入院中に一時帰宅したときの交通費は医療費控除できる?対象になる場合・ならない場合を解説
長期入院しているご家族に、年末年始くらいは自宅でゆっくり過ごしてもらいたい。
そのように考えるご家族は少なくないでしょう。
体調が安定しており、主治医から一時帰宅の許可をもらえた場合には、数日間だけ自宅に戻り、家族と一緒に新しい年を迎えることもあります。
では、この一時帰宅のために支払った電車代、バス代、タクシー代などは、確定申告(1年間の収入や支払った税金などをまとめて、自分で国に申告する手続きです)の際に、医療費控除(1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得税や住民税の負担が軽くなる制度です)に含めることができるのでしょうか。
結論から先にお伝えします。
年末年始を自宅で過ごすための一時帰宅にかかった交通費は、原則として医療費控除の対象にはなりません。
これは、医師から一時帰宅の許可を受けている場合でも変わりません。
国税庁(税金に関するルールの運用や、個別の疑問への回答=質疑事例を公表している国の機関です)は、長期入院している方が医師の許可を得て年末年始の数日間を自宅で過ごした場合について、病院と自宅の間の往復交通費は医療費控除の対象にならないと説明しています。
その理由は、一時帰宅が診療や治療を受けるための移動ではなく、個人的な事情による移動と考えられるためです。
ご本人やご家族にとって大切な時間であることに変わりはありませんが、税金の制度としては、少し別の視点で見る必要があります。
医療費控除では「病院に関係するか」だけでは判断しません
医療費控除と聞くと、病気や入院に関連して支払った費用であれば、すべて対象になるように感じるかもしれません。
しかし実際には、病気や入院に関連する支出のすべてが、医療費控除の対象になるわけではありません。
交通費について医療費控除を受けるためには、原則として、次の2つの条件を満たす必要があります。
・医師などの診療や治療を受けるために、直接必要な交通費であること
・病状や移動距離などから見て、通常必要な範囲におさまる交通費であること
つまり、判断のポイントは「病院と自宅の間を移動したかどうか」ではありません。
「何のために移動したのか」が大切です。
たとえば、退院後の検査を受けるために自宅から病院へ行った場合は、診療を受けるための通院にあたります。
この場合、通常の経路で利用した電車代やバス代は、原則として医療費控除の対象になります。
一方、入院を続けたまま、年末年始を家族と過ごすために自宅へ戻った場合は、その移動の目的が診察・検査・手術・投薬などではありません。
そのため、病院に関係する移動であっても、医療費控除の対象にはならないのです。
医師の許可があっても、医療費控除の対象になるとは限りません
今回のような一時帰宅では、主治医の許可を受けることが一般的です。
ただし、医師の許可があることと、医療費控除の対象になるかどうかは、別の問題として考える必要があります。
医師による一時帰宅の許可は、患者さんの体調や病状を踏まえて、一時的に自宅へ戻っても医学的に大きな問題がないかどうかを判断するものです。
一方、医療費控除では、その移動が診療や治療を受けるために直接必要だったかどうかを確認します。
そのため、主治医から一時帰宅を認められていたとしても、年末年始を自宅で過ごすことが主な目的であれば、交通費は医療費控除の対象になりません。
たとえば、主治医から次のように説明されたとします。
「現在は体調が安定していますので、12月31日から1月2日まで自宅で過ごしていただいて構いません」
この場合、医師の許可はありますが、病院と自宅を往復する目的は、診療や治療を受けることではなく、家族と年末年始を過ごすことです。
したがって、病院から自宅までの交通費だけでなく、自宅から病院へ戻るための交通費についても、原則として医療費控除には含められません。
正式な入院・退院の交通費とは分けて考えます
ここで気をつけたいのが、正式な入院や退院にかかった交通費との違いです。
国税庁は、入院、退院、通院のために通常必要となる交通費については、医療費控除の対象になるとしています。
一方、入院を継続したまま、個人的な事情により数日間だけ自宅へ戻る一時帰宅は、正式な退院とは異なるものとして扱われます。
整理すると、次のようになります。
医療費控除の対象になる可能性がある交通費
・診察を受けるための通院交通費
・検査や治療を受けるための通院交通費
・治療を受けるために入院するときの交通費
・治療を終えて正式に退院するときの交通費
・患者さんの年齢や病状から見て必要と認められる、付添いの方の交通費
医療費控除の対象にならない交通費
・年末年始を自宅で過ごすための一時帰宅にかかる交通費
・お盆や家族の行事のための一時帰宅にかかる交通費
・入院中の患者さんをお見舞いするための、ご家族の交通費
・着替えや日用品を届けるための交通費
・ご家族の都合による、病院と自宅の往復交通費
同じ「病院と自宅の往復」であっても、移動の目的によって取扱いが変わります。
正式な退院なのか、入院を続けたままの一時的な外泊なのか、はっきりしない場合は、退院証明書、入院費の明細書、外泊許可書などで確認するとよいでしょう。
電車代やバス代なら必ず対象になる、というわけではありません
通院交通費として代表的なのは、電車代やバス代です。
診察や治療を受けるために、通常の経路で電車やバスを利用した場合は、原則として医療費控除の対象になります。
しかし、「電車やバスを利用したから」という理由だけで、必ず医療費控除を受けられるわけではありません。
交通手段の種類よりも先に、その移動の目的を確認する必要があります。
たとえば、次の2つは、どちらも自宅と病院の間の往復です。
・退院後の経過観察を受けるために病院へ行った
・入院中に、お正月を自宅で過ごすために帰宅した
前者は診療を受けるための通院ですから、通常必要な電車代やバス代は医療費控除の対象になる可能性があります。
後者は診療や治療を受けるための移動ではないため、たとえ電車代やバス代であっても対象になりません。
「公共交通機関を利用したかどうか」だけではなく、「診療や治療のために必要な移動だったかどうか」を確認するようにしましょう。
タクシー代が対象になるのは、公共交通機関を利用できない事情がある場合です
通院や入退院の際に、タクシーを利用することもあるでしょう。
ただし、病院へ行くために利用したタクシー代が、すべて医療費控除の対象になるわけではありません。
通常、電車やバスなどの公共交通機関を利用できる状況でのタクシー代は、医療費控除の対象にはなりません。
一方、次のような事情がある場合は、タクシー代が対象になる可能性があります。
・病状から見て、急を要する場合
・病状や身体の状態により、電車やバスを利用できない場合
・急な症状により、その時間に受診する必要があり、公共交通機関を利用できない場合
国税庁も、病状から見て急を要する場合や、電車・バスなどを利用できない場合のタクシー代については、医療費控除の対象になると説明しています。
ただし、「歩くのが大変だった」「乗り換えが面倒だった」「タクシーの方が便利だった」という理由だけでは、対象になるとは限りません。
病状や身体の状態から見て、公共交通機関を利用することが現実的に難しかったかどうかがポイントです。
また、深夜や早朝にタクシーを利用した場合も、「利用した時間が遅かった」というだけでは判断できません。
急な症状があり、その時間に受診する必要があったことや、公共交通機関が利用できなかったことなどを確認する必要があります。
タクシーを利用した場合は、領収書を保管するとともに、次のような理由を記録しておくと安心です。
・急な症状が出たため
・歩行が困難で、電車やバスを利用できなかったため
・夜間の緊急受診で、公共交通機関がなかったため
なお、タクシーの利用が医療上やむを得ないと認められる場合には、そのタクシー料金に含まれる高速道路の利用料金も、医療費控除の対象になると国税庁は説明しています。
ただし、今回のように、年末年始を自宅で過ごすための一時帰宅にタクシーを利用した場合は、移動そのものが診療や治療のためではありません。
そのため、患者さんが歩行困難であったとしても、一時帰宅のタクシー代は原則として医療費控除の対象にはなりません。
自家用車のガソリン代や駐車場代は対象になりません
患者さんを自家用車で病院へ送迎することもあるでしょう。
しかし、自家用車で通院した場合のガソリン代や、病院の駐車場代は、原則として医療費控除の対象にはなりません。
これは、診療や治療を受けるための通院であっても同じです。
国税庁は、医療費控除の対象となる通院費について、電車代やバス代など、「人を運ぶサービス」に対して支払う費用を指すと説明しています。
自家用車のガソリン代や駐車場代は、この「人を運ぶサービスへの対価」にはあたらないため、対象になりません。
たとえば、次の費用は医療費控除に含めません。
・自家用車のガソリン代
・病院や診療所の駐車場代
自家用車で通院した場合の高速道路料金については、国税庁の質疑事例(「自家用車で通院する場合のガソリン代等」)の中に、直接の記載はありません。
ただし、自家用車での移動費は、電車代やバス代のような人的な運送サービスへの対価にはあたらない、という考え方が示されています。
そのため、自家用車の高速道路料金を医療費控除に含めることは、一般的ではありません。
特殊な事情がある場合には、確定申告に含める前に、税務署に確認しておくことをおすすめします。
なお、タクシーの利用自体が医療上やむを得ない場合に、そのタクシー料金に高速道路料金が含まれているときは、扱いが異なります。
別の医療機関へ移動する交通費は、必要性を確認します
入院中の病院から、別の病院や大学病院などへ移動することもあります。
この場合も、「別の医療機関へ行った」というだけで、すべての交通費が医療費控除の対象になるわけではありません。
医師の診療や治療を受けるために直接必要であり、通常必要な範囲の移動であることが必要です。
たとえば、現在入院している病院では受けられない検査や治療を受けるために、医師の指示で別の医療機関へ移動した場合は、交通費が対象になる可能性があります。
一方、近隣の病院でも同じ治療を受けられるにもかかわらず、本人やご家族の希望だけで遠方の病院を選んだ場合は、遠方までの交通費が「通常必要な費用」とは認められない可能性があります。
国税庁も、遠隔地の病院でなければ治療できない相当な理由がある場合には、遠隔地の病院までの旅費が原則として医療費控除の対象になるとしています。
反対に、近隣の病院でも治療できる場合の遠方への旅費は、原則として対象にならないと説明しています。
別の医療機関への交通費を申告する場合は、次の資料を残しておくと安心です。
・紹介状
・医師の指示が分かる書類
・診療情報提供書
・検査や治療の予約票
・移動日、経路、金額の記録
・遠方の医療機関で治療を受ける必要があった理由
「本人の希望による転院」なのか、「治療上必要な移動」なのかによって判断が変わりますので、注意しましょう。
家族や付添人の交通費は、患者さん本人の移動に必要かどうかで判断します
お子さんや高齢の方、歩行が難しい方などの場合、一人で通院することが危険なこともあります。
患者さんの年齢や病状から見て付添いが必要な場合には、患者さん本人の交通費だけでなく、付添いの方の通常必要な交通費も、医療費控除の対象になることがあります。
一方、入院中の患者さんのお見舞いや、身の回りのお世話をするために、ご家族が自宅と病院を往復する交通費は対象になりません。
患者さん本人が診療を受けるために移動しているわけではないためです。
整理すると、次のようになります。
・一人で通院することが危険な患者さんへの付添い → 対象になる可能性があります
・入院中の患者さんへのお見舞い → 原則として対象になりません
・着替えや日用品を届けるための移動 → 原則として対象になりません
・年末年始の一時帰宅への付添い → 一時帰宅そのものが治療目的ではないため、原則として対象になりません
付添いの方の交通費についても、「家族だから対象になる」「医師に会うためだから対象になる」という考え方ではなく、「患者さん本人が診療や治療を受けるために、その付添いが必要だったかどうか」で確認します。
通院交通費は、日頃から記録しておきましょう
電車代やバス代は、領収書が発行されないことがあります。
領収書がない場合でも、実際に支払った金額や通院の目的を説明できるように、家計簿や一覧表などに記録しておきましょう。
記録しておきたい内容は、次のとおりです。
・通院した日
・患者さんの氏名
・病院や診療所の名称
・診察、検査、治療など、移動の目的
・出発地と到着地
・利用した交通機関
・片道または往復の金額
・付添いが必要だった場合は、その理由
・タクシーを利用した場合は、その理由
たとえば、次のように記録しておくとよいでしょう。
「10月15日、父、○○病院で退院後の検査、自宅最寄り駅から○○駅まで電車往復760円」
タクシーを利用した場合は、領収書を保管し、「歩行困難により公共交通機関を利用できなかったため」など、利用した理由もあわせて記録しておくと安心です。
国税庁も、領収書が発行されないことが多い通院費について、家計簿などに記録し、実際にかかった費用を説明できるようにしておくことを案内しています。
判断に迷ったら、「移動の目的」を一言で書いてみましょう
交通費が医療費控除の対象になるかどうか判断に迷ったときは、「何のための移動だったか」を一言で書いてみると、頭の中が整理しやすくなります。
・診察を受けるため → 対象になる可能性があります
・検査や治療を受けるため → 対象になる可能性があります
・治療を受けるために入院するため → 対象になる可能性があります
・治療を終えて正式に退院するため → 対象になる可能性があります
・お正月を家族と過ごすため → 原則として対象になりません
・入院中の家族を見舞うため → 原則として対象になりません
・入院中の家族へ着替えを届けるため → 原則として対象になりません
「病院に関係する移動だったか」ではなく、「診療や治療を受けるために直接必要な移動だったか」を確認することが大切です。
まとめ
長期入院している患者さんが、医師の許可を受けて年末年始を自宅で過ごす場合、病院と自宅の間の往復交通費は、原則として医療費控除の対象にはなりません。
医師の許可があったとしても、その移動は診療や治療を受けるためのものではなく、年末年始を自宅で過ごすという個人的な目的による移動と考えられるためです。
一方、次のような交通費は、通常必要な範囲で医療費控除の対象になる可能性があります。
・診察や治療を受けるための通院交通費
・治療を受けるために入院する際の交通費
・治療を終えて正式に退院する際の交通費
・病状により公共交通機関を利用できない場合のタクシー代
・患者さんを一人で通院させることが危険な場合の、付添いの方の交通費
・遠隔地の病院でなければ治療できない相当な理由がある場合の旅費
医療費控除では、「病気に関係する支出かどうか」だけではなく、「診療や治療を受けるために直接必要な支出かどうか」が重要になります。
年末年始の一時帰宅は、ご本人にとってもご家族にとっても、かけがえのない大切な時間です。
その時間そのものの価値と、税金の制度上の扱いは、別のものとして考えていただければと思います。
そのための交通費は医療費控除とは分けて考え、確定申告の医療費には含めないようにしましょう。
なお、一般的な一時帰宅とは異なり、医師の具体的な指示にもとづく、治療上の移動であった場合などは、個別の事情によって判断が変わる可能性があります。
そのような場合は、医師の指示内容、診療計画書、紹介状、入退院の記録、交通費の領収書などを準備したうえで、税務署に確認しておくと安心です。
医療費控除は、確定申告の際に手続きをする制度です。
確定申告の期間は、通常、毎年2月中旬から3月中旬ごろですが、対象となる年によって日程が多少前後することがあります。
正確な申告期間や、控除の対象となる金額の計算方法などについては、最新の情報を国税庁のホームページや、お近くの税務署にご確認ください。
※この記事は、2026年7月27日に国税庁の公表資料をもとに作成しています。
国税庁の質疑事例は、それぞれのページに記載された時点の法令・通達等と、照会された事例の事実関係を前提とした一般的な回答です。
実際に医療費控除の対象になるかどうかは、患者さんの病状、移動の目的、病院での取扱いなどにより、個別の判断が必要になる場合があります。
この記事は作成時点の情報にもとづく一般的な解説であり、実際の適用には個別の判断が必要です。詳しい内容や最新の取り扱いについては、税務署にご確認ください。






