から輸入している企業にとっては、円高によって仕入れ負担が軽くなる可能性があります。
食品、小売、航空などでは、円高が追い風になる場合があります。
この意味でも、金利正常化は、日本株全体を一方向へ動かすというより、日本株の中の勝者と敗者を変える可能性があると思います。
本当に怖いのは「金利上昇」と「利益減少」が同時に起きることです
株式市場にとって最も危険なのは、金利が3%になることそのものではありません。
本当に怖いのは、高い金利と景気悪化が同時に起こることです。
金利が上がればPERは下がりやすくなります。
さらに景気が悪くなり、企業利益まで減れば、PERの低下と利益の減少が同時に起こります。
例えば、利益100円×PER20倍=2,000円だった株があるとします。
景気悪化によって利益が80円へ減り、金利上昇によってPERも15倍へ低下すると、80円×15倍=1,200円になります。この場合、株価は大きく下落します。
つまり株式市場を見るとき、「金利がどこまで上がったか」だけを見ても不十分です。
同時に「企業利益が維持されているか」「倒産や貸し倒れが増えていないか」「銀行が企業へお金を貸し続けているか」を見る必要があります。
これまでの流れを一本につなげてみます
ここまでの話は、一つの流れとして考えることができます。
政府の借金が増える。
国債の発行額が増える。
国債を買ってもらうために金利が上がりやすくなる。
安全な国債の魅力が高まる。
株式へ向かう新しい資金が減る。
株式市場で認められるPERが低下する。
同時に企業の借入金利も上昇する。
企業利益が圧迫される。
借金の多い企業ほど苦しくなる。
銀行やファンドが貸し出しに慎重になる。
企業がお金を借りにくくなる。
設備投資やM&Aが減る。
経済活動が弱くなる。
企業利益が減る。
株価にさらに下落圧力がかかる。
このような流れです。
もちろん、必ずこの通りになるわけではありません。
途中でインフレが落ち着き、金利が低下するかもしれません。
企業利益が予想以上に増えるかもしれません。
政府が財政政策を変えるかもしれません。
中央銀行が政策を変更する可能性もあります。
しかし少なくとも、低金利と大量の資金供給を前提に株価が上昇してきた時代と、これからの時代は同じではないという点は、意識しておいた方がよいと思います。
「株式しか選択肢がない時代」が終わる意味は大きい
私は今回の変化の中で、最も重要なのはここだと思います。
これまでは、預金しても増えない、国債を持っても増えない、現金で持っていれば物価上昇によって価値が減る、それなら株式を持とう、という判断が広がりやすい環境でした。
ところが国債から3%前後の利回りを得られる世界では、投資家は毎回比較します。
「安全な国債を持てば一定の収益を得られる。それでも、この会社の株式を持つ価値があるのか」という比較です。
この問いに答えられる企業だけが、株式市場で高く評価されるようになります。
私はこれが、今後の株式市場における大きな構造変化になる可能性があると思います。
「金余りの終わり」は株価暴落だけを意味するわけではありません
「金余りが終わる」と聞くと、多くの人は株価暴落を想像するかもしれません。
しかし、本質は少し違うと思います。
金余りの終わりとは、ある日突然、株価が半分になることだけを意味するのではありません。
むしろ、高いPERが認められにくくなる、利益の出ていない企業が買われにくくなる、借金の多い企業が評価されにくくなる、国債や社債との比較が厳しくなる、企業の資金調達が以前より難しくなる、株式市場の中で勝ち負けがはっきりする、といった形で、ゆっくり表れる可能性があります。
その意味では、株式市場の値付けの基準そのものが変わると考えた方がよいでしょう。
今後は株価指数だけを見てもわからない時代になるかもしれません
これまでは日経平均株価やTOPIX、米国の主要株価指数を見るだけでも、市場のおおまかな状態をつかむことができました。
しかし、これからは指数だけを見ると、市場内部の変化を見逃す可能性があります。
一部の大型企業だけが株価指数を押し上げる一方で、中小型株は下落しているかもしれません。
AI関連株は高値を維持していても、不動産株や小型成長株はすでに下落しているかもしれません。
そのため今後は、株価だけでなく、長期国債の金利、超長期国債の金利、企業が社債を発行するときの金利、銀行の貸し出し姿勢、企業倒産の増減、投資ファンドの資金流出入、企業の利益成長率、市場全体のPERなどを一緒に見ていく必要があると思います。
特に注意したいのは、金利上昇が資産配分の変化だけで終わるのか、それとも信用収縮にまで進むのかという点です。
前者であれば、株式市場には逆風となっても、企業利益が増えていれば株価は十分に上昇できます。
しかし後者になれば、企業利益そのものが悪化しやすくなり、株式市場への影響はかなり大きくなります。
今後の株式市場は「企業の実力」がより重要になります
これからの株式市場を一言で表すなら、「お金が余っているから株価が上がる市場」から「企業が本当に利益を出せるかによって株価が決まる市場」へ変わる可能性があります。
これは投資家にとって、必ずしも悪いことではありません。
本来、株式投資とは企業の利益や成長力を見て行うものだからです。
金利がほとんど存在しない世界では、将来性だけで非常に高い株価が付くことがありました。
しかし金利が正常化すれば、その会社は本当に利益を増やせるのか、借金は多すぎないか、十分な現金を生み出しているか、価格を上げても商品が売れる力があるか、高い金利を払っても投資する価値のある事業を持っているか、といった、会社そのものの力がより重要になります。
まとめ
日本の長期金利が上昇していることは、単に住宅ローンや国債の話だけではありません。
株式市場の資金の流れにも大きく関係しています。
安全な国債から十分な利回りを得られるようになれば、株式はこれまで以上に厳しい競争にさらされます。
これまで株式へ流れ込んでいた資金の一部が、国債へ向かう可能性があります。
また、金利上昇そのものが株式のPERを押し下げる方向にも働きます。
さらに金利上昇が長く続けば、企業の借入負担が増え、銀行や投資ファンドが融資に慎重になり、本格的な信用収縮へ進む可能性もあります。
ただし、金利が上がれば必ず株価が下がるという単純な話ではありません。
企業利益が十分に増えていれば、PERが低下しても株価は上昇できます。
だからこそこれから重要になるのは、「株価が上がるか下がるか」だけではなく、その会社の利益成長が上昇する資本コストを上回れるのか、という視点です。
これまでの市場では、「金利が低いから株式を持つ」という理由がかなり大きな意味を持っていました。
これからは、「安全な国債でも一定の利回りを得られる。それでも、この企業の株式を持つ価値があるのか」という比較が、今まで以上に重要になります。
その結果、株式市場全体のPERは以前ほど簡単には上昇しなくなり、企業ごとの株価格差も大きくなるかもしれません。
つまり「金余りの終わり」は、必ずしも一度の大暴落として表れるとは限りません。
むしろ、株式市場の値段の付け方そのものが変わっていくという形で表れる可能性があります。
私は、この変化こそ、これから数年間の日本株や米国株を見るうえで非常に重要なテーマの一つになるのではないかと考えています。
今後は株価だけを見るのではなく、長期金利、企業利益、企業の借入環境、社債市場、信用市場などを合わせて見ることが、これまで以上に重要になっていくと思います。
*本記事は筆者の個人的な見解を整理したものであり、特定の銘柄や投資行動を推奨するものではありません。
投資判断はご自身の状況を踏まえ、最新の市場動向をご確認のうえ、慎重にご検討ください。






