商標権を譲渡したら消費税はかかる?税率10%の理由と売却時の注意点をわかりやすく解説
「長年使ってきた商品名を、別の会社に譲ることになった」
「自社で登録しているブランド名を売りたいけれど、受け取るお金に消費税はかかるのだろうか」
このような疑問をお持ちの経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
商標権の売買は、商品の販売のように毎日あるような取引ではありません。
しかも、商標権は建物や自動車のように目に見える財産ではないため、税金の扱いに迷いやすいものです。
先に結論をお伝えします。国内の法人が、日本で登録された商標権を、ふつうの国内取引としてお金をもらって譲る場合は、原則として消費税10%がかかる売上(課税売上)になります。
ただし、商標権を売ったときの消費税には、いくつか気をつけたい点があります。
いちばん大切なのは、消費税の計算のもとになるのは「売って得た利益(もうけ)」ではなく、「商標権を譲った代金そのもの」だという点です。
また、海外の会社に譲る場合や、売る側の会社が消費税を納めなくてよい「免税事業者」である場合には、扱いが変わることもあります。
この記事では、商標権の基本的なしくみから、消費税がかかる理由、具体的な計算方法、会計ソフトへの入力で気をつけることまで、できるだけわかりやすくご説明します。
そもそも商標権とは何でしょうか
商標とは、自社の商品やサービスを、ほかの会社のものと見分けてもらうために使う名前やマークのことです。
身近な例としては、次のようなものがあります。
・商品につけた独自の名前
・会社の商品やサービスを表すロゴ
・飲食店などのブランド名
・特定のサービスを表すマーク
たとえば、ある会社が長年販売しているお菓子に、独自の商品名をつけていたとします。
そのお菓子が多くの人に知られるようになると、商品名を見ただけで「あの会社のお菓子だ」と分かるようになります。
こうした名前には、会社がコツコツと積み重ねてきた信用や評判がこもっています。
その価値を守るためのしくみの一つが「商標登録」です。
商標を特許庁に出願し、審査を通って登録されると、決められた商品やサービスについて、その商標を自社だけが使える権利が生まれます。
これが「商標権」です。
商標権は会社の財産です。
自社で使うだけでなく、一定の条件のもとで、ほかの会社に譲ったり、使うことを認めたりすることもできます。
つまり商標権は、目には見えなくても、お金に換えられる価値を持った財産なのです。
なぜ、形のない商標権にも消費税がかかるのでしょうか
消費税というと、買い物をしたときやサービスを利用したときに払う税金というイメージが強いかもしれません。
しかし、消費税がかかるのは、目に見える商品の売買だけではありません。
消費税法では原則として、「国内で、事業者が、事業として、対価(代金)を受け取って行う、資産の譲渡や貸付け、サービスの提供」に消費税がかかるとしています。
たとえば、会社が仕事で使っていた機械や自動車を売った場合も、原則として消費税がかかります。
そして、税法でいう「資産」には、形のない財産も含まれます。商標権や特許権などは「無体財産権(形はないけれど財産としての価値がある権利)」と呼ばれ、消費税法でも資産として扱われます。
国税庁のタックスアンサーNo.6117「『資産の譲渡等』とは」でも、商標権などの無体財産権を譲ることが「資産の譲渡」に含まれると説明されています。
建物には建物の価値が、機械には機械の価値があります。
それと同じように、商標権にも財産としての価値があります。
その権利をほかの会社に譲って代金を受け取るのであれば、原則として消費税の対象になる、という考え方です。
ですから、「形のない権利だから消費税はかからない」というのは、よくある勘違いの一つです。
一度きりの売却でも消費税はかかるのでしょうか
商標権の譲渡でよくいただく質問の一つが、「くり返し行う取引でなくても、消費税はかかるのか」というものです。
たとえば、ある製造会社が長年使っていたブランドをやめることになり、そのブランドの商標権を別の会社に売るケースを考えてみましょう。
この会社は、商標権の売買を本業にしているわけではありません。
今回の売却も一度きりです。
それでも、法人が事業のために持っていた商標権を、代金を受け取って譲るのであれば、原則として消費税の対象になります。
消費税法は「事業として行う取引」に消費税をかけますが、法人の場合は、本業に付随して行う資産の売却なども、これに含まれるからです。
そのため、「ふだんは商標権を売っていないから」「今回だけの臨時収入だから」という理由で、消費税がかからなくなるわけではありません。
また、帳簿で「営業外収益」や「特別利益」といった、本業以外の収入を表す科目に入れたからといって、消費税の扱いが変わることもありません。
消費税がかかるかどうかは、会計上の科目名ではなく、「実際にどんな取引をしたのか」で判断します。
ここは押さえておくと安心です。
商標権の譲渡に適用される消費税率は10%です
国内の法人が、日本で登録された商標権を、ふつうの国内取引として譲る場合、消費税率は原則10%です。
飲食料品などに使われる軽減税率の対象ではありません。
また、土地や一定の有価証券の売却のように、法律で消費税をかけないと決められている「非課税取引」にも当たりません。
ここで、言葉が似ていてまぎらわしい三つの区分を整理しておきましょう。
・非課税取引:本来は消費税がかかる性質の取引だけれど、法律で「かけない」と決められているもの(例:土地の売却)
・不課税取引:そもそも消費税の対象にならない取引(例:海外で行われる取引)
・輸出免税取引:国内の取引として消費税の対象にはなるけれど、輸出などの条件を満たすことで消費税が免除されるもの
この三つは似ているようで、税務上の扱いや、のちほど出てくる「仕入税額控除」への影響が異なります。
商標権の譲渡でも、「国内のふつうの取引なのか」「国外の取引なのか」「輸出免税になるのか」を分けて考える必要があります。
商標権を330万円で売った場合の消費税
それでは、具体的な金額で考えてみましょう。
A社が、日本の特許庁で登録された商標権を、国内のB社に譲ることになりました。
A社は消費税を納める「課税事業者」で、代金について次のように契約したとします。
・商標権の譲渡代金(税抜):300万円
・消費税等:30万円
・合計金額(税込):330万円
この場合、A社が受け取る330万円のうち、300万円が税抜の譲渡代金、30万円が消費税等にあたります。
計算式は「300万円×10%=30万円」です。
税込330万円という金額から考える場合は、330万円の110分の10にあたる30万円が消費税等になります。
ここで気をつけたいのが、契約書に「譲渡代金300万円」とだけ書かれている場合です。
その300万円が「消費税込み」なのか、「別に消費税を上乗せして請求できる税抜価格」なのかによって、実際に受け取る金額が変わってしまいます。
たとえば、税込300万円の契約なら、その中に含まれる消費税等は約27万2,727円です。
一方、税抜300万円の契約なら、消費税等30万円を加えた330万円が受け取る総額になります。
その差は約27万円です。
商標権の譲渡は金額が大きくなることもありますので、後から「そんなつもりではなかった」とならないよう、契約書には「税込」か「税抜」かをはっきり書いておくことをおすすめします。
消費税は「売却益」ではなく「譲渡代金」にかかります
商標権の譲渡で、とくに間違えやすいのがこの点です。
消費税の計算では、商標権を売って得た「もうけ」の部分にだけ10%をかけるわけではありません。
たとえば、A社が帳簿価額(帳簿に記録されている、その資産の現在の金額)200万円の商標権を、税抜300万円で売ったとします。
この場合、会計上の売却益(固定資産売却益)は「300万円−200万円=100万円」です。
A社は、商標権を売ったことで100万円の利益を得たことになります。
しかし、消費税の計算は別です。
消費税の計算のもとになる金額(課税標準)は、原則として税抜の譲渡代金です。
そのため、消費税等は「300万円×10%=30万円」となります。
ここで、売却益100万円に10%をかけて「消費税等は10万円」と計算してしまうのは誤りです。
少し整理すると、次のようになります。
・法人税:売った金額と帳簿価額の差額(もうけ)が、利益の計算にかかわります
・消費税:資産を「いくらで売ったか」という金額そのものが計算のもとになります
身近なたとえで言うと、中古の車を売ったときに、消費税は「売った値段」にかかるのであって、「買ったときより高く売れた分」にかかるわけではない、というイメージです。
なお、ここで計算した30万円は、この取引の売上にかかる消費税等の金額です。
A社が実際に納める消費税の額は、ほかの売上や、仕入れなどで支払った消費税を差し引く「仕入税額控除」、使っている計算方法などによって変わります。
帳簿価額がゼロでも消費税はかかります
もう一つ注意したいのが、商標権の帳簿価額がゼロになっている場合です。
会社が商標権を取得して資産として計上していた場合、減価償却(高額なものを何年かに分けて少しずつ経費にしていく仕組み)によって、帳簿価額が年々小さくなっていきます。
また、自社で育ててきたブランドの商標権などは、帳簿価額がゼロということも考えられます。
では、帳簿価額ゼロの商標権を売った場合、消費税はどうなるのでしょうか。
たとえば、帳簿価額ゼロの商標権を税抜500万円で譲ったとします。
この場合、売却益は500万円ですが、消費税等は「500万円×10%=50万円」です。
帳簿価額がゼロであっても、代金を受け取っている以上、ふつうの国内取引であれば消費税がかかります。
「もう償却が終わっているから消費税はかからない」ということにはなりませんので、ご注意ください。
会計処理では「消費税区分」の設定に気をつけましょう
商標権を会社の固定資産として帳簿に載せている場合、売ったときには、その資産を帳簿から外す処理が必要です。
先ほどの例で考えてみましょう。
帳簿価額200万円の商標権を、税抜300万円(税込330万円)で売り、代金が普通預金に振り込まれたとします。
税抜経理方式(消費税分を売上や経費と分けて記帳する方法)で、仕訳を単純化すると、次のような形になります。
・増えたもの:普通預金 330万円
・減ったもの・計上するもの:商標権 200万円、固定資産売却益 100万円、仮受消費税等 30万円
ここで気をつけたいのが、会計ソフトの消費税区分です。
固定資産売却益として計上した100万円だけを「課税売上」として入力してしまうと、消費税が正しく計算されないおそれがあります。
このケースで課税売上になるのは、売却益の100万円ではなく、税抜の譲渡代金300万円だからです。
会計ソフトによって入力のしかたは異なりますが、仕訳を登録した後に、消費税の集計表などで「譲渡代金の全額」が課税売上に反映されているかを確認しておくと安心です。
固定資産の売却は、ふだんはあまり発生しない取引です。
いつもの売上入力と同じ感覚で処理しないよう、少しだけ立ち止まって確認することをおすすめします。
商標権の「譲渡」と「使用許諾」は何が違うのでしょうか
商標権に関する取引には、権利そのものを譲る場合と、ほかの会社に「使ってもいいですよ」と認める場合があります。
この二つは似ていますが、中身が違います。
「譲渡」とは、商標権そのものを相手に移すことです。
いわば、お店を丸ごと売り渡すようなイメージです。
一方、「使用許諾」とは、自社が商標権を持ったまま、別の会社にその商標を使うことを認める取引です。
こちらは、お店を貸して家賃を受け取るようなイメージです。
使用許諾で受け取るお金は、「ライセンス料」や「ロイヤリティ」と呼ばれることがあります。
たとえば、自社のブランド名を他社が商品に使うことを認め、その代わりに毎月決まった金額を受け取る、といったケースです。
消費税法では、商標権そのものの譲渡は「資産の譲渡」、使う権利を設定する取引は「資産の貸付け」に当たります。
ふつうの国内取引であれば、どちらも原則として消費税10%の対象です。
ただし、海外の会社との取引などでは扱いが変わることもありますので、契約の中身をよく確認することが大切です。
国内の会社同士でも「どこの国で登録された商標権か」が大切です
ここからは、商標権の消費税を判断するうえで大切な、「国内取引」と「国外取引」の違いをご説明します。
消費税は、原則として国内で行われる取引にかかります。
そして、商標権の譲渡が国内取引なのか国外取引なのかは、原則として「その商標権を登録した機関がどこにあるか」で判断します。
これは、消費税法施行令第6条第1項第5号に定められています。
たとえば、日本の特許庁で登録された商標権を譲る場合は、原則として国内取引になります。
一方、外国の登録機関で登録された商標権だけを譲る場合は、原則として国外取引となり、日本の消費税の対象外になります。
つまり、売る側と買う側がどちらも日本の会社であっても、譲る権利によっては国外取引になる可能性がある、ということです。
なお、法令上は、同じ権利が二つ以上の国で登録されている場合には、譲渡する人の住所地で判断するという規定もあります。
ただし、商標権は国ごとに出願・登録される権利のため、どの権利が「同じ権利」に当たるかは、実務上、個別の検討が必要と考えられます。
複数の国の商標権をまとめて譲渡する場合には、譲渡する権利を一つずつ確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。
「日本の会社同士だから、必ず消費税10%」と決めつけず、まず「その商標権はどこで登録されているか」を確認することが大切です。
海外の会社に譲る場合は「輸出免税」になることもあります
では、日本で登録された商標権を、海外の法人に譲る場合はどうなるでしょうか。
日本の特許庁で登録された商標権であれば、相手が海外の会社でも、原則として国内取引に当たります。
ただし、一定の非居住者(日本に住所や拠点を持たない人や会社)に商標権などの無体財産権を譲る場合は、「輸出免税」の対象になることがあります。
輸出免税とは、国内取引に当たっても、一定の条件を満たすことで消費税が免除されるしくみです。
たとえば、日本の会社が持っている日本登録の商標権を、日本に支店などを持たない海外の法人に譲る場合には、輸出免税が使えるかどうかを検討することになります。
ただし、外国の法人であっても、日本国内の支店などを通じて取引する場合には、消費税のうえでは国内の事業者(居住者)と同じように扱われることがあります。
「海外の会社に売るのだから、必ず消費税は免除される」というわけではありませんので、ご注意ください。
また、輸出免税を受けるには、取引の内容を証明できる契約書などを保存しておく必要があります。
海外への商標権の譲渡では、
1.まず、国内取引か国外取引かを判断する
2.国内取引に当たる場合に、輸出免税が使えるかを確認する
という順番で考えると、整理しやすいでしょう。
インボイス制度では何に気をつければよいでしょうか
商標権を譲る場合には、インボイス制度(消費税の控除を受けるために、決められた事項を書いた請求書などのやり取りが必要になるしくみ)への対応も必要です。
売る側の会社が「適格請求書発行事業者(インボイスを発行できるよう税務署に登録した事業者)」であれば、課税事業者である買い手から求められたときは、原則としてインボイスを渡す必要があります。
商標権の譲渡が一度きりでも、ふつうの国内取引であれば、この点は変わりません。
インボイスには、主に次のような事項を記載します。
・売り手の名称と登録番号
・取引の年月日
・取引の内容
・税率ごとに分けた代金の額と、適用税率
・消費税額等
・受け取る側の名称
なお、インボイスは「請求書」という名前の書類である必要はありません。
契約書などでも、必要な事項がそろっていればインボイスとして認められる場合があります。
また、複数の書類を組み合わせて必要な事項を確認できるようにする方法もあります。
商標権の譲渡では、契約書、請求書、移転登録に関する書類などをまとめて保管し、売る側・買う側の両方で金額や税区分を確認できるようにしておくと安心です。
免税事業者が商標権を譲った場合はどうなるのでしょうか
ここまでは、消費税を納める「課税事業者」の法人が商標権を譲る場合を中心にご説明してきました。
では、売る会社が「免税事業者」だった場合はどうなるのでしょうか。
消費税には、一定の小規模な事業者について、消費税を納める義務を免除するしくみがあります。
原則として、「基準期間」の課税売上高が1,000万円以下で、ほかに納税義務が生じる条件がなければ、免税事業者になります。
法人の場合、事業年度が1年であれば、基準期間は原則として「前々事業年度」、つまり2年前の事業年度です。
免税事業者が、事業で使っていた商標権を譲った場合、取引の性質としては消費税の対象となる譲渡に当たります。
それでも、その課税期間については、消費税を納める義務は免除されます。
ただし、適格請求書発行事業者として登録している場合などは、免税事業者にはなれません。
また、商標権の売却で大きな収入があった場合には、将来の納税義務に影響することがあります。次の項目で詳しくご説明します。
免税事業者の課税売上高は「税抜」に直さずに計算します
ここは実務のうえで、とくに注意していただきたいところです。
たとえば、免税事業者であるA社が、商標権を330万円で譲ったとします。
A社は免税事業者ですので、その課税期間については消費税を納める義務はありません。
しかし、この売却収入は、2年後に課税事業者になるかどうかを判定する「課税売上高」にかかわってきます。
このとき、330万円を「税込金額」と考えて、300万円に割り戻して計算してはいけません。
免税事業者だった期間の売上には、税法上、消費税等がかかっていないためです。
したがって、このケースでは、原則として受け取った330万円の全額が、基準期間の課税売上高に含まれます。
これは、消費税法基本通達1-4-5にもとづく取り扱いです。
たとえば、ふだんの売上が800万円ほどの会社でも、この年に商標権の売却収入330万円が加わると、合計で1,000万円を超えることになります。
その結果、2年後には課税事業者になる可能性があるのです。
また、売却した時期によっては、翌事業年度から課税事業者になることもあります。
前事業年度の最初の6か月間(特定期間)の課税売上高と、その期間に支払った給与等の額が、どちらも1,000万円を超えた場合です。
一度きりの商標権の譲渡であっても、金額によっては、のちの年度に消費税を納めることになるかもしれません。
売った年度だけでなく、2年後の消費税のことまで見通しておくと、資金繰りの面でも安心です。
簡易課税制度を使っている場合の注意点
消費税の「簡易課税制度」を使っている会社では、商標権の譲渡について「事業区分」にも注意が必要です。
簡易課税制度とは、仕入れなどで実際に支払った消費税を一つずつ集計する代わりに、売上にかかる消費税に、業種ごとに決められた「みなし仕入率」をかけて、差し引ける消費税を計算する方法です。
手間を減らせる、小規模な事業者向けの計算方法とお考えください。
この制度では、取引の種類に応じて、第1種事業から第6種事業までの区分があります。
国税庁のタックスアンサーNo.6509「簡易課税制度の事業区分」によると、事業者が自社で使っていた固定資産を売る場合は、原則として第4種事業に当たります。第4種事業のみなし仕入率は60%です。
ここでいう固定資産には、機械や自動車などの形のあるもの(有形固定資産)だけでなく、形のないもの(無形固定資産)も含まれます(消費税法基本通達13-2-9)。
そのため、自社で使っていた商標権が無形固定資産に当たる場合、その譲渡は原則として第4種事業として扱います。
すべての商標権の譲渡が第4種事業になるわけではありません
気をつけたいのは、「商標権の取引なら必ず第4種事業になる」というわけではない点です。
たとえば、商標権の売買そのものを事業として行っている場合には、ふつうの商品の販売と同じように、取引の実態に合わせて事業区分を判断する必要があります。
また、商標権を譲るのではなく、使用許諾をしてライセンス料を受け取る場合も、その取引の性質に応じて事業区分を考える必要があります。
もう一つ、よくある勘違いがあります。
それは、「製造業の会社が商標権を売ったのだから、製造業と同じ第3種事業になる」という考え方です。
これは適切ではありません。
簡易課税制度では、原則として、個々の取引ごとに事業区分を判定します。
「自社で使っていた固定資産を売ったのか」、それとも「商標権の売買を事業として行っているのか」。
この違いを確認することが大切です。
商標権の移転登録と、消費税を計上する時期にも注意
商標権を譲る場合、「契約日」「代金の入金日」「特許庁への移転登録の申請日」「実際に登録が終わった日」が、それぞれ違う日になることがあります。
たとえば、9月に譲渡契約を結び、10月に代金を受け取り、11月に登録手続きが終わる、といったケースです。
このような場合、どの月の取引として消費税を計上すればよいのでしょうか。
まず、商標権のふつうの売買による移転は、特許庁での移転登録によって、法律上の効力が生じます。
特許庁の案内によると、移転登録の申請書が受理され、登録原簿に登録された場合、登録の効力は申請書の受付日から発生します。
つまり、「実際に登録が終わった日」と「法律上の効力が生じる日」は、同じとは限りません。
一方、消費税で「いつの売上として計上するか」については、国税庁の消費税法基本通達9-1-15に定めがあります。
商標権の譲渡は、原則として、譲渡契約の効力が発生した日に行われたものとして扱います。
ただし、商標権のように登録によって権利移転の効力が生じるものについては、会社が登録の日を基準に計上している場合も認められています。
法人税でも、法人税基本通達2-1-16で同じような取り扱いが定められています。
つまり、代金が振り込まれた日ではなく、「契約の効力が生じた日」か「登録の日」のどちらかを基準に考えることになります。
どちらを使うかは、法人税の計上時期とあわせて確認しておくと安心です。
なお、特許庁の移転登録では、登録の効力が申請書の受付日から生じるため、「登録の日」をどの日とみるかは、実務上、個別に確認しておくことをおすすめします。
とくに注意したいのが、会社の決算日をまたぐ取引です。
たとえば、3月決算の会社が3月末近くに譲渡契約を結び、4月以降に移転登録をする場合、契約の効力発生日を基準にすれば3月期の取引に、登録の日を基準にすれば4月以降の期の取引になります。
契約書に効力が生じる日や条件(「代金の支払いをもって効力が生じる」など)が書かれている場合は、その内容も確認が必要です。
決算日の近くで契約を予定している場合は、契約を結ぶ前にご相談いただくと、落ち着いて準備ができます。
ブランド全体を売る場合は、さらに注意が必要です
商標権の譲渡は、商標権だけで行われるとは限りません。
たとえば、ある会社が一つのブランド事業から撤退し、そのブランドを別の会社に引き継ぐ場合です。
このようなケースでは、商標権だけでなく、商品在庫、機械設備、ウェブサイト、顧客に関する権利、ほかの知的財産などを、まとめて譲ることがあります。
こうした取引では、譲るものすべてが同じ消費税区分になるとは限りません。
そのため、契約書の名前が「ブランド譲渡契約」であっても、「具体的に何を譲っているのか」を一つずつ確認する必要があります。
代金が一括で決められている場合には、譲る資産の内容に応じて、合理的に金額を分ける必要が出てくることもあります。
また、商標権の譲渡契約書については、消費税とは別に、印紙税(契約書などの文書にかかる税金)や、移転登録のときにかかる登録免許税なども検討が必要です。
契約書をつくる段階から、税金の扱いを確認しておくことをおすすめします。
商標権を譲る前に確認しておきたいこと
商標権の譲渡では、売却金額を決めるだけでなく、税金の扱いについても前もって確認しておくことが大切です。
とくに、次の点をチェックしておくと安心です。
・譲る商標権は、日本と海外のどこで登録されているか
・売る側と買う側は、国内の事業者か、海外の事業者か
・商標権そのものを譲るのか、使用許諾なのか
・譲渡代金は税込価格か、税抜価格か
・商標権の帳簿価額はいくらか
・売る側の会社は、消費税の課税事業者か、免税事業者か
・簡易課税制度を使っている場合、どの事業区分に当たるか
・インボイスの交付や、必要書類の保存の準備はできているか
・商標権の移転登録と、消費税を計上する時期にずれはないか
これらを事前に確認しておくことで、消費税の申告の誤りや、売る側と買う側の「言った・言わない」の行き違いを防ぎやすくなります。
まとめ:商標権は目に見えなくても大切な財産です
商標権は、会社が長い時間をかけて育ててきた商品名やブランドを守るための、大切な財産です。
形のない権利ですが、お金に換えられる価値があり、ほかの会社に譲ることもできます。
そして、その譲渡には、原則として消費税がかかります。
とくに覚えておいていただきたいのは、次の点です。
・国内の法人が、日本で登録された商標権を、ふつうの国内取引として代金を受け取って譲る場合は、原則として消費税10%の課税売上になります。
・消費税の計算のもとになるのは、売却によるもうけではなく、譲渡代金そのものです。
・帳簿価額がゼロでも、代金を受け取れば、原則として消費税の対象になります。
・簡易課税制度を使っている場合は事業区分、免税事業者の場合は将来の課税売上高、決算期をまたぐ場合は計上時期にも注意が必要です。
商標権の譲渡は、会社にとって大きな収入につながることがあります。
その一方で、日常的な取引ではないため、ふだんの経理では意識しないような税務上の論点が出てくることもあります。
契約を結ぶ前に税金の扱いを確認しておくことが、思わぬ負担や申告の誤りを防ぐための、いちばんの準備になります。
※本記事は2026年10月時点の法令・国税庁などの公表資料にもとづき、商標権の譲渡に関する一般的な取り扱いをご説明したものです。
実際の税務判断は、取引の内容や契約条件などによって異なり、個別の判断が必要です。
具体的なケースについては、税務署にご確認ください。






