遠方の病院へ行った交通費は医療費控除になる?新幹線代・ホテル代の扱いを解説
地方にお住まいの方が、専門的な治療を受けるために、東京や大阪など遠方の病院まで足を運ぶことがあります。
たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
半年ほど前から頭痛が続き、地元のいくつかの病院で診察や検査を受けたものの、原因がはっきりしなかったとします。
そこで、東京に住む友人から脳神経外科の医師を紹介してもらい、その医師の診察を受けるために上京しました。
診察が朝からの時間指定だったため、前日のうちに東京へ移動し、ホテルに一泊しました。
そして翌日、診察を受けたところ、そのまま入院することになりました。
このような場合、自宅から東京までの新幹線代や飛行機代は、医療費控除(1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、所得税や住民税の負担を軽くしてもらえる制度)の対象になるのでしょうか。また、診察前日に利用したホテル代も、医療費に含めることができるのでしょうか。
結論から先にお伝えします。
遠方の病院までの交通費は、その病院を受診しなければならない相当の理由があれば、医療費控除の対象になる可能性があります。
一方、診察を受けるために前泊した一般のホテル代は、医療費控除の対象にはならないと考えられます。
ただし、「地元の病院で原因が分からなかった」「友人から専門医を紹介された」「診察後に入院した」という事情だけで、遠方までの交通費が必ず認められるわけではありません。
遠方の病院でなければ対応が難しかったのか、それとも近隣の病院でも同じ診察や治療を受けられたのか、といった個別の事情を確認する必要があります。
この記事では、遠方の病院を受診した場合の交通費と宿泊費について、医療費控除の基本的な考え方と、申告に備えて残しておきたい資料を、順を追って分かりやすくご説明します。
医療費控除では、通院のための交通費も対象になることがあります
医療費控除というと、病院の窓口で支払った診察代や治療代、薬局で購入した薬代を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし、医療費控除の対象になるのは、診察代や薬代だけではありません。
医師による診察や治療を受けるために直接必要で、かつ通常必要と認められる通院費についても、医療費に含まれることがあります。
これは、国税庁が公表している取り扱い基準(所得税基本通達73-3)にも示されている考え方で、医師などによる診療を受けるための通院費や、入院の対価として支払う通常必要な部屋代・食事代などは、医療費に含めるとされています。
たとえば、自宅から近くの病院へ電車やバスで通院した場合、その電車代やバス代は、通常、医療費控除の対象になります。
一方で、病院へ行った日であっても、観光や買い物、仕事など、診察とは直接関係のない移動にかかった費用まで、医療費になるわけではありません。
「病院へ行った日に使った交通費だから、すべて医療費になる」という考え方ではなく、その交通費が診察や治療を受けるために直接必要だったかどうかを確認することが大切です。
遠方の病院までの交通費が認められる条件
遠方の病院を受診したからといって、自宅からその病院までの交通費が、すべて医療費控除の対象になるわけではありません。
国税庁は、病状から見て近隣の病院でも治療できる場合には、自宅から遠方の病院までの旅費は、診療を受けるために直接必要で通常必要な費用には当たらないため、医療費控除の対象にならないとしています。
一方で、遠方の病院でなければ治療できないという相当の理由がある場合には、自宅からその病院までの旅費は、原則として医療費控除の対象になるとされています。
つまり、判断の分かれ目は、移動距離そのものではありません。
重要なのは、「なぜ近くの病院ではなく、遠方の病院を受診する必要があったのか」という点です。
たとえば、次のような事情がある場合は、遠方を受診する必要性を説明しやすくなります。
・地元の病院では、必要な検査や治療を受けられない
・特定の病気に対応できる専門病院が、近隣にない
・地元の主治医から、遠方の専門病院を紹介された
・地元の医師から、専門的な検査や治療を受けるよう指示された
・病状が特殊で、対応できる医療機関が限られている
ただし、これらはあくまで判断材料のひとつです。
紹介状があれば必ず認められるわけではなく、反対に、紹介状がなければ必ず対象外になるわけでもありません。
病状、それまでの診療の経過、地域の医療体制、遠方の病院で受けた診察や治療の内容などを、総合的に見て判断することになります。
今回のケースでは、交通費が対象になる可能性がありますが、個別の判断が必要です
今回のケースでは、半年ほど頭痛が続き、地元の複数の病院を受診しても原因が分からなかったという事情があります。
その後、東京の脳神経外科医の診察を受け、そのまま入院することになりました。
これらの事情は、遠方の医療機関を受診する必要があったことを説明する材料になります。
そのため、自宅から東京の病院までの交通費が、医療費控除の対象になる可能性はあります。
ただし、地元の病院で原因が分からなかったことや、診察後に入院したことだけで、交通費が必ず認められるわけではありません。
次のような点を、あわせて確認しておくと安心です。
・地元で、必要な検査や診療を受けることができたか
・東京の病院や医師でなければ対応が難しい病状だったか
・地元の医師から、専門医の受診を勧められていたか
・東京の病院が、その症状について専門的な診療を行っていたか
・東京へ行った主な目的が、診察や治療だったか
友人から医師を紹介されたことは、受診のきっかけとしては自然なことです。
しかし、友人の紹介というだけでは、「東京の病院でなければならなかった」という医学的な必要性の説明としては、やや弱くなってしまいます。
また、診察後にそのまま入院したことは、病状が軽くなかったことを示す事情にはなりますが、それだけで行きの交通費が自動的に医療費控除の対象になるわけではありません。
国税庁が公表している事例では、遠方の大学病院でなければ治療できない難病について、主治医の指示により、その大学病院で治療を受けたケースが取り上げられています。
今回のケースについても、これと同じように、遠方の病院を受診する相当の理由があったかどうかを確認していく必要があります。
「有名な病院だから」という理由だけでは、交通費が認められないことがあります
「より良い治療を受けたい」というお気持ちは、患者さんとして当然のことです。
しかし、ご本人の希望で遠方の病院を選んだだけでは、その交通費が医療費控除の対象にならないことがあります。
たとえば、近隣の病院でも十分に同じ診察や治療を受けられるにもかかわらず、「テレビで見た有名な先生に診てもらいたい」「評判の良い病院の方が安心だから」といった理由だけで遠方の病院を選んだ場合です。
この場合、遠方まで行くことはご本人の希望による選択であり、診察を受けるために通常必要な交通費とは認められにくくなります。
また、仕事や旅行で東京へ行ったついでに病院を受診した場合も、注意が必要です。
東京へ行く主な目的が出張や観光であり、そのついでに診察を受けたのであれば、自宅から東京までの交通費の全額を医療費控除に含めることは難しいと考えられます。
医療費控除の対象になるのは、あくまで診察や治療を受けるために直接必要で、通常必要な費用に限られます。
新幹線代や飛行機代は、どこまで対象になる?
遠方の病院を受診する相当の理由がある場合、自宅と病院との間の旅費は、医療費控除の対象になる可能性があります。
したがって、距離や病状から見て通常必要な新幹線代や航空運賃についても、対象になる余地があります。
ただし、医療費控除の対象になるのは、あくまで「通常必要なもの」です。グリーン車や特別席、上位クラスの航空券など、一般的な料金を超える費用については、その全額が当然に認められるとは限りません。
病状により、普通席での長時間移動が難しく、特別な座席が必要だったという事情がある場合は、医師の指示や利用理由が分かる資料を残しておくとよいでしょう。
この点については、国税庁の公表資料でグリーン車や航空機の上位クラスについて個別の基準が示されているわけではありません。
そのため、高額な座席料金まで申告に含める場合には、自己判断で決めつけず、申告前に税務署へ確認することをおすすめします。
タクシー代は、「利用せざるを得ない事情があったか」がポイントです
通院のためにタクシーを利用したとしても、そのタクシー代がすべて医療費控除の対象になるわけではありません。
電車やバスを利用できる状況で、単に便利だから、荷物が多いから、乗り換えが面倒だからという理由でタクシーを利用した場合は、医療費控除の対象にならない可能性があります。
一方、病状から見て急を要する場合や、電車・バスなどを利用できない場合には、タクシー代が医療費控除の対象になります。たとえば、次のような場合です。
・激しい頭痛やめまいがあり、電車での移動が難しい場合
・歩行が困難で、公共交通機関を利用できない場合
・深夜や早朝で、公共交通機関そのものが利用できない場合
このように、タクシーを使わざるを得ない事情がある場合は、医療費控除の対象になる可能性があります。
タクシーを利用したときは、領収書に加えて、次の内容を簡単にメモしておくと安心です。
・利用した日
・乗車区間
・病院名
・患者の氏名
・タクシーを利用した理由
後から見返したときに、「なぜ電車やバスではなく、タクシーを使う必要があったのか」が分かるようにしておきましょう。
自家用車のガソリン代や駐車場代は、対象になりません
自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場料金は、医療費控除の対象になりません。
これは、電車代やバス代が「人を運ぶサービス」の対価として支払う費用であるのに対して、ガソリン代や駐車場代は「自分が所有する車を利用するための費用」だからです。
国税庁も、自家用車で通院する場合のガソリン代と駐車場料金は、医療費控除の対象にならないと明確に示しています。
自家用車で利用した高速道路料金についても、通院費としては対象に含めない取り扱いが一般的です。
ただし、病状などによりタクシーを利用せざるを得ず、そのタクシー料金の中に高速道路料金が含まれている場合は、高速道路料金を含めたタクシー代が対象になります。
付き添った家族の交通費が、対象になる場合
患者さんご本人が一人で通院することが難しい場合には、付き添ったご家族の交通費も医療費控除の対象になることがあります。
たとえば、小さなお子さん、ご高齢の方、症状の重い方など、一人で通院させることが危険な場合です。
国税庁は、患者の年齢や病状から見て一人で通院させることが危険な場合には、患者本人の通院費に加えて、付き添った方の通常必要な交通費も医療費控除の対象になるとしています。
今回のケースでも、頭痛が激しく、一人で長距離を移動することが危険だったためにご家族が付き添ったのであれば、その交通費も対象になる可能性があります。
ただし、「心配だから一緒に行った」という気持ちだけでは、付き添いの必要性が認められないことがあります。
病状や年齢から見て、付き添いが必要だったと説明できることが重要です。
なお、患者が入院した後、ご家族がお見舞いや身の回りのお世話のために病院へ通う交通費は、医療費控除の対象になりません。
これは、患者本人が通院しているのではなく、ご家族が病院へ行くための費用にあたるためです。
診察前日に利用したホテル代は、対象になりません
今回のケースで、特に判断に迷いやすいのがホテル代です。
診察が朝からの時間指定で、当日に地元の自宅を出発したのでは間に合わないため、前日に東京へ移動してホテルに宿泊したとします。
ご本人としては、「診察を受けるために必要な宿泊だった」と感じられることでしょう。
しかし、税務上、一般のホテルに支払った宿泊代は、医療費控除の対象にはならないと考えられます。
その理由は、医療費控除の対象となる範囲を定めた所得税基本通達73-3にあります。
この通達で医療費に含まれるとされている部屋代は、あくまで「入院または入所の対価として支払う通常必要な部屋代」に限られています。
一般のホテルに支払う宿泊代は、病院や医療施設への入院・入所の対価にはあたりません。
また、同じ通達では、医療費として認められるのは「医師等による診療等を受けるために直接必要な費用」とされています。
前泊のためのホテル代は、診察や治療そのものにかかる費用ではなく、「診察の前日に、たまたま宿泊が必要になった」という付随的な事情にとどまるため、この「直接必要な費用」にも当たらないと考えられます。
したがって、今回のケースでは、診察時間に間に合わせるための前泊であっても、ホテル代は医療費控除に含めない取り扱いが適切です。
入院後に病院へ支払った部屋代や食事代は、どうなる?
一般のホテル代とは異なり、入院後に病院へ支払った通常必要な部屋代や食事代は、医療費控除の対象になります。
ただし、ご本人やご家族の希望だけで個室を利用した場合の差額ベッド代などは、対象にならないことがあります。
国税庁は、本人や家族の都合だけで個室に入院した場合の差額ベッド料金は、医療費控除の対象にならないとしています。
また、病院から提供され、入院代に含まれる食事代は対象になりますが、出前や外食にかかった費用は対象になりません。
ここまでの内容を、費用の種類ごとに整理しておきましょう。
・自宅から東京の病院までの新幹線代・航空運賃:遠方を受診する相当の理由があれば、対象になる可能性があります
・駅や空港から病院までの電車代・バス代:診察に通常必要なものであれば、対象になります
・タクシー代:病状などにより利用せざるを得ない場合は、対象になります
・自家用車のガソリン代・駐車場代:対象になりません
・診察前日に利用した一般のホテル代:対象になりません
・入院後に病院へ支払った通常の部屋代・食事代:対象になります
・ご本人やご家族の都合による差額ベッド代:対象にならない場合があります
・ご家族のお見舞いのための交通費・宿泊費:対象になりません
紹介状や検査結果は、申告時に必ず必要な書類ではありません
遠方の病院までの交通費を医療費控除に含める場合、次のような資料を保管しておくと、遠方を受診する必要があった事情を説明しやすくなります。
・地元の病院の領収書
・地元の病院の診療明細書
・検査結果
・医師の紹介状
・遠方の病院の予約票
・遠方の病院の診療明細書
・入院日が分かる書類
・新幹線や航空券の領収書・利用明細
ただし、紹介状や検査結果は、確定申告書への添付が法律上必須とされている書類ではありません。
これらは、遠方の病院を受診する必要性について、税務署から確認を求められたときに説明するための資料です。
そのため、「紹介状がないから申告できない」と、すぐに判断する必要はありません。
反対に、「紹介状があるから必ず認められる」というものでもありません。
紹介状の内容、病状、地元の医療機関で対応できたかどうか、遠方で受けた診療の内容などを、あわせて判断していくことになります。
交通費の領収書がない場合は、記録を残しておきましょう
電車やバスを利用した場合、領収書を受け取れないこともあります。
領収書がないからといって、それだけで医療費控除の対象外になるわけではありません。
ただし、実際に通院のために支払った交通費であることを説明できるよう、記録を残しておくことが大切です。
交通費の一覧表を作り、次の内容を記録しておくとよいでしょう。
・通院した日
・患者の氏名
・病院名
・出発地と到着地
・利用した交通機関
・片道または往復の金額
・遠方の病院を受診した理由
・付き添いがいた場合は、その理由
交通系ICカードを利用した場合は、利用履歴を印刷したり、画面を保存したりしておく方法もあります。
新幹線、飛行機、高速バス、タクシーなど、領収書や利用明細が発行される交通手段については、その書類を保管しておきましょう。
医療費控除の明細書と、領収書の保存期間
医療費控除を受ける場合は、原則として「医療費控除の明細書」を確定申告書に添付します。
病院や薬局の領収書そのものを確定申告書に添付する必要はありませんが、明細書に記載した医療費の領収書は、確定申告期限などから5年間、ご自宅などで保存しておく必要があります。
必要がある場合には、税務署から領収書の提出や提示を求められることがあります。
なお、健康保険組合などが発行した、一定の記載事項を満たす「医療費通知」を確定申告書に添付した場合は、明細書の記載を簡略化でき、その医療費通知に記載されている医療費については、領収書の保存が不要になります。
ここで注意しておきたいのが交通費です。
通常、通院のための電車代、バス代、新幹線代などは、健康保険組合の医療費通知には記載されません。
したがって、交通費については、医療費通知を利用する場合であっても、別途、日付や区間、金額などの記録を残しておく必要があります。
医療費控除の、基本的な計算方法
医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までに、本人または本人と生計を一にする配偶者や親族(同じ家計で生活している家族のことです)のために、実際に支払った医療費をもとに計算します。
基本的な計算方法は、次のとおりです。
その年に実際に支払った医療費から、保険金や高額療養費(医療費が高額になったときに、加入している健康保険から払い戻しを受けられる制度です)などで補てんされた金額を差し引き、さらに10万円を差し引きます。
ただし、その年の総所得金額等(1年間の所得の合計額のことです)が200万円未満の場合は、10万円ではなく、総所得金額等の5%を差し引きます。
医療費控除額の上限は200万円です。
なお、医療費控除は、支払った医療費がそのまま税金として戻ってくる制度ではありません。
医療費控除額を所得から差し引き、その結果として所得税や住民税の負担が軽くなる仕組みです。
まとめ
遠方の病院を受診した場合の交通費が医療費控除の対象になるかどうかは、単に病院までの距離が遠いかどうかでは決まりません。
重要なのは、病状や診療の経過から見て、遠方の病院を受診する相当の理由があったかどうかという点です。
今回のように、地元の複数の病院を受診しても原因が分からず、遠方の専門医を受診した結果、そのまま入院したケースでは、交通費が医療費控除の対象になる可能性はあります。
ただし、友人から紹介されたことや、診察後に入院したことだけで、必ず認められるわけではありません。
近隣の医療機関では対応できなかったのか、東京の病院や医師でなければならない事情があったのかを、診療の経過や資料に基づいて説明できるようにしておくことが大切です。
一方、診察時間に間に合わせるために前日に利用した一般のホテル代は、病院への入院・入所の対価ではなく、診療を受けるために直接必要な費用にも当たらないため、医療費控除には含めない取り扱いになります。
申告に備えて、次の点を確認しておきましょう。
・遠方の病院を受診する必要性を整理しておく
・地元での受診歴や検査結果を残しておく
・紹介状や予約票、入院関係の書類を保管しておく
・新幹線や飛行機などの領収書を残しておく
・電車やバスは、日付・区間・金額を記録しておく
・一般のホテル代は、医療費に含めない
・領収書などは、必要に応じて5年間保存しておく
遠方受診の必要性は、病状、地域の医療体制、医師の指示、受診までの経緯などによって、一人ひとり個別に判断されます。
判断に迷う場合は、申告する前に資料を整理したうえで、税務署へ確認しておくと安心です。
※この記事は、2026年7月27日時点で国税庁が公表している情報を確認したうえで作成しています。
実際の医療費控除の適用にあたっては、個別の事情によって判断が異なります。正確な取り扱いについては、最新の情報を税務署にご確認ください。






