従業員用の借り上げ社宅を用意するときの税務|家賃の決め方と賃貸料相当額の計算方法
事業所や営業所を新しく開設すると、それに合わせて従業員を採用することがあります。
特に、遠方から従業員を採用する場合には、会社が民間のアパートやマンションを借りて、従業員の社宅として提供することもあるでしょう。
いわゆる「借り上げ社宅」です。
たとえば、新しく2か所の事業所を開設し、その近くにあるアパートの数室を会社名義で借りて、新しく採用した従業員に住んでもらうようなケースです。
このような場合に会社として確認しておきたいのが、税務上の「賃貸料相当額」です。
「会社が大家さんに支払っている家賃の半分を従業員から受け取ればよいのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、一般の従業員に対する社宅については、必ずしもそのような計算になるわけではありません。
税務上は、建物や土地の「固定資産税の課税標準額」(固定資産税を計算するときのもとになる、市区町村が決めた不動産の評価額のことです。
実際に支払う固定資産税の金額そのものではありません)などを使って賃貸料相当額を計算し、その金額を基準に給与として課税されるかどうかを判断します。
会社が所有している社宅だけでなく、不動産会社や大家さんから借りた住宅を従業員へ貸す「借り上げ社宅」についても、この考え方が基本になります。
今回は、次のような点を、できるだけ分かりやすく説明します。
・借り上げ社宅の賃貸料相当額とは何か
・アパートの複数の部屋を借りた場合はどう計算するのか
・新築で固定資産税の課税標準額がまだ決まっていない場合はどうするのか
・部屋によって条件が違う場合はどう考えるのか
・固定資産税の課税標準額が変わった場合はいつから計算を変えるのか
一つずつ、順番に見ていきましょう。
そもそも「賃貸料相当額」とは?
「賃貸料相当額」という言葉は少し分かりにくいのですが、簡単にいえば、従業員に社宅を貸すときに、税務上の基準として計算する家賃と考えると分かりやすいでしょう。
一般の不動産市場でいう「家賃相場」とは違います。また、会社が大家さんへ実際に支払っている月額家賃とも違います。
一般の従業員に社宅や寮などを貸す場合、1か月当たりの賃貸料相当額は、原則として次の3つの合計額で計算します。
①その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
②12円 × 建物の総床面積(㎡)÷ 3.3㎡
③その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
この①+②+③が、一般の従業員についての1か月当たりの賃貸料相当額です。
なお、この算式は、貸している住宅の床面積の大小にかかわらず、一般の従業員に貸与する住宅であれば適用されます。
「広い部屋だから別の計算式になるのでは」と迷う必要はありません(面積によって計算方法が分かれるのは、後述する役員社宅の場合です)。
「固定資産税の課税標準額」と固定資産税の税額は別のものです
ここは、初めて社宅の計算をするときに混乱しやすいところですので、少し丁寧に説明します。
計算に使うのは、「この物件の固定資産税は年間いくらですか?」という、固定資産税そのものの金額ではありません。
国税庁の質疑応答事例では、社宅の賃貸料相当額の計算に用いる固定資産税の課税標準額について、原則として、1月1日時点における固定資産の価格として固定資産課税台帳に登録されているもの、と説明されています。
借り上げ社宅では会社が建物や土地の所有者ではないため、会社の手元にこの情報がないことがあります。
その場合には、賃貸人や不動産管理会社などに、社宅の税務計算に必要であることを説明し、確認できる資料があるかどうか相談するとよいでしょう。
アパートの複数の部屋を借り上げた場合はどうする?
それでは、会社が同じアパートの複数の部屋を借り上げる場合を考えてみましょう。
たとえば、会社が101号室、102号室、201号室を借り、それぞれ別の従業員に社宅として貸すケースです。
このような場合、一棟全体についての固定資産税の課税標準額は確認できても、「101号室に対応する課税標準額はいくら」というように、会社が借りている各室だけの数字が分かれていないことがあります。
この場合には、建物全体の固定資産税の課税標準額などを基に賃貸料相当額を計算したうえで、会社が実際に貸している部分に対応する金額を、合理的な方法で振り分けて(これを「按分」といいます)計算するという考え方になります。
所得税基本通達36-42では、一棟の建物の一部分を貸している場合など、貸している部分以外を含んだ固定資産税の課税標準額しかないケースについて、建物全体などをもとに求めた賃貸料相当額を、その建物や土地の状況に応じて合理的に按分して計算することが示されています。
なお「通達」とは、国税庁が実務上の取扱いをまとめて示している指針のことです。
部屋の条件が同じような場合は「専用面積」で按分すると分かりやすい
各部屋の広さ以外の条件がおおむね同じであれば、専用面積の割合によって按分する方法が分かりやすいでしょう。
たとえば、次のような計算です。
各室の賃貸料相当額 = アパート1棟について計算した賃貸料相当額 × 各室の専用面積 ÷ アパート全体の専用面積
ただし、ここで注意しておきたいことがあります。
税務上、必ずこの「専用面積の割合」だけで計算しなければならない、と決められているわけではありません。
所得税基本通達が求めているのは、建物や土地の状況に応じた「合理的な按分」です。
したがって、専用面積による按分は、各部屋の条件がおおむね同じ場合に採用しやすい、分かりやすい方法の一例と考えるのがよいでしょう。
具体例で考えてみましょう
たとえば、アパート全体について計算した1か月当たりの賃貸料相当額が12万円だったとします。
アパート全体の専用面積が600㎡で、従業員Aさんに貸している部屋の専用面積が30㎡だったとします。
各部屋の条件に大きな違いがなく、専用面積による按分が合理的と考えられる場合には、
12万円 × 30㎡ ÷ 600㎡ = 月額6,000円
という計算になります。
ここで、「実際には大家さんへ月7万円を払っているのに、税務上の賃貸料相当額が6,000円になることがあるのですか?」と思われるかもしれません。
賃貸料相当額は、市場の家賃相場を求める計算ではなく、従業員への社宅貸与による経済的利益(お金そのものではなく、住まいを安く提供してもらうことによって得られる利益のことです)を税務上判定するための基準額です。
そのため、会社が大家さんへ実際に支払っている家賃とは異なる金額になることがあります。
部屋によって日当たりや使い勝手が大きく違う場合は?
同じアパートでも、部屋の条件がすべて同じとは限りません。
たとえば、次のようなケースです。
・角部屋と中部屋で条件が大きく違う
・日当たりや採光に大きな差がある
・部屋によって間取りが違う
・一部の部屋だけ設備や利用条件が大きく異なる
このような場合には、単純に面積だけで按分すると、必ずしも実態に合った計算にならない可能性があります。
所得税基本通達では「その建物又は土地の状況に応じて合理的にあん分」することとされていますので、部屋ごとの状況に大きな違いがあるときには、それらの違いを踏まえた合理的な按分方法を検討することになります。
大切なのは、「なぜこの割合で計算したのかを、後から説明できるようにしておくこと」です。
新築アパートで固定資産税の課税標準額がまだない場合
新しい事業所を開設するときには、新築されたばかりのアパートを借りることもあるでしょう。
その場合、「賃貸料相当額を計算したいのに、まだ固定資産税の課税標準額が決まっていない」ということがあります。
この場合にも税務上の取扱いが定められていますので、安心してください。年の途中で新築された住宅など、固定資産税の課税標準額がまだ定められていない場合には、その住宅と状況が似ている住宅などについての固定資産税の課税標準額に比準する価額をもとにして計算することとされています。
分かりやすくいえば、新築だから計算をしなくてよいのではなく、その住宅と状況の似ている住宅などを参考にして、合理的な金額を基に計算するということです。
実務上は、後から計算根拠を確認できるよう、次のようなことを記録しておくとよいでしょう。
・どのような住宅を参考にしたのか
・どのような資料を基にしたのか
・どのように賃貸料相当額を計算したのか
これは「この形式の書類を必ず作らなければならない」という意味ではなく、後日、計算根拠を説明しやすくするための実務上の対応です。
従業員からいくら家賃を受け取れば給与課税されない?
一般の従業員に社宅を貸した場合、会社が従業員から受け取っている家賃が、税務上計算した賃貸料相当額の50%以上であれば、原則として社宅の貸与による経済的利益はないものとして取り扱われます。
たとえば、税務上の賃貸料相当額が月1万円だったとします。
従業員から月6,000円を受け取っている場合は、1万円の50%である5,000円以上ですので、原則として社宅を安く利用していることによる給与課税(給与を受け取ったのと同じように所得税がかかることです)は行われません。
一方、月3,000円しか受け取っていない場合には、50%未満です。
この場合は、原則として、1万円-3,000円=7,000円が給与として課税されます。
無料で貸した場合には、原則として賃貸料相当額そのものが給与として課税されます。
「大家さんへ払う家賃の50%」ではありません
ここは特に間違えやすいところですので、あらためて確認しておきましょう。
たとえば、会社が大家さんへ支払う実際の家賃が月80,000円、税務上計算した賃貸料相当額が月10,000円だったとします。
一般の従業員について50%基準を判断するときに使うのは、会社が支払う8万円ではなく、税務上の賃貸料相当額である1万円です。
したがって、この例では税務上の50%基準は、10,000円 × 50% = 5,000円となります。
会社の福利厚生制度として「家賃の半分を会社が負担する」と決めることと、税務上の「賃貸料相当額の50%」という基準は、別の話です。この2つを混同しないようにしましょう。
住宅手当と借り上げ社宅は税務上の扱いが違います
会社が借主となって住宅を借り、従業員に社宅として貸す場合と、従業員本人が借りた住宅について会社が住宅手当を支給する場合とでは、税務上の取扱いが異なります。
国税庁は、現金で支給される住宅手当や、従業員が直接契約している住宅について会社が家賃を負担する場合には、社宅の貸与としての取扱いではなく、原則として給与として課税するとしています。
そのため、借り上げ社宅制度を導入するときには、「誰が賃貸借契約の借主になっているのか」についても確認しておく必要があります。
固定資産税の課税標準額が変わったら、いつから計算し直す?
固定資産税の課税標準額は、一度決まったら永久に同じというわけではありません。
課税標準額が改訂された場合、所得税基本通達36-42では、原則として、改訂後の課税標準額に係る固定資産税の第1期の納期限がある月の翌月分から、新しい課税標準額を基に賃貸料相当額を計算することとされています。
たとえば、新しい課税標準額に基づく固定資産税の第1期の納期限が4月にある場合には、原則として5月分から新しい課税標準額を使う、という考え方です。
ただし、一般の従業員に貸している社宅については、課税標準額が改訂されても、新しい課税標準額の増減が現在計算の基礎としている課税標準額と比べて20%以内であれば、従来の課税標準額を引き続き使用して差し支えないという取扱いがあります。
そのため、一度計算した社宅家賃を何となく毎年そのまま使うのではなく、評価の変更があったときには、再計算が必要かどうかを確認しておくと安心です。
役員社宅は別のルールなので注意しましょう
ここまで説明してきたのは、基本的に一般の従業員に貸す社宅についての取扱いです。
社長や取締役などの役員に社宅を貸す場合には、同じ計算をそのまま当てはめられません。
役員社宅については、まず住宅の床面積が一定の基準(木造家屋は132㎡以下、それ以外の家屋は99㎡以下)に収まる「小規模住宅」に該当するかどうかで、計算方法そのものが変わります。
小規模住宅に該当する場合は、本記事で説明した①②③と同じ算式を使いますが、該当しない場合には、会社所有か借り上げかによって別の算式(固定資産税の課税標準額に一定の率を掛けたものを基準にする方法など)を用います。
また、いわゆる豪華社宅に当たらないかどうかも確認が必要です。
このように、役員社宅は床面積を含めた複数の要素で計算方法が枝分かれする、やや複雑な仕組みになっています。
「従業員の借り上げ社宅と同じ計算で、社長の社宅家賃も決めておこう」という処理は避け、役員社宅については別途あらためて確認するようにしましょう。
実務では計算根拠を残しておくと安心です
借り上げ社宅を導入するときには、税務上の賃貸料相当額を後から確認できるようにしておくことが大切です。
たとえば、実務上は次のような資料を物件ごとに整理しておくと分かりやすいでしょう。
・賃貸借契約書
・建物と土地の固定資産税の課税標準額を確認した資料
・建物全体の床面積
・各部屋の専用面積
・賃貸料相当額の計算表
・各部屋への按分方法とその計算根拠
・従業員から毎月受け取る社宅家賃
・社宅規程や入居に関する社内ルール
なお、これらがすべて税法上決められた必須書類という意味ではありません。
大切なのは、「なぜこの従業員の社宅家賃がこの金額になっているのか」を後から説明できるようにしておくことです。
特に複数の事業所で社宅を用意する会社では、物件ごとの計算表を作っておくと、担当者が交代したときにも確認しやすくなります。
まとめ|まず「税務上の賃貸料相当額」を計算してから社宅家賃を決めましょう
会社が新しい事業所を開設し、新しく採用した従業員のために民間アパートの複数の部屋を借り上げる場合には、会社が大家さんへ支払う実際の家賃だけではなく、税務上の「賃貸料相当額」を確認することが重要です。
一般の従業員については、床面積の大小にかかわらず、建物や土地の固定資産税の課税標準額と床面積を使って、1か月当たりの賃貸料相当額を計算します。
一棟のアパートのうち一部の部屋を社宅として利用していて、それぞれの部屋に対応する課税標準額が分かれていない場合には、一棟全体の数字から求めた賃貸料相当額を、建物や土地の状況に応じて合理的に按分します。
各部屋の条件がおおむね同じであれば、専用面積による按分は分かりやすい方法の一つです。
ただし、「必ず専用面積だけで按分しなければならない」というものではありません。
部屋ごとの採光、間取り、利用条件などに大きな違いがある場合には、実態に応じた合理的な按分方法を検討することになります。
また、新築されたばかりで固定資産税の課税標準額がまだ定められていない住宅については、その住宅と状況の似ている住宅などの固定資産税の課税標準額に比準する価額を基に計算します。
そして、一般の従業員から税務上の賃貸料相当額の50%以上を家賃として受け取っていれば、原則として社宅貸与による経済的利益はないものとして取り扱われます。
借り上げ社宅は、従業員の住居を確保しやすくし、採用や転勤を支える制度として活用できます。
一方で、税務上は「会社が実際にいくらの家賃を払っているか」だけでは判断しない、という点が重要です。
社宅制度を始めるときには、次のような順番で整理していくと安心です。
・固定資産税の課税標準額を確認できるか
・税務上の賃貸料相当額はいくらになるか
・複数の部屋へどのように按分するか
・従業員からいくら受け取るか
・その計算根拠を後から説明できるか
一つずつ確認していけば、決して難しい手続きではありません。
なお、この記事は2026年8月10日時点で確認した国税庁の公表情報および所得税基本通達を基に作成しています。
実際の計算は、物件の所有形態、契約内容、固定資産税の課税標準額、利用状況などによって個別の確認が必要になる場合があります。
特に新築物件や按分方法の判断に迷うケース、役員に貸与するケースについては、税務署へ確認したうえで処理することをおすすめします。






