一般社員の退職金処理で間違えやすいポイント|源泉徴収票の区分は上段、番号欄は空欄でよい?
一般社員が退職し、会社が退職金を支払った場合、実務を担当する方が迷いやすい書類の一つに「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」があります。
特に悩まれることが多いのが、様式の中ほどにある「区分」欄と、その右側に小さく「番号」と書かれた欄の使い方です。
結論からお伝えすると、一般社員に対して会社の退職金規程に基づく通常の退職金を支払い、退職者から「退職所得の受給に関する申告書」(以下、退職所得申告書)の提出を受けており、かつその年中に他の退職手当等(ほかの会社や共済などからの退職金)を受けていない場合は、区分欄は上段を使用します。
そして、番号欄は空欄で問題ありません。
大切なのは、「一般社員だからこの区分になる」という考え方ではなく、「退職所得申告書が提出されているかどうか」「同じ年に他の退職金を受けているかどうか」によって区分が決まるという点です。
以下では、この判断の考え方を丁寧にご説明します。
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票とは
「退職所得の源泉徴収票」は所得税に関する書類であり、「退職所得の特別徴収票」は住民税に関する書類です。
ただし実務上は同じ様式を使いますので、帳票名は「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」と一つにまとめられています。
会社が退職金を支払った場合、退職金の金額・源泉徴収税額(あらかじめ差し引いて国に納める所得税)・特別徴収税額(住民税)・勤続年数・退職所得控除額などを記載した上で、退職者本人に交付します。
ここで、令和8年(2026年)以降の実務で特に押さえておきたい変更点があります。
提出先ごとに整理すると次のとおりです。
本人への交付については、令和7年以前も令和8年以降も、全従業員分の交付が必要という点に変わりはありません。
税務署への提出については、大きな変更があります。
令和7年(2025年)12月31日以前に支払うべき退職手当等については、原則として法人役員に対する退職金だけが提出対象でした。
しかし令和8年(2026年)1月1日以後に支払うべき退職手当等については、一般社員分についても税務署への提出が必要になりました。
「一般社員分は本人に渡すだけでよい」という従来の感覚のままでいると、令和8年以降の実務では対応漏れになる可能性があります。
市区町村(住民税)への提出については、制度上は一般社員分も提出対象となりましたが、「当分の間」は省略することが認められています。
したがって、現時点では市区町村への特別徴収票の提出について、一般社員分を直ちに提出しなければならないわけではありません。
ただし「当分の間」はいつまで続くか明示されているわけではないため、今後の動向にも注意が必要です。
整理すると、令和8年以降に実務上すぐ対応が必要な変更は、一般社員分の税務署への提出義務化です。
市区町村への提出については、現時点では省略可能ですが、制度の趣旨として将来的に義務化される方向にあることを念頭に置いておいてください。
なお、令和7年分か令和8年分かの判断基準は、退職日ではなく「支払うべき日(支払日)」です。
大多数のケースでは退職日と支払日はほぼ一致しますが、12月に退職して翌年1月に支給するケースのように年をまたぐ場合には、退職日・支給日・支給すべき日のいずれが基準となるかを慎重に確認してください。
年をまたぐケースでは、令和7年分として処理するのか令和8年分として処理するのかによって提出義務の範囲が変わります。
区分欄は何を示す欄なのか
区分欄は、退職金そのものの性質(役員か一般社員か、など)を示す欄ではありません。
源泉徴収や特別徴収の計算において、どの法令の規定に基づいて処理したかを示す欄です。
区分欄には三つの行があります。
一つ目が上段の「所得税法第201条第1項第1号並びに地方税法第50条の6第1項第1号及び第328条の6第1項第1号適用分」で、退職所得申告書の提出があり、かつその申告書に「同じ年に他の退職手当等を受けていない」旨が記載されている場合に使用します。
一般社員に通常の退職金を支払う多くの場合は、この上段に該当します。
二つ目が中段の「所得税法第201条第1項第2号並びに地方税法第50条の6第1項第2号及び第328条の6第1項第2号適用分」で、退職所得申告書の提出があるものの、その申告書に「同じ年に他の退職手当等を受けている」旨が記載されている場合に使用します。
たとえば同じ年に前職から退職金を受けている場合、中小企業退職金共済(中退共)から退職一時金を受ける場合、企業年金から退職一時金を受ける場合などは、この中段に該当するかどうかを確認する必要があります。
三つ目が下段の「所得税法第201条第3項並びに地方税法第50条の6第2項及び第328条の6第2項適用分」で、退職所得申告書の提出がない場合に使用します。
申告書がない場合、会社は退職所得控除(勤続年数に応じた非課税枠)を使った通常の計算ができません。
代わりに、退職金の支給額に対して20.42%(所得税および復興特別所得税)を乗じて源泉徴収することになります。
この場合、退職者本人が必要に応じて確定申告を行い、税額を精算することになります。
退職所得申告書の提出確認が最初のステップ
一般社員に退職金を支払う場面で、まず確認すべきことは「退職所得申告書を受け取っているかどうか」です。
この申告書があるかないかで、源泉徴収の方法がまったく異なります。
申告書が提出されていれば、勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引いた上で退職所得を計算し、通常の方法で源泉徴収税額を求めます。
一方、申告書が提出されていなければ、退職金の支給額に対して20.42%を乗じる計算になります。
税負担が大きく変わるため、退職金を支払う前に必ず申告書を回収しておくことが重要です。
また、申告書を受け取った後は、その申告書の中で「同じ年に他の退職手当等を受けていないか」を確認します。
他の退職金がなければ区分は上段、他の退職金があれば中段を使用します。
税務署側から見ると、申告書がないにもかかわらず上段で処理しているケースや、申告書に「他の退職金あり」と書かれているのに上段を使っているケースは、源泉徴収の誤りとして確認されやすい典型的なパターンです。
申告書の記載内容と区分欄の選択が必ず一致するよう、処理の際に照合する習慣をつけておくと安心です。
「番号」欄は社員番号でもマイナンバーでもない
区分欄の右側に「番号」と書かれた欄があります。この欄を見て「社員番号を書くのか」「マイナンバーを書くのか」と迷われる方がいますが、どちらも違います。
番号欄は、一定の特殊な退職手当等に該当する場合に、所定の番号を記載するための欄です。
たとえば退職手当等とみなされる特定の一時金、譲渡制限付株式の制限解除による経済的利益、一定の株式取得に係る経済的利益など、通常の退職一時金とは性質が異なる特殊な退職手当等がある場合に使用します。
したがって、会社の退職金規程に基づく通常の退職金を現金で支払うだけであれば、番号欄は空欄で問題ありません。
社員番号や社内の整理番号を誤って記入してしまうと、税務署から「特殊な退職手当等が含まれているのではないか」と確認を受けやすくなります。
通常の退職金であれば「区分は上段、番号欄は空欄」と整理しておいてください。
マイナンバー欄との違いに注意する
番号欄と混同しやすいものに、受給者の個人番号(マイナンバー)を記載する欄があります。
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票には、受給者のマイナンバーや支払者の法人番号を記載する欄が別に設けられています。
税務署提出用には受給者のマイナンバーや会社の法人番号を記載する必要がありますが、退職者本人に交付する源泉徴収票にはマイナンバーや法人番号は記載しません。
これは個人情報の管理上、非常に重要な区別です。
この区別を誤ると、税務上の問題だけでなく、個人情報の取り扱い上の問題にもなります。
給与計算ソフトや年末調整ソフトを使って帳票を出力する場合、税務署提出用・本人交付用・市区町村提出用の三種類で印字内容が異なることがあります。
出力時に帳票の区分を誤らないよう、十分に確認してください。
支払金額欄には「支払の確定した金額」を記載する
支払金額欄には、その年中に支払の確定した退職手当等の金額を記載します。
「実際に振り込んだ金額」と「支払の確定した金額」は、必ずしも一致しないことがある点に注意が必要です。
たとえば、退職金の金額がその年中に確定していても、実際の支払いが翌年になるケースや、一部だけ支払って残額が未払いとなっているケースがあります。
こうした場合には、退職金規程の内容・社内決裁の記録・退職日・支給決定日・未払計上の有無などを確認した上で、どの年分の退職所得として処理すべきかを判断します。
税務署側は、銀行振込日だけを見ているわけではなく、退職金の支給がいつ確定したのか、退職金規程上の支給すべき日がいつなのかという点も確認します。
特に12月退職で翌年1月支給となるケースでは、年分の判断と、令和7年分・令和8年分いずれの取り扱いとなるかの両方について誤りやすいため、慎重な確認をお勧めします。
勤続年数の端数は必ず切り上げる
退職所得の計算において、勤続年数は非常に重要な数字です。
退職所得控除額(退職金のうち税金がかからない部分)は勤続年数に応じて計算されるため、勤続年数の計算を誤ると控除額が変わり、源泉徴収税額も変わります。
勤続年数は、原則として入社日から退職日まで引き続き勤務した期間をもとに計算します。
この際、1年未満の端数がある場合は1年に切り上げます。
たとえば勤続期間が10年2か月であれば、勤続年数は10年ではなく11年です。
この切り上げを忘れると退職所得控除額が少なく計算され、源泉徴収税額が過大になることがあります。
一方で、グループ会社間で転籍があった場合、過去に同じ勤務先から退職金を受け取ったことがある場合、中退共や企業年金など他の退職手当等がある場合には、勤続期間の通算や重複の取り扱いを慎重に確認する必要があります。
単純に入社日から退職日までを数えるだけでは誤りになる場合があるため、複合的なケースでは早めに確認することをお勧めします。
源泉徴収票・特別徴収票の摘要欄には、勤続期間の計算の根拠となる事項を記載することがあります。
この欄が空欄だったり、申告書の内容と整合していなかったりすると、税務署から確認を受ける可能性があります。
摘要欄を軽視しないこと
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の摘要欄も、丁寧に対応することが大切です。
一般社員への通常の退職金であれば複雑な記載が不要なケースもありますが、勤続期間の計算の根拠・他の退職手当等の有無・短期退職手当等への該当の有無・障害者となったことを直接の原因として退職したかどうかなど、必要に応じて記載すべき事項があります。
同じ年に他の退職金を受けている場合には、他の退職手当等の支払者名・支払金額・勤続年数・源泉徴収税額・特別徴収税額などを確認し、必要な情報を摘要欄に記載します。
税務署側から見ると、「他の退職手当等あり」と申告書に記載されているのに摘要欄に何も書かれていない場合、計算の根拠が確認しにくくなります。
退職所得は給与所得よりも税負担が軽くなることが多いため、税務署も適正に処理されているかどうかを丁寧に確認します。
税務署が問題視しやすいポイント
退職金の源泉徴収票・特別徴収票に関して、税務署が確認しやすいポイントをいくつかお伝えします。
まず問題になりやすいのが、退職所得申告書の保存状況です。
退職所得申告書は原則として税務署に提出する書類ではなく、退職金を支払った会社が保管する書類です。
そのため、税務調査で確認を受けた際に会社が申告書をきちんと提示できるかどうかが重要になります。
申告書がないにもかかわらず通常の退職所得計算を行っている場合、「本来は20.42%で源泉徴収すべきだったのではないか」という確認を受けることになります。
次に確認されやすいのが、申告書の記載内容と源泉徴収票の区分欄が一致しているかどうかです。
申告書に「他の退職手当等を受けていない」と書かれているなら上段、「他の退職手当等を受けている」と書かれているなら中段を使用します。
この整合性が取れていない場合は計算誤りの可能性があるとして確認の対象になります。
さらに、退職金として処理している支払いが、実際に退職手当等に該当するかどうかも確認されます。
退職手当等とは、退職したことを直接の原因として支払われる給与のことです。
本来は在職中の給与や賞与として支給すべきものを、税負担を軽くする目的で退職金扱いにしているような場合は問題視されます。
特に退職直前に支払われる功労金・特別加算金・慰労金などは、支給理由・社内規程・決定の経緯・他の社員とのバランスなどが確認対象になりやすいと覚えておいてください。
具体的なケースで整理する
たとえば、一般社員のAさんが令和8年中に退職し、会社の退職金規程に基づいて退職一時金を支給することになったとします。
Aさんからは退職所得申告書の提出を受けており、その申告書には「令和8年中に他の退職手当等を受けていない」旨が記載されています。
この場合、区分欄は上段を使用し、番号欄は空欄とします。
支払金額欄には支払の確定した退職金額を、源泉徴収税額欄には通常の計算による税額を、特別徴収税額欄には退職所得に係る住民税額を、退職所得控除額欄には勤続年数に基づき算出した控除額を、勤続年数欄には1年未満の端数を切り上げた年数を、それぞれ記載します。
摘要欄には必要に応じて勤続期間の計算根拠などを記載します。
通常の退職金であるにもかかわらず番号欄に「1」などの数字を記入してしまうと、特殊な退職手当等と誤認される可能性がありますので、ご注意ください。
同じ年に他の退職金がある場合や申告書がない場合
一般社員であっても、同じ年に他の退職金を受けているケースは少なくありません。
年の途中で前職を退職した後、入社した会社でも同じ年に退職した場合、あるいは中退共や企業年金から退職一時金を受ける場合などが該当します。
こうした場合には、退職所得申告書に「他の退職手当等あり」と記載してもらい、その内容を確認した上で退職所得控除額や源泉徴収税額を計算します。
区分欄は中段を使用します。
この場合も、通常の退職金であれば番号欄は空欄です。
同じ年に複数の退職金がある場合は、退職所得控除額の二重控除が起きやすいため、特に丁寧な確認が必要です。
一方、退職者から申告書の提出を受けていない場合は、区分欄は下段を使用し、退職金の支給額に対して20.42%を源泉徴収します。
申告書の回収を忘れていただけというケースもありますが、申告書のない状態で通常の退職所得計算を行うと源泉徴収不足になるリスクがあります。
支払い前に必ず回収してください。
すでに支払った後で申告書がないことに気づいた場合は、源泉徴収税額に誤りがないかを慎重に確認することが大切です。
提出・交付の期限と提出先ごとの扱いに注意する
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の提出先・提出義務については、令和8年以降に整理が必要な点があります。
提出先によって扱いが異なりますので、以下のとおり確認してください。
退職者本人への交付は、令和7年以前も令和8年以降も全従業員分が必要で、退職後1か月以内に行うことが原則です。
この点に変更はありません。
税務署への提出については、令和7年以前は役員分のみが対象でしたが、令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等からは一般社員分も提出対象となりました。
これが令和8年以降で最も大きな実務上の変更点です。
提出期限は退職後1か月以内が原則ですが、その年中の退職者分をまとめて翌年1月31日までに提出することも認められています。
市区町村(住民税)への提出については、制度上は一般社員分も提出対象となりましたが、現時点では「当分の間」省略することが認められています。
したがって、今すぐ一般社員分の特別徴収票を市区町村に提出しなければならないわけではありません。
ただし「当分の間」がいつまで続くかは明示されていないため、今後の動向に注意しておくことをお勧めします。
なお、令和7年分・令和8年分の判断基準は「支払うべき日(支払日)」です。
退職日と支払日が同じ年内に収まる場合は通常どおり処理できますが、12月退職で翌年1月支給となるケースのように年をまたぐ場合には、支払うべき日がどの年に該当するかを確認した上で、適用する規則と提出義務の範囲を慎重に判断してください。
まとめ
一般社員が退職し、会社が通常の退職金を支払う場合、退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の区分欄の選択は、退職所得申告書の有無と、同じ年に他の退職手当等を受けているかどうかによって決まります。
申告書があり、同年他の退職金がなければ区分欄は上段、他の退職金があれば中段、申告書がなければ下段を使用します。
番号欄は特殊な退職手当等がある場合にだけ使う欄であり、社員番号やマイナンバーを記入する欄ではありません。
一般社員への通常の退職金であれば、番号欄は空欄で問題ありません。
令和8年以降の提出義務については、令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等から、一般社員分についても税務署への提出が新たに義務化されました。
市区町村への特別徴収票の提出は、制度上は一般社員分も対象となりましたが、当分の間は省略可能とされており、今すぐ対応が必要なわけではありません。
ただし今後の制度変更に注意しながら、情報をアップデートしておくことをお勧めします。
令和7年分か令和8年分かの判断基準は「支払うべき日(支払日)」であり、退職日と支払日が年をまたぐケースでは特に慎重な確認が必要です。
税務署は区分欄だけでなく、退職所得申告書の保存状況・他の退職手当等の有無・勤続年数の根拠・退職所得控除額の計算・摘要欄の記載内容・マイナンバーの記載区分・提出と交付の期限など、幅広い観点から確認を行います。
退職金を支払う前に退職所得申告書を必ず回収し、同年他の退職金がないかを確認した上で、通常の退職金であれば「区分は上段、番号欄は空欄」と整理しておくことが、実務上の安全な対応です。
この記事は作成時点の情報に基づいています。
実際の適用には個別の状況判断が必要ですので、詳細については税務署にご確認ください。






