NISA・iDeCoで貯めたお金をどう使う?老後の「取り崩し」を考える
NISAやiDeCoを使って、老後のために少しずつ資産を準備する。
ここまではイメージできても、その先についてはあまり考えたことがない人も多いのではないでしょうか。
老後を迎えたら、それまで積み立ててきたお金を使う時期に入ります。
そこで出てくるのが、
「毎年いくら使えばいいのだろう」
「運用はやめたほうが安心なのだろうか」
「長生きして、お金が途中でなくなったらどうしよう」
という新しい悩みです。
実は老後のお金では、どう貯めるかだけでなく、どう使っていくかも大切です。
今回は、老後資金を長く使っていくための基本的な考え方を整理してみます。
老後のお金で難しいのは「何歳まで必要かわからない」こと
老後資金について考えるとき、まず知っておきたいのが「寿命は事前にはわからない」という問題です。
たとえば65歳の時点で3,000万円を持っていたとします。
毎年120万円ずつ使えば、単純計算では25年間使えます。
90歳ごろまでなら足りそうです。
しかし、95歳、100歳と長生きした場合はどうでしょうか。
もちろん、公的年金がありますから、生活費のすべてを3,000万円から出すわけではありません。
それでも、「このペースで使い続けて大丈夫だろうか」という不安は残ります。
老後資金には、住宅や車のように「いつまでにいくら必要」と決めにくい特徴があります。
だからこそ、単純に貯金を少しずつ減らしていくだけではなく、長生きした場合も含めて、お金の使い方を考えておくことが大切になります。
老後を支える方法は、自己資金と公的年金の2つに分けて考える
老後のお金を考えるときは、大きく2つの支えに分けると整理しやすくなります。
ひとつは、NISAやiDeCo、預貯金など、自分で準備した資産です。
もうひとつが公的年金です。
自分で準備した資産については、公的年金だけでは足りない生活費を補うために、少しずつ取り崩して使う方法があります。
一方、公的年金には「繰下げ受給」という選択肢があります。
老齢基礎年金や老齢厚生年金は原則65歳から受け取りますが、受け取り始める時期を遅らせることで、受給額を増やすことができます。
現在の制度では、1か月繰り下げるごとに0.7%増え、70歳まで5年間繰り下げれば42%増となります。
条件を満たす人は75歳まで繰り下げることができ、その場合の増額率は最大84%です。
増えた割合は、その後の年金にも続きます。
ただし、すべての人が75歳まで繰り下げられるわけではなく、年齢や他の年金の受給状況などによって扱いが異なる場合があります。
また、繰下げによって税金や社会保険料などに影響が出ることもあります。
たとえば、配偶者がいる方に上乗せされる加給年金がある場合、老齢厚生年金を繰り下げている間はその加算を受け取れなくなるため、繰下げがかえって不利にはたらくケースもあります。
そのため、実際に選ぶときには、自分の年金額や条件を確認することが大切です。
考え方としては、年金を65歳ごろから受け取り、自己資金をゆっくり取り崩す方法もあれば、自己資金を先に使い、その間は年金を繰り下げる方法もあります。
もちろん、どちらか一方だけを選ばなければならないわけではありません。
老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給時期を分けるなど、組み合わせることも可能です。
大切なのは、「どの方法が一番得か」だけで決めないことです。
健康状態や生活費、手元資金、家族構成などによって、安心できる方法は変わります。
老後になったら、投資を全部やめるべきなのか
もうひとつ考えたいのが、老後も資産運用を続けるかどうかです。
「退職したら投資は危ないから、全部預金にしたほうがいいのでは」と考える人もいるかもしれません。
確かに、近いうちに生活費として必要になるお金まで、値動きの大きな資産にしてしまうのは注意が必要です。
一方で、65歳から先の人生が20年、30年と続くことを考えると、老後だからといってすべての資産を一度に現金にすることだけが選択肢ではありません。
一部を預貯金として確保しながら、残りを株式や債券などに分散して運用し、必要な分だけ少しずつ取り崩す方法もあります。
長期・分散という考え方を使えば、値動きを抑えながら資産を運用していくことはできます。
ただし、分散すれば損をしないわけではありません。
投資商品には元本割れの可能性があります。
そのため、老後も運用を続ければ必ず資産が増えるという話ではありません。
運用を続けることで、預金だけで取り崩す場合より資産を長く使える可能性がある一方、相場によって資産額が減ることもあります。
その両方を知ったうえで、自分に合った割合を考える必要があります。
毎年同じ金額を使う「定額取り崩し」には弱点がある
資産を取り崩す方法として、最もわかりやすいのが「毎年100万円」のように、決まった金額を使う方法です。
これを定額取り崩しと考えてみましょう。
生活する側から見ると非常にわかりやすい方法です。
毎年使える金額が決まっているので、家計の計画も立てやすくなります。
ただし、運用しながら取り崩す場合には注意点があります。
特に問題になりやすいのが、老後に入ってすぐ大きな相場下落が起きるケースです。
たとえば毎年100万円を取り崩すとします。
資産価格が高いときなら、100万円を作るために売る投資信託の量は少なくて済みます。
ところが価格が大きく下がっているときには、同じ100万円を作るために、より多くの量を売らなければなりません。
ここが積立投資との大きな違いです。
積立中なら、値下がりしたときに同じ金額で多く買えることがあります。
しかし取り崩し中は反対です。
値下がりしているときほど、多く売ることになってしまうのです。
そして一度たくさん売ってしまえば、その後相場が回復しても、手元に残っている投資資産は少なくなっています。
そのため、回復の恩恵を十分に受けられない可能性があります。
このように、同じような平均的な運用成績だったとしても、「値上がりと値下がりがどの順番で起きたか」によって、取り崩し後の結果が変わることがあります。
これを、取り崩しを始める時期に運用成績が悪かったせいで資産が想定より早く目減りしてしまう「シーケンスリスク」と呼びます。
特に注意したいのが、取り崩しを始めて間もない時期の大きな下落です。
老後の前半で資産を大きく減らしてしまうと、その後の運用に回せる資産そのものが少なくなるからです。
「定率取り崩し」なら、下落時の売りすぎを抑えやすい
そこで考えられるのが、毎年同じ「金額」を使うのではなく、資産の一定「割合」を取り崩す方法です。
たとえば、「毎年、年初の資産額の3%を取り崩す」と決める方法です。
これを定率取り崩しと考えてみましょう。
仮に年初の資産が3,000万円なら、3%は90万円です。
翌年、相場が下落して資産が2,400万円になった場合、3%なら72万円になります。
使える金額は減ります。
しかし、その代わりに相場が悪いときに大量の資産を売ることを避けやすくなります。
反対に、運用が順調で資産が増えている年には、取り崩せる金額も増えます。
つまり定率取り崩しは、資産が減っているときは取り崩す金額も小さくし、増えているときは多めに取り崩すという仕組みです。
そのため、定額取り崩しに比べると、相場が下落しているときに多くの資産を売ってしまう影響を抑えやすくなります。
ただし、定率取り崩しをすれば資産が守られる、という意味ではありません。
投資している資産そのものが大きく値下がりすれば、資産残高は減ります。
また、3%や4%といった特定の割合なら必ず安全、というものでもありません。
実際の結果は、運用成績や資産配分、物価上昇、取り崩す期間などによって変わります。
大切なのは割合そのものよりも、相場が大きく下がっているときに、無理をして同じ金額を売り続けないという考え方です。
定率取り崩しにも「生活費が安定しない」という悩みがある
定率取り崩しには弱点もあります。
それは、毎年使える金額が変わることです。
先ほどの例では、3,000万円の3%なら90万円だったものが、2,400万円になると72万円に減りました。
運用資産を長く残すという面では意味があっても、「今年は相場が下がったので、生活費を18万円減らしてください」と言われても困ります。
電気代や食費、家賃などは、株価に合わせて簡単に減らせるわけではありません。
そこで現実の老後生活では、投資資産だけですべてを解決しようとしないことが大切です。
たとえば、ある程度の生活費を預貯金として持っておく方法があります。
相場が大きく下がった年には、投資資産をいつもと同じように売るのではなく、預貯金から不足分を補います。
反対に相場が好調で多めに取り崩せた年は、全部使わずに一部を現金として残しておくこともできます。
また、生活費そのものを、「毎月必ず必要なお金」と「旅行や趣味など、少し調整できるお金」に分けておくのも一つの考え方です。
相場が悪い年には、調整できる支出を少し抑える。
こうすれば、生活の安心を守りながら、値下がりした資産を無理に売ることも減らしやすくなります。
公的年金を「長生きへの備え」として考える方法もある
ここで再び公的年金について考えてみましょう。
自分の資産だけで老後を乗り切ろうとすると、「100歳まで生きたら、いくら残しておけばいいのだろう」という問題から逃れにくくなります。
そこで、公的年金の受給開始を繰り下げ、毎月受け取る年金額を増やすという考え方があります。
公的年金は、原則として生涯にわたって受け取る仕組みです。
そのため、自分が何歳まで生きるかわからないという不安への備えのひとつとして考えることができます。
たとえば65歳から70歳まで年金を繰り下げる場合、その間の生活費の一部を自己資金でまかないます。
自己資金を「一生少しずつ使うお金」とだけ考えるのではなく、年金を受け取り始めるまでの橋渡しとして使うわけです。
その後は、繰下げによって増えた年金が生活収入の土台になります。
こうした方法なら、長く生きたときにも毎月受け取れる収入を増やす方向に、自己資金を活用できます。
ただし、繰下げ受給がすべての人に向いているわけではありません。
65歳以降すぐに年金が必要な人もいますし、先ほど触れた加給年金のように、繰下げがかえって不利にはたらく人もいます。
健康状態、働き方、預貯金の額、家族の状況によっても判断は変わります。
また、年金額が増えることで税金や社会保険料などが変わる場合もあるため、額面の年金額だけではなく、実際の手取りも考える必要があります。
「繰り下げれば必ず得」と考えるのではなく、自己資金と年金をどう組み合わせれば、自分が安心して暮らせるかという視点で考えることが大切です。
70代、80代まで複雑な運用を続けなくてもいい
老後の資産運用では、もうひとつ考えておきたいことがあります。
それは、年齢とともに管理を簡単にすることです。
65歳では問題なくできていた運用管理が、80歳になっても同じようにできるとは限りません。
毎年資産額を確認して、取り崩し率を計算して、相場に合わせて生活費を調整する。
理屈としては合理的でも、年齢を重ねるほど負担になる可能性があります。
そこで、老後の前半と後半で方法を変えるという考え方があります。
たとえば老後の前半は、相場が大きく下がったときに取り崩し額を減らすなど、資産を急激に減らさないことを少し意識します。
ある程度年齢を重ねたら、預貯金の割合を増やしたり、毎月決まった金額を使ったりして、仕組みを簡単にしていく方法もあります。
何歳から変えるべきかに、一律の正解はありません。
自分自身で管理しやすいか。
家族にも仕組みがわかるか。
万一、自分で判断することが難しくなったときにも困らないか。
こうした視点も大切になります。
最初から最後まで同じ方法にする必要はありません。
お金をできるだけ増やすことだけでなく、自分や家族が無理なく管理できる仕組みにしておくことも、老後資金では大切です。
まとめ|老後資金は「いくら貯めるか」と「どう使うか」をセットで考える
NISAやiDeCoで資産を作ることは、老後への備えのひとつです。
しかし、資産形成にはその先があります。
貯めたお金を、長い老後の中でどう使っていくのか。
ここまで考えることで、老後のお金の全体像が少し見えやすくなります。
今回のポイントを整理すると、
・老後資金は、寿命がわからないため取り崩し方が難しい
・自己資金だけでなく、公的年金も合わせて考える
・老後も一部を運用することで、資産を長く使える可能性がある
・定額取り崩しは生活設計がしやすい反面、相場下落時に多く売ることになりやすい
・定率取り崩しは、下落時の売りすぎを抑えやすい反面、使える金額が変動する
・預貯金を組み合わせることで、相場が悪い年の売却を減らしやすくなる
・年金の繰下げを、長生きへの備えとして考える方法もある
・年齢を重ねたら、資産管理を簡単にしていくことも大切
ということになります。
金融庁の金融審議会でも、長寿化が進む中では、現役期の資産形成だけでなく、老後に資産をどのように活用し、取り崩していくかまで考える必要性が議論されてきました。
老後のお金を考えると、「いくらあれば安心なのか」という数字ばかり気になりがちです。
けれども、安心につながるのは資産額だけではありません。
公的年金が毎月いくら入るのか。
手元にどれくらい現金を置くのか。
投資資産をどのくらい残すのか。
相場が悪い年には支出をどの程度調整できるのか。
そして、年齢を重ねたあとも無理なく管理できる仕組みになっているか。
こうしたことをあらかじめ考えておくことも、老後への大切な備えです。
無理に一つの正解を決める必要はありません。
まずは「貯める」だけでなく、「どう使えば、自分は安心して暮らせそうか」というところまで考えてみる。
それが、長い老後と付き合っていくための次の一歩になります。






